「浅い記事」を脱却し、「深い記事」の制作するための施策について。

このコンテンツは有料note「webライターとメディア運営者の、実践的教科書(安達裕哉著)」より転載しています。


日々、様々な記事がタイムラインを流れてきますが、しばしば「ゴミのような記事」が批判の対象となっています。
しかしこうした記事の何が「批判に値する」のでしょうか?
 

“浅い記事 “が引き起こす問題

「浅い記事」という表現は、洞察力や独創性、あるいは社会的な価値を欠いたコンテンツを指します。
そのため、浅い記事は新たな洞察や有益な視点を読者に提供することはありません。質より量に重きを置き、低コストで乱造される傾向があります。
 
多くの場合、このような記事は一般的な知識の再掲や、入手可能な情報の単なる言い換えに過ぎません。
また、浅い記事には、偏向的な意見、根拠の薄い主張、フェイクニュースなども含まれ、こちらは益がないというよりは、むしろ害となります。
 
これは個人や素人のブロガーだけに見られる傾向ではありません。
例えばかつて、ニューヨーク・タイムズ紙は、ハフィントンポストを名指しで批判し、「低品質コンテンツを垂れ流している」としました。
ウェブサイトが、読者への実質的な見返りを提供することなく、ただクリック数を稼ぐためだけに記事を掲載している
https://www.nytimes.com/2011/02/11/business/media/11search.html
こうした行為の最大の問題の一つは、浅薄な記事が増えれば増えるほど、オンライン上でユーザーが求めている価値ある情報の探索が難しくなってしまう点にあります。
 
こうした状況は、読者の時間の浪費につながりますから、タイトルだけ扇情的で、中身がない「クリック詐欺」と認識されます。
実際、大手マーケティング・ソフトウェア・プラットフォームであるHubSpotの調査では、読者の42%がブログ記事を流し読みしており、さらにブロガーの 52% は、コンテンツを通じて読者と関わることがますます難しくなっていると述べています。
 
結局、低品質な記事は、デジタルでの存在感を高めることを目指してコンテンツに依存している企業や個人にとって評判を下げるリスクとなりますから、批判されるのも無理はありません。
 

“深い記事”を提供するメリットと課題

これらの問題が存在する一方で、あるいは浅い記事が大量生産されることへの反動として、より大きな価値を提供するコンテンツに対する需要は高まっています。
また、2015年のレポートによれば、ブログを行っている企業は、ブログを行っていない企業に比べて、Web サイトの訪問者数が 55% 多くなる、という調査結果すら示されています。
 
そこで、深い記事の重要性が浮き彫りになります。
深い記事の制作は、リサーチやライティングに多くの時間を費やす必要がありますが、そのメリットは大きいです。
 
一つは、グーグルが高品質なコンテンツを優先するということです。Googleの公式見解が示すように、質の高い記事は検索エンジンの結果ページで上位に表示されやすく、結果としてトラフィックが増加します。
また、深いコンテンツは読者のエンゲージメントを向上させることができます。Forbesによれば、コンテンツマーケティングで、エンゲージメントを増やすには、読者または顧客に価値を提供することに重点を置く必要があります。どれだけ効率的に次から次へと記事を作成できるかは、あまり重要ではないのです。
 
特に、競合他社に対して質的に優位性がない限り、検索ランキングの上位を占めることは難しいでしょう。
また、検索エンジンだけではありません。「深い記事」を制作することは、選択したテーマにおける権威を示し、業界でのリーダーシップと、読者から専門家であるとのの認識を作り上げることができます。これは、Entrepreneur Magazineが指摘している通りです。
しかし、深い記事の制作には課題が無いわけではありません。時間とリソース、そして能力が問われます。Content Marketing Instituteによれば、高品質なコンテンツをコンスタントに制作することが、コンテンツ制作者が直面する課題の一つであることが明らかとなりました。
また、オンラインマーケティングの第一人者であるニール・パテルが指摘しているように、最新の情報を常に入手し、それに合わせてコンテンツを適応させるためには、継続的なリサーチと時間が必要です。
 

“浅い記事 “と “深い記事 “

こうした背景から、我々は「浅い記事」を避け、「深い記事」を書かねばなりません。では、どうすべきでしょうか?
根本的なところとして、まず最初に押さえておきたいのが、「浅い記事」と「深い記事」の正確なちがいです。
これらの言葉は、特にwebライティングの世界で頻繁に使われていますが、その本質的な定義を理解している方はそれほど多くありません。多くの場合それらの定義は「悪い記事」と「いい記事」の同語反復に過ぎないのです。
そこで私たちは「行動」につながる分かりやすい定義が必要であると考えました。それは、次のようなものです。
 

浅い記事と深い記事の4つのちがい

「浅い記事」とは、その名の通り、特定のテーマやトピックを浅くなぞるだけのものです。水上スキーヤーが水面をさらりと滑っているのと似ているでしょうか。
 
例えば、「パリの見どころトップ10」という記事で、エッフェル塔やルーブル美術館など、パリの有名な観光地を簡単に紹介するだけの記事は、おそらく「浅い記事」に分類されます。
というのも、そこには何の「オリジナリティ」がないからです。
 
この場合、著者独自の現地情報、あるいはその歴史や文化的な意義については深く触れられず、読者に提供されるのは初歩的な情報だけで、見どころについて大まかな理解しか得られません。
その記事が提供しているものは、他の凡百の記事と同じです。
このようなスタイルの文章は、速報性を重視した、雑なメディアでよく見かけます。
 
なお、一般的に浅い記事には、具体的に4つの主な特徴が見られます。
まず一つ目として、浅い記事は大抵短く、1500字以下であることが多いという特徴があります。単純に言えば、話題の分野を超えた網羅性が低いのです。
 
というのも、ある事柄をきちんと説明しようと思えば、様々な知識を動員して、横断的な視点をもって、説明することが求められるからです。ある程度の事柄を説明しようとすれば、どうしても、3000文字以上は必要でしょう。
 
例えば、「気候変動」のような複雑な問題を500字以内に単純化したブログ記事に出会うこともあるかもしれません。科学、政治、経済といった複数の学問分野にまたがるこのトピックの膨大な側面をカバーしそうにないことは、記事を読まなくても直感的に理解できます。
二つ目の特徴としては、この種の記事では、検証可能な情報を提供する権威ある参考文献、データ、研究がほとんど含まれていないという点が挙げられます。つまり、エビデンス不足です。
 
「食事が健康に与える影響」についての記事が正当で詳細なものだとすれば、医師会のジャーナルや大学医学部のようなウェブサイトに掲載されている科学的研究を参照することになるでしょう。しかし、浅い記事の場合、明確な引用がほとんど目立たないか、一般的な引用しか含まれていないことが多いのです。
三つ目の特徴として、浅い記事では新鮮でユニークな視点を提示するのではなく、一般的な知識を繰り返す傾向があると言えます。
例えば、「リサイクルの重要性」に関する記事では、リサイクルはエネルギーを節約し、埋立地を減らすという広く知られた事実を繰り返すだけで、独自のアイデアや視点を提示することはありません。このトピックをより深く掘り下げる場合、著者は現在のリサイクル技術について述べたり、省エネルギーに関する具体的な研究を参照したり、あるいは革新的なリサイクル方法を提案する必要があります。
 
四つ目の特徴として、浅い記事は深みや詳細さに欠け、「具体的な事例」が少ないことも特徴です。
「暗号通貨入門」と題された記事では、暗号通貨がデジタル通貨や仮想通貨として機能し、ブロックチェーン技術を活用していることについての一般的な記述があるだけで、例えばビットコインやイーサリアムのブロックチェーンの仕組み、暗号通貨の歴史的背景、利点と欠点、経済や社会への将来的な影響などについて詳しく説明されていないことが多いのです。

浅い記事を、深みのある記事に変える

 

1.多くの視点を提供する

したがって、深みのある記事を作成するためには、まずトピック全体について、多くの視点を提供することが何より問われます。
そのためには、視点を裏付けるさまざまな証拠や情報源を組み入れつつ、最終的に著者はどのようなポジションを取るのかについて、根拠のある主張を行わなければなりません。
例えば、オンライン学習の効果についての記事では、「効果とは何か」から始まり、「どのような条件で」「どのような効果があるか」という設定から始めねばなりません。
そのうえで「オンライン授業は対面授業に劣る」「オンライン学習は対面授業と同等の効果を得られる」「オンライン学習は対面学習に勝る」のいずれかの主張を選択します。
しかし、もちろん主張には根拠が伴わなければなりません。
そこで、オンライン学習先進国である、アメリカの全米経済研究局の研究を引用してみましょう。
 
例えば、William G. Bowen, Matthew M. Chingos, Kelly A. Lack, Thomas I. Nygren(2013) の “Interactive Learning Online at Public Universities: Interactive Learning Online at Public Universities: Evidence from a Six-Campus Randomized Trial”という論文です。ここにおいては、ランダム化試験によるオンラインクラスの学習結果の検証の結果、伝統的な対面授業のクラスと基本的に同じであると結論付けています。
 
もちろんこれ以外にも、オンライン学習関連の研究は数多くあり、その主張をいくつか取り上げて、「この場合には」「その場合には」といういくつかの主張を形作っても良いでしょう。
科学論文と同様に、記事にユニークな視点を取り入れる際には、型にはまらない発想が重要です。
 
例えば、AI(人工知能)が雇用市場に与える影響、AIが単調な作業の負担を軽減し、人間が創造的で感情的に関与しやすい仕事に集中できる可能性について、記事内で検討するとします。
この観点において、どこがまだ十分に掘り下げられていないでしょうか?
「失われる雇用、得られる雇用:自動化の時代における労働力の移行」では、適切なスキル移行があれば、AIは雇用市場にプラスに寄与できると示唆されています。
しかし、本当にそうでしょうか?
オックスフォード・インターネット・インスティテュート諮問委員会議長の、リチャード・サスカインドは、「プロフェッショナルの未来」で、もう少し悲観的な未来が語っています。
専門職における技術的失業が一般的な傾向になると予想される、3つの理由がある。
 
第1に、機械が性能を進化させるにつれ、いま人間が特定の種類のタスクにおいて有している、それを実行する上での優位性が次第に失われていく。
 
第2に、機械の進化によって新しく生まれる需要のほとんどは、機械の方が効率的に処理できるものであるため、専門家は新しい需要(もしくは現在の潜在需要)に期待することはできない。
 
第3に、人々は倫理的な判断や道義的責任が関わるタスクは、常に機械ではなく人間によって行われるべきであると考えているものの、その規模が専門家の雇用を今日と同じレベルで維持できるほど大きいものになることは期待できない。最も優秀な専門家、つまり機械が代行できないタスクや、人間の手に残されるべきであると考えられるタスクを担うことのできる専門家は、最後まで生き残るだろう。しかしそうしたタスクの量は、大勢の専門家の雇用を守るのに十分ではない。
 
このように、反する意見同士を比較することによって、表層的な「浅い記事」ではなく、深い議論を踏まえたコンテンツの作成が初めて、可能になるのです。
 

2.具体的事例を追加する

具体的な事例は記事に命を吹き込みます。
例えば、再生可能エネルギーの重要性についての記事では、テキサス州ジョージタウン市が全米で初めて完全に再生可能エネルギーで動力供給を行ったという具体例を引用することができます。
 
彼らがこの変換を行った理由は、環境保護だけでなく経済的な面からも決定されました。この情報はジョージタウン市のエネルギー局が2019年に発行した資料「The City of Georgetown’s Renewable Energy」で確認することができます。
では、明日からこのような事例を持った記事を作り始めるためにはどうすればよいのでしょうか?
詳しくは「「文章を早く書く技術」=「調べて書く技術」を突き詰める」においても触れましたが、文献を早く探すことです。
そのためにはまず、調査計画を立てることから始めましょう。記事の範囲を明確にし、利用可能な情報源をリスト化します。
情報源は多様にし、オンラインの情報だけでなく、地元の図書館に足を運び、本を読み、雑誌をパラパラとめくり、その分野の専門家にインタビューすることも検討してみてください。
次に、適切な質問を立てることです。これらの質問は、あなたの調査を導くものであり、独自の視点を育てるのに役立ちます。良い質問は「どのように」「なぜ」といった疑問文から始まることが多いです。
第三に、記事のアウトラインを作成します。これが記事の骨組みとなります。アウトラインには、記事の各セクションと、各セクションで取り上げる予定の主要なポイントを含める必要があります。
最後に、書き始めるのです。文章力は練習すればするほど向上するものです。
また、原稿を書くだけではなく、仲間からフィードバックをもらうことも検討してください。読んでもらうことで、推敲の質が高まり、よりよい編集が可能となるでしょう。
 

記事の深みを増すためのステップ

それでは最後に、簡単なテーマを用いて「深い記事」を書くためのステップを紹介します。
テーマ:「ChatGPTのような生成AIは人に繁栄をもたらすか」
さらりと表面をなぞるだけであれば、自分の感想だけを書いたような記事を作ればよいでしょう。何を書くかは勝手です。
しかし、公益財団法人の発表とはいえ、この記事の質は低いと言わざるを得ません。視点が固定されているうえに、出典を示す資料もほとんどないからです。
ではこちらのMITによるテクノロジーレビューはどうでしょうか。
こちらの方が、質が高い記事と言えます。視点が多様で、主張の根拠や出店が明らかになっており、文章が明晰だからです。記事の情報ソースとしましょう。
また、NHKのページを見れば、彼らが丹念に取材した後を見ることができます。これも記事を書く上での情報ソースになります。
上で紹介したマッキンゼーのレポートは、ボストン・コンサルティング・グループのレポートよりもはるかによくできています。
 
しかし、ほんとうに「生成AIの与えるインパクト」を考えれば、少なくともweb記事だけではなく、書籍に目を通すべきでしょう。
私が目を通した中で、きちんとした研究をとおして、根拠のある主張をしている書籍は、以下のようなものがありました。
 
また、Youtube動画でも、生成AIの根幹をなす技術である、「ディープラーニング」「ニューラルネットワーク」についての動画も見ておきましょう。
 

 

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【著者プロフィール】

安達裕哉

元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。

◯X:安達裕哉

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