インターネットで問題を起こしやすいコンテンツとは何か。

このコンテンツは有料note「webライターとメディア運営者の、実践的教科書(安達裕哉著)」より転載しています。


コンテンツの世界は、「こうしたら良い結果が出る」という知見がある一方で、まったく逆の「こうすると問題が起きる」という知見もあります。
 
最もわかりやすいのは「炎上」です。
田中辰雄・山口真一の以下の著作(ネット炎上の研究: 誰があおり、どう対処するのか)によれば、炎上とは、ある人物や企業が発信した内容や行った行為について,ソーシャルメディアに批判的なコメントが殺到する現象のことを指します。
 
例えば、最近では日本ハムファイターズの選手による、肌の色を揶揄した発言が問題になり、Twitterで非難を集める事態になりました。
 

 
田中・山口が指摘するように、炎上に加担する人物は一部(ネット利用者の0.5%)に過ぎませんが、それを目にする人は極めて多数に上るため、評判を重視する企業にとっては好ましい事象ではありません。
 
では、どのようなコンテンツが問題を引き起こしやすいのでしょうか。
 

「デリケートな話題」には触れるべきではない?

まず思い浮かぶのは、「デリケートな話題」です。
デリケートな話題とは、人によって見解が異なるケースが多く、かつその差異の許容が難しいケースが多い話題です。
 
例えば昔、私は営業マンの心得として「政治」「宗教」「好きなプロ野球チーム」は話題にするな、と教えられてきました。
上の3つは、「見解の相違」が噴出しやすく、かつその差異が、互いに許容しがたくなりがちな話題としてよく引き合いに出されます。
これらの話題は、「賛否両論」が出るので、見解に対して批判的な意見も多く集まるのです。
こうした考え方から、webメディアでは、政治的な見解を含む記事や、宗教について触れた記事を掲載しない、と決めているケースが数多くあります。
 
また、「~である」といった、言い切り表現を使わないよう求めるwebメディアもあります。
言い切れば反発を生みやすい、との配慮からで
「~の可能性がある」
「~と考えられる」
「~と思われる」
といった表現を使うように、ライターに指示を出しているケースが実際にありました。
 

毒にも薬にもならぬ記事より、賛否が集まるほうが良い

しかし、発信内容が、穏当なものばかりでよいのでしょうか?
例えば
「〇〇はスゴイ!」
「〇〇はエライ!」
「〇〇はカッコいい!」
ばかり発信するメディアは、人を集めるでしょうか?
残念ながら、そのような「リスクを回避した」記事ばかりを発信するメディアは
「提灯記事でしょ」
「広告ばかり」
「本音ではない」
とみなされてしまい、毒にも薬にもならぬ記事として無視されがちです。
 
実際、発信内容に関して「賛否両論」が存在することは必ずしも悪いことではありません。
むしろ、web上では賛否両論ある発信でないと、ほとんど注目されないので「どっちつかず」のポジションを取るよりも、はっきりと意見を表明するほうが、結果的に濃いファンを獲得する可能性も高いのです。
 
例えばアパレルブランドのパタゴニアは、政治的な発信をすることで知られています。
もちろん、政治的な発言をすれば、下のように批判的なコメントがつくこともあります。
しかし、パタゴニアに数多くの「濃いファン」が存在している理由は、まさにこの政治的態度をはっきりさせたことに起因すると言えます。

 
あるいは、2007年に誕生し、あっという間に世界的なビールブランドに成長した「ブリュードッグ」。
最近は日本のスーパーでも見かけますが、クラフトビールブームの先鞭をつけたメーカーとして、あるいは熱烈な愛飲者がいることでも知られています。
 
一方で、ブリュードッグ創業者のジェームズ・ワットは過激な発言と行動が注目されており、彼の著書には
「裸の映像を国会議事堂の壁に映した」
「ロンドンで戦車を走らせた」
「抗議活動をして逮捕された」
という話が、誇らしげに語られています。

ぼくらはウラジミール・プーチンの肖像をビールのラベルに使ったときも、ロンドン中心部で戦車を走らせたときも、ぼくとマーティンの高さ150フィート(約50メートル)の、しかも裸の映像を国会議事堂の壁に映したときも、剥製のネコをヘリでロンドン上空から投下したときも、許可を取らなかった。それでも全部実行したし、逮捕されそうになったことは2回しかない。

ビールを3分の2パイント単位で客に出してはいけないなどと寝言をいっている法律をなくすため、世界最小の抗議活動を始めた。1週間、低身長症の男性にウェストミンスターで抗議活動をしてもらい、3分の2パイントグラスをイギリスのバーに導入すべきだと訴えたのだ。彼は1週間ずっと「SMALLFORALL(すべての人にスモールを)」だとか、「SIZEMATTERS(サイズが大事なの)」だとか、いろいろな標語を書いたプラカードを持っていたが、ついに警察に逮捕されてしまった。

 
もちろん、こうした行為には賛否両論が殺到するわけなのですが、彼は一向に意に介しません。むしろ、自分たちのブランドを高めるために必須の活動であると、認識しています。
 
ではこれは「炎上」と言えるのでしょうか?
もちろん「炎上」とも言えますが、本質的にはダメージよりもメリットが大きいので、冒頭の日本ハムのような無様なことにはなっていません。
 
無論、わざと人のことを傷つけたり、差別的な発言を繰り返して耳目を集める「炎上マーケティング」は褒められた行為ではありません。
しかし「批判」を集めることは、必ずしも否定的な結果を生むとは限らないのです。
 

禁止されると読みたくなる

マンガ「ドラゴンボール」の主人公である、孫悟空は「死にかけた状態から復活するたびに、強靭になる」という特性を備えた肉体を持っています。
 
この「打たれれば打たれるほど強くなる」という性質に名前を付けたのが、リーマンショックを予言したことで知られる研究者のナシーム・ニコラス・タレブです。
彼はこの性質に「反脆弱性」と命名し、反脆さをもつ現象を多数、例示しています。
誰でも若いころに気づくように、本や思想は反脆く、批判を糧にする。ローマ皇帝のマルクス・アウレリウス(ストア哲学を実践する作家のひとり)の言葉を借りれば、「火は障害物を糧とする」のだ。
 
禁書には独特の魅力がある。禁書は禁止命令に対して反脆いのだ。
私が子どものころに初めて読んだグレアム・グリーンの本は、『権力と栄光』だった。
その本を選んだ理由はほかでもなく、カトリック教会の禁書目録に載っていたからだった。1
0代になると、国外在住のアメリカ人、ヘンリー・ミラーの本をむさぼり読んだ。彼の主要作が23州で発禁になると、1年で100万部が売れた。『ボヴァリー夫人』や『チャタレイ夫人の恋人』にも同じことがいえる。
 
タレブは「本に対する批判は、紛れもない正真正銘の注目の証であり、その本が退屈でない証拠でもある。」と述べていますが、まさにメディア、および記事にも同様のことが言えるでしょう。

バルザックは、女優たちがジャーナリストに報酬を(たいてい現物で)支払い、自分に都合のいい記事を書かせていたと語っている。だが、いちばんずる賢い女優は、あえて批判的な意見を書かせた。そのほうが記事が面白くなると知ってのことだ。

批判が集まるのは、注目の証であり「誰が何と言おうと、私は好き」という熱烈なファンを集めるには不可欠です。
 
つまり、たいていの人が「炎上」だと思っているのは、実は炎上でも何でもない。
「一つの批判も許容できない」というサラリーマン経営者的発想ではなく、「批判上等」というブリュードッグの創業者のような、オーナー経営者的発想のほうが、結果的に上手にマーケティングをやっていることも多いのです。
 
では「真の炎上」、言い換えれば「マイナス面が大きすぎる発信」とはいったいどのような炎上なのでしょうか?
ブリュードッグの発信と、日本ハムファイターズの発信のちがいとは、いったい何なのでしょうか?
 

最も問題を起こすコンテンツは「〇〇向け」のコンテンツ

取り返しのつかない炎上を引き起こすコンテンツ、どのような場合においても、明らかに問題を起こすコンテンツは、確かにあります。
それは「ジャンル」や「話題」に寄りません。問題はそこにはない。
では、いったい何が「取り返しのつかない炎上」を引き起こしてしまうのでしょうか。
 
実は、絶対に安易に発信してはいけないことが、一つだけあるのです。

それは

 
「身内向け」の会話・情報・ネタです。
例えば
・家族同士の会話
・友達の間のネタ
・社長が社員に向けて言った言葉
・チームメイトの会話
・社員同士のやりとり
こうした情報の中には、確実に「炎上のタネ」が潜んでいます。
 
例えば、冒頭の日本ハムファイターズのチームメイト同士の発言は非常にわかりやすい。
スポーツの世界では、チームメイト同士で軽口をたたきあう、ということが良くあります。
中には、肌の色や容姿など、ポリコレ上問題になるような発言も数多くあるでしょう。(それは、言論の自由で保障されています)
そうした発言は、決して褒められたものではありませんが、「チームの中」にとどまっている限りは、当事者同士では、許容されるケースもある。
しかし、いったん外に出てしまえば、冗談では済まされません。
 
あるいは社員同士で、顧客の悪口を言っているケースもあるでしょう。
私はコンサルタントとしてかなり多くの会社を訪問しましたが、「顧客の悪口」を社員同士のネタにしていない組織はほぼ皆無だと言い切れます。
それは「共感」を安易に得られる手段として、よく使われているからです。
しかしそれが外に漏れたらどうでしょう。
もちろん、炎上間違いなし、しかも多数の顧客を失いかねない炎上を引き起こす可能性があります。
 
あるいは社員旅行の余興などが外部に漏れたらどうでしょう。
例えば、数年前に「株式会社DYM」という会社が、タイへ社員旅行をしたとき、ビーチで男性社員が全裸になったことが暴露され、炎上に至ったことがあります。
これは、社員旅行という、「身内のための場」で行ったことが、ビーチという公共の場に流れ出てしまったために起きた炎上です。
3日から7日にかけて行われた海外研修で発生した。5日夜、タイ王室ゆかりの地として知られるリゾート地、フアヒンのビーチで、泥酔した男性社員約30名が全裸になって騒いだ。現地人から注意されたものの、騒ぐ社員らは聞き入れなかったという。騒動は現地メディアにも取り上げられ、観光・スポーツ大臣が再発防止を呼び掛ける事態にまで発展した。8日付けの現地ラジオ局「タイ国営通信」の電子版記事によると、騒動を起こした男性社員らは再びタイに入国した際、起訴される可能性があるという。
(出典:J-castニュース https://www.j-cast.com/2016/03/11261114.html?p=all)
自宅の中であれば、裸で歩こうが、奇天烈な声を発しようが、自由です。
しかし、公共の場ではそれが問題を起こす。
 
また「バイトテロ」の先鋒としてしられる、コンビニのアイスケースに入った写真を、Facebookに投稿し、それが炎上した事件も同様です。
 
本人は、「友達同士」のネタにするつもりだったのでしょうが、公共の場では許されるはずもなく、ローソンはFC契約を解除、本人も「炎上を起こした張本人」として、不名誉な記録が永遠に残ることとなってしまいました。

身内向けの発信は、事前にリスクを判断しにくい

「身内向け」の発信を、外に安易に出してはいけない理由は、それが「身内」には許されても、「他人」には許されないかどうかを、事前に判断しにくいからです。
実際、企業が起こす不祥事において「身内では当たり前だった」という話に事欠くことはありません。
したがって、「外」に出す情報は、「身内向け」の情報と、まったく異なる観点から、妥当性を判断しなければなりません。
パタゴニアやブリュードッグの発信が、批判を集めつつも「計算の範囲内」であるのは、それが「外に発信する」前提だからです。
 
インターネットでの「取り返しのつかない炎上」。
それは「身内に向けたもの」と思っていたコンテンツが、外に流れてしまったときに発生するものなのです。
 

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(2024/2/22更新)

 

【著者プロフィール】

安達裕哉

元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。

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