スティーブ・ジョブズがアップルを創業したことは多くの人が知っていると思います。
しかし彼はエンジニアリングに関しては決して天才ではありませんでした。
「パーソナルコンピューター」という言葉すら一般的でなかった時代に、Apple創業のきっかけとなったAppleⅠを設計開発したのはジョブズの親友スティーブ・ウォズニアック(通称ウォズ)です。ウォズこそ当時から「天才」と呼ばれていて、AppleⅠに続き合計500万台以上売れたAppleⅡを設計開発したのもウォズです。Appleはその勢いで上場を果たし、ジョブズとウォズは20代で億万長者となったのです。
ではなぜジョブズが天才と言われるのでしょうか?
それは彼が「マーケティング」の天才だったからです。
マーケティングとは
「顧客が真に求める商品やサービスを作り、その情報を届け、顧客がその価値を効果的に得られるようにする」
と一般的に定義されますが、まさにこの中にジョブズの凄さが全て詰まっています。
例えば上述のAppleⅠに関しても、ウォズはタダで仲間に配ろうとしていました。
それが売れると確信し、部品の仕入れ先を確保し、売るべき相手を見つけ、適正な価格を決めて全てを売りきったのはジョブズです。※1
(※1 スティーブ・ジョブズ I ウォルターアイザックソン “「アップル 1を設計したとき、ぼくはみんなにタダであげるつもりだった」”)
そこで今回はChatGPT先生にスティーブ・ジョブズのマーケティングは何が凄かったかを聞き、そしてその主張が正しいかどうかを人間を代表してマーケティング業務歴10年、アップル信者歴20年の私楢原がその根拠を明らかにしながら解説検証したいと思います。
まず率直にこのように聞いてみました。
するとChatGPTは5つの特徴を示してくれました。
それらを紐解いていきたいと思います。
「ビジョナリー」な「ストーリーテリング」とは、ジョブズのプレゼンの特徴をうまくまとめてくれています。
ビジョナリーなだけでもストーリーテリングの上手さだけでもなく、その2つの組み合わせこそジョブズのプレゼンの真骨頂です。
ジョブズのプレゼンはほぼ100%がAppleというIT企業(2008年まではApple Compute inc.という名実ともにコンピューターメーカー)を代表して新製品の紹介をすることが目的です。
ですので正論を言えば、ビジョナリーであることもストーリーテリングという手法を使わなくても良いのです。ただ単に新製品が出たことを大衆に知らせれば良いのです。
しかし、類まれなる「マーケティング」センスを持っているジョブズはたかが「新製品発表」を、ショー化しました。
これは初代MacことMacintoshの新製品発表時にすでに始まっています。
常識的に考えて有名ミュージシャンのコンサートでもなく映画でもないただの企業の新製品発表が面白いわけがありません。
しかし彼は、その巧みなストーリーテリングにのせ新製品が見せる、人々がワクワクする未来=ビジョンを示すことで新製品発表をエンタメ化したのです。
今でこそ派手な商品発表を企業のトップが行うことは珍しくはなくなりましたが、それを当たり前にしたのは間違いなくジョブズです。
今でもAppleのHPには気の利いたキャッチコピーが常に並んでいますが、それはもはや伝統のようなものです。
【現在のApple HP画像】
シンプルなメッセージだけでなく、Appleはまず製品そのものがシンプルでその操作方法も常にシンプルです。誤解を恐れずに言えば、何もかもがシンプルです。
これは深い意味でアップルの哲学の現れです。
わざわざ深い意味でと私が強く主張しているのはこの「シンプル」という言葉に隠されたもっと深い意味があるからです。
例えば、ジョブズはそれを「洗練」という言葉を使ってこのように表現しています。
「洗練を突き詰めると簡潔になる」※2
このフレーズはアップルの初期のパンフレットに採用されたキャッチコピーですが、製品における「シンプル」さという言葉を非常によく表している言葉だと思います。
※2 Think Simple ―アップルを生みだす熱狂的哲学 ケン・ シーガル (著)
Apple製品がオシャレなデザインであることは多くの人が感じていることだと思います。
ではそのオシャレなデザインをなぜオシャレだと感じるのでしょうか?
そのためにはまず「デザイン」とは何か?ということから理解する必要があります。
よく言われるようにデザインとは、見た目をカッコ良く作ることではありません。
(参考:デザインは、見た目じゃない、NHKニュースウェブ)
デザインには、デザインされたものによって実現させたい「目的」があり、その目的をスムーズに実現できる機能をプロダクトとして具現化したものが「良いデザイン」です。
さらにその良いデザインにとどまらず、無駄な物を一切削ぎ落とした究極にミニマルな製品こそがApple製品の特徴で、それを人々は直感的におしゃれと感じているのです。
私のようなアップル信者からすると、それはApple製品そのものだけではありません。
パッケージ、ネーミング、広告キャッチコピー、ウェブサイトなどなどありとあらゆる側面にそれを感じ取ることができるのです。
一つ例をあげるなら、例えばパソコンの「デスクトップ」です。
今でこそ当たり前のデスクトップですが、それが「発明」される前はコンピューターの操作は真っ黒の画面にテキストのコマンドを入力していました。
それをGUI(グラフィカルインターフェイス)と呼ばれるアイコンとマウスで操作方法を直感的でわかりやすくしたのは、Appleが1984年に販売したMacintoshです。
他にも、iPodのクリックホイールやiPhoneの物理ボタンを排除したマルチタッチ操作などもアップルの秀逸なデザインの1つです。
このようにAppleは一貫してユーザー体験を中心としたデザインをすることで、多くの製品を生み出しそしてヒットさせ、世界的な企業へ上り詰めたのです。
ジョブズが完璧主義者であったことはよく知られています。
完璧主義さが表出したエピソードとして初代Macintoshを開発していた時の話をご紹介します。
以下そのエピソードです
・当時のエンジニアの意向を全く無視し筐体を「電話帳」の大きさに収めるように指示
・「ユーザーがほぼ見ることは内部の基板の配列が「美しくない」という理由で何度も却下した
・ギーク(オタク)のパソコンに必須だった拡張機能スロットを断固として拒否し、キーボードとフロッピーディスクドライブの2つだけで販売することに拘った。※3
※3 スティーブ・ジョブズ-偶像復活より
初代Macintoshの販売台数は28万台程と、500万台売れたAppleⅡの成功には遠く及ばないものでした。
しかしこのジョブズの製品に対する完璧主義ぶりが、後々のAppleという企業をさらに飛躍させる重要な哲学となっていきます。
瀕死のアップルを復活させたiMacから続くMacシリーズ(元はMacintosh)、携帯音楽プレーヤーiPodから始まったiPhone、iPadシリーズなど、今ある全てのApple製品の礎はこの初代Macintoshがベースとなっています。
「イノベーションと新規性の強調」とは回りくどい言い方になっていますが、これはジョブズが新製品発表時に必ず行っていたプレゼンのことです。
特にそれがよく現れているのが、初代iPhone発表時のプレゼンです。
このプレゼンは「スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン」として世界的ベストセラーになるほど、その後のあらゆるプレゼンに影響を与えるほどの秀逸なプレゼンです。
「イノベーションと新規性の強調」という視点で見るならば、
当時(2007年)iPhoneのようなスマートフォンは世の中に存在すらしておらず、識者たちがせいぜい「こういうものあればいいね」と想像する程度のものを、「自分たちが本当に実現すること」を、Appleの実績による技術的な裏付けと実際の製品を用いてのデモを交え紹介していることです。
私はこのプレゼンをでiMacで視聴していましたが、ジョブズがライブにも関わらず冷静に淡々と発表していたことを今でも覚えています。もちろんその後初代iPhoneを買ったのは言うまでもありません。(ちなみに日本未発売。米に行って買ったw)
以上、ChatGPTがまとめてくれた特徴を私なりに根拠を探し解説しました。
ジョブズが行っていたことはマーケティングの定義そのままに
「顧客が真に求める商品やサービスを作り、その情報を届け、顧客がその価値を効果的に得られるようにする」
ことがお分かり頂けたでしょうか?
彼はおそらくマーケティングの定義なんて意識もしたこともないでしょう。
ただ単に「めちゃくちゃ凄い(insanely great)※4」な製品を世の中に出したいだけだったと思いますが、それを実現するために、技術力の天才ではなくても生まれ持ったマーケティングセンスで世界的な企業を創ってしまった男なのです。
※4 Insanely greatはジョブズが日常会話、プレゼンで好んで使った言葉 (IInsanely Great: The Life and Times of Macintosh, the Computer that changed Everything )
【著者プロフィール】
楢原一雅(ティネクト取締役)
マーケティング担当