このコンテンツは有料note「webライターとメディア運営者の、実践的教科書(安達裕哉著)」より転載しています。
「天声人語の書き写し」が読解力向上に不要な訳(東洋経済)朝日新聞のコラム「天声人語」も癖のある文章だ。天声人語に限らず、新聞の第一面のコラムはいずれも癖があるが、やはり天声人語はその中でもとびきりだろう。新聞のコラム、とりわけ朝日新聞の天声人語を名文とみなしている人がいるのは私も承知している。中学、高校の先生たちには信奉者が多く、これを模範として書き写しをさせたり、要約をさせたりといった指導がなされている。もちろん、天声人語を読むのはとても良いことだと思う。ぜひ読んでほしい。楽しみにしてほしい。しかし、これは論理的な文章とは言いがたい。しばしば論理がねじれ、意味がとりづらい。これを模範として書き写したり要約したりするのも、ほとんど意味がないと私は思っている。そもそも、これほど要約しづらい文章も珍しい。
深代惇郎の「天声人語」
「新聞のコラム」をつかった、お手軽な文章の練習法
1.まずは5分ほどでコラムを読む。
超能力少年人間の知性が曇りやすいことについて、英国の哲学者ベーコンのお話がある。航海安全に御利益あらたかなお寺があった。そのお寺の壁には、航海を終えた人の寄進した額がズラリと並んでいた。「どうです、あなたもお祈りになったら」と町の人にいわれて、ある船乗りが「でも難破して帰らなかった人の額はないわけですね」と答えたそうである。この船乗りの判断こそ曇りない知性を示すものだ、とベーコンはいっている。ある結果について、その原因をただちに神秘的あるいは超越的なものに結びつけたい本性を、人間は持っているのかも知れぬ。雷が鳴れば神の怒りだ、と思った時代もあった。スプーンが曲がれば「超能力」だと信じるのも、同じことだと言えそうだ。先日、このコラムで「手品を超能力だと称するところがいただけぬ」と書いたら、たくさんの投書をいただいた。ほとんど全部が「科学盲信(※)の独断だ」という反論だった。現在の科学で説明できぬ現象は存在しない、などというつもりは毛頭ない。しかし、われわれの理性、経験、知識の想像外のことがあったら、まずそれが本当であるかどうかを疑うのが常識だと思われる。なでただけでスプーンが曲がるものなら、納得いくまで自分の目で確かめたい。そこで二人の「超能力少年」に会い、目の前で実演してもらった。大人の力で曲がらぬスプーンを渡すと、やはり曲がらない。「念力が通らぬ」という。「念力」ではなく、自分の力で曲がらぬということだろう。見る者の視線からスプーンをかくさないと「念力が集まらない」という。トリックの場所がないということだろう。今週の『週刊朝日』が、テレビの人気者になった「超能力少年」のトリックをカメラでとらえ、その母親が謝っている。子供の遊びならよかったのだが、大人が割り込んで商売にして、いやな話になった。(49・5・16)
2.思ったことを箇条書きする
3.自分の主張を決定し、文章のタイトルを作る
・フランシス・ベーコンは本当にこんなことを言ったのか?・人間はすぐに、何にでも因果関係を見出してしまうという、行動経済学の研究があったはず
・手品を超能力だと称するところがいただけぬ、というコラムを書いたら、「化学盲信の独断」というクソリプがたくさんついたというのは、今もまったく同じかも・超能力少年を実際に呼び出したのか。すごい。少年もよく応じたな。・子供のいたずらが、大人の商売と結びついて、後味が悪くなった。一体だれが悪いのか?
4.材料を書きだす
今週の『週刊朝日』が、テレビの人気者になった「超能力少年」のトリックをカメラでとらえ、その母親が謝っている。子供の遊びならよかったのだが、大人が割り込んで商売にして、いやな話になった。
5.400字(原稿用紙1枚分)程度の文章にまとめる
「子供のいたずらが、大人の商売と結びついて、後味が悪くなった。一体だれが悪いのか?」・テレビが悪い・視聴者数=金 の世界では、モラルが破綻する・少年は周りにうまく利用された
子供のいたずらが、大人の商売と結びついて、後味が悪くなった。一体だれが悪いのか?結論としては、テレビが悪いと思う。視聴者を稼ぎたいあまり、少年のトリックを知りつつ、「手品」ではなく「超能力」と称して、世の中の人々を欺いたのはテレビだからだ。*少年の名が売れれば売れるほど、テレビはうるおい、また少年の家族の懐にも金が入るだろう。だから、トリックであることを分かっていて、少年をまつり上げたテレビと少年の家族のモラルは破綻していた。少年が身内や友達に披露する分には、「超能力だよ」といっても、冗談で済まされるが、公共放送を通じて「超能力」と言えば、真面目に信じてしまう人が一定層でてしまう。*そして「超能力」であることを真面目に信じていた視聴者の一部が「だまされた」ことを知れば、怒りの矛先は少年に向くだろう。少年のちょっとしたいたずらであっても、それが大人をだませるレベルのものであれば、すぐに「金儲け」をしようとする輩に利用される。後味が悪いのも、無理からぬことだ。事件ののち、少年の母親は謝罪した。テレビは謝罪しないのだろうか。
5.推敲して短くする
子供のいたずらが、大人の商売と結びついて、後味が悪くなった。一体だれが悪いのか?結論は、テレビが悪い。視聴率追求のため、少年のトリックを知りつつ、「手品」ではなく「超能力」と人々を欺いたのはテレビだ。少年の名が売れれば、テレビと少年の家族の懐に金が入る。金のため、彼らのモラルはどこかへ押しやられた。少年が身内や友達に手品を披露する分には、「超能力だよ」といっても、冗談で済まされる。しかし、公共放送を通じて「超能力」と言えば、真面目に信じてしまう人が一定層でてしまう。彼らが「だまされた」ことを知れば、当然、怒りの矛先は少年に向く。後味が悪いのも、無理からぬことだ。事件ののち、少年の母親は謝罪した。それを見て、少年も深く傷つき、将来に禍根を残しただろう。だが、一番儲けたであろう、テレビは謝罪しないのだろうか。
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(文責-ティネクト株式会社 取締役 倉増京平)
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