「記事はPREP法で書け」などという輩を信じてはいけない。|安達裕哉

このコンテンツは有料note「webライターとメディア運営者の、実践的教科書(安達裕哉著)」より転載しています。


ビジネス文書を書く技法で、最も知られているものの一つに、「PREP法」がある。

PREP法とは文書を
P(Point)=結論
R(Reason)=理由
E(Example)=具体例
P(Point)=結論を繰り返す
の順番で構成せよと主張する手法だ。
そこそこ市民権を獲得している手法らしく、よくライター志望の方がPREPで構成されている記事を寄稿してくる。

 

もちろん、結論から書くことは、特に悪いことではない。
実際、私が昔在籍していた会社は、書くことも話すことも「結論から」を矯正された
結論から話せないコンサルタントは、クライアント先にも出してもらえないし、コンサルタント失格の烙印がおされる。
「あいつ、話わかりにくいよな」という噂が立つ。
怒られない。けど、プロジェクトにアサインされず、干される。
提案書・企画書・報告書。
あらゆるビジネス文書で「結論から書けない」のは、致命的だ。
できなければ、ビジネスに支障をきたすこともあるだろう。

 

だが、「記事」となると、話は少し違ってくる。
結論から言うと、「記事においては」一部の例外を除いて「PREP法は使うな」と申し上げたい。

 

なぜか。
単純に言うと、記事をつまらなくするからだ。
記事はビジネス文書とは異なる論理で読まれているため、PREP法と相性が悪いのである。

 

なぜPREP法と「記事」の相性が悪いのか。

なぜPREP法と記事の相性が悪いのか。
PREP法の最大の特徴は「情報を伝える」ことを最も重視している点にある。
したがって、PREP法が適しているのは
・ビジネス文書
・ニュース
・SEO記事
などの、「情報の伝達」を主眼とした文書だけだ。

 

しかし「情報の伝達」を重視すれば、引き換えに失うものがある。
それが「共感を引き起こす力」だ。
だからPREP法で書かれた記事は、人に「知識を与える」事はできても
「動かす」力はない。
特に、拡散を狙う場合には「結論から書く」のは悪手だ。

 

例えば、以下は知人が書いた、非常に読まれた記事の一つだ。
この記事の冒頭部分をつぶさに見ると、実は「自己紹介」に充てられている。
初めまして、株式会社こころ壱岐という会社を運営している、立山晋吾と申します。
私の出身地である長崎県・壱岐島は、福岡から高速船で約1時間。四方を美しい海に囲われた、人口2万6千人の離島です。
こんな島に生まれ育ったこともあって、小さな頃から、友達と一緒に漁船に乗せてもらっては、釣り糸を垂らし、アジやタイ、ブリやヒラマサといった魚を釣り、眠りこけるまではしゃいで、遊び尽くしてきました。
最近は、東京を始めとした都市部から、この壱岐島に移住されてくる方も多く、そんな方々の友人ご家族、お子さんが壱岐島に遊びに来たときには、高校時代からの友人でもある地元漁師と共に、沖合まで釣りにお連れしていました。
初めてこうした魚を釣った小学生・中学生のお子さんたちが、昔の僕らのようにはしゃぎ、楽しむ姿を目にすると、おもわずこちらまで、嬉しくなってしまいます。
しかしこの文章の「結論」は、最下部にある「クラウドファンディングを始めたので支援をしてほしい」なのだ。

 

だがこの文章が結論、つまり「クラウドファンディングを始めたので支援をしてほしい」から始まったら、多くの読者は興ざめし、離脱してしまうだろう。
だから「結論」から書いてはならない。
 
支援をもらうためには「サービスの背景」を読者に理解して貰う必要があり、この文章の著者はそれをよく知っている。
だから筆者は、PREP法とは真逆の構成で書かれた文章をつくり、実際に支援を獲得しているのである。

 

人を惹きつけ、人を動かす文章の構成とは

では、拡散を狙う記事を書く場合には、PREP法ではなく、どのような構成を用いればよいのか。

 

結論から言うと、「なぜ私がこんな記事を書いているのか」(=why)を最初に据えた構成にすべきだ。
これは以前私が書いた、以下の記事に詳しい。
著者のサイモン・シネックはリーダーシップに関する専門家である。
同内容の動画はすでに5000万再生を超えており、TEDにアップされている動画の中で、歴代4位という輝かしい成績を誇っている。
彼の洞察は簡潔だ。彼は「人が動く本質」は、why(なぜやるか)にあるという。
しかし、世の中のメッセージは往々にしてwhat(何をやるか)やhow(どうやるか)を語るだけに終止しているからダメだというのだ。
例えばアップルは「why」を語っている典型的な例だと彼は言う。
「なぜこんな記事を書いたのか」が、読者の体験や思いに対して刺されば刺さるほど、多少文章がヘタだろうが、読むのが面倒くさかろうが、読者は記事を読む。

 

例えば少し前に70万PVを獲得した、以下の記事。

 

この記事の「結論」は、行動経済学者、ダニエル・カーネマンの提唱している
「人は、出された質問が難しいと、それを簡単な質問に置き換えてしまう」
という部分だ。

 

しかし、この結論だけを伝えられても、ほとんどの人はピンとこないだろうし、理由は「人の脳はそのようにできている」と言うだけのはなしである。
これでは多くの人の共感を呼ぶことはできない。

 

そこでこの文章には冒頭に、「私が事実と意見を区別できなくて困った時の話」を丁寧に書いた。
過去に部下だった人のひとりが、ちょうど「事実」と「意見」の切り分けができない人だった。
例えば、こんな具合だ。
「昨日の営業、途中退席してごめん。お客さん、ウチに依頼するか、決めてくれた?」
「大丈夫だと思います。」
「大丈夫って……決まったのか、決まってないのかが、知りたいんだけど。」
「あ、まだ決まってないです。」
「そうか、決まるかなと思ってたけど……。お客さん、何か懸念事項について言ってた?」
「金額について不満そうでした。」
「もう一度聞くけど、不満だと「言った」の?」
「いえ、たしか……言ってないかと。」
「じゃ、なんで不満だと言えるの。」
「えーと…」
「もう一度聞くけど、なんて「言ってた」?」
「ええー……確か、金額については交渉の余地がありますか、と言ってました。」
「交渉ね……、なんて回答したの?」
「私の一存で決められませんので、持ち帰りますと。」
「そしたらお客さんはなんて言った?」
「納得してくれたみたいでした。」
「だ、か、ら、お客さんはなんて言ってたの?」
「あ、すみません。えーと……確か、わかりました、と言ってました。それと、今思い出したんですけど、見積もりを指定の様式にして欲しいとも言ってました。」
彼から話を聞くと、状況を把握するのに通常の3倍の時間がかかる。
何度かこのようなことが続き、私は彼に訓練を施して、きちんと「意見」と「事実」を区別できるように話せるまで、現場を任せてはいけない、と感じた。
このエピソードは、「この話は私のために書かれている」との共感を呼ぶことを意図して挿入されている。
そして、実際にこの記事は非常に大きく拡散された。

 

PREPではなくWPREP

つまり「記事」はPREPではなく、WPREP
W(Why)=なぜこんな記事が書かれたか
P(Point)=結論
R(Reason)=理由
E(Example)=具体例
P(Point)=結論を繰り返す
とせねばならない。このWhyのエピソードの出来が、平凡な三文記事と、非凡なバズ記事との境界となることも少なからずある。

 

つい先日noteでバズっていた以下の記事も、「結論」パートは、whyのあとに書かれている。
参考となれば幸いである。
 

 

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