現時点での、生成AIの企業での活用状況、および法規制(弁護士監修)のまとめ

このコンテンツは有料note「webライターとメディア運営者の、実践的教科書(安達裕哉著)」より転載しています。


ChatGPTをはじめとする生成AIへの熱狂も、最近では落ち着いてきました。
しかしこれは、逆に言えば「企業が使途を真剣に考え始めた証」でもあります。「すごい!」「面白い!」だけでは業務には使えないからです。
業務で生成AIを活用するためには、ユースケースの研究や生成AIの限界、そしてリスクなどの調査が必要であり、それらには時間が必要です。
 

企業における生成AIの導入が進む

実際、戦略コンサルティング会社のベイン・アンド・カンパニーがグローバル大手企業約600社を対象に実施した意識調査によると、半数近い企業が何らかの形で生成AIの活用を検討し、また、一部の企業はすでに導入しているとの回答が得られています。
調査によれば、主たるユースケースは組み込みのチャットボット、コーディングサポート、コンタクトセンター、ナレッジ管理、プロセスの自動化、そしてマーケティングと続きます。
 
Compass vol.1 生成AIがもたらす未来:企業導入の原則」ベイン・アンド・カンパニー
 
ベイン・アンド・カンパニーは現時点では大半の企業は「様子見」の段階にあるとしていますが、いくつかの会社での先進的な事例を紹介しています。
 
例えば、コカ・コーラはGPT-4と画像生成モデルのダリ(DALL-E)を用いて、コカ・コーラのボトルやロゴを使ったアート作品を制作できるプラットフォームをユーザーに提供しました。
優れた作品を制作したユーザーに対しては、3日間のワークショップに招待するというキャンペーンを実施し、ユーザのエンゲージメントを促しました。
 
また、富裕層向けビジネスを展開するモルガン・スタンレー・ウェルス・マネジメントは、GPT-4を用いて4万人以上のフィナンシャル・アドバイザーの業務を支援するAIナレッジ・アシスタントを提供しています。
顧客からの問い合わせに対して、AIアシスタントの活用によって、社内の文献検索に多くの時間を割くことなく、正確な回答ができるようになりました。
 
一方で、国内企業にも動きがあります。
例えば大手代理店のサイバーエージェントが制作する広告の数は3か月あたり10万本と、この2年で4割増えましたが、この状況に対処するために生成AIが導入されています。
バナー広告の内容について、商品の素材やキャッチコピー、人物、背景といった構成要素ごとに広告効果を予測し、キャッチコピー文案を自動生成してデザイナーに提案します。
 
最終的なデザイン作業やクリエイティブの決定は人間の仕事ですが、極予測AIの導入により、新たに作った広告クリエイティブが既存の広告に勝つ確率は現在24%で、キャッチコピー文案の自動生成機能の利用開始前に比べて14ポイント向上したといいます*4。
そして広告の出来栄えを判断するディレクター職はかつて30~40人いましたが、現在は0になっています。それまでのディレクター職は営業などに転向しています。一方デザイナー職は3年前に比べて約4倍近くの300人にまで増強されています。
 
オープンAIのGPT-4をベースにしたプラットフォームで、商談内容や資料の構成の作成といった作業だけでなく取引先情報やマーケット情報の収集にも活用しています。
 
「日清食品グループにおける生成AI活用の現在地」経済産業省資料)
 
ただし、顧客情報や機密情報などの取り扱いについてはリスクがあるため、日清食品ホールディングスは、マイクロソフトの認証機能を組み合わせたシステムでGPT-4を利用しており、さらに「ChatGPTやGPT-4には再学習をさせない」という形を取っています。
 
一般に公開されている無償のChatGPTやGPT-4をそのまま使うと、入力した内容がAIの再学習に利用され、どのような形で自社の機密情報が漏洩するかわからないというリスクが生じてしまうからです。
 
国内では他にパナソニックホールディングスやベネッセホールディングスが同様のシステムで生成AIを利用していますが、利便性だけでなく、違った本音もあります。
それは、自社で専用環境を用意しなければ社員が勝手にオープンAIのサービスを利用してしまう懸念がある、というものです。すると、入力した内容はオープンAI社のAI学習に使われる可能性があります。
 
それよりも、管理の及ぶ範囲内でChatGPTやGPT-4を社員に提供したほうが良いという判断です。(「ChatGPT産業革命」日経BPムック)
 
ガートナージャパンは、イノベーションが過度にもてはやされる期間を経て幻滅期を迎え、最終的には市場や分野でその重要性や役割が理解され、生産の安定まで進化する共通のパターンを「ハイプ・サイクル」で示しています。これによれば、「生成AI」はあと2~5年で主流の採用に達する見込みです。
 
「Gartner、『日本における未来志向型インフラ・テクノロジのハイプ・サイクル:2023年』を発表」ガートナージャパン
 

欧州における生成AIへの規制

しかしこのような活用が進む一方で、法的リスクも顕在化しつつあります。
特に欧州では、米国のテックジャイアントに対する反発が強く、規制が強化されています。
例えば、イタリアでは2023年3月末に、同国のデータ保護規制機関GPDP(Garante per la Protezione dei Dati Personali)が、ChatGPTの利用を禁止すると発表しました。
さらに、イタリアの動向を受け、欧州データ保護委員会(EDPB)は2023年4月13日に「ChatGPT」に関するタスクフォース(任務部隊)の立ち上げを発表しました
 
EDPBはおもに、以下のように「ChatGPT」がユーザーの年齢確認を怠っていることや、個人データの保護に関する法律を守っていないことを追求しています。
0.プライバシー保護法の違反:「ChatGPT」が個人データを処理する際に、データ管理者としての責任を遵守していない可能性がある
1.個人情報の不当な収集:「ChatGPT」のアルゴリズムを学習させるために、適切な法的根拠なしに個人データを大量に収集・処理している可能性がある
2.透明性の不足:ユーザーに対して情報収集の出典や方法について十分な説明をしていない
3.年齢確認システムの不足:「ChatGPT」が13歳未満のユーザーに不適切な情報を提供している可能性がある
4.データ漏洩のリスク:ユーザーのデータが不正にアクセスされる可能性がある
 
その後、2023年4月28日、イタリアのデータ保護当局は、OpenAIが当局によって指摘されたデータ保護の問題に対処したとして、「ChatGPT」をイタリアで使用できることを決定しました
具体的には、以下の条件が解決したとされます。
・データ処理の方法の明確化
・年齢確認の仕組みの整備
・オプトアウトの仕組みの整備
・AI学習に関する情報処理の個人への通知キャンペーンの実施
イタリアの要請に対して何もしなければ、OpenAIは最大で2000万ユーロ(約29億円)または年間売上高の4%の罰金が科せられる可能性があったため、OpenAIの対応は迅速でした。
しかし、EUのデータ保護委員会は「ChatGPT」のプライバシー保護に関するタスクフォースの作業を継続する予定です。また、特別タスクフォースの設立と同時に、スペインのデータ保護庁も「ChatGPT」が個人のプライバシーを侵害している可能性があるとして、OpenAI社の調査を開始すると発表しています
ただし現在、EU全体では、AIの使用に関する規則がまだ定められておらず、EUの執行機関である欧州委員会のブルトン委員は、生成AIが引き起こす可能性のあるリスクを考慮し、数カ月以内に新たなAI規則法案をまとめる計画が進行中であるとNHKの取材に答えています。
 

日本における法的規制の概要

さて、日本においてはどのような規制が存在するのでしょうか。
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個人情報

まず代表的なのは「個人情報」の取り扱いです。
生成AIサービスでは、利用者によって入力された情報がAIの機械学習に利用されることがあるため、事業者が生成AIを利用する際、入力するプロンプトなどに個人情報が含まれている場合、個人情報保護法に抵触する可能性があります。
個人情報がそのまま出力されてしまうケースのほか、不正確に改変された形で出力されるケースも想定されます。生成AIが出力した不正確な個人情報を基に、本人に関するデマが氾濫する事態になりかねません。
さらに、生成AIサービス事業者が外国にある場合は、原則として外国事業者への個人データの第三者提供につき、あらかじめ本人の同意を得る必要があります(法28条1項)*1。
その際、当該外国の個人情報保護法制に関する情報などを、本人に提供しなければなりません(同条2項)。
 
現在の個人情報保護法の規定を踏まえると、仮に個人情報取扱事業者が生成AIに個人情報を入力する場合は、以下の対応が必要になります。
(1)生成AIへの入力を、個人情報の利用目的の範囲に含める
(2)(1)の利用目的をあらかじめ本人に通知し、または公表する
(3)個人データを生成AIサービス事業者に提供することについて、あらかじめ本人の同意を得る(オプトアウト方式が認められる場合あり)
(4)生成AIサービス事業者が外国にある場合は、当該外国の個人情報保護法制に関する情報などを、本人に提供した上で、本人の同意を得る
したがって、基本的には、生成AIに対する個人情報(個人データ)の入力は控えるよう、社内ガイドラインで定めることが適切と考えられます。
 

著作権

二つ目は、著作権の問題です。
具体的には、主に以下の2点が問題となります。
・生成AIが生み出したコンテンツは、著作権によって保護されるのか
・生成AIは、他人の著作権を侵害しないのか
これらのポイントについては、文化庁ウェブサイトにて講演映像および講演資料が公開されているなど*1、有識者の間で論点整理が進められています。
 
生成AIは、何らかの指示を与えれば自動的にコンテンツを生み出します。そのコンテンツを生み出したのが生成AIの利用者なのか、それとも生成AI自身なのかは、判断が難しいところです。
なお、人間がAIを道具として利用してコンテンツを創作したと評価されるのは、「創作意図」と「創作的寄与」の両方が認められる場合です。
創作意図
「創作意図」とは、人間の思想または感情を、結果物(コンテンツ)として表現しようとする意図のことです。
生成AIを利用して、自らの個性が表れた何らかの表現物を作るという程度の意図があれば、創作意図が肯定されると解されています。そのため、創作意図の要件のハードルはそれほど高くありません。
創作的寄与
「創作的寄与」とは、人間の創意工夫が著作物に反映されていることを意味します。創作的寄与の有無は、コンテンツの生成過程におけるAIの使い方などを総合的に評価して判断されます。
 
創作的寄与を肯定するための要素については議論が分かれており、内閣府の検討機関が公表した「新たな情報財検討委員会報告書」では、以下の見解が示されています。
「具体的にどのような創作的寄与があれば著作物性が肯定されるかについては、例えば、利用者が学習済みモデルに画像を選択して入力する行為や、大量に生み出されたAI生成物から複数の生成物を選択して公表するような場合、選択する行為が創作的寄与と言えるのかが問題となる。
これについては、選択を含めた何らかの関与があれば創作性が認められるとの指摘があった一方で、単にパラメータの設定を行うだけであれば創作的寄与とは言えないのではないかとの指摘もあり、AIの技術の変化は非常に激しく、具体的な事例が多くない状況で、どこまでの関与が創作的寄与として認められるかという点について、現時点で、具体的な方向性を決めることは難しいと考えられる。」
上は2017年3月に公表されたものですが、2023年現在においても十分な事例の蓄積は見られず、創作的寄与に関する論点整理は発展途上です。
 
このような背景から、著作権法上、生成AI自身が完全に自律的に生成したコンテンツについては、著作権が認められないと解されています。
著作物の要件である「思想または感情を創作的に表現したもの」(著作権法2条1項1号)に当たらないからです。
一方、生成AIを通じて生み出されたコンテンツであっても、人間が思想・感情を創作的に表現するための道具としてAIを使用したに過ぎない場合は、著作権が認められます。この場合、著作者は生成AIの利用者となります。
 
そして、もう一つの論点が、生成AIは、他人の著作権を侵害しないのか、という点です。
生成AIは
1)大量のコンテンツデータを機械学習した上で(=開発・学習段階)
2)学習した要素を組み合わせることにより新たなコンテンツを生み出します(=生成・利用段階)
上記の開発・学習段階と生成・利用段階では、それぞれにおいて、他人の著作権に対する侵害の成否が問題となり得ます。
1)開発・学習段階における著作権侵害の成否
生成AIの開発・学習等を促進するため、2019年1月1日に施行された改正法により、著作権法30条の4の規定が新設されました。
(著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用)
第三十条の四 著作物は、次に掲げる場合その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には、その必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
一~三 略
著作権法30条の4の規定により、「享受」の目的がない著作物の利用については、著作権者の許諾が不要となりました。
「享受」とは、著作物の視聴等を通じて、視聴者等の知的・精神的欲求を満たすという効用を得ることに向けられた行為です。たとえば文章を読む、絵画を鑑賞する、動画を視聴するなどの行為が「享受」に当たります。
 
生成AIの開発・学習段階におけるコンテンツの学習は、上記の「享受」を目的としないため、原則として著作権者の許諾を要せず行うことができると考えられます。
ただし以下の場合には、生成AIの開発・学習を目的とする場合であっても、著作権者の許諾が必要となることに留意すべきです。
(1)「享受」の目的が併存している場合
例:生成AIの開発・学習だけでなく、観賞用にも利用する意図がある場合
(2)著作権者の利益を不当に害する場合
例:有償でのデータ利用が一般化している場合
 
2)生成・利用段階における著作権侵害の成否
生成AIによるコンテンツの生成や、生成コンテンツの利用(公開など)について、他人の著作権侵害が成立するか否かは、一般的な著作権侵害と同様の基準で判断されます。
具体的には、「類似性」と「依拠性」の要件をいずれも満たす場合に限り、著作権侵害が成立します。
「類似性」とは、後発の作品が既存の著作物と同一であり、または類似していることです。生成AIが生み出したコンテンツから、オリジナルの表現の本質的な特徴を直接感得できる場合には類似性が認められます。
「依拠性」とは、既存の著作物に依拠して新たな著作物が生み出されたことを意味します。偶然似た著作物が生まれたに過ぎないケースを、著作権侵害の対象から除外するための要件です。
 
生成AIが生み出したコンテンツについては、機械学習に用いたコンテンツへの依拠性はすべて認めるべきとする見解、類似している場合に依拠性を推定すべきとする見解、AI利用者の独自創作である場合を除いて依拠性を認めるべきとする見解などがあります。
 
いずれの見解によっても、類似性が肯定される事案であれば、依拠性も肯定されるケースが大半であると考えられます。
結局のところ、生成AIによるコンテンツの生成、および当該コンテンツの利用が他人の著作権を侵害するか否かを判断する際には、生成コンテンツとオリジナルが「似ているかどうか」が中心的な争点になるでしょう。
 

 

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(2024/2/22更新)

 

【著者プロフィール】

安達裕哉

元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。

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