「言語化能力を鍛える、4つの明日からできる具体的習慣」について述べます

このコンテンツは有料note「webライターとメディア運営者の、実践的教科書(安達裕哉著)」より転載しています。


つい先日、「言語化」についての記事を公開しました。
 
つまり「言語化は、習慣と実践の産物である」と認識した人のみが、身に着けることができる力である。
すなわち「言語化しなければならない」と感じたことに対して
・書き出すこと
・辞書を引くこと
・寝かせて推敲すること
・人に見せて意見をもらうこと
という、極めて単純な行為を、繰り返し実践した人だけが、身につけられる。
ただ、本質的にこの記事は、言語化の重要性を説くものであって、言語化のハウツーを記述したものではありません。
というのも、言語化とは、本質的に「技術」ではなく、「習慣」によって形作られる能力だからです。
上の記事中でも触れましたが、それは「あいさつ」と同じようなもの。
要は、実践あるのみ、と言う話です。
 
しかし、Twitterなどのコメントを見ると、「とはいえ、きっかけが欲しい」とか、「どうやって言語化をしたらよいかよくわからない」という感想を持った方もいるようです。
そこで、本稿では日常的に身に着けることが可能な「言語化能力を鍛える習慣」について、もう少し掘り下げて述べたいと思います。
 

言語化とは、コンセプトの創造である

まず明確にしておきたいのは、言語化とは何か、と言う話です。
これは、明確に答えがあります。
言語化とは、コンセプト(概念)の創造です。
 
これは、私見ではなく、「言語化」において、最も優れた能力を持つ人物の一人である、みうらじゅん氏の著作『「ない仕事」の作り方 (文春文庫)』にはっきりと表れています。
 
みうらじゅん氏は、「マイブーム」や「ゆるキャラ」と言う言葉を作り出したことでよく知られています。
 
特に「ゆるキャラ」のエピソードは特徴的です。
彼は20年ほど前、全国各地の物産展に赴いたとき、「妙な着ぐるみ」を見たときに、その会場にいた「マスコット」に惹かれたといいます。
しかし、そのマスコットの違和感を、うまく表現する言葉がない。
そこで、みうらじゅん氏は、そのマスコットの持つ「哀愁」や「トゥーマッチ感」を表現するため、「ゆるキャラ」という言葉を作り出しました。
そんなマスコットを普通の人は、まず気にすることはないでしょう。もし気になったとしても、「物産展に何か変なものがいたな」くらいで、帰宅後にはもう忘れてしまうと思います。
 
なぜかといえば、それは名称もジャンルもないものだったからです。「地方の物産展で見かける、おそらく地方自治体が自前で作ったであろう、その土地の名産品を模した、着ぐるみのマスコットキャラクター」という、長い長い説明が必要なものだからです。説明しているうちに、面倒臭くなってしまいます。 
 
私の「ない仕事」の出発点はここにあります。 まず、名称もジャンルもないものを見つける。そしてそれが気になったら、そこに名称とジャンルを与えるのです。 前述の長い説明を、たった一言で表現するために私が考えたのが、「ゆるキャラ」でした。
言語化とは概念を作ること。
それはすなわち、思考に形を与えること。
みうらじゅん氏の実践したこと、それは、「近代言語学の父」と呼ばれた、フェルディナン・ド・ソシュールという19世紀の言語学者が見出した発見と全く同様のことでもありました。
私たちはともすれば、表現とは思考なり情念なりの衣だとかその翻訳であるように考えがちですが、実は思考というものが、その言語表現を見出す前に一種のテクストとして存在しているのではありません。(中略)
つまり表現というものは、それ以前には存在しなかったその内容自体を初めて存在せしめるという考え方です。
 
ただし、誤解しないでいただきたいのは「コンセプトの創造」が、イコール、「新しい発見」、ではないということです。
一般的にコンセプトの創造というと、新しい手法や思想などを、従来の枠を破って創り出す、というイメージを持たれる方が多いかもしれません。
が、それはコンセプトの創造の一部であり、コンセプトが新しいものである必要は、まったくないのです。
 
これは、多くの「創造」が、実は「既存の要素の組み合わせ」であり、ベストセラー「アイデアのつくり方」の著者であるジェームズ・W・ヤングをはじめとした、多くの人物によって指摘されています。
 
これはもちろん、「言語化」についても当てはまります。
自分の表現したいことを、従来から使われている言葉を組み合わせることによって表現することこそが「言語化」の中心なのです。
 
それでは、上を踏まえた上で、その実践を日常生活に組み込むには、どうしたら良いでしょう。
それには、「言語化能力を鍛える習慣」が役に立ちます。
それは、以下のようなものです。
 

1.語彙を貧弱にする「ヤバい」を使わない

本質的には「言語化」の巧拙は、語彙に依存すると言ってよいでしょう。
手持ちの言葉が多いほうが、より多くの組み合わせを試すことができるからです。
したがって、語彙を増やす行動習慣が、言語化の良い訓練となります。
 
そのためには、例えば、「ヤバい」「エモい」「スゴい」など、語彙を貧弱にする、安易な表現を使わないようにする、といった習慣が有効です。
どんな感動も「ヤバい」「エモい」「スゴい」と表現してしまったり、美味しい食べ物を「ウマい」としか言えなかったりすれば、語彙は増えません。
 
実際、良い食レポは、「おいしい」と言う一言をできる限り使わず、いかにその美味を表現するかを極めています。
美食家で知られる北大路魯山人は、文筆家としても一流でした。
魯山人の書いた「車蝦の茶漬け」という文章は、それを良く表現しています。
えびのぜいたくな茶漬けを紹介しよう。これまた、その材料の吟味いかんによる。これから述べようとするのは、東京の一流てんぷら屋の自慢するまきと称する車えびの一尾七、八匁までの小形のもので、江戸前の生きているのにかぎる。横浜本牧あたりで獲れたまきえびを、生醬油に酒を三割ばかり割った汁で、弱火にかけ、二時間ほど焦げのつかないように煮つめる。 
 
こんなえびは誰の目にも無論見事だし、一尾ずつで上等のてんぷら種になる材料だから、よほど経験のある食通でなければ、やってのける度胸は出まい。これをいきなり佃煮風にするのは、もったいない気がして、ちょいとやりきれないが、それをやりおおせるなら、その代わり無類のお茶漬けの菜ができるわけだ。つまり、本場の車えびを醬油と酒で煮た佃煮である。 
 
例のように熱飯の上に載せる。茶碗が小さければ半分に切ってもいい。それに充分な熱さの茶を徐々にえびの上からかける。すると、醬油は溶けてえびは白くなる。やがて、だしが溶けて、茶碗の中の茶は、よきスープとなって、この上なく美味いものとなる。 季節はいつでもよいが、夏など口の不味い時に、これを饗応すれば、たいていの口の著った人でも文句はいわないだろう。 
 
えびは京阪が悪くて、東京の大森、横浜の本牧、東神奈川辺で獲れる本場と称するものがいい。こういうものを賞味するようにならなければ、食通とはいえまい。 この食通も、てんぷらなら二十や三十はわけなくペロリと平らげるが、茶漬けという名がつくと妙におじけだす。
 
もちろん、身内での軽い会話や、日常生活では「ウマい」だけでもよいのですが、「言語化」の訓練を日常に取り入れるには、そういった習慣から脱却せねばなりません。
「表現の解像度をあげること」が、言語化に必須の習慣ですから、「ヤバい」「エモい」と言った、安易な表現をできるだけ使わず、練った表現をな心がけるのが、言語化の能力を鍛える第一歩です。
 
また、「ヤバい」といった言葉だけではなく、横文字のビジネス用語、例えば、フェーズ、エビデンス、ベネフィット、アバター、バイアス、サーべイランス、プラフ、インセンティブ、レガシーなどの言葉についても、「曖昧な理解」のままに使わないことを習慣化することも有効です。
 

2.読書のまとめを作る

語彙を増やすための有効な習慣は何か、と言えば、古典的ではありますが、読書です。
ただし、本を読んだだけでは言語化の訓練にはなりません。
2つのことを能動的に行う必要があります。
 
一つは、本を読みながら辞書を引く習慣をつけること。
最近ではwebでもアプリでも辞書がすぐに引けます。
また、「類義語辞典」は、表現を増やすのに非常に有効です。
 
そしてもう一つは、自分で文章を書くこと。
ただ、だからといって、読書した内容をブログにしたり、外部に発信したりする行為は非常に時間的コストがかかります。
そこでおすすめなのが、「読書まとめ」です。
具体的には、内容のダイジェストをメモしていく行為です。
 
例えば、以下はミハイ・チクセントミハイという学者の「フロー理論」に関する書籍のダイジェストを私が記述したものです。
この手法は、私がコンサルティング会社に在籍していたころ、上司から支持されて行ったことですが、うまく機能しています。
なぜなら、読書により得られた知見は、自分自身が思っているよりも曖昧なものですが、まとめを作ることで言語化を通じて、明確になるからです。
 
私は後から検索ができるように、Evernoteを活用していますが、メモ自体は手書きでも、スマホのメモ帳でも構いません。
 

3.「〇〇のノウハウメモ」を自作する

繰り返しますが、読書をするだけでは語彙は増えません。インプットをいくら増やしても、アウトプットしなければ能力は向上しないからです。
そのため、前述した読書のまとめ以外にも、意図的に「言語化」のアウトプットを増やしていく必要があります。
 
では、どのようなアウトプットが良いのか。
おすすめは「〇〇のノウハウメモ」を自作することです。
〇〇の中には、何でも入ります。
例えば、仕事でもよいですし、自分の趣味に関するもの、例えばアウトドアレジャーや、ゲーム、楽器の演奏などでもよいでしょう。
とにかく「攻略」が必要なノウハウを明文化することで、確実に言語化の力を向上させることができます。
 
例えば以下は、私がコンサルティング会社に入社した時に、指導を担当した先輩から教わったことを「言語化」した、コンサルティングのノウハウメモの抜粋です。
これは今でもアップデートを続けているファイルなのですが、仕事において、
「上司は何と言ったか」
「私の解釈は何か」
「なぜうまくいったのか」
「なぜうまくいかなかったのか」
「どうしたらさらに良くなるか」
などを余さずメモしていったもので、現在の私が書く記事の元ネタとしてもかなり活用されています。
 
仕事は毎日発生しますし、引継ぎや後輩への指導、あるいは自分へのフィードバックなど、あらゆる面で役に立つこと請け合いですので、ぜひ自分なりのメモを充実させ、言語化の習慣を磨いてみてはいかがでしょうか。
 

4.自分自身への「フィードバック分析」を行う

そして、最もおすすめなのが自分自身への「フィードバック分析」です。
これは、マネジメントの始祖である、ピーター・ドラッカーの著作に出てくる手法で、
 
1.何かをすることに決めたならば、何を期待するかを直ちに書き留める
2.9か月後、1年後にその期待と実際の結果を照合する
という2つのステップからなるものです。
 
強みを知る方法は一つしかない。フィードバック分析である。何かをすることに決めたならば、何を期待するかをただちに書きとめておく。九か月後、一年後に、その期待と実際の結果を照合する。
 
私自身、これを五〇年続けている。そのたびに驚かされている。これを行うならば、誰もが同じように驚かされる。 こうして二、三年のうちに、自らの強みが明らかになる。自らについて知りうることのうち、この強みこそもっとも重要である。
 
さらに、自らが行っていることや行っていないことのうち、強みを発揮するうえで邪魔になっていることも明らかになる。それほどの強みではないことも明らかになる。まったく強みのないこと、できないことも明らかになる。
 
上にもある通り、ピーター・ドラッカー自身が行っていたこの分析は、私自身ももう20年近く実践しています。
「言語化」と言うスキル獲得だけではなく、自分自身のキャリアやスキル獲得にとっても非常に重要な分析であり、まさに一石二鳥ですから、これは大変おすすめの施策です。
私はこれを、タスク管理リストに記入していますが、カレンダーに記入しても、手帳に記入しても、使いやすいようにすればよいでしょう。
 
以上、私が日常的に実践している、「言語化能力を鍛える、4つの明日からできる具体的習慣」でした。
お役立ていただければ幸いです。

 

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【著者プロフィール】

安達裕哉

元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。

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