このコンテンツは有料note「webライターとメディア運営者の、実践的教科書(安達裕哉著)」より転載しています。
メディアから寄稿を持ちかけられた時、どのくらいの原稿料を提示すればよいか、迷うライターさんも多いのではないでしょうか。
今回は相場の決まり方と、具体的な金額感について、書いてみたいと思います。
まず、「相場の決まり方」から。
ライターに支払う原稿料は、基本的には会社員への給与と同じように決まります。具体的には
1.(メディア運営元が)どれだけ儲かっているか
2.ライターのスキルがどの程度高いか
の二要因です。
要は、会社が儲かっていれば、社員の給料が高くなり、その中でスキルが高ければ、更に高い給与が見込めるのと同じです。
そして
1.どれだけ儲かっているか
については、メディアの収益構造に依拠し、
2.ライターのスキルがどの程度高いか
については、「拡散力」「専門性」に依拠します。
収益源がGoogle広告やアフィリエイト主体のメディアは、一般的に原稿料が安い
まず1.です。
単純に言うと、メディアの収益構造は二通りあります。
1つ目はメディア単体で利益を出すことを目指す、「広告費」で運営するメディアです。
Googleの広告や、アフィリエイト、もしくは記事広告などを掲載し、広告主の商品をプロモーションすることで収益を得ます。
民放のテレビ局も同じですね。
ただ「広告費」で運営するメディアには大きな課題があります。
それは極めて収益性の低いメディアが多い、という事実です。
単純に言えば「殆どのwebメディアは、広告費だけでは食えない」と言って良いでしょう。
稼いでいるメディアはほんの一部の巨大サイト、あとは一握りの企業が運営する、成功したアフィリエイトサイト、というのが現実です。
しかも、収益性はほぼ、サイトの規模=ページビュー数に依存します。
すると、ページビュー数をひたすら増やすために
「とにかく記事数を増やせ」
といった雑な運営をするメディアも少なくありません。
儲かっていないが、ページは増やさなければなりません。
そのしわ寄せが来るのが、結局「ライターに支払う原稿料」なのです。
実際、原稿料の相場を計算すると、以下のようになります。
まず前提として
・Google広告のCPC(1クリックあたりの収益)を30円〜60円
・1記事あたりの平均の月間PVが1000
・CTR(クリック率)は0.2%〜1%程度
と仮定とすると、1ヶ月あたりの1記事から得られる平均的な広告収益は、60円〜600円となります。
さらに、記事の寿命を約1年〜2年と見ると、1記事から得られるトータルの収益は、720円〜14400円となります。
したがって、Google広告だけ(というサイトは少ないと思いますが)のライターへ支払われる原稿料は、1記事あたり、数百円〜5千円程度でしょう。
もちろん、アフィリエイトで高収益を叩き出しているサイトは数多くあります。
例えば、月間PVが500万、アフィリエイト収入が月間1500万くらいのサイトは、企業メディアであれば結構ありますし、それなりの予算をつけて記事を書くことができるでしょう。
それであれば下のオウンドメディアと同様の原稿料を得られる可能性は高いです。
ただ、多くのサイトは「記事を外注すると赤字になってしまう」ので、自分で書いているか、とても安く外注する、となるでしょう。
収益性の低い会社の給与は低いのと同様に、収益性の低いメディアの原稿料は安いのです。
オウンドメディアは高い原稿料を期待できるが、記事のクオリティは高いものが求められる
2つ目は、「メディア単体」で利益を出す必要がないメディアです。
一般的には、企業が自社の商品のPRや、ブランディングのために利用する「オウンドメディア」がそれに相当します。
オウンドメディアはそれ単体で利益を出す必要がありません。
上で述べたように、自社製品の販促やPR、ブランディングにかかる費用は一種の販促費であり、会社の事業として、黒字であれば、オウンドメディア単体の収益はマイナスでも良いのです。
実際、弊社が運営するBooks&Appsも、メディア単体では赤字ですが、「オウンドメディア運営事業」が黒字であるため、その週的で運営を賄っています。
その観点からすれば、オウンドメディア、Books&Appsは一種の「販促ツール」と言えます。
ただし。
メディアの記事が「会社の顔」「ブランドイメージ」に直結するため、記事の質はその分、高いことが求められます。
「単価は高いが、質も高いものが求められる」のが、オウンドメディア向けの記事です。
では、オウンドメディアにおける原稿料の相場はどの程度でしょう。
一般的に、メディアの立ち上げ期においてはデータ不足ですので、上の計算のように「収益」から逆算して原稿料が決まるケースは少ないです。
では、原稿料はどこから決まるのかと言うと、企業の持つ「マーケティング予算」から決まります。
我々の経験では、オウンドメディアを運営する際に、「マーケティング施策のための予算」として、月間50万円〜150万円程度の予算をつける会社が多いです。
これは、web広告でこれくらいの予算をつけている会社が多いことに由来すると推測しています。
専任の人を雇ったとして、1人〜3人分の人件費のイメージですね。
そして、3人の場合は、だいたい、以下のように役割を分担します。
・一人が編集業務
・一人がSNS運営、集客の導線管理
・一人がライター
ライターを一名、専任でつけた場合、頑張れば1日1本くらいの記事を書けますから、月に記事を20本生産して、予算は50万円ということになり、1本あたりの原稿料に換算すれば、2万5千円です。
ただし、これは「記事の廃棄」や「コミュニケーションコスト」を全く考えていない金額ですから、オウンドメディアが外注する原稿料は実際にはこの半分程度、1万円〜1万5千円位が相場になっています。
ライターのスキル「拡散力」と「専門性」が原稿料に及ぼす影響
上の話は「メディアが出せる金額」から考えた原稿料の相場です。
そして、ライターのスキルによっては、この金額に上乗せが可能です。
そしてその「スキル」とは、上でも述べましたが「拡散力」と「専門性」です。
この連載で繰り返し述べているように、webライターの主要スキルは「文章力」ではありません。
「文章力」は、「拡散力」「専門性」の一部に過ぎない、ということはwebライターであれば強く意識しておくべきです。
その上で、まず「拡散力」は原稿料としてどの程度に換算されるのか。
例えばフォロワーが1万人のTwitterアカウトを持つライターに「書いた原稿を拡散してもらう」という条件付きで、原稿を依頼したとします。
拡散の効果はテーマにもよりますが、「バズ」でも起きない限りは、その人が誘導できるクリック数は、統計的にはだいたいフォロワー数
1%〜5%程度です。
したがって、フォロワー1万人のTwitterアカウントがそのメディアに送り込めるアクセスは、100〜500程度と思って良いでしょう。
これを、Facebook 広告やGoogleのリスティング広告の費用と比べます。
具体的には、1クリックあたり10円〜300円と換算すると、ライターに上乗せして払える金額は、1000円〜1万5千円くらい、という計算になります。
オウンドメディアでなければ、そうしたコストを負担できませんので、オウンドメディアの標準的な原稿料を、先程算出した1万円〜1万5千円とすると、オウンドメディアがフォロワー1万人の人に支払える原稿料は、1万1千円〜3万円になります。
上のロジックからすると、極めてフォロワー数の多い、例えば10万人規模のライター、バズを飛ばせるライターでは1本あたり、10万円〜30万円というところになります。
もちろん、ライターさんがどの程度のアクセスを送り込んでくれるかは、メディアの力や拡散力にも依存するので、必ずしも上が当てはまるとは限りません。
実際、ライターとメディアの関係はかなりドライで、
「解雇が自由」=採算の合わないライターは、すぐクビになる
「退職が自由」=割りに合わないメディアは、誰も寄稿しなくなる
というケースはよくあるので、関係を長く保つには、ライターもメディアも、原稿料を積極的に更新していく必要があります。
また、ライターの相場は、上に書いた話だけで決まるわけではないので、必ずしも当てはまるわけではありません。
ただ、上の相場を知っておけば、交渉も可能ですし、なによりも不本意なライティング報酬で、「他にないから仕方なく」という仕事の受け方を防ぐことができます。
がんばってください。健闘を祈ります。
(了)
(文責-ティネクト株式会社 取締役 倉増京平)
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