BtoB営業の受注率を50%以上に保つ、入社2~3年目コンサルタントへ教えていた、提案の要点。

このコンテンツは有料note「webライターとメディア運営者の、実践的教科書(安達裕哉著)」より転載しています。


今回は主として、BtoB営業の「提案」についてです。
 
私はコンサルタント時代に上司から、「提案を出した案件の受注率は、最低でも50%をキープせよ」と言われました。
漫然と提案していては「受注率50%以上」をキープすることは不可能ですから、そこには様々な手法によって、受注率を上げる試みがなされてきました。
では具体的に、コンサルタントはどのような方法で受注率を上げていたのか。
提案書のサンプルスライドを使いながら、本稿で解説を試みます。
 

「提案作成」は強力なスキルだが、誰でも身に着けられる

まず最初に認識しておきたいのは、「提案作成スキル」が強力な割には、特殊で得難いスキルではない、という話です。
実際、コンサルティング会社では、提案作成スキルは様々なシーンで役にたち、汎用性の高いスキルである割には、若手の駆け出しコンサルタントであっても身につけることのできるスキルでした。
ですから、起業したい人、営業で成果を残したい人、あるいは副業などで稼ぎたい人には是非身につけていただくと良いだろうと思います。
 

「提案書を出しましょうか?」と言うな

2番目に認識しておきたいのは、「受注率」を上げる、という事は要するに「無駄な提案はしない」という事です。
つまり、意外に思われるかもしれませんが、実際には提案をする上で重要なのは実は「ぎりぎりまで提案しない」ことです。
ですから、私の上司は「提案書を出しましょうか? と我々からは絶対に言うな」と命じました。
提案書を作るのは大変に労力を要する作業ですが、「出しましょうか?」と聞けば、確実にお客さんは気軽に「じゃお願い」と言います。
提案に対する検討の真剣度が低いお客さんには、まずは「ディスカッション」で十分です。
ディスカッションを繰り返すうちに、お客さんのほうでも検討への真剣度が増し、予算が付く。
その後でお客さんから「提案してよ」と言われて、ようやく「提案」を作る段階に至ります。
 

提案活動で重要なこと

しかし、その段階に至っても、実際に「良い提案」を作ることのできる人が世の中に多いのか、といえば、実はそうではありません。
いったい、なぜでしょうか。それは「提案」をその言葉通り受け取ってしまうことに原因があると感じます。すなわち、お客さんに「こうしたほうがいいですよ」と進言することを提案だと思っている人が多い。
「提案」なんだから、それは当たり前じゃないか、という方もいると思います。しかし。それが落とし穴なのです。
 
では、何をするのが「提案活動」において正しいのか。
実は、私がコンサルタントだった頃、提案を作成をするにあたって最も時間を割いていたのは「提案を考えること」ではなく、「相手の要望を正確に理解すること」でした。
 
つまり、こういうことです。
例えば、「コーポレートサイトからの問い合わせを増やしたいので、サイトのアクセスをもっと伸ばしたい。アクセスを伸ばす方法を提案してほしい」
という依頼をもらったとしましょう。
ここで、多くの人は「提案してくれ」といわれたので、そのまま素直に
・サイトへのアクセス導線を増やしましょう
・検索対策をしましょう
・SNSの運用をしましょう
・動画などのコンテンツを配置しましょう
といった提案を、反射的に作ると思います。
しかし、これではあまり良い提案にはなりません。
先に述べたように、いきなり提案から考えてはダメなのです。
なぜなら、殆どの人は、提案から考えると「お客さんが本当にやってほしいこと」ではなく「我々ができること」を提案してしまうからです。
「アクセスを増やしてほしい」と言っているから、アクセス増加の提案をしたんじゃないか。何が悪いんだ、という方もいるでしょう。
「できないことを提案しても、商売にならない」という方もいるでしょう。
でも、実はその発想が間違っているのです。
ほとんどのケースで、お客さんが声をかけてくる時の「本当の要望」は、まず言語化されていないので、提案で責任者が気にしているポイントを外してしまう可能性が高いのです。
具体的に上の例では、要望は「アクセスを増やしたい」ですが、真に重要なのは、要望の背後に隠れている、依頼の動機です。
 
そこに言及しないで提案をしてしまうと、お客さんが今までやってきたことと重複したり、「ウチには合わない」「金額が合わない」「やっぱりやめた」とか、「他社に頼んだ」という事になったりしがちです。
提案活動は、提案から考えるのではなく、要望の背後にある動機を考えることから始めます。
 

まず「お客さんの要望を一歩引いてみる」ところから

それらを踏まえた上で、どこから手を付けるべきでしょう。
コツは、一歩引いて、全体を眺めることから始めることです。
このラインより上のエリアが無料で表示されます。
例えば上では「問い合わせを増やすために、コーポレートサイトへのアクセスを増やしたい」という要望をお客さんが持っていますから、こんな質問をするといいでしょう。
「問い合わせを増やす手段として、今回のご依頼である、アクセスを増やすこと以外の手段を実施、あるいは検討されましたか?」
 
「何も考えてなかった」という回答をするお客さんもいるかもしれませんが、たいていは
・広告を試してみたが、効果がなかった
・テレアポの効率が悪かった
・デジタルマーケティングに力を入れていきたい
といった、意思決定の理由を教えてくれるでしょう。
ここは非常に重要なポイントなので、提案をする際には必ず聞かねばなりません。
なぜなら、これを聞くことで「費用対効果」の話ができるからです。
・広告やテレアポにどれくらい費用をかけて、どの程度の成果だったのか?
・デジタルマーケティングの今期の目標は?KPIは?

といった話ができます。

これにより「金額が合わない」という理由の失注を大幅に削減できます。
予算感や費用対効果の感覚が合わない客には、提案するだけ無駄ですから、その時点でお断りすればいいのです。
 

「現状」を正確にまとめる

さて、その意思決定の背後を把握すると、ようやく「背景」が理解できます。
また、この段階でwebのアクセス数などを共有してもらえるようなら、ぜひお願いしましょう。
 
そこで、そういった情報をすべて、「貴社の現状」という項目にまとめ、必ず提案に含めてください。
例えば、弊社では、お客さんから聞いた内容を、例えば「引き合い増加」であれば、以下のようなフォーマットにまとめています。
 
 
 
上のスライドにはサンプルとして、
・コーポレートサイトの現状
・広告施策の現状
・SNS運用の現状
・営業施策の現状
・サイトのトラフィックの現状
などの項目が入れてありますが、これに限るものではありません。
ヒアリング内容によっては、他社との協業や、流通の見直しなどの話題を含める場合もあります。
 

お客さんの要望(特に成果)を細かくまとめる

現状をまとめたら、先述したとおり、要望を正確に理解するために、「お客さんの要望を、細大漏らさず文書化」します。
具体的に上の例でいえば、要望は「アクセスを増やしてくれ」ですが、細かく見ていくと、かなりあいまいな表現であることがわかります。
したがって、以下のような事項についてお客さんと細かい協議をし、それを記述する「貴社のご要望」という項目を作ります。
 
・対象のサイトはどこか
・アクセスとは何か
・成果をどのように定義しているか
・いつまでに、どの程度増やせばよいのか
注意すべきは、このパートは「成果設定である」と認識することです。
つまり、お客さんがどのような成果を求めているのかを、はっきりとさせておくのです。
「それはうちでは明言できない」とか「成果責任はうちにはない」とか、そういう意見もあるでしょう。
あるいはお客さんが「作業」だけを求めているケースもあります。
 
もちろん、そういう場合もありますから、そこは事実ベースで結構です。
 
しかし、そのような場合であっても、保証できません、弊社は作業を担当、という注記を記すことも含めて「成果」にも言及している提案が、コンペでは目立ちます。
ですから、これらに言及しないことは、受注率の低下につながります。
 
 
したがって、このパートには、上のように「数値」の記述を含めます。
重要なのは、これらはあくまで「我々の提案」ではなく、顧客の要望であるとすることです。
特にお客さんからもらった数値は、必ず「一言一句そのまま」引用します。勝手に呼称を変えたり、短縮したりしてはなりません。
ですから、この提案書をプレゼンテーションする際には、最初に、「我々がヒアリングしたところでは、これがお客様のご要望だと認識しています。お間違いないでしょうか?」と、たずねてください。
誤解を恐れずに言えば、コンペで負ける原因のほとんどは、「提案が悪いから」 ではない。「「我々のやってほしいこと」を提案書が外しているから」です。要するに「自滅」する会社がほとんどです。
だから、「お客様のご要望」が正確に記述できた時点で、受注率は大きく上るのです。
 

お客さんの要望を実現するための具体策をまとめる

さて、いよいよ、いわゆる「提案」のパートです。
前段で「現状」と「要望」がまとまれば、その要望を実現するための具体策の検討に入ることができます。
上の例でいえば、
・アクセスどうやって増やすか
・潜在顧客のリストをどのように増やすか
・問い合わせをどうやって増やすか
の具体策を考えるのです。
したがって次のパートは「貴社ご要望を実現するための具体策」となります。
 
 
 
上のように、具体策はまず「結論を1枚」で作ります。
これは、施策をシンプルに一言で言うことで、思考を整理できるからと、何をなすべきか、何を支援できるのかを一覧できるほうが、提案の読み手にとって利便性が高いからです。
また、優先度の高い施策、つまり確実性と費用対効果の高い施策から書き出します。
これは説明の際に「重要度の高い施策」から説明すべきだからです。
なお、各施策について補足が必要であれば、このページの後ろに個別の施策についての説明ページを付けます。
説明が長ければ、別紙にしても構いません。
また、このパートは「営業活動」の部分ですから、自分たちの提供するサービスの差別化ポイントにも言及する必要があります。
 
とはいえ、ソフトウェアの機能紹介や、他社との違いについて言及するページは長くなりがちなので、「付録」として、提案最後につけた方が良いでしょう。途中に挟むと、提案が冗長になりがちです。
本筋とは関係のない機能も多いので、そのような機能はお客様から求められた場合のみ、説明をするようにします。

作業分担とスケジュールをまとめる

最後に、作業分担とスケジュールをまとめます。
ここでのポイントは、「顧客の作業」と「我々の作業」をハッキリと示すことです。
 
そのため、多くの場合はエクセルなどで作業を詳細化した表を作り、そこにスケジュールを当て込んだ、プロジェクトの線表のような資料を挟むことになります。
 
 
 
なお、この作業分担は工数計算、ひいては見積もり算出の根拠ともなる資料ですので、出来る限り詳細化しておくべきです。
 
なお、こういった線表は、お客様に寄って大きく変わるわけではないので、標準の推進手順として、共有サーバーにアップしておくと良いでしょう。
 

付録として顧客事例、会社紹介などを入れる場合も

これで概ね、提案については完成、ということになりますが、付録としてこの後に、顧客の事例や会社紹介、あるいは、関係者が多い場合は、プロジェクト体制図などを挟む場合もあります。
必要に応じて、提案に含めるようにしてください。
 
以上、提案の要点でした。
結局、「提案と関係ない資料」は極力省き、必要最低限の情報のみ、共有することが基本的な考え方になります。
健闘を祈ります。
 

 

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(文責-ティネクト株式会社 取締役 倉増京平)

 

【著者プロフィール】

安達裕哉

元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。

◯X:安達裕哉

◯有料noteでメディア運営・ライティングノウハウ発信中(webライターとメディア運営者の実践的教科書