新聞を題材とした、お手軽な文章練習の方法。

このコンテンツは有料note「webライターとメディア運営者の、実践的教科書(安達裕哉著)」より転載しています。


朝日新聞には「天声人語」というコラムが毎日掲載されている。ご存じの方も多いだろう。
有名なコラムで、私は昔「受験対策に読んでおいたほうがいい」、「書き写して文章の練習をせよ」と言われたがある。
 
とはいえ、「書き写し」に本当に意味があるのかどうかは疑わしい。
なぜなら、これが「名文」なのかと言えば個人的には微妙だと思うからだ。
「書き散らかし」感が強く、論理的な整合も取れていないようなコラムもあり、批判されることもしばしばある。
朝日新聞のコラム「天声人語」も癖のある文章だ。天声人語に限らず、新聞の第一面のコラムはいずれも癖があるが、やはり天声人語はその中でもとびきりだろう。
新聞のコラム、とりわけ朝日新聞の天声人語を名文とみなしている人がいるのは私も承知している。中学、高校の先生たちには信奉者が多く、これを模範として書き写しをさせたり、要約をさせたりといった指導がなされている。
もちろん、天声人語を読むのはとても良いことだと思う。ぜひ読んでほしい。楽しみにしてほしい。しかし、これは論理的な文章とは言いがたい。しばしば論理がねじれ、意味がとりづらい。これを模範として書き写したり要約したりするのも、ほとんど意味がないと私は思っている。そもそも、これほど要約しづらい文章も珍しい。
私もまあ、おおむね同意見だ。
漫然と「天声人語だから」という理由で書き写しをしても、大して文章力は向上しない。
 
ただ、「論理的な文章」=「良い文章」と決めつけてしまうのもどうかと思う。
しばしば人を引き付ける文章というのは、論理性によるのではなく、勢いや感情のほとばしり、著者の生の感覚など、「文の印象」によるからだ。
 
したがって、文章の練習をするならば「自分が好きな文章」を題材にするのが最も良いと、私は思う。
好きな文章であれば、その模倣をするのもつらくなく、また題材を読むのも楽しい作業になる。
 

深代惇郎の「天声人語」

私の場合、模倣し、練習したことのある文章は次の二人の方のものだ。
一人はピーター・ドラッカーの著作の翻訳をしている、上田惇生氏。
 
そしてもう一人が、上述した「天声人語」を書いていた、深代惇郎という記者だ。
二人に同じ「惇」という文字が含まれているのは単なる偶然だが、私の文章は彼らの文体の模倣だ。
 
深代惇郎が天声人語を担当していたのは1970年代、「新聞紙上、最高のコラムニスト」と言われた彼の文章には今でも根強いファンがいる。
私はリアルタイムで彼のコラムを見ていたわけではないが、彼のコラムを勧めてもらって読んだところ、これは面白い、ということですっかり引き込まれた。
興味のある方は、ぜひお手に取ってみるとよいのではないかと思う。

「新聞のコラム」をつかった、お手軽な文章の練習法

さて、前置きはこれくらいにして、本稿の本題に入る。
それは、新聞のコラムを題材とした、お手軽な、文章練習の方法だ。
これは、私が子供のころから練習に使っている方法で、放送作家である父から教わった。
小学生でも簡単にできるほどの練習だが、文章力の向上には確実に効く。
 
その方法とは「他者の書いたコラムをよんで、自分の意見を書きだす」ことだ。
これより「模倣」のほうが簡単に見えるが、練習の効果は、「自分の意見を書きだす」ほうが、はるかに高い。
なぜなら「文章」を書く時に最も重要なのは、文体や文章のうまさではなく、「文章に何を書くか」だからだ。
何を書くか、という思考を抜きにして、文章力は上がらない。
 
だから、「漫然と文章を書き写す」のではなく、面白いコラムを読んで、自分なりの意見を書きだす練習を、私は強くお勧めする。
なお、私は前項のような理由で「深代惇郎」のコラムを題材として使うことが非常に多いので、以下で題材として実際に取り上げる。
では、練習方法をご紹介しよう。
 

1.まずは5分ほどでコラムを読む。

まずは、コラムを5分ほどで読む。
(題材は何のコラムでもよい。本稿では、以下の深代惇郎のコラムを題材として扱う)
超能力少年
人間の知性が曇りやすいことについて、英国の哲学者ベーコンのお話がある。航海安全に御利益あらたかなお寺があった。そのお寺の壁には、航海を終えた人の寄進した額がズラリと並んでいた。
「どうです、あなたもお祈りになったら」と町の人にいわれて、ある船乗りが「でも難破して帰らなかった人の額はないわけですね」と答えたそうである。この船乗りの判断こそ曇りない知性を示すものだ、とベーコンはいっている。
ある結果について、その原因をただちに神秘的あるいは超越的なものに結びつけたい本性を、人間は持っているのかも知れぬ。
 雷が鳴れば神の怒りだ、と思った時代もあった。スプーンが曲がれば「超能力」だと信じるのも、同じことだと言えそうだ。先日、このコラムで「手品を超能力だと称するところがいただけぬ」と書いたら、たくさんの投書をいただいた。ほとんど全部が「科学盲信(※)の独断だ」という反論だった。
 現在の科学で説明できぬ現象は存在しない、などというつもりは毛頭ない。しかし、われわれの理性、経験、知識の想像外のことがあったら、まずそれが本当であるかどうかを疑うのが常識だと思われる。なでただけでスプーンが曲がるものなら、納得いくまで自分の目で確かめたい。そこで二人の「超能力少年」に会い、目の前で実演してもらった。
 大人の力で曲がらぬスプーンを渡すと、やはり曲がらない。「念力が通らぬ」という。「念力」ではなく、自分の力で曲がらぬということだろう。見る者の視線からスプーンをかくさないと「念力が集まらない」という。トリックの場所がないということだろう。
 今週の『週刊朝日』が、テレビの人気者になった「超能力少年」のトリックをカメラでとらえ、その母親が謝っている。子供の遊びならよかったのだが、大人が割り込んで商売にして、いやな話になった。(49・5・16)
 

2.思ったことを箇条書きする

次に、文章を読んで思ったことを箇条書きする。
この際に、無理にまとめる必要はない。わかりやすくする必要もない。
どうせ自分だけがみるのだ、気楽に書き出してみよう。
この際、できる限り「早く書く」のが良い。ぐずぐずしていると、せっかく頭に浮かんだことが逃げてしまう。
 
例えば、私の場合は、こんな具合だ。
・フランシス・ベーコンは本当にこんなことを言ったのか?
・人間はすぐに、何にでも因果関係を見出してしまうという、行動経済学の研究があったはず
・手品を超能力だと称するところがいただけぬ、というコラムを書いたら、「化学盲信の独断」というクソリプがたくさんついたというのは、今もまったく同じかも。
・超能力少年を実際に呼び出したのか。すごい。少年もよく応じたな。なんで応じたのだろう?
・子供のいたずらが「テレビ」の商売と結びついて、後味が悪くなった。一体だれが悪いのか?
 
大事なのは「思ったことを、そのまま書く」こと。
うまく書こうと思わないことが重要で、うまく書こうと思うと筆が止まる。
ここではとにかく「止まらないこと」が重要。
 

3.自分の主張を決定し、文章のタイトルを作る

つぎに、箇条書きにした事項の中から、「自分の主張」を決める。
この際には、書きやすいものから書いて構わない。これも、「止まらない」ため。
また、調べものを伴うものは、練習時は入れないほうがいい。これも「止まる」原因になる。上でいえば、
・フランシス・ベーコンは本当にこんなことを言ったのか?
・人間はすぐに、何にでも因果関係を見出してしまうという、行動経済学の研究があったはず
の2つは、筆が止まる原因になるので、練習の題材としては使わない。したがって、題材としては、
・手品を超能力だと称するところがいただけぬ、というコラムを書いたら、「化学盲信の独断」というクソリプがたくさんついたというのは、今もまったく同じかも
・超能力少年を実際に呼び出したのか。すごい。少年もよく応じたな。
・子供のいたずらが、大人の商売と結びついて、後味が悪くなった。一体だれが悪いのか?
の3つのどれかになる。
 
なお、この3つから選択する際には、すでに答えの出ているものを選択するのがよい。書き出しが早くなる。
私の場合は、白黒がはっきりしていそうな
・子供のいたずらが、大人の商売と結びついて、後味が悪くなった。一体だれが悪いのか?
が書きやすそうだったのでこれを選択した。タイトルもそのままだ。
 

4.材料を書きだす

タイトルが「子供のいたずらが、大人の商売と結びついて、後味が悪くなった。一体だれが悪いのか?」
に決まったので、つぎに、手持ちの材料を書きだす。
その前に、もう一度原文を読んでみる。

今週の『週刊朝日』が、テレビの人気者になった「超能力少年」のトリックをカメラでとらえ、その母親が謝っている。子供の遊びならよかったのだが、大人が割り込んで商売にして、いやな話になった。

深代惇郎が「大人が割り込んで商売にして」という言葉で批判しているのは、おそらく文中にある通り「テレビ」だろう。
テレビが「これは視聴者が増える(=お金になる)」と踏んだため、少年は担ぎ上げられることになった。これは私も同感だ。
 
だから材料としては
・テレビが悪い
という話をせねばなるまい。
しかも「テレビ」の関係者の中には「超能力ではない」とわかっていた者も多いだろう。
それをあえて「手品」としなかったのは、視聴者数を稼げるからだ。
母親ももちろん、手品のタネを知っているだろうから、それに加担しているだろう。
したがって
・視聴者数=金 の世界では、モラルが破綻する
という話も材料となる。
また、深代惇郎が「手品だ」といったのが、気に食わない「科学嫌い」の人々も、明らかにそれに加担している。
 
だがもちろん、最も責められるのは「少年」だ。場合によっては「嘘つき」の烙印を押されてしまい、将来に響く可能性すらある。
彼を利用して金儲けをしたり、自分の信条を満たそうとする輩が、彼を利用したのだ。
したがって
・少年は周りにうまく利用された
という話も材料だろう。
 

5.400字(原稿用紙1枚分)程度の文章にまとめる

さて、材料が3つ、4つほど揃ったら、これを400字程度の文章にまとめていく。
400字程度の文章は、小学生の作文の授業くらいのボリュームだ。
さほど苦痛に感じることなく、サラっとかけるはずだ。
では、タイトルと材料を書き出してみよう。
「子供のいたずらが、大人の商売と結びついて、後味が悪くなった。一体だれが悪いのか?」
・テレビが悪い
・視聴者数=金 の世界では、モラルが破綻する
・少年は周りにうまく利用された
ここから、行間を埋めていく。
ざっと書きなぐると、以下のような感じだ。
子供のいたずらが、大人の商売と結びついて、後味が悪くなった。一体だれが悪いのか?
結論としては、テレビが悪いと思う。
視聴者を稼ぎたいあまり、少年のトリックを知りつつ、「手品」ではなく「超能力」と称して、世の中の人々を欺いたのはテレビだからだ。
少年の名が売れれば売れるほど、テレビはうるおい、また少年の家族の懐にも金が入るだろう。
だから、トリックであることを分かっていて、少年をまつり上げたテレビと少年の家族のモラルは破綻していた。
少年が身内や友達に披露する分には、「超能力だよ」といっても、冗談で済まされるが、公共放送を通じて「超能力」と言えば、真面目に信じてしまう人が一定層でてしまう。
そして「超能力」であることを真面目に信じていた視聴者の一部が「だまされた」ことを知れば、怒りの矛先は少年に向くだろう。
少年のちょっとしたいたずらであっても、それが大人をだませるレベルのものであれば、すぐに「金儲け」をしようとする輩に利用される。
後味が悪いのも、無理からぬことだ。
事件ののち、少年の母親は謝罪した。
テレビは謝罪しないのだろうか。
上の文章は、材料を順を追って説明しているだけだ。
・テレビが悪い(第一パラグラフ)
・視聴者数=金 の世界では、モラルが破綻する(第二パラグラフ)
・少年は周りにうまく利用された(第三パラグラフ)
だから、文章として全体のバランスはとれておらず、パラグラフ間の整合性が取れていない。
だから、最後に文章の推敲を行う。
 

5.推敲して短くする

最後に推敲する。
主に文章をすっきりさせ、文のロジックを整えるためだ。
子供のいたずらが、大人の商売と結びついて、後味が悪くなった。一体だれが悪いのか?
結論は、テレビが悪い。
視聴率追求のため、少年のトリックを知りつつ、「手品」ではなく「超能力」と人々を欺いたのはテレビだ。
少年の名が売れれば、テレビと少年の家族の懐に金が入る。
金のため、彼らのモラルはどこかへ押しやられた。
少年が身内や友達に手品を披露する分には、「超能力だよ」といっても、冗談で済まされる。
しかし、公共放送を通じて「超能力」と言えば、真面目に信じてしまう人が一定層でてしまう。
彼らが「だまされた」ことを知れば、当然、怒りの矛先は少年に向く。
後味が悪いのも、無理からぬことだ。
事件ののち、少年の母親は謝罪した。
それを見て、少年も深く傷つき、将来に禍根を残しただろう。
だが、一番儲けたであろう、テレビは謝罪しないのだろうか。
天声人語などの新聞コラムは短く、万人にとって読みやすく書かれているので感想も持ちやすく、文章練習の題材として最適だ。
1.~5.の手順に慣れてくると、この程度の文章ならば、10~15分ほどで書けてしまう。
「コラムを書きたい」という方は、練習方法の一つとしておぼえておいていただいても、決して損はしないだろう。

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(2024/2/22更新)