「オウンドメディアは、費用対効果が合うのか問題」について。

このコンテンツは有料note「webライターとメディア運営者の、実践的教科書(安達裕哉著)」より転載しています。


最近、「オウンドメディアの閉鎖が相次いでいる」という記事を見ました。

ラジオでも話題になっているようです。

各メディアの閉鎖の理由は正直よくわかりませんし、個別の事情もあろうかと思いますので、これに対して分析を加えることは無意味でしょう。
おそらく、ついているコメントも憶測に過ぎないものが多いでしょう。

 

とはいえ、これからオウンドメディアを運営しようとしている企業や、ブログメディアを解説しようとしている方も読者の方には数多くおり、このような情報は有益です。

そこで今回は、弊社が行ってきた他社の支援と、自社オウンドメディアであるBooks&Apps運営の状況を踏まえ、オウンドメディアの費用対効果について書いてみたいと思います。

 

 

オウンドメディアにかかるコスト

さて、まずオウンドメディアの運営コストの話からです。

Books&Appsは2013年の2月から6年半に渡り、基本的には週7本程度の記事を出してきています。これは月間約25本〜30本のペースです。

最初の2年は私がライティング、編集、記事のアップロードをほぼ専任で行い、取締役の1名がライティングを兼任で行っていました。

これは、人月に換算して、約1.3人月です。(正社員の平均的な雇用コストで換算すれば、人件費を含めて月間80〜90万円程度です)

 

前の記事でご紹介したとおり、施策は功を奏し、アクセスも安定して月間100万PV以上が出るようになりました。

しかし、「安達ばかりが記事を書いている」のでは、メディアの広がりがありません。また、私がいちライターとして稼働するだけでは、会社が行き詰まります。

そこで、ライティングの外注を考えるようになりました。

 

余談ですが「記事の外注」については、様々な意見があります。
業界全体では、記事の質の低さ、WELQ問題など著作権侵害や、1記事500円程度の単価の安いライターの存在などに批判が集まったこともありました。

その影響で、中には「オウンドメディアは内製化すべき」という声もあります。あるいは「中身のある記事は、専門知識を持つ社員に」という方もいます。

 

しかし、内製化が可能となるのは「書ける人が社内にいる」ような潤沢な資源のある会社だけです。
例えば、オウンドメディアの失敗の主要因の一つは、書ける人が社内にいないのに、無理やり全員で持ち回りのような形にしてしまったことで、記事の質が低下してしまうことです。
また、どんなに優秀な人でも、質の高い記事を書こうとすれば、1日に1記事が限界ですので、その間「本業」は疎かになってしまいます。

 

ライティングを本業と同じくらい評価できる会社であれば、社員に書いてもらうことは合理的ですが、そうでなければ「書きたい」という社員はほとんどいないでしょう。
ライティングが「面倒で、評価されない嫌な仕事」と思わせてしまえば、その時点で記事の更新はストップしてしまいます。

結局の所、どんな仕事でも同じですが、外注は使いどころを考えて、というのが現実的なところです。

ただ、弊社においては、むしろ逆に、外注を積極的に登用する方向に舵を切りました。
なぜなら、トップブロガーなどの「書ける人」は、ファンを抱えており「自社だけでは獲得できないネットワーク」を得られるからです。

 

弊社ではライティング料は、その方のフォロワー数や、ライティング力にもよりますが、質を重視し、殆どの場合、1記事あたり2万円以上を提示しています。
したがって、月のライティング料の総額は40万円〜80万円ほどです。

 

なお、フォロワーを多く抱えており、1記事10万円以上という値付けをしてくる方もいます。
しかし、このような方に、ページビューの獲得を目的としたライティングを依頼をするのはあまり賢いとはいえません。
実際に検証をすると、Twitterのフォロワーからの流入は、その人のフォロワー数の1/10から1/5程度と、大した数ではないからです。

 

したがって、アクセス数目的ではなく、その人に書いてもらうことによる「ブランディング」の意味があれば、書いてもらうという程度でOKでしょう。

 

まとめましょう。

Books&Appsの運営にかかる費用は、ライターへの原稿料が40万円〜80万円、運営にかかる費用(ライター発掘、システム運営、SNSの運用)などが50万円程度(1人月程度)です。

結果的に、Books&Appsの現在の月間の維持運営費用は90万円〜130万円程度です。

これは、アクセスが1日あたり100程度しかない、立ち上げ当初から一貫しています。

 

 

オウンドメディアのメリットは?

上で見たように、Books&Appsという小規模なメディアですら、年間1000万円以上の費用がかかります。

要するに、イメージとしては内製外注問わず、1人〜2人貼り付けて運営するイメージでないと、オウンドメディアの運営はできない、ということです。

 

ただ、これだけの費用をかけて、どれほどのメリットがあるのか、と疑問に思う方もいるでしょう。Books&Appsが考えているメリットは、大小あわせて3つです。

1.リード獲得(セミナー申し込み、資料ダウンロード、メルマガ登録、相談会への誘引など)

2.信用アップ(採用、紹介など)

3.社員教育

 

あれ?広告収入は?と思う方もいるかも知れません。

たしかにオウンドメディアは、わずかながら広告収入が見込めます。

 

とはいえ、数百万ページビューあってもGoogle広告などからはせいぜい数十万円の収益しか見込みません。

広告を収益の柱とし、メディア単体で黒字化するならば、記事広告を得るか、アフィリエイト広告をするしかないでしょう。

しかし、記事広告は自社の営業が売るには難しすぎる商材である上に、「マスメディア」が競合であり、勝ち目は薄いでしょう。

 

また、アフィリエイトも「アフィリエイトサイト」と割り切って、緻密にSEO対策をしたり、コンバージョンポイントを研究するならば良いですが、そこまで運営の手間はかけられない会社がほとんどです。

 

 

自社のリード獲得に対する効果は抜群に高い

その反面、「自社専用の広告媒体」だと割り切ってしまえば、リード獲得に対する効果は抜群に高いです。

なぜなら媒体を読みに来てくれる人は、多少なりとも「自社のファン」であり、「見込み顧客」だからです。

 

商材にもよりますが、ビュー数に比例してリードの獲得が増えていくため、非常に短期的にも成果を出しやすいと言えます。

具体的には、セミナー申し込み、資料ダウンロード、メルマガ登録、あるいは相談会への誘引などを設定すると良いでしょう。

実際、Books&Appsではすべての記事の下部に、自社の営業セミナーの案内を入れています。

 

 

この「案内文」のコンバージョン率は1%〜5%程度ですが、ページビューが増えれば増えるほど、投下した費用に対する効果が高くなるので、リスティング広告やFacebook広告よりも遥かに高い効果を出すことができます。

また、リスティング広告やFacebook広告と併用し「不足した情報」を補う役割をもたせることで、広告の効果を高める役割をもたせることもできます。

 

 

信用向上=ブランディングとはすなわち「採用」と「紹介」につながる信用のこと

「オウンドメディアをブランディングにつかう」という言説をよく見かけますが、その正体が何かといえば、多くは「採用」と「紹介」につながる信用のことであると、Books&Appsでは定義しています。

逆に言えば「認知」を取れても、「信用」につながらない認知は、無意味だということです。

 

具体的には、採用の局面で応募の増加、辞退率の減少が見込めること。

 

営業の局面で、紹介によるリード増加、コンペによらない案件の増加、コンペであっても勝率の向上、単価のアップが見込めること。

それらが「信用」=「ブランディング」の正体であり、これに対してオウンドメディアは大きな効果を発揮します。

 

そして、それらの根拠にあるのは、心理学で言うところの、繰り返しの接触があれば、自然に好意が高まるという「単純接触効果」です。

要は「なじみのもの」は、様々な恩恵をうけることができる。オウンドメディアの目的は「ファンづくり」ですから、これらの事項との相性はたしかに良いと言えます。

 

なお、Books&Appsのお客様はほぼ全てが「紹介」および「弊社のセミナーにご出席いただいたお客様」です。

つまり「読者の方々」と一緒に仕事をさせていただくケースが圧倒的に多くなっています。

 

社員への教育効果

上の2つが外向きの効果なのに対して、「内側への効果」もあります。それが社員への教育です。

 

オウンドメディアは「考え方」や「思想」が色濃く反映されますので、「経営陣が普段から語っていること」がオウンドメディアに掲載されていれば、それを読むことで「思いを口頭で伝える」よりも明確に、それらを伝達することが可能です。

 

実際、Books&Appsの記事は、弊社の社員全員が購読しており、ミーティングで記事の内容について議論されたり、サービスの見直しにつながったりしています。

 

弊社では「明文化なくして改善なし」と謳っていますが、これを体現するのがオウンドメディアなのです。

 

 

閉鎖に至るオウンドメディアについて

冒頭で「様々なオウンドメディアが閉鎖」と報じられていました。

記事筆者の分析によれば「目的を見失った」「SEOが難しくなった」「コンバージョンが得られない」などとあります。

たしかに事実として、閉鎖に至るオウンドメディアは、成果を出すことに失敗したのでしょう。

 

しかし失敗したとしても、

「目的は再設定すれば良い」「SEOをやり直せば良い」「コンバージョンが得られるように調整すれば良い」と考えることができれば、閉鎖する必要はないはずです。

ではなぜ、閉鎖に至ってしまうのでしょう。

 

ここからは私たちの経験則です。

閉鎖に至るオウンドメディアは「自社内に読んでいる人が少ない」ことがほとんどです。

「そういえば、見たことないな」とか

「PVは多いみたいだけど、読んだことないね」とか

「マーケティングの人たちがやっているやつでしょ?」とか。

 

実際、自社の社員や経営陣などに愛されているオウンドメディアは、多少の不振では「やめよう」という意思決定には至らないのです。

たとえば、ある学習塾のオウンドメディアは、生徒だけではなく「先生」に読まれるコンテンツを作っていました。

その結果、初期の立ち上げ時の不振時には、「書きたい」という先生が現れ、成長期に置いては「先生」が自発的に自分のSNSアカウントから、記事の拡散を仕掛けてくれたのです。

 

前回、SNSからの流入を増やすには、という話を書きましたが、オウンドメディアの長期的な成功や、継続の意思決定でも、「身近な人たち」に読んでもらえるかどうかは非常に重要なのです。

(了)


 

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(2024/2/22更新)