このコンテンツは有料note「webライターとメディア運営者の、実践的教科書(安達裕哉著)」より転載しています。
私が在籍してたコンサルティング会社の一部門は、マーケティングの一環として、チームで本を書くことが結構あった。
当然、文章が上手な人もいれば、文章が下手な人もいる。
文体も様々だ。
そのまま何も考えずに取り掛かると、収集がつかなくなる。
そこで、誰かが考えたのだろう。
そこには標準化された資料として「執筆のオキテ」なる文書があった。
この文書に従っていれば、誰でもそれなりの文章が作れてしまう。
「そんな都合のいい話が」
と思ったが、実際にはこれがまた、大変によくできていて、結構な頻度でお世話になった。
そして時は流れて、自分がメディアを運営しようと思ったときに、思い出したのがこの「執筆のオキテ」だ。
本を書くために使った文書なので、そのままは使えないし、スマートフォンでの閲覧を想定してはいないし、やタイトル、テーマ設定などには言及されていない。
しかし、これを原型にして、大きくカスタマイズして、現在までに自分のメディアなりの「執筆のオキテ」を再構成した。
今回はその、弊社で使っている「執筆のオキテ」をご紹介する。
なお、この執筆のオキテは、
【執筆テクニック編】
【テーマ設定編】
【文章構成編】
の3部に分かれており、目的に応じて使うことができる。
【執筆テクニック編】
1.「文調」を決定する
端的には「だ・である調」か、「です・ます調」なのかを最初に決定する。
新聞を始めとしたメディアや論文で一般に用いられる書き方は「だ・である調」で、自分が何らかの知識や経験、あるいは情報について、読み手よりも詳しい知識を有していることが前提の立場で書く時に多く用いる。
文例1.経営計画と技術の裏付けを示すことができれば、例えそれが億単位の資金調達であっても、私にとってそれほど難しい仕事ではなかった。それもそうだろう、日本を代表するような会社の偉い人がお墨付きをくれたのだから。
対義語は「です・ます調」。
参考までに、例文を「です・ます調」に書き換えるとどうなるか。
文例2.経営計画と技術の裏付けを示すことができれば、例えそれが億単位の資金調達であっても、私にとってそれほど難しい仕事ではありませんでした。なぜなら、日本を代表するような会社の偉い人がお墨付きをくれたからです。
オピニオンを提示するコラムから、エッセイ風のコラムに一気に変わったように感じられるだろう。
相手に伝えたい内容、オピニオンの種類、自身のコラムに対する立ち位置などを考慮して、使い分けること。
2.語尾の調子を整える
一つの文節では、同じ終わり方を連続させると(例えば、全てを「だ」で終わらせるなど)、文章が安っぽくなる。
文例1.この事例は、やや時代背景にも助けられたとてもわかり易いお話だが、要するにしっかりとした経営計画とそれを支える取引先が重要ということだ。この2つの要素が揃えば、今の時代でも第三者割当増資による資金調達は決して難しいものではないということだ。そのエッセンスを拾ってもらえれば幸いだ。
この種のオピニオンを書きなれていない人がやりがちだが、無理して「だ・である調」を使っていることが見透かされてしまう。オピニオンはが一気に説得力を失うので、同じ言い回しの連続は避けること。
そこで言い回しに注意すると、以下のようになる。
文例2.この事例は、やや時代背景にも助けられたとてもわかり易いお話であり、要するにしっかりとした経営計画とそれを支える取引先の2つの要素が揃えば、今の時代でも第三者割当増資による資金調達は決して難しいものではない。そのエッセンスを拾ってもらえれば幸いだ。
語尾に着目すると、表現を根本から変える必要が出てくるケースも多い。したがって、どうしても同じ言い回しになった場合には、体言止めを用いることも一つの方法だ。
3.意見を事実のように扱かわない
意見を事実のように扱っている文章は、説得力に乏しいので、十分に注意を払わなくてはならない。
例えば以下の文は、あたかも「意見」を「事実」のように扱っている。
新サーバプランは、従来よりもすぐれているので、わが社でも導入すべきだ。
この場合、「すぐれている」は意見に属するが、それを「導入すべき」の論拠にしている。
主観的な事項を論拠として扱うには、丁寧な記述が必要だが、そこが省かれているため文章として稚拙なものになっている。
この場合、以下のように改めなくてはならない。
新サーバプランは、スケーリング機能がついている。だから、わが社でも導入すべきだ
4.主張に対する反論への先回りを文章に含める
丁寧な文章は、主張への反論を想定して書かれている。
例えば、以下のような文章を含む。
「そうはいっても、現実的には無理だ、という方もいるでしょう。」
「今の主張に対して、「私のところではそういうケースは少ない」という方もいるでしょう」
「ところが、このように知人に述べたところ、「そうは思わない」という意見をもらいました。」
想定される反論を論拠を提示した後に一つ一つつぶしていくと、文章の説得力が大幅に上がる。
5.一つの文は、50文字から150文字程度
一般にWeb上でのコラムやオピニオンは、純文学などと違い表現方法を細部に渡って楽しみながら読む人はほとんどいない。
つまり、流し読みが前提となる。
また、スマートフォンは画面が小さく、一つの文章が長すぎると、ひどく読みにくくなる。
したがって、一つの文節の長さは50文字から150文字が適切である。
例として、これがどの程度の文章量なのかを以下に示す。
本コラムではそんな第三者割当増資について、そのような方法が存在しているということをほとんど知らないという経営者から、既に第三者割当増資を実施したことがあるがより深く知見を得たいという経営者までを対象に、理解を深めてもらうことを目的に筆を進めていく。(124文字)
6.主語・述語の対応に注意する。
文章が長くなると、
「誰が」「どうした」
「これが」「何だ」
といった、主語と述語の対応がおかしくなるケースが散見される。
よく見ると「太郎君が」……………「という主張がある」など、主語がいつの間にか入れ替わってしまうケースも少なくない。
長文のときは特に、主語と述語の対応をチェックし、文意が通るように気を配ること。
7.接続詞は多用しない。
接続詞を多用すると、文章がわかりにくくなり、誤解を招く可能性が高くなる。
特に、文を継いでいく
「そして」
「それから」
「では」
「ところで」
「さらに」
は、明確に前後の文を逆説でつなぐ「しかし」などの明瞭な接続詞と異なり、前後の文章を適当につないでしまうので、できる限り使わない。
8.修飾語の使い方は以下の二つの原則を守る
原則1:縁語接近の原則(縁のある語はお互いに接近させる)
×→きめこまかい化粧法の歴史についての言及
○→化粧法の歴史についてのきめこまかい言及
原則2:長遠短接の原則(長い修飾語句より、短い修飾語句を修飾される語の近くに置く)
×→この研究では、幅広い他分野の専門家の意見を取り入れた
視点が必要である。
○→この研究では、他分野の専門家の意見を取り入れた幅広い
視点が必要である。
9.文章を明瞭にするため、「もの」、「こと」は文中で極力使わない。
10.同じく、文章を不明瞭にする「など」はやたらに使わず、必要最小限にとどめる。
11.文章を読みにくくするため、「考えられる」、「思われる」を多用しない。
×→重要な課題だと考えられる。本音だと思われる。
○→重要な課題である。本音だろう。
12.一文の中では、「の」は三回以上使わない。
×→昨日のイベントの登壇者の一人は……
○→昨日のイベント登壇者の一人は……
13. 「及び」、「並びに」、「または」、「もしくは」は使い方は以下を守る。
A及びB A,B、C及びD
A及びB並びにC及びD
AまたはB A,B、CまたはD
AもしくはBまたはCもしくはD
14.文意を補強する()かっこ は、見苦しくなるので使わない
15.送り仮名はできるだけ送るようにする。
・ 行う/行なう → 行う
・ 仕組み/仕組 → 仕組み
・ 取り組み/取組み/取組 → 取組み(動詞:取り組む)
・ 組み合わせ/組み合せ/組合せ → 組合せ
・ 当たって/当って/あたって → あたって
16. かなづかい
かなづかいは一応、以下のように統一するが、文脈の中で適当と思われない場合はこの限りではない。
・ および/及び → および
・ または/又は → または
・ ひとつ/一つ → 一つ
・ できる/出来る → できる
・ ください/下さい → 下さい
・ ごと/毎 → ごと
【テーマ設定編】
1.記事が対象とする読者を明確に設定する
あまり難しいことを考えず、「知人の中の誰に読んでほしいか」を考える。
マーケティングと同様に、「ターゲット層」や「ぺルソナ」などを設定せよ、という方もいるが、不特定多数を対象とした分よりも、自分の良く知る特定の人物に向けて書いたほうが、メッセージがはっきりする。
2.テーマは大まかに「笑える」「役に立つ」「感動/目からうろこ」の3種類から選択する
メディアの性質によるが、個人やwebメディアの記事はほとんどが「報道」ではないので、広く読まれることを期すならば、「笑える」「役に立つ」「感動/目からうろこ」のどれかから選択するとよい。
3.テーマに関して書籍、web記事、SNSなどを調査し、文章に使える材料としての事例、統計、理論、ニュースなどを収集する
記事は、当然のことながら文章術よりも「内容」のほうがはるかに重要。
では内容の良しあしは何によって決まるかといえば、これは「ネタ」つまり、文章を書く時の材料に他ならない。
ネタはあれこれ頭の中で考えるよりも、「まずは量を追求」し手あたり次第集めることを推奨。
並んだネタを眺めていくうちに、主張をブラッシュアップできたり、新しい切り口が見えてきたりする。
4.不足する部分はインタビューなどを通じて取材を行う
3.で集めたネタをもとに、関係者に聞き取り調査や、簡単なインタビューなどを行う。
これは、できるだけ1次情報にあたることの重要性を徹底するため。
5.著者の「体験」「独自知見」を含められるテーマとする
テーマを絞り込んでいく際には、著者の「体験」や「独自視点」を含められるようにする。
著者が体験していないこと、あるいは世間一般と同じようなことしか言えないようなネタは、平凡な記事の元凶である。
「やってみた」「専門家が語る」という言葉を関するコンテンツは、説得力がある。
6.一般論だけではなく「事例」を含めることのできるテーマとする
上の「体験をする」に関連して、記事に「事例」を含めることができればなおよい。
人間が記事を読んで説得されるのは、一般論を読んだ時ではなく、事例に深く納得した時だけ。
7.30文字程度で仮タイトルを作り、テーマを検証する
最後に、30文字程度で仮タイトルを作る。
なお、良いテーマ設定ができているときは、15文字程度でもタイトルがびしっと決まることが多い。
タイトルが長くなってしまうときは、まだテーマに関して検討する余地があることを示している。
【文章構成編】
1.いきなり文章を書くことは、絶対しない。
2.文章の基本設計を作る。原則は以下の5セクション立て。
ーリード
読者がこの文章を読まねばならない理由を書く。
説得力を持たせるためにリードには、主張に関連したエピソードを含める。
例えば先日書いた記事は「国語力が大事」という結論の前に、なぜその結論に至ったかのエピソードを含めている。
つい先日、自分の書いた原稿に、出版社の校正の方から手を入れていただいたとき「やっぱりプロはすごい」と感じた。当たり前なのだが、改めて自分がいかに適当に言葉を使っているかが、よくわかる。定義忘れ、表記ゆれ、時制の矛盾、前後の文脈との食い違い、変換ミス……改めて自分の国語力の無さに呆れたわけだが、これはこれで一つの訓練だと思い、一つ一つの指摘をボチボチつぶしていった。そして、作業をしながら、私は一人のコンサルタントをふと思い出した。
ー結論
文章の結論を書く。上で紹介した記事でいえば、以下の部分が結論である。
誤解を招く可能性もあるが、思い切って言えば、彼の変化の本質は「国語力」にある。もっと分解していえば、ここでいう国語力とは・話者の意図を正確に理解すること・正確な言葉を適切に使って表現すること・語彙の豊富さの3点だ。
ー論拠
上の結論に至った論拠を出す。
この論拠は事実、もしくは客観性を担保する研究結果、権威などを引用すること。
主観を述べるときには「私的な意見である」ことを明示すること
例えば、上の記事では以下の部分を論拠としている。
これを「国語力」と評したのは「著者の主張は何か」「論じなさい」といった国語の問題をよく見かけるからだ。上の3点に難がある人は、仕事でアウトプットが遅かったり、他者とのコミュニケーショントラブルを抱えたりする。自分の思い込みで話し、相手の発言を自分に都合のいいように解釈してしまう。人によって定義が変わる言葉を気軽に使ってしまい(例えば目標と目的)誤解を招く。嫌な感じのメールを送ってしまい、相手から疎まれる。文章を作るのが遅いので、レスポンスが悪い。国語力は仕事にとって必須のスキルなのだ。実際、数学者の藤原正彦は、「国語は思考そのものと深くかかわる」という。
ー読者への提案
次に「主張」から得られる読者への提案、主に行動変容、態度変容を促す文章を入れる。
上の文章では以下の部分である。
才能や創造性、数理的能力などがもてはやされることが多い。だが「仕事の能力」という観点から言えば、才能に大きく依存する領域はそれほど大きくない。仕事のほとんどは、基礎的な「言語能力」が備われば遂行することができ、これらは訓練のたまものである。では、上の彼の「国語力」は、実際には何によって進歩したのか。
ーまとめ
最後に読者へまとめと念押しを提供し、文章を締めくくる。
仕事に必要な力を挙げてもらうと、人によってさまざまだ。論理的な思考やプレゼンテーション、あるいは創造性、行動力、人間力なんていう人もいる。だが、私は最も初歩的なものとして、「国語力」を推したい。最低限、仕事をするのには、小学校の頃からずっと教わってきた、「国語」ができればよいのであって、特別なことは何もない。
3.基本設計に従って、文章に使える材料を配置する
トピック設定編で収集した材料を、設計に従って配置する。
上の記事でいえば、記事を書く前の元ネタは、以下の6つだった。
1.出版社の校正の力量に驚いたこと2.過去のコンサルタントの思い出3.国語力の改善によって仕事が改善したこと4.国語力とは思考力だという数学者5.国語力のような習慣的な能力は鍛錬によって身につくという経営学者の主張6.コンサルタントを強化するために社内でやっていた教育の方法
以上、三編、26か条の「執筆のオキテ」、お役に立てれば幸いである。
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