オウンドメディアを活用したインサイドセールスを構築する、7つの立ち上げステップ【Hubspot導入自社事例】

このコンテンツは有料note「webライターとメディア運営者の、実践的教科書(安達裕哉著)」より転載しています。


法人の提案型営業の経験者であれば、ご存じだと思いますが、引き合いをもらってから、受注までの営業活動には、とにかく非常に手間がかかります。
もちろん、弊社も例外ではありません。
当社は10年前からBooks&Appsというオウンドメディアで集客をしてきたものの、その後のお客様を迎えてのセミナーや、無料相談会、商談などの営業活動は、ほぼ営業個人の力量に任せて実施し、結果的に、非常に大きな労力を投入してきました。
 
しかし、疫病などの要因で、対面での様々な活動が制限される中、以前と同じような営業活動の実施は望めません。
また、そもそも「個人任せ」の営業スタイルは、営業の力量に依存します。
万が一顧客への対応が遅れれば、不満につながり、成長の妨げともなります。
そしてそもそも、「営業のやり方」には、何かもっと効果的な方法があるはずです。
 
そんな状況下で、注目を浴びているのが「インサイドセールス」です。
マーケティングツール大手のHubspotによれば、インサイドセールスとは「見込み顧客に対して、遠隔で営業をする手法」とあります。
インサイドセールスとは、あらゆる方法で集まった見込み顧客(リード)に対して、主に遠隔で営業活動をする手法です。お客様を訪問する従来型の外勤営業(フィールドセールス)とは違い、電話やメール、Web会議システムを用いた「内勤」の営業スタイルをとります。
内勤であれば、オンライン、オフラインの区別はありません。相手の状態を把握し、適切なタイミングでコミュニケーションをとることが何より大切となります。
(出典:https://blog.hubspot.jp/what-is-inside-sales)
直接、顧客先に赴いての営業が非常に難しくなった今、少しでも顧客との接点を増やすべく、営業のやり方の根本を変えようとしている会社は少なくありません。
弊社もその一社でした。こうして、オウンドメディア(Books&Apps)を用いた集客、アプローチから、セールスまで、自動的に、一気通貫に仕事が回る仕組みの構築に向けて、社内プロジェクトを走らせることになったのです。
 
本稿は、昨年12月から4月にかけて、弊社が実際に行ったインサイドセールスの立ち上げを、詳細に記述し、読者諸兄の参考となる情報を提供しようと試みるものです。
 

ステップ1.インサイドセールスの目的・目標

まず最初に決めるべきは、目的と目標です。
単に「インサイドセールスやるぞ!」では、何を軸にプロジェクトを推進したら良いのかわかりません。
 
そこで、当社では以下のように、インサイドセールス立ち上げプロジェクトの目的と目標を定めました。
目的:
Books&Apps(当社オウンドメディア)から得られた見込み顧客に対して、迅速に、抜け漏れなく、リアクションを行うこと
②得られた見込み顧客を分類し、属性に応じたアプローチを行うこと
 
さらに、具体的に達成判定が可能な基準として、以下のような目標を定めました。
目標:
①メルマガ登録、ホワイトペーパーダウンロード、セミナーへの参加、資料請求、問い合わせなどの、顧客からの何らかのアクションに対して、即日リアクション率100%を達成する(プロジェクト開始前は20%程度で、営業担当が時間あるときに、まとめてレスポンスしていた)
②特にホワイトペーパーダウンロード者に対して
・コンテンツマーケティング実践研修
・セミナー案内
を確実にオファーする。
まずは反応率を把握する。反応率が把握できたら、数値目標を設定しPDCAを回す。
③既存リードの受注数・率を上げるために、ナーチャリング(見込み顧客育成)フローを創り上げ実行する。ツールとしては、MA(マーケティングオートメーション)ツール”HubSpot”を導入する。
 
なお、ツールをHubspotに決定した理由は、以下のとおりです。
1.マーケティングシステムと、セールスシステムの連結が容易
2.信頼できる知人がHubspotに詳しかった
 

ステップ2.Hubspotのプラン選定・契約・初期設定

①HubSpotの利用プラン設定
Hubspotは、顧客リストの数によって、月額のコストが変わるしくみになっています。
コスト低減のため、最も数が多いメルマガの配信自体は、コストが低い、外部のツールを用いて行うことにしました。
つまり、Hubspotにはメルマガ登録者を除く、「ホワイトペーパーダウンロード、セミナー参加、資料請求、問い合わせ、商談」を行った見込み顧客だけが登録される状態になります。
 
そのため、機能面から考えると 、弊社がHubspotで契約したプランは、下の画像の右端の、一番安価なMarketing Hub Starterでした。
 
なお、デフォルトではリストが1000件までしか持てません。
弊社はメルマガ登録者を除いても、数千件のリストがあったため、追加で5000件のリストをオプションで付けています。
そのため、月額は5400円→25920円となりました。
 
 
なお、このままではコンタクトリストの管理や、メールの配信しかできません。
セールス管理と融合する機能をつけるためには、追加でセールスシステムの契約もする必要があります。
上述しましたが、この連結が簡単なのが、HubSpotの良いところです。マーケティングハブというサービスと同時に、セールスハブというサービスを契約するだけです。
 
 
当社が選択したのは、月額54000円の、Sales Hub Professionalです。
ここにはセールスの自動化機能が含まれており、少人数で営業を回すために必要な機能が含まれています。(最もコストが低いStarterには含まれていない)なお、ユーザー数は5名で十分だと判断し、デフォルトのままです。
 
②コンタクトの整備
つぎに、Hubspotにデータを流し込みます。
Hubspotの中では、リード(顧客情報)は「コンタクト」と呼称されていますが、この「コンタクト」が、HubSpotのマーケティング機能を使ってナーチャリングする対象者です。
したがってHubspotの「コンタクト」に情報を登録することが、Hubspot運用開始にあたっての優先事項でした。
 
まず、弊社で従来から用いてきた、エクセル型の顧客管理ツールからデータをコンバートし、Hubspotに入れました。
つぎに、現在Books&Appsに設置されている各種問い合わせや資料ダウンロードフォームは、別のツールを利用しているため、順次、HubSpotのものに切り替えることにしました。
 
フォームを切り替えれば、今後は、見込み顧客が、自動的にHubspotのコンタクトリストに追加されますので、最終的にはすべてのフォームをHubspotに切り替える予定です。
 
③メールの整備
Hubspotに、メールの連携と迷惑メール設定をします。
ここで注意を要したのが「自社のメールアドレスの健全度」です。
自社のメールアドレスがスパムメールの発信元であるとみなされていると、いくらメールをコンタクトに送っても、「迷惑メール」と判断されてしまいます。
 
自社のメールアドレスがどのようにスパム判定されているかは、Hubspotの中で確認ができますが、メールテスターなどの外部ツールを使うことでも判断できます。
このスコアが低すぎると、何かしらの改善が必要です。
 
弊社のメールは、一部スパム扱いされていましたので、DNSにspfレコードを書き込み、メールの信頼性を高めました。
また、GoogleのWorkspaceを導入し、メール送信をセキュリティの高いGoogleのGmailから行うようにしました。
 

ステップ3.見込み顧客育成(ナーチャリング)フローの構築

ここまでくれば、Hubspot運用のための初期設定はできたことになるので、次の作業は、本命の見込み顧客育成(ナーチャリング)フローの構築です。
 
当社では、社内でのディスカッションを経て、以下のようにナーチャリングフローを設計しました。
といっても、難しいものではなく、当社における一般的な受注フローを記述しただけです。
 
1.ファーストコンタクト
Books&Appsに訪れた方が
・資料(ホワイトペーパー)ダウンロードをする
・ウェビナーに参加する
・メルマガ登録をする。
2.優良見込み顧客へのアプローチ
・ウェビナー参加者・資料ダウンロード者・メルマガ受信者に対し、コンテンツマーケティング実践研修の勧誘を行う。
・研修案内は、購買に近い行動を取った人ほど優先度が高いという仮定のもと、ウェビナー参加者を優先
3.コンテンツマーケティング実践研修への参加
・一回、一人当たり40,000円の研修
・企業規模や見込み度合いによっては無料、もしくはディスカウントでの参加を提案する
・月2~3回の実施を予定
4.研修参加者の商談獲得
コンテンツマーケティング実践研修終了直後にアポイントを取得。各社の課題をヒアリングし、それに合わせた提案を行う。
・決済がおりやすく、受注の意思決定がしやすい「コンテンツマーケティング・スターターパック」(レギュレーション作成・トピック作成、記事制作の3点セット)というミニマム商品を用意
5.商談
6.スターターパックの受注
7.お試しから月額への移行フォロー
スターターパック納品後に顧客側での施策状況を慮りつつ、自分たちで施策をやりきれないことを実感するタイミングで月額サービスの提案にうつるためのフォローを行う。
8.オウンドメディア運営など、月額サービスの受注
 
このナーチャリングフローを、言語化して記述することで、当社は「8ステップのどこで、誰に、どのようにアプローチするか」を明確にすることができます。
 

ステップ4.シーケンスを登録

シーケンスとは、あまり聞きなれない言葉ですが、Hubspotの機能の一つです。要は「メールの自動送信機能」と考えればよいでしょう。Hubspotのページには、次のようにあります。
シーケンス機能でEメール送信を自動化し、プロスペクトが営業プロセスからこぼれ落ちてしまう事態を防ぎます。
 
一連のEメールとフォローアップタスクを用意し、プロスペクトに自動送信することで、相手とのつながりを保ち続けることができます。受信トレイ内でEメールテンプレートとタスクオプションをリストから選択し、コンタクトを登録するだけで設定完了です。
プロスペクト、というのは、コンバージョンに至っていない、サイトへの訪問者のことです。
サイトへの訪問者に対して、自動送信メールでフォローする仕組みを、シーケンスといえばわかりやすいでしょう。
 
当社では、3つのパターンのシーケンスを登録しました。
①資料ダウンロード者向けのシーケンス(リアクション:ダウンロード直後にメールを送信)
②セミナー参加者向けのシーケンス(リアクション:セミナー参加後にメールを送信)
③コンテンツマーケティング実践研修・参加者向けのシーケンス(リアクション:研修参加後にメールを送信)
 

ステップ5.ワークフロー・チャット・ポップアップの設定

Hubspotには「ワークフロー」という機能があります。
これは、シーケンスよりもカスタマイズされた、営業の自動化機能です。
なにかの条件に対して、次の条件を通知したり、タスクを設定したりできる機能で、タスク管理やリマインダーの機能を備えたシーケンス、と考えればわかりやすいでしょう。
 
例えば、弊社では以下のような2つの条件を設定しました。
・優良見込み顧客がサイト来訪(来訪ページの指定も可能)したら自動で案内メール送付
・送付メールが未開封なら1日後に再送(もしくは電話掛けを促す社内通知/タスク設定)
 
さらに、「チャット」という機能があります。
これはチャットボットを作成し、顧客の現状確認と次のプロセス誘導を提案するものですが、実態としては、回答によりメッセージを分岐させるロジックで動作し、基本的には手動作成で、 AI型ではありません。
 
これは実装に時間がかかるので、弊社では後回しにしました。
また、「ポップアップ」という機能も利用可能です。
これは、右下・左下に標示されるタイプだけでなく、画面中央に出るタイプや上部から1行ほど案内が掲出されるタイプなども利用可能です。
 
どのようなものかは、Hubspotのサイトで実際に確かめることができますが、Books&Appsでは、Hubspotの機能ではなく、すでにスクラッチでポップアップを設定していますので、今回はこちらの利用を見送っています。
 

ステップ6.成果設定

上述した施策により、得られる成果を以下のように仮定しています。
KGI
スターターパックの商談獲得数
 
KPI
コンテンツマーケティング実践研修・参加者獲得数
 
上の数値は、月ごとに設定されており、毎月の数値を比較し、目標に対して達成度が低ければ、月に1回のマーケティング全体会議において、上の施策の見直しを行う、という社内手続きを組みました。
 

ステップ7.立ち上げ直後に発生した課題を解決するPDCA

Hubspotの設定を行い、運用に移行しました。
最初に起きた問題は、「資料ダウンロードからの、コンテンツマーケティング実践研修への参加者数数が伸びない」という点でした。
 
これは、ナーチャリングフローの1.から2.の部分です。
そこで、なぜ資料ダウンロード数が想定よりも低いのか、シナリオを設定し、各段階で仮説を設定し、検証を行いました。
 
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【資料ダウンロードに至るシナリオ】
ステップ1 Books&Appsの記事下の「お知らせ」内容に魅力を感じる
 
 
仮設1:そもそも「お知らせ欄」のオファーが魅力的ではないのでは?
 
ステップ2 資料ダウンロードフォームに遷移し、ダウンロード申請を行う
 
仮説2:資料ダウンロードフォームが使いにくく、離脱が発生しているのでは?
 
ステップ3 申請者のメールアドレスに、資料ダウンロード用リンクが届く
 
仮説3:配信されたメールが、迷惑メールフィルタに引っかかっているのではないか?
 
ステップ4 ダウンロード資料を閲覧する
 
仮説4:資料の内容が、ニーズにマッチしていないのでは?
 
ステップ5 ティネクトから営業メールが届く
 
仮説5:営業メールが読みにくい、あるいはオファーが適切になされていないのでは?
 
ステップ6 「資料ダウンロード者」がコンテンツマーケティング実践研修に参加する
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ステップ1から6までの間のどれがボトルネックなのか?
これを検証した結果、ステップ4から5にかけて、離脱が数多く発生していました。
そこで、仮説4,および仮説5に基づいて、詳細に改善事項を挙げ、対策を講じました。
仮説4について
 
①「ステップ4 資料を閲覧する」資料の中身が期待はずれ の可能性
心理状態(仮説):「この資料提供元(=ティネクト)から自分の求めているものを得られなかった。今後は連絡がきても反応しないようにしよう」
 
②「ステップ4 資料を閲覧する」DL者がそもそも見込薄だった可能性
心理状態(仮説):「興味を持ったホワイトペーパーは大体DLしてる。ティネクトってどんなこと考えているのか見てみよう」
→いくらアプローチしても売上に繋がらない
 
③「ステップ4 資料を閲覧する」DLしたが見ないまま終わっている可能性
心理状態(仮説):「(切羽詰まっていないけど)役に立ちそうなのでDLしておこう」
※結局資料を開かないまま終わる
→資料の中身を短時間で解説してくれれば聞いてくれるかも。
対策:ホワイトペーパー資料の中身を10分で説明します、とアポを打診
 
仮説4に対しては、資料の種類と、内容を充実させることで対応することを決定しました。
 
 
仮説5について
 
④「ステップ5 ティネクトから営業メールが届く」メールが届いていない可能性
相変わらず迷惑メールフォルダに入っている可能性をメールチェッカーで確認
 
⑤「ステップ5 ティネクトから営業メールが届く」メール内容が刺さっていない可能性
心理状態(仮説):「いきなり2時間の研修受けるのは、ダルいわ〜(必要性もわからんし)」「まだ自社がオウンドメディア運営をすべきかわからないから、研修は先かな〜」「興味はあるけど、なんで資料ダウンロードしたぐらいで研修の提案がくるの?怖いわ」「そもそも、営業は全部無視してるんだよね」
 
⑥ 「ステップ5 ティネクトから営業メールが届く」暗黙的に連絡一切拒否の意思表示をしている可能性
心理状態(仮説):「だから、ティネクトからの連絡はお断りって言ったじゃん」
 
仮説5に関しては、あくまで「熱いうちにフォロー」が望ましいため、15分後などに「担当の◯◯です〜」と私信メールを自動送信するシーケンスを組みました。
 
また、営業メールの「研修に参加しませんか?」というオファーが敷居が高い可能性があり、一部ナーチャリングフローを変更することになりました。
具体的には、資料ダウンロード→ディスカッション→セミナーor研修と、ディスカッションをワンクッション挟む前提での営業メールを試行し、成果が出れば継続するという意思決定をしました。
 
 
Hubspotの導入のメリットは、ナーチャリングフローのどの段階で問題が発生しているのかが可視化される点です。
逆に言えば、一度作ったフローに対して、数値で検証し、改善の手を細かく入れていかねば、成果には繋がりません。
そのような意味では、今回ご紹介した、インサイドセールス立ち上げの7つのステップを、繰り返し行っていくことが、成果へつながる唯一の道かもしれません。
お役立ていただければ幸いです。
 

 

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【著者プロフィール】

安達裕哉

元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。

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