このコンテンツは有料note「webライターとメディア運営者の、実践的教科書(安達裕哉著)」より転載しています。
AIはライティングに大きな変化をもたらしました。
しかしそれでも、AIが生成した文章はまだ高度な技術を持つライターの手によるものには劣ります。
その理由については、こちらの記事に記述しました
結論から言うと、「ChatGPT的である」ことは、大きく3つの要因によって引き起こされています。1.意外性がない2.具体的な話題が苦手3.表現が冗長
だからと言って、AI生成による文章が全く使えないかというと、そうではありません。適切な編集を行うことで、AIが出力した文章は十分使い物になるため、人間の労力を3割から、場合によっては5割程度、減らすことができます。
では、具体的にはどのようなテクニックが使えるでしょうか。
上の記事では考え方は示しましたが、具体的なテクニック論については、細かい話になるため、省略していますので、本稿では、その細かい話について、特に「3.表現が冗長」の改善方法について、突っ込んで書きたいと思います。
1.逆ピラミッド方式による編集
AIによって生成された文章が冗長だと感じる理由の一つは、同じ単語の重複ですが、実はそれだけではありません。文章の論理的な流れが破綻していることがしばしばあるからです。
というのも、ChatGPTは確率的に文章を生成しているため、人間と比べて、根本的なテーマや文脈を理解する能力が限定的なのです。
つまり、マシンなのに論理が苦手、という皮肉な状況なのです。
では、どうすべきかと言いますと、生成された文章の論理的な流れを強化するための一つの方法として「トップダウンアプローチ」による編集があります。
これは、文章を重要なメッセージや結論から始めて、その根拠や証拠を後から補っていく手法です。
ジャーナリズムで効果的に用いられる場合は、「逆ピラミッド方式」とも呼ばれています。
具体的なシナリオを考えてみましょう。「AIの未来は」についての記事をChatGPTが生成したとします。
ChatGPTの生成した原稿では、AIの潜在的な利点と欠点が、ランダムな順序で提示されます。
AIは大量のデータを迅速に処理し、様々なタスクを自動化できます。しかし、その一方で、AIは複雑な人間の判断を理解するのが困難であり、感情を扱う能力も限定的です。これに加えて、AIは信頼性と安全性の問題に直面しています。したがって、AIの未来は人間との協働によって更なる発展を遂げるでしょう。
という結論が導き出されます。しかしこの形式では、論理的なつながりが見えにくいうえに、読者は最初に具体的な詳細に直面し、その後で結論に辿り着くので、読み手に対する負荷が大きいのです。
しかし、逆ピラミッド方式を採用すると、上記の記事はまったく違う形になります。「AIの未来は人間との協働によって更なる発展を遂げる」という明確な結論から始まり、その後に具体的な利点と欠点に進みます。
AIの未来は、人間との協働によって更なる発展を遂げるでしょう。というのも、AIは、・大量のデータを迅速に処理する・様々なタスクを自動化するのは得意ですが、・人間の複雑な判断を理解するのが困難・感情を扱う能力が限定的であり、人間とAIは、相補的な関係になれるからです。
下の編集を入れた文章のほうが、「結論ありき」であり、読みやすいと思う方が多いでしょう。
2.「PEEL」テクニック(Point、Explain、Evidence、Link)による編集
コンテンツを特定のフォーマットに落とし込むことで、AI生成の文章をより読みやすく、かつ人間が書いたように見せることが可能になります。
ここで紹介するのは、「PEEL」テクニック(Point、Explain、Evidence、Link)です。
以下では、AIが生成した「持続可能な農業技術」についての記事を例にとってみましょう。
AIによる原文持続可能な農業技術は、現代社会では不可欠です。輪作、自然肥料の使用、効率的な水管理などがあります。輪作は土壌の劣化を防ぐのに役立ちます。天然肥料は土壌を健康にします。効率的な水管理は水の浪費を減らします。
PEELによる編集輪作のような持続可能な農業技術は、現代農業において極めて重要な役割を果たしています。輪作は、異なる作物を連続して植えることで、土壌の劣化を防ぎ、持続可能性を促進するからです。実際、ロデール研究所の研究では、輪作が土壌の肥沃さを高め、作物の収量を増加させることが明らかにされています。
PEELテクニックによる編集を入れる前は、情報の羅列に過ぎない文章でしたが、PEELを使うと説得力が出るのです。
3.専門用語の編集
AIは、しばしば複雑なフレーズや業界特有の専門用語を使用します。これはAIが大量の学習データから言葉を引き出す際、専門的な文書や専門家の文章も含まれるためです。
しかし専門用語は読者に対する負荷が大きく、しばしば読者の離脱を招きますから、専門用語を平易な言葉に直すことで、可読性を上げることは重要です。
具体的な例として、「ブロックチェーンとデータセキュリティ」についてAIが生成した文章を考えてみましょう。
AIによる原文最先端の暗号化手法を活用し、ブロックチェーン技術はデータ取引において強固なセキュリティパラダイムを提供する。これにより、分散型台帳技術を活用して、システム全体のセキュリティレベルを向上させる。これは、不可逆的なトランザクションの登録と完全な透明性を確保するための重要な手段である。
専門用語を編集ブロックチェーン技術は、最新の暗号化方法を使ってデータ取引の安全性を保証する技術です。これは安全性を強化するために、「ネットワークでつながれたコンピュータ全体で共有される帳簿」の技術を利用しています。このシステムでは、その帳簿に全ての取引が永久的に記録され、誰でもその情報を見ることができます。これにより、データの透明性が確保され、不正行為を防ぐのに役立ちます。
この簡略化版では、「最先端の暗号化手法」を「最新の暗号化方法」、「強固なセキュリティパラダイム」を「データ取引の安全性を保証」、「分散型台帳技術」を「ネットワークでつながれたコンピュータ全体で共有される帳簿」、「不可逆的なトランザクションの登録と完全な透明性」を「全ての取引が永久的に記録され、誰でもその情報を見ることができる」など、専門的な表現を一般的な言葉に置き換えています。
繰り返しになりますが、生成AIには文脈の理解が欠けているため、曖昧な概念や不明確な概念が突如出現する可能性があります。
例えば、AIが書いた「量子コンピューティング」に関する文章が、突如「量子ビット」という用語を説明せずに用いられることがあるのです。
したがって、新しい専門用語には都度、簡潔な説明を加えるように編集を加えていくことは、生成AIが出力した文章には必要です。
4.ファクトチェック
AIツールは、大量のデータから文章を生成する能力がありますが、原理的にファクトを扱う能力は極めて限定的です。
AIは学習したデータに基づいて文章を生成しますが、そのデータが最新であったり、正確であったりすることを保証することはできません。
また、AIが生成した情報が文脈に合致しているか、またその情報が公平性や偏見を持たないかを判断する能力もまた限定的です。
したがって、データに基づく洞察や、センシティブな話題、公的な声明などを扱う場合には、ファクトチェックが不可欠です。
これは、誤った情報が拡散されるリスクを減らすとともに、読者が信頼性の高い情報を受け取ることを保証するためです。
例えば、AIが「気候変動と人間の活動について」の記事を書くとしましょう。
AIが古いデータを基にして「人間の活動が気候変動に影響を与える確証はまだ得られていない」とする記事を生成した場合、これは現在の科学的なコンセンサスとは大きく異なる情報です。
このような場合には、人間の編集者が最新の研究結果や専門家の意見に基づきファクトチェックを行い、必要な場合には記事を修正することが求められます。
また、センシティブなトピック、例えば「ワクチン接種とその効果」についての記事でもファクトチェックは重要です。
ワクチンの効果や副作用については公衆衛生に直接関わる問題であり、誤った情報が流れると社会に混乱を招く可能性があります。AIが生成した文章が公的なデータや専門家の最新の見解と一致するかを確認し、必要に応じて修正することが必要です。
どのような話題にファクトチェックが必要かは、見解が分かれるところですが、基本的にはフィクションなどを除いた、「事実」を扱う記事にはすべて、ファクトチェックが必要だと考えてよいでしょう。
なかでも、Googleが「権威性」を重んじる、 YMYL(Your Money or Your Life)の範疇に入る話題については、特に厳密なファクトチェックが必要です。
なお、どのような話題がYMYLにあたるかは、Googleの検索品質評価ガイドラインに掲載されている表が役立ちます。
同一のジャンルの話題であっても、その内容によってYMYLかどうかが異なるため、AI生成の文章の編集時に、該当するトピックには特に注意を払いましょう。
5.文体の編集
どのメディアも、フォーマル、会話形式、遊び心、情報提供など、特有の文体を持っています。
したがって、AIが生成するコンテンツについては、そのメディアの特性にに合わせて文体を調整する必要があります。
「AIに文体も指定すればいいじゃないか」と思う方もいるでしょうが、残念ながら、AIは文体の調整があまりうまくありません。
例えば、ChatGPTに「同じ内容を異なる文体で書き分けてくれ」と指示を出したときの結果を見てください。
学術論文や研究レポートの文体「我々の研究では、新たな薬物Aが特定のガン細胞の増殖を70%抑制することが示された。この結果は、薬物Aが新たな抗ガン治療として有望であることを示している」子供向けの科学教育ブログ記事の文体「新しい薬物Aは、スーパーヒーローのようなものだよ。この薬物があれば、わるいガン細胞を70%も止めることができるんだ。これは、薬物Aが新たなガンと戦うヒーローとして、すごく有望だということだよ!」テクノロジー企業の公式ブログの文体「我々の最新技術により、業界をリードする新製品を発売することができました。この製品は、顧客にとって価値ある解決策を提供し、我々のビジネスにおける持続的な革新の一部です」ニュースの文体「科学者たちが発見した新型薬物Aは、特定のガン細胞の増殖を最大70%まで抑制する可能性があると発表されました。研究者は、この発見が新たな抗ガン治療法の開発に向けた重要な一歩であると述べています。」
言わんとしていることはわかりますが、この文章をそのまま使うことに関しては、若干の抵抗があるかと思います。
いったいなぜ、書き分けが苦手なのでしょう。
実は、上の問題点は「文体」をきちんと定義していないことにあります。
文体の正体は、実は以下のような細かいルールの集合体なのです。
1 『である』調で統一する。2 一文は50字以内とする。3 事実と意見は区別する。×→○○は、従来よりもすぐれているので、わが社でも買うべきだ。(事実と意見を混同)○→○○は、x機能がついている。だから、わが社でも買うべきだ(事実と意見は区別されている)4 主語・述語の対応に注意する。5 接続詞は多用しない。特に以下の接続詞そして、それから、では、ところで、さらに6 修飾語の使い方は以下の二つの原則を守る。原則1:縁語接近の原則(縁のある語はお互いに接近させる)×→きめこまかい化粧法の歴史についての言及○→化粧法の歴史についてのきめこまかい言及原則2:長遠短接の原則(長い修飾語句より、短い修飾語句を修飾される語の近くに置く)×→この研究では、幅広い他分野の専門家の意見を取り入れた視点が必要である。○→この研究では、他分野の専門家の意見を取り入れた幅広い視点が必要である。7 「もの」、「こと」は使わない。(文章が明確になる)8 「など」はやたらに使わず、必要最小限にとどめる。9 「考えられる」、「思われる」を多用しない。(文章がスッキリする)×→重要な課題だと考えられる。本音だと思われる。○→重要な課題である。本音だろう。10 一文の中では、「の」は三回以上使わない。
したがって、AIが生成した文章に対してどのような変更を加えるかは、以下のようなルールを定めてAIに指示を出すか、校正をかけるなどの手間が必要です。
6.感情が伴うエピソードを加える
AI生成のコンテンツに人間味を加えるもっとも簡単な方法は、感情が伴うエピソードを加えることです。
個人的な逸話、感情を表現する単語、ユーモアは、それらの要素が効果的に利用されることで、コンテンツがより魅力的で共感を誘うものになります。
たとえば、AIが「ワークライフバランス」についての記事を生成するとします。その記事は、「勤務時間が長く、家庭生活とのバランスを維持するのが難しい」という一般的な課題について述べるかもしれません。
しかし、具体的な例やエピソードを追加することで、その記事はよりAI生成されたものとは思えない奥行きを生み出します。
例えば、次のような段落を追加します。
数年前、私は自分自身がこの状況に陥りました。月に200時間以上の残業をこなしていた私は、家庭と仕事の間で綱引きをしているように感じていました。子供たちの学校の行事に参加する時間も、自分自身の趣味に時間を割く余裕もありませんでした。それは、私が全く新しい仕事の管理方法を模索し始めたきっかけでした。
読者はその経験を自身の状況と関連付ける傾向があります。また、具体的で個人的な経験を共有することは、読者が自分自身のワークライフバランスを改善するための具体的な手段やアイデアを探求する助けにもなります。
また、ユーモアを追加することも有効です。
Books&Appsには、ユーモラスな投稿で知られるpatoさんというライターがいますが、彼のエピソードは、ユーモアがいかに我々の心を慰めてくれるかを知ることができます。
僕は追い詰められていた。グッピーに餌があげたくて追い詰められていた。そこで作戦をたてた。接待ファミコンの途中でトイレに行き、そこで一気にエサをあげてしまおう。たぶん少量なら大丈夫なはずだ。いける、きっとやれる。ついに決行の日がやってきた。いつものように接待ファミコンに興じた。そして適当なタイミングでトイレに行くと告げて水槽に向かう。勝負は一瞬だ。大丈夫、やれる。きっとやれる。絨毯に落とし込まれた水槽の光が見えた。光は水の流れに合わせてゆらゆらと揺れている。ついに来た。一気に駆け寄った僕は、水槽横の小瓶を手にし、ふたを開けて中身を一つまみ、水槽の上部に振りまいた。モアーーー!なんか様子が違う!昨日はカラフルなエサが踊るように沈下していき、そのエサをグッピーたちがこれまた踊るようにツンツンと食べる光景だったのに、水槽の中身が一気に茶色になっていくだけだった。昨日の煮魚みたいな、ここにあるはずのない茶色が水槽の中を満たしたのだ。「なんで、なんで、どうして」焦った。けれどもなにもすることができず、ただただ浸食するかのように広がっていく茶色の何かを眺めていた。いったい何が起こったのか全く理解できないが、とんでもないことが起こっているという事実だけはわかる。なんでこんなことに。震えながら、さきほど水槽に入れた瓶のラベルを見る。そこには驚愕の言葉が書かれていた。「コンソメ」なんでこんなことにコンソメがあるんだよ! なんでトイレへと続く廊下にある水槽の横に置いてあるんだよ。ほんと、金持ちの考えることはわからん。とにかく、コンソメとグッピーのエサが並べて置かれていて、僕は粒状のコンソメをグッピーに振りまいていた。
こうした感情的な要素や個人的なエピソードを用いて、AI生成のコンテンツに人間味を加えることで、AIをよりうまく活用することが可能です。
生成AIは文章作成を大幅に簡素化しました。
しかしそれは、人間の監視の必要性をなくしたわけではありません。
むしろ、AIの能力と限界を理解し、自動生成されたコンテンツを効果的に編集することで、ライターは生産性を大きく向上させることができるはずです。
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【著者プロフィール】
安達裕哉
元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。
◯X:安達裕哉
◯有料noteでメディア運営・ライティングノウハウ発信中(webライターとメディア運営者の実践的教科書)