このコンテンツは有料note「webライターとメディア運営者の、実践的教科書(安達裕哉著)」より転載しています。
1か月ほど前から、生成AIの業務での利用事例の取材を始めました。
【ゆる募】ChatGPTをはじめとする生成AIを、仕事で少しでも活用している方に、その使い方について、お話を聴きたいです。
ご希望があれば、PRになるように、弊社のメディアBooks&Appsで、記事にいたしますので、どなたか応じていただける方はいないでしょうか?…
— 安達裕哉 (@Books_Apps) September 5, 2023
既に今日までに、20~30社のインタビューを終えましたが、引き続き取材先は募集中ですので、遠慮なくお声がけください。
また、ご希望があった方については、お聞きした取材内容を後日(10月末~11月にかけて)記事にして、メディア上で配信する予定ですので、「どんな使い方をしていたのか気になる」という方は、そちらを見ていただくと良いと思います。
で、それはそれとして、今回取材をしていて感じたのは、「生成AIの導入は準備が必要だ」という話です。
では一体、何を準備するべきなのでしょうか?
実は、「何に使えるの?」という問いが依然として巷では中心となっていますが、実際には企業が業務への適用をする際に、越えなければならないハードルは5つあります。
1.生成AI導入の目標設定
一つ目は「目標」です。AIの実装を意図する際には、明確で定量化でき、かつ達成可能な目標を設定することが重要となります。
そしてこの目標は大別して2種類あります。
一つ目は個人レベルでの時間生産性の改善に関する目標です。
例えばメールの返信、企画の案出し、各種の調査、翻訳、議事録、データ分析など、小さい範囲での個人業務を効率化するための目標です。
この場合、改善の目標は、「残業代の削減」や「外注費の抑制」または「人件費の抑制」といった所につながる可能性があります。
そして二つ目は企業全体や業務レベルでのオペレーション改善に関する目標です。
例えば、eコマース業界のケースを考えてみましょう。ある企業はAI技術を使用して、問い合わせチャットボットや、商品推奨システムを拡張し、改良するという目標を設定するかもしれません。
このシステムの目的は、消費者の閲覧履歴や購買履歴に基づいて高度にパーソナライズされた商品推奨を提供し、顧客体験を向上させて売上を上げることです。
実際、アマゾンは、AIレコメンデーション・システムを利用して、顧客に商品をアップセル、クロスセルしています。この戦略は大きな成果を上げており、同社の売上高の35%はレコメンデーション・システムに起因しています(出典:マッキンゼー)。
あるいはメディア業界です。
Jukin Mediaはこのテクノロジーを活用し、人力では選定不可能な膨大な量のコンテンツをキュレーションしています。
潜在的な目標は、視聴者のエンゲージメントを増加させることで、視聴時間、クリックスルー率、ユーザーシェアなどの具体的な指標となるでしょう。
これら、企業のオペレーション改善にAIを用いる場合、「AI活用」はあくまで多数の選択肢の一つであり、主眼は「差別化」「顧客体験の大きな向上」など、企業としての業績を伸ばすことに置かれます。
したがって「生成AI」が本当に改善に必要かどうかは、個人の生産性向上の時に比べて、より議論が必要なポイントになります。
というのも、これは「生成AIで、人力では不可能だった、従来のビジネスプロセス/オペレーションの限界を突破できるか?」を考えることと同じだからです。
2.生成AIによって強化されるオペレーション/ビジネスプロセスを特定する。
したがって、目標設定後には、生成AIを使って改善できる具体的なビジネスプロセスの特定が重要となります。
マッキンゼーは、企業はマーケティングや販売、サプライチェーン管理、製造、リスク管理など、多くの主要分野でAIから価値を引き出すことができると主張しています。
例えば、マーケティングとセールスの領域においては、Adobe傘下のマーケティングプラットフォームであるMarketoには、人工知能(AI)を活用したパーソナライズ・ソリューションがあり、何百万ものデータをリアルタイムで分析し、顧客にパーソナライズされたメッセージを配信します(出典:Marketo)。
ササプライチェーン・マネジメントの分野では、AI は、薬局業務におけるロボットの提供から、センサーデータを使用した製造品質管理、従業員トレーニングのための仮想現実に至るまで、さまざまなサプライ チェーンのシナリオに適用されています。
その顕著な例として、ファイザーがワクチンの輸送のために倉庫でAI活用している方法が挙げられるでしょう(出典:Forbes)。
製造分野では、AIは生産プロセスの合理化と製品品質管理の向上に活用されています。
シーメンスのような企業は、AIを生産ラインに組み込み、欠陥の検出を支援しています(出典:シーメンス)。
また、リスク管理分野においては、AIは潜在的なリスクを予測し、リアルタイムの戦略的意思決定を行う上で効果的に役立っています。
JPモルガン・チェースはExplainable AI、Responsible AI、Ethical AIを通じてAIを活用し、銀行業界では、ML/AIの各使用のリスクを評価し、このテクノロジーの適用が顧客や企業にリスクをもたらしないようにするためのモデル・リスク・ガバナンスと呼ばれる専用の機能を備えています。(出典:JPモルガン)。
個別の分析が必要ではありますが、AIが有益であることを証明できるビジネス内の領域を具体的に特定し、主要なプロセスにAIを組み込むことで、効率性の向上、コスト削減、リスクの軽減を実現できる可能性があります。
3.AIに精通した人材の確保
目標とターゲットとすべきオペレーションの絞り込みができれば、あとは生成AI導入のスケジュールと予算を計画します。
この計画そのものは、従来のシステム構築/導入とさほど変わりません。
しかし、重要となってくるのは、AIの機能や限界を知り、それを業務に適用するだけの知識を持った人材です。
AIに関するリテラシーは、技術チームだけでなく、組織全体にとって非常に重要です。なぜなら、AIはビジネスのさまざまな側面に影響を与えるため、誰もがその仕組みと、自分の役割にどのような影響があり得るかを理解する必要があるからです。
例えば、Deloitte Insightsは、AIリテラシーが大切であるのは組織のITや技術チームだけではなく、実際には組織構造全体に及び、様々な部門や役割に影響を与えることを強調しています(出典:Deloitte’s State of AI in the Enterprise, 3rd Edition)
AIは、ルーティンワークの自動化や意思決定プロセスの強化、イノベーションの促進によって、事業運営に直接的な影響を与えます。そのため、さまざまな階層や職務に従事している従業員は、AIがどのように動くのか、どのような可能性があるのか、また自分の職務にどんな影響を与えるのかを理解する必要があります。
ハーバード・ビジネス・レビューのレポートによりますと、成功している企業のCEOはAIトレーニング・プログラムへの投資の重要性を強調しています。
彼らは、従業員にAIの概念や使い方を理解させることで、組織のパフォーマンスを大きく向上させることができると考えています(出典:The CEO’s Guide to the Generative AI Revolution, HBR)。
具体的には、AIトレーニングプログラムの導入にはいくつかの方法があります。
例えば、グーグルは、「Learn AI & machine learning」というコースを開設して、機械学習やディープラーニングの基礎を教えています。
同様に、IBMもAI Skills Academyを設け、学習モジュールやトレーニング教材を提供しています。
これらのトレーニング・プログラムは、ワークショップや教育セミナー、またはオンライン・コースを通じて、組織の専門能力開発の戦略に取り入れることができます。
なお、AIは学習内容だけではなく、「学習の方法」にも大きな影響を与えることが予想されており、LinkedInの2020 Workplace Learning Reportでは、「学習に大きな影響を与えると予想されるテクノロジーのトップはAI」であると主張しています。
人材開発の専門家たちは、学習プラットフォームは今後さらに賢くなり、AIと機械学習を活用することで、よりパーソナライズされ、キュレーションされた学習体験を提供できると考えているようです。
実際、LinkedInラーニングは、6億7,500万人の会員、5,000万社以上の企
業、2,000万件の求人情報から得たLinkedInのデータを活用し、関連性の高い学習レコメンデーションを提供しています。
4.AIに対する懸念と抵抗を理解する
AIの受容と導入を促進するためには、AIに対する一般的な不安や抵抗を理解することが重要です。
AIの統合に対する抵抗の背景にはいくつかの理由が考えられますが、最も一般的なものとしては、雇用の安定に対する懸念、未知なるものに対する恐怖、AIの複雑さに対する認識などが挙げられます。
雇用の安定に関する懸念は、AIが職場で人間に取って代わるという考え方に由来することが多いです。例えば、オックスフォード大学の研究によれば、最大47%の仕事が自動化される危険性があります。
これは、製造業や運輸業など、自動化されたプロセスがますます普及している分野の従業員に大きく影響します。(Frey & Osborne, 2013)。
一方、未知なるものへの恐怖は、新しいテクノロジーを理解できないがゆえに抵抗してしまうという一般的な心理傾向です。
例えば、”The Determinants behind the Acceptance of Autonomous Vehicles: A Systematic Review(邦訳:自動運転車の受け入れの背後にある決定要因) “と題された研究によると、自動運転車の操作上の安全性やリスクに対する不慣れさが、自動運転車の受け入れや利用をためらわせたということです。
これらの懸念はそれぞれ妥当なものであり、AIの導入を考える際には対処すべきです。効果的なチェンジ・マネジメントは極めて重要であり、AIの価値提案を徹底的に伝える必要があります。
例えば、PwCの「Responsible AI(責任あるAI)」イニシアティブは、企業がAIの採用に安心感を持てるよう、明確なコミュニケーションによってAIの利点を丁寧に説明することを目的としています。
そのため、AIの業務への適用プロセスを通じ、関係者への啓蒙、およびサポートとトレーニングを提供する必要があります。例えば、シスコはAIによる仕事の変化がどのようになるかという予測を提供しています。
AIに関する懸念を理解し、構造化されたアプローチでそれに対処することは、AI導入の成功に向けた主要なステップです。
雇用の安定、未知のもの、複雑さの認識など、不安を認識したうえで、強固なコミュニケーションや啓もう活動、あるいはトレーニングなどの介入策を採用することで、AIの導入に関する反発を大幅に緩和することができます。
5.生成AI利用に対してのルールを設定し、コンプライアンスを維持する
生成AIは、他の人工知能テクノロジーと同じように、組織が慎重に理解し管理すべき倫理的な問題を持っています。
これらの問題は、ユーザーのプライバシーについての大きな懸念から、テクノロジーのセキュリティに関する疑念、誤用の可能性、さらには非倫理的な目的での利用に至るまで様々です。
例えば、事前の同意なくAIモデルの訓練のために個人データを勝手に使うことは、プライバシーの大きな侵害になるかもしれません。
実際、生成AI導入において先進的な取り組みを続けている、マイクロソフトのAIに関する倫理の考え方は、プライバシーへの取り組みを説明しており、データの使用に関して責任をもつルールを設け、テクノロジーが人権を守ることを確認しています。(参考:Microsoft – Responsible AI practices – https://www.microsoft.com/en-us/ai/responsible-ai?activetab=pivot1:primaryr2])
そのため、しっかりとしたAIガバナンスを確立することは、AI技術を倫理的に正しく使うための基盤です。
AIガバナンスは、潜在的なリスクや問題を示し、リスクを管理するための詳しい指針を提供します。
たとえば、グーグルは、AIの開発のための明確なルールと基準を設けるため、AIの原則とAI倫理評議会を導入しました。(参考:Google AI – Our Principles – https://ai.google/principles/)
また、AIの倫理的な枠組みを作るためには、公平で説明できる方法でAIの採用と利用を指導する明確な価値観と原則を策定する必要があります。
その良い例として、欧州連合の「信頼できるAIのための倫理的ガイドライン」という包括的な手引きがあります。
このガイドラインには、透明性や説明責任、差別のないこと、人権の尊重など、7つの大切な要点が含まれています。(参考:欧州委員会 – 人工知能に関するハイレベル専門家グループ – https://digital-strategy.ec.europa.eu/en/library/ethics-guidelines-trustworthy-ai)
生成AIの利用が一般的になるにつれ、企業がこれらの対策をAIの戦略に適切に取り入れることで、倫理的な影響を少なくすることができます。
以上が、企業の業務への生成AIをはじめとした、AI利用のために必要な5つのステップとなります。
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【著者プロフィール】
安達裕哉
元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。
◯X:安達裕哉
◯有料noteでメディア運営・ライティングノウハウ発信中(webライターとメディア運営者の実践的教科書)