炎上ではなく「まっとうな方法」で、人の注意をひく技術について。

このコンテンツは有料note「webライターとメディア運営者の、実践的教科書(安達裕哉著)」より転載しています。


先日、都内某所の母校で、「高校生に起業家精神を伝える」という授業があり、そこにゲストとして参加してきました。
テーマの1つが「インターネットで物を売るには」だったのですが、講師の提案により「4チームの対抗戦」となり、それぞれwebでうまく物を売る方法をプレゼンテーションする、という取り組みとなりました。

 

紙媒体はよく知らないですが、なんだかんだ言っても、webメディアは「読んでもらわなければダメ」ですし「売れなければダメ」なので、このあたりは私の専門ゾーンとも重なります。
張り切ってやろう、ということで高校生と膝を突き合わせて話をしました。

 

さて、ディスカッションしながら、自分が高校生の頃を思い出したのですが、振り返ると「自分が高校生の頃、自分が物を売ってみる」という発想は皆無でした。
なぜなら「ものを売る手段」が限られていたからです。

 

私が高校生の頃は、ものを買うのは基本的に「お店」であり、それなりに知られたお店で商品を取り扱ってもらうのは大変なことでした。
お店に営業し、商品をおいてもらう。
マス広告を売って、お店に来てもらう。
お店に来てくれた人に営業し、買ってもらう。
つまり「お店に人を呼ぶ」「お店に商品をおいてもらう」「買ってもらう」は一般人のものではなく、それこそ「営業」や「商売人」の持つ、限られたスキルでした。
そう言う世界に「広告に大量のお金を投下すれば、お店で売れる」と、広告代理店が世界中で大きくなったのは頷けます。

 

ところが今はスマホとECのおかげで「売る場所」は誰にでも開かれており、その気になれば誰でも商売を始めることができます。
「商品」も世界中から入手できる。そして「人を呼び込むツール」すら個人が扱うことができる。むしろマスメディアの情報よりも信用される。
そういう状況が、現在です。起業は少資本で可能になり、腕一つで誰でも起業できる時代になりました。
いい時代です。
そんなことを高校生の時点で知ることができるのは、なかなか羨ましい状況です。

 

だから、今の世の中で、究極的に重要なのは「人の注意をひく技術」といえます。
ある意味、それさえできれば、個人も会社も、なんとでも稼げるようになる。
Youtubeで注意を引けば、物が売れる。
Twitterでバズれば、「バズったので宣伝」といえる。
ブログが読まれれば、広告収入が得られる。
Facebookで注目されれば、職が見つかる。
そうして、影響力のある個人は、かつて力を持っていた広告代理店から、影響力とお金を削ぎとっているのです。

 

したがって、今回の起業講座では、高校生たちにはぜひ「まっとうな方法」で、人の注意をひくことを学んでほしいと、強く願います。
では「まっとうな方法」とは一体何でしょう。

 

「人の注意をひく」=「人の心をコントロールする」という考え方

その授業の後日、ディスカッションの中でこんな話が出ました。
「人の注意をひく」=「人の心をコントロールする」ではないか、というのです。
簡単に言えば、Evilではないか、ということです。
上は私の知人が投稿したもので、もちろん自チームを鼓舞するジョークであることを私は知っていますし、むしろお褒めいただきありがたいくらいです。

 

が、テーマとしては真剣に考える価値があると思っています。
なぜなら「人の注意を引く」ということが、どういうことなのかを理解していない人が、マーケターなどをやっているケースが散見されるからです。
そして、しばしば彼らはEvilです。

 

少し前、「CMは偏差値40にもわかるように作れ」という元電通社員の発言が、物議を醸したことがありました。

 

「電通の先輩が、『CMは偏差値40の人にも理解できるものじゃなきゃダメ。この会社にいる時点で普通ではないと自覚しろ。世間にはおそるべき量のおそるべきバカがいる。そしてそれが日本の「普通の人」だ』って言ってたの、一番役に立ってる教えの一つだ」
言わんとしていることはわからなくはありません。
偏差値40以上の人を対象にするほうが、偏差値60以上の人を対象とするより、マーケットを広く取れる。
人の注意を引きたいなら、できるだけ対象者を広く取れるように「メッセージは簡単にしなさい」ということでしょう。

 

でも、完全な間違いです。
いま、webマーケティングをやっていて、「偏差値40以上」という形で対象者を絞ることもないですし、そもそもこのやり方はすでに通用しません。
なぜならこれは「マス広告」が全盛だった頃の話だからです。

 

実は、この発言と「人の心をコントロールする」の根っこは一緒です。
要は、「読者はバカであり、コンテンツの受け手の心は、コントロール可能である」との侮りが、作り手の心にあるわけです。
ピーター・ドラッカーは、これを「心理的専制」とよび、強く否定しました。
いかに多くの心理学セミナーに参加しようとも、心理的専制を実践しようとしてはならない。自らが最初の犠牲者になるのがオチである。失敗するに決まっている。成果はあがらない。
仕事のうえでの人間関係は尊敬に基礎を置かなければならない。これに対し心理的専制は、根本において人をばかにしている。伝統的なX理論以上に人をばかにしている。
心理的専制は、人が怠惰で仕事を嫌う存在とまでは仮定しないかもしれないが、マネジメントだけが健康で、他の者はすべて病気であると仮定する。マネジメントだけが強く、他の者はすべて弱いとする。マネジメントだけが知識をもっており、他の者はすべて無知であるとする。マネジメントだけが正しく、他の者はすべて愚かであるとする。
まさに傲慢で、ばかげた仮定である。
上のドラッカーの示唆の中で、最も重要なのは
「仕事のうえでの人間関係は尊敬に基礎を置かなければならない。これに対し心理的専制は、根本において人をばかにしている。」
という部分です。

 

つまり、メディアの発信者であるということは、「読者に敬意を払う」ということが第一になければなりません。
そうしなければ、発しているメッセージがいかに正しくても、読者の注意をひくことはできません。せいぜい、悪い印象を与えるだけ。
長期的な関係を読者と築くことは不可能です。
思想家の内田樹さんは、ブログの中で、こんな事を言っています。
出版の社会的使命は何か、それぞれの媒体はどのようなメッセージを、どのような文体において発信すべきか、その企図をどのような人物に託すべきかといったことの決定は編集者の権限に属することであり、それについては責任を負わなければなりません。
それがどれくらいのリスクと覚悟を伴う仕事であるかについて自覚が今回の当事者たちにはあまりにも不足していたように僕には思えました。

 

とりわけ、僕が気になるのは「新潮45」に掲載された文章の多くに「読者に対する敬意」が欠落していたことです。

 

「言論の自由について」という文章に書いた通り、出版物のクオリティを最終的に担保するのは、何よりも編集者と書き手が読者にメッセージを差し出すときの「敬意」だと僕は思っています。

 

できるだけ論理的に書く、ただしいデータに基づく、引用出典を明らかにする、カラフルな比喩をつかう、わかりやすい事例を引く、情理を尽くして説く、どれも「読者に対する敬意」の表現だと僕は思っています。

 

でも、現在の出版状況を見ると「読者に敬意を示さない」ことでビジネスが成立している場面が少なくありません。ことは出版だけに限りません。僕はテレビというものを観なくなって久しいのですが、それは「視聴者に対する敬意」というものをもうほとんど感じることができないからです。

 

もちろん、実務的にも、「人の注意を引くこと」と「誰でも理解できるメッセージにすること」には、かなり大きな隔たりがあります。
一方通行の「広告」であれば「誰でも理解できる」は正しいかもしれません。
しかし双方向の現在では「誰にでも届くメッセージにする」ことはやってはならず、読者の考えを尊重して、解釈は読者に委ね、「賛否両論ある」ほうが、遥かによく読まれます。
「誰でもわかる」のは単に「薄い内容」の言い換えに過ぎません。

 

「人の注意をひく」=「自分への敬意を感じるコンテンツ」

そう考えれば、「人の注意をひく」のは、自分を操作しようとするコンテンツや、自分をバカにしてくるコンテンツではなく、「自分への敬意を感じるコンテンツ」であることは明白です。
だから、以下のようなことを電通の社員が本気で考えているとすれば、彼らはwebにおけるマーケティングで大成することはないでしょう。

 

読者は敏感です。内田樹さんの言うように
できるだけ論理的に書く
ただしいデータに基づく
引用出典を明らかにする
カラフルな比喩をつかう
わかりやすい事例を引く
情理を尽くして説く
などはポジティブな印象を持ってもらえますが、
タイトル詐欺
煽っているだけ
論理的に不整合
出典がない
事例が不適切
極論
などの読者を小馬鹿にするコンテンツは、長期的には全ての信用を失い、市場から退出させられます。

 

「メディア関係者は謙虚であれ」というのは、真の意味で、それに携わる者にとっての金言なのです。
(了)
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(2024/2/22更新)