このコンテンツは有料note「webライターとメディア運営者の、実践的教科書(安達裕哉著)」より転載しています。
「マーケティングの実務」が目の前に立ちふさがったとき、まずは思いつくところをいろいろやってみる、というのは、悪い選択ではないと思います。というのも、マーケティングは学問ではなく、実践だからです。
しかし、「マーケティングの基礎」を学び、ちゃんとマーケティングをはじめたいと思った時、いったいどこから始めればよいのか、と悩む人は、多いのではないでしょうか。
かくいう私も、コンサルタントとしての訓練は受けていましたが、「マーケティング」の体系的な教育は存在せず、最初は見よう見まね、手探りで実務をやっていました。
ただ、目標とする数字が大きくなってくると、従来のやり方だけでは限界があると感じ、「マーケティング」を学びたいと思ったのです。
そのとき、まず教科書として紹介されたのは、コンサルティング会社っポイ書籍、
などの、ヘビーな本たちでした。
しかし、こうした書籍は体系と理論で固められているがゆえに、「教科書」「学術書」としての価値はあり、MBAで学ぶ学生には良いと思うのですが、今すぐ実務に生かしたい、という人向けのものではありません。
むしろこうした本は、実務をやった後に、学ぶべき本です。
では「実践的」という側面から考えて、企業事例、例えば
「P&Gのマーケティング」
「スターバックスのマーケティング」
「Amazonのマーケティング」
といった、実際の企業におけるマーケティングを紹介したものはどうでしょう。
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これらは読み物として面白く、実際に売れた身近な商材についての記録でもありますので、確かにとっつきやすいのです。
しかし、多くのこの手の本に共通するのは「大企業」の事例であるという点です。
大手企業のマーケティングのうち手は、資金、人材、商品開発、チャネルどれをとっても、99%の数を占める中小・零細企業では真似をしにくいものが多く、情報の取捨選択が難しいと、私は感じました。
特に、コンサルティング会社の一部門が使えるリソースや金額は、「規模」や「資金力」という点では、通常の中小企業とほとんど変わりません。
もちろん、情報の取捨選択をすれば大企業の事例が役に立たないわけではありませんが、「マーケティングの初心者」が「実践的」に使えるわけではないのです。
「ターゲティング」「AIDMA」「4P」「差別化戦略」など、マーケティングには専門用語が多く、理論は理解しても、「で、結局何から始めればいいの?」と、かえって悩みを深めてしまいます。
そこで本稿では、私が実際にコンサルティング会社で実践した、中小・零細企業のための「マーケティングのはじめ方」について、解説します。
マーケティングを始める目的は「売り込みをせずに売りたい」で良い
マーケティングをはじめる、という言い方は変かもしれません。
しかし、「今まで感覚に頼ってきた商売」を、もう少し組織的に、あるいは一つの考え方に沿ってやりたい、という要望は、どの企業にもあるのではないかと思います。
そして、その目的として最も大きいのは、
「売り込みをせずに売りたい」
ではないでしょうか。
とくにコンサルティングは「売り込み」によって売れる商材ではありません。
売り込めば売り込むほど「この会社、大丈夫かな」と思われてしまいます。
ですから、前提として「営業」によって、売り込みをかけていく、という以外の選択肢は持てませんでした。
あるいは広告です。
広告をバンバン打つほどの資金はなく、利益という観点から見ると「売り込みをせずに売る」のは、商売の成否に大きく影響するのです。
つまり、マーケティングの目的は中小・零細にとっては、「売り込みをせずに売る」が最優先でした。
マーケティングの教科書で語られる、シェアを最大にするとか、購買率を上げるとか、競合に勝つとか、そういう話よりも、とにかく売り込みを減らして、ある程度自動的に注文が来るようにしたい。
これが、私がやっていた「コンサルティング会社のマーケティング」の目的です。
中小零細のマーケティングの第一歩は「〇〇」から
では、売り込みをせずに売るには、いったい何が必要なのでしょう。
もちろん、
「良い商品」
「競争力のある価格」
があることは前提ですが、それだけで売れるわけではありません。
むしろ、コンサルティングのような無形の商品は、「良い商品である」ことは、事前にはわかりませんし、価格も安ければよい、というわけでもありません。
では、何が一体重要だったのか。
「名簿ごとき」と思うかもしれませんが、馬鹿にしてはいけません。
むしろ、中小企業・零細企業が採用すべきマーケティング活動は、「見込み客名簿」を作るための活動だと割り切って考えたほうが成果が出ます。
「そんなことでいいの?」と思う方もいるかもしれませんが、いいんです。名簿の収集こそ、マーケティングの王道、というのは、実は大企業でも変わりません。
GoogleやFacebook、あるいはAmazonですらそうなのです。
結局彼らは、大量の個人情報を持ち、その個人に対してカスタマイズされた商品案内(広告)を提供することで、収益を得ているのです。
もし「自社の商品に興味のある会社・人の名簿」を大量に保有していれば、そこに対して継続的にメールを送ったり、電話をかけたりすれば、その中のいくらかの会社や人から、注文が取れるでしょう。
これは、「興味のない人/あるかどうかわからない人への売り込み」に比べて、圧倒的にハードルが低いことは、言うまでもありません。
むしろ、「情報提供ありがとう」「いい商品を紹介してもらってありがとう」と、感謝すらされるくらいです。
これが、中小・零細企業の、マーケティングの究極的な「成果」と呼べるのです。
したがって、もしあなたが、中小・零細企業の「マーケティング担当」だった場合、あなたのミッションは
「できるだけ精度の高い、見込み客の名簿を収集すること」
になります。
もちろん、これは一度収集すればいい、という話ではありません。
見込み顧客の要望は日々変化しますから、「名簿」は、新鮮さが重要です。
したがって、前述したミッションはちょっと不十分で、正しくは
「できるだけ精度の高い、見込み客の名簿を収集し、最新の状態にメンテナンスすること」
としたほうが良いでしょう。
名簿とは
では、具体的に名簿とは、どのようなものでしょう。
代表的なのは、過去客の一覧です。
彼らはウチの商材に興味を持ち、実際に買ってくれたわけですから、リピートしてくれる可能性も高いでしょう。
・過去客の一覧
あるいは、過去に問い合わせてきたけれども、残念ながら成約に至らなかった人々、資料が欲しいと言ってきた客も、また営業すれば、買ってくれるかもしれません。
・過去のweb・メールでの問い合わせ客の一覧
・過去の電話での問い合わせ客の一覧
・過去の資料請求客の一覧
ほかにもあるでしょうか。
例えば、過去にセミナーを開催したことがあれば、その参加者の一覧なども立派な名簿と呼んでよいでしょう。
・過去セミナー参加者の一覧
まだまだあります。
例えば「名簿」を辞書で調べると、「名を書き連ねた帳簿」とありますが、目的から考えると、「名前」は必ずしも必須ではないことがわかります。
名簿の目的が「こちらから見込み顧客にアプローチする」であることを考えれば、究極的には以下はすべて「名簿」と呼んでもよいでしょう。
要は「こちらからコンタクトがとれる人々」の一覧は、すべて名簿です。
したがって、必ずしも「名前」が含まれている必要はありません。
したがってメールマガジンなどを発行していれば、メールマガジンの購読者の一覧なども、名簿と呼べます。
・メールマガジン登録者の一覧
まだまだあります。
「こちらからコンタクトが取れる」ということが条件であれば、SNSなどのフォローでもよいはずです。したがって、
・SNSアカウントのフォロワー
・YouTubeチャンネル登録者
なども、名簿と呼ぶことができそうです。
もちろん、上の名簿すべてが同じ価値、というわけではありません。
過去の購入者の名簿は、数が少ないですが、再度買ってくれる可能性は非常に高い。
逆に、SNSアカウントのフォロワーは数が多くても、「これから商品を買ってくれる人」の割合は少ないでしょう。
しかし、この認識こそ、中小零細企業におけるマーケティングの機能で最も重要な「見込み客の育成」を行うために必要なことです。
マーケティングの実務
それを前提として、私が行っていたマーケティングの実務は、以下の3つでした。
1.名簿を集める
2.顧客を分類し、
「コンサルティングを受けたい客」
「情報を欲しい客」
「うちに興味がある客」
「うちを知っている客」
に分類し、分類別に、有効だと思われる手段でアプローチする
3.名簿をメンテナンスする
1.名簿を集める
名簿集めの方法には、大きく2種類あります。
一つは名簿を買ってくる方法、そしてもう一つは、コンテンツによって名簿を集める方法です。
一つ目の「名簿を買ってくる」は、帝国データバンクや東京商工リサーチなどから名簿を購入し、そこに電話を一件一件かけて、名簿の精度を上げていくやり方です。
ただしこのやり方は大変非効率でした。
電話をかけるのが非常に手間がかかる上に、名簿のほとんどはコンサルティングにかけらも興味がなく、「コンサルティングを受けたい客」にするのに、膨大な手間と時間がかかったためです。
また、この業務を担当するコンサルタントは「テレアポ」に不慣れな人も多く、精神的に病んでしまう人もいました。
そこでお勧めするのが、2番目の「コンテンツによって、名簿を集める方法」です。
いまでこそ「コンテンツマーケティング」という名前が付いていますが、一昔前にも同じような手法は数多くありました。
コンサルティング会社でよく使っている手法は「本」「セミナー」「メルマガ」「定期刊行物」「アンケート」の6つです。
いずれもコンサルティングの現場でやったことを文書化したノウハウに落とし込み、それに興味を持つ人を集めて名簿化する、という手法でした。
現在では、上に加えて「web記事」「YouTube動画」などが入るでしょう。
いずれにせよ、コンテンツを使って人を集め、名簿化する手法は、古くて新しいものであり、大変有効な手段です。
コンテンツを作成する手間を惜しまなければ、コンサルタントの精神的な負荷も低かったため、大変に好まれた手法でした。
2.顧客を分類する
得た名簿に記載された個人情報は、等価値ではありません。
以下の4種類に分類するとすれば、上にあればあるほど、価値があります。
「コンサルティングを受けたい客」
「情報を欲しい客」
「うちに興味がある客」
「うちを知っている客」
これらはとてもカンや経験だけでは対応できない量なので、会社では「顧客管理」のシステムを作り、見込み客への接触方法や頻度などを変えていました。
「コンサルティングを受けたい客」は、アンケートなどで、具体的なコンサルティングの要望が取れた会社です。
担当のコンサルタントが付き、提案活動などを行いました。
「情報を欲しい客」は、複数回セミナーに出席したり、メルマガからセミナーに出席した客です。
再度のセミナー案内をおくり、優先的にセミナーの席を用意する一方で、コンサルタントが定期訪問、連絡し、ヒアリングを行いました。
これらは、一般的な企業でも行っていることが多いのではないかと思います。
では「うちに興味がある客」とはどんな客だったのか。
この客は、「一度だけセミナーに来た」あるいは「資料をダウンロードした」という程度の見込み客です。
基本的にウチのことは知っており、個人情報を提供しているが、数多くある会社の一社とみなしている。
その段階の見込み客です。
彼らは数が多いうえに、興味の度合いも様々なので、コンサルタントが担当として付くことはありません。
その代わり、できる限り多様な情報を送り、相手の興味、反応をみるといったことが行われていました。そのため、メールだけではなく、郵送によるDMや、電話といった手段も使われました。
また、「有料セミナーへの特別枠招待」というお得感のある餌をつけたり、「無料相談受付」といった枠を特別に設けることもありました。
これは今でいう「コンテンツマーケティング」に極めて近い発想です。
コンテンツマーケティングは、「うちに興味がある」という程度から、「情報を欲しい客」へ変えることに、意義があるのです。
「うちを知っている客」というのは、きわめて最近の概念です。
単純に言うと、メルマガを購読している客、およびSNSのフォロワー、YouTubeのチャンネル登録者など、「個人情報を取得はしていないが、うちの発信内容に触れることのできる人々」というカテゴリに入ります。
彼らは正確な属性が見えません。
したがって、彼らに対する施策は「個人情報を提供してもらう」ように、資料のダウンロードや、セミナーへの出席を案内することです。
3.名簿をメンテナンスする
名簿のメンテナンスは面倒ですが、上の4つの段階のどこに、見込み客があるのかを記録することが必須だったため、必須の活動でした。
一昔前までは、顧客管理システムとwebの連動が難しかったため、定期的に顧客がとったアクションに対して、DBを手動でメンテナンスせねばなりませんでした。
が、近年ではMAツールが安価に利用できるため、ステータス管理を自動化することができるようになってきています。
特に、web記事やメールマガジンの運営、webセミナーやアンケートなどは、MAツールとの相性がよく、自動でステータスがアップデートされます。
ただし、「提案」の段階にあり、直接顧客とコンタクトしたり、「メール」ではなく「電話」をつかったりした見込み客は、自動でDBにステータスが反映されないため、担当者への周知と、記録のチェックを行うことが必要です。
このあたりは、忙しいコンサルタントに徹底するのが難しく、リーダーに名簿のメンテナンスの責任を負わせ、チェックを行うオペレーションを採用していました。
中小・零細のマーケティングとは「名簿」から
定義を正確にいえば、「顧客満足のためのすべての活動」がマーケティングです。
商品開発、値決め、パッケージング、PR、ブランド、販促、セールス、アフターサービスまで、すべての活動が一気通貫に、実行、改善されることがマーケティングの究極の姿です。
とはいえ、中小・零細のリソースは小さく、すべての活動を満足のいくレベルでオペレーションすることは非常に難しいのが実態です。
ではどこから手を付けるか。
コンサルティング会社では、「名簿」の獲得、そこからの顧客の掘り起こしとそのメンテナンスに、リソースを振りました。
費用対効果がたかく、比較的時間をかけずに、ある成果が見込める領域です。