「現場の生きた知識」としてマーケティングを学ぶ、最もシンプルで、効果的な方法

このコンテンツは有料note「webライターとメディア運営者の、実践的教科書(安達裕哉著)」より転載しています。


マーケティングに関しての相談は、
「自社のマーケティングを強化したい」
というものが、当然のことながら多いのですが、それに次いで多いのが
「マーケティングを学びたいが、どうしたらよいか」
というものです。
 
そして、そのような方に共通しているのが「どこから学べばよいかわからない」という悩みです。
もう少し解像度を上げると、
「マーケティングという言葉は知っているが、実態がつかみにくい、それゆえ、手を付けるべき場所がわかりにくい」
ということかもしれません。
 
では、なぜ実態がつかみにくいのでしょうか。
それは、マーケティング活動が対象とする領域が、販促のみならず、
商材、値付け、販路など、多くの企業活動に及ぶからです。
 
そのあたりが腹落ちしないまま、漫然と本やセミナーマーケティングを学んでも、概念が抽象的すぎたり、知識や方法論が断片的すぎて、今ひとつピンとこないのです。
 
では、どうすべきか。
ここでは、具体的な、私がマーケティングを身に着けたときの話をしましょう。
 
現場のコンサルタントとして、それなりの成果を上げた私は、人員不足という事情もあり、2004年頃にマネジャーに昇進しました。
 
そこで部門の売上責任を持たされ、初めてマーケティングを学びました、いや正確に言えば、学ばざるを得ませんでした。
なぜなら、「営業を愚直にやっているだけでは、目標の数字に遠く届かなかったから」です。
当時、私が所属していた部門は、ISOを始めとした、いわゆる「マネジメントシステム」のコンサルティングを主力商材としていました。
 
当時、ISOの認証取得は一種の流行でした。
大手企業はもちろん、中小企業も、大手の取引先から認証取得を求められたところが多かったため、企業規模に関わりなく、コンサルティングを必要としていたのです。そのため、我々の部門には毎日のように、多くの引き合いが来ていました。
 
ところが、私の上司は非常に野心的な人物だったため、「ブームに乗って、会社を一気に大きくしたい」と、非常に大きな売上目標を立てたのです。それは、毎日くる引き合いを頼みにしていては、全く目標に届かないくらいでした。
 
そうなると、結局自分たちで「案件の引き合い」を作り出さねばなりません。ここが、私にとってマーケティングを理解する最初の一歩になりました。

まずは「販促」から入った

ところで、引き合いを作り出すには、どうしたら良いでしょう。
コンサルティングは高額商材なので、問い合わせが入って、そこに営業に行ったら即受注、という流れにはほとんどなりません。
 
多くの場合、顧客との最初の接点は「セミナー」です。
情報収集のためにセミナーに参加した顧客の一部が、コンサルティングサービスにも興味を持ち、営業につながる、というのが最も確度の高い、受注の経路でした。
したがって、当面のマーケティング目標は「セミナー参加者を増やす」ということに置かれました。
 
しかし当時の私は、「マーケティング」のマの字もしりませんでした。
当然、「セミナー参加者増やすには」→販促活動、つまり「広告/チラシ」という発想になります。
そこで最初に試みたのが、「法人の名簿」を購入し、そこにダイレクトメールを送りつけ、セミナー参加を誘引する、という施策でした。
 
ダイレクトメールには郵送という方法もありましたが、限られた予算で多くの見込み客を集めるためには、FAXによるDMのほうが費用対効果が高く、何万件という名簿を、名簿業者から買い、そこに対してFAXDMを繰り返し送りました。
 
しかし、名簿も使い続けると、当然のことながら反応は送るたびに低くなっていきます。
また、これ以上DMを送るな、というクレームももらうため、有効に機能する名簿の数も徐々に目減りしていきました。
名簿が不足すれば、引き合いが減ります。
そうすれば、売上目標を達成することは出来ません。そのため我々は、「FAX番号」の入った名簿を売ってくれる業者を探しました。
中には「高額ですが、良い名簿を持っていますよ」という業者も存在していましたが、そういった業者の有している名簿は数が少なく、どんな名簿であっても殆どの場合、費用対効果はそれほど変わりませんでした。
また、セミナーへの誘引ではなく、直接の「引き合い」を増やすために新聞やビジネス紙への広告を出したこともありましたが、殆どの場合、名簿購入とFAXDMの組み合わせほどの効果はなく、「高い割には効果がない」というのが、マスメディアへの広告出稿の感想でした。
BtoBの、しかもコンサルティングという商材では、致し方ない結果だったと思います。

「名簿」を使い尽くし、販促ではなく「販路」に目を向けるように

こうして活動を繰り返すうちに、名簿は次々に枯渇するようになりました。
新しい名簿が欲しくても、もう新しい名簿はどこにもないのです。困りました。
 
そんなとき、一人の極めて優秀なコンサルタントが、私の思っても見ないような考えにたどり着きました。
新しい名簿がないなら、「名簿」を持っている会社と組めば良いじゃないかというのです。
つまり、自分たちで無理して名簿を入手するのではなく、名簿を大量に保有している会社や、自分たちと顧客のターゲットが似通っている会社と組むのです。
 
セミナーを作るのは面倒であり、かつ講師をするのには一定の技術が必要ですが、コンサルティング会社はそれが得意です。
 
我々は流行りのISOという商材について、セミナーを提供できる。
組む相手は、コンサルティング会社の持つ「セミナー」という撒き餌をつかい、既存客の名簿を活かすことが出来る。
これは、win-winの関係が築けるのではないか、と思い、法人顧客を大量に有している、大手企業に個別にコンタクトをとり、共催セミナーをやらないか、と持ちかけたのです。
結果的にこの施策は大当たりでした。
 
特に「e-ラーニングの会社」と、「損害保険会社」との共催セミナーは通算での共催セミナーの回数が数十回を超えるほどの盛況ぶりで、全国で何度もセミナーを開催しました。
 
また一度「販路」に目を向けるようになると、我々の過去の既存客から「紹介」を貰えばよいのではないか、という発想にもなりました。
 
そこで、担当のコンサルタントたちを動員して、「顧客満足度の調査」をするとともに、満足度の高い顧客に対して、「紹介」をお願いするという仕事を行いました。
紹介の件数を、コンサルタントの業績の評価の一部に組み込むなどをした結果、こちらも相当数の案件を獲得する運びになりました。
こうして我々は、マーケティング活動のうち、「販促」と「販路」という2つの要素を利用するに至ったのです。
 

結局、最後は「商材の大改訂」と「価格」に行き着く

ある程度安定的にセミナー参加者を獲得し、引き合いを発生させることが出来ましたが、まだまだ売上目標には足りません。
そこで再度検討をした結果、これ以上の売上をたてるには、「営業活動の受注率」を向上させることが必要だとの結論に至りました。
当時の営業活動の受注率は、約4割。
これを6割から7割程度に引き上げるだけで、売上は1.5倍になります。
 
そこで、営業活動のプロセスと、失注の要因を徹底的に見直した結果、あるポイントで、失注が多く発生していることに気づきました。
そのポイントとは、コンサルティングツール(エクセルの様式)を見せたときの、お客さんの反応です。
 
当時使っていたその様式は、お客さんの目から見て「このプロジェクトは面倒そうだな」という反応がほとんどだったのです。
これは、ISOの審査を受ける上で、審査員が頻繁に指摘を出すポイントになっていたため、保守的に考え、多くの書類をあらかじめ用意していた部分でもありました。
 
しかし、考え直してみれば、これはお客さんの負担になるばかりでなく、我々にとっても受注の障害になります。
審査員のために、意味のない作業をお客さんにやらせることは、こちらとしても本意ではありません。
そこで、ISOの解釈を拡張し、最低限の書類でも審査に適合するように、様式を根本から見直しました。
労力は今までの作業の1/10程度になった、と言っても良いくらいの大改訂でした。
 
しかし、このままでは審査の現場で、審査機関とトラブルになりかねません。そこで我々は、審査機関の責任者と対話を持ち、「ISOの要求解釈」について意見交換を重ねました。
何社かの審査機関は、我々の利用している様式に対して、「簡便すぎる」という理由で合格を出せない、という判断をしましたが、逆に何社かの審査機関は「この様式でも、この解釈と運用ならば合格が出せる」との見解を出したので、我々はそうした審査機関とだけ、付き合うことにしたのです。
 
この改定には、大きく2つの利点がありました。
一つは、簡便な作業でも認証取得が可能になったため、コンサルティング競合他社との、かなりの差別化が可能になったこと。
そしてもう一つは、コンサルティングの工数が削減できたため、価格競争力が生まれたことです。
さらに、他社とのやり方の違いが際立っていたため、出版社に声をかけたところ、「これは面白い」と本を出す運びになったことも追い風となりました。以下は、実際に当時執筆した本です。
この本は、類書としてはベストセラーになり、多くの引き合いと、セミナー参加者を生み出してくれました。
 

試行錯誤の果てにたどり着いた「マーケティングの4P」

ここに来て、マーケティング活動は、「販促」「販路」「商品」そして「価格」までをカバーすることになりました。
そしてこの活動は、奇しくも「マーケティングの4P」(Promotion、Place、Product、Price)と言われるフレームワークを満たしていたのです。
 
本やセミナーなど、予め机上で「4P」を学んでも、おそらく今ひとつ「4P」は腹落ちしなかったでしょう。
 
しかし、実際に高い売上目標に対して、それを満たすために「何でもやろう」と腹をくくると、結局は、販促だけやってもダメで、販路を拡大し、商材を見直し、価格競争力を考えなければならなくなるのです。
 

「現場の生きた知識」としてマーケティングを学ぶ、最もシンプルで、効果的な方法

では、この記事のタイトルを回収していきましょう。
結局の所、マーケティングは理論ではなく、実学そのものですから、現場で高い目標を与えられて初めて、実際に納得することが数多くあります。
そのため、私がそうであったように、「マーケティングを学ぶなら、仕事で、高いマーケティング目標を課せられる」ということが、最も効果的なのは間違いありません。
とくに、最初からマーケティングの仕事をするのではなく、「営業活動」を経た後に、その前段階であるマーケティングの仕事に携わると、圧倒的に仕事の解像度が高くなります。
 
したがって、私が勧めるのは
営業をやった後に、その経験を生かしてマーケティングの仕事に就くです。
 
しかし、日本において、とくに中小企業では「マーケティングの仕事」が、独立して、一つの部門になっていることは珍しいでしょう。
多いのは、「営業の一部」が、兼任している状態です。
また、大企業においては「機能特化」の方針で、販促は、広告運用部門のみ、提携は別の実働部署、商品に至っては商品開発部門でなければ、手が出せない、ということもよくあります。
 
ですから、もしあなたが中小企業でマーケティングの仕事をしたいなら、まず営業で成果を上げて、「マーケティングの仕事」まで仕事の領域を広げることを試みるのがベストです。
 
もしそこでの仕事がマーケティングの全領域に及ばずとも、その経験は転職の時に大きなアピールポイントになりますから、マーケティング専門会社に転職することはかんたんでしょう。
何しろマーケティング経験者は少なく、マーケティング会社の採用担当は、経験者を血眼になって探しているのです。
 
また、大企業ではなにか一つ、「販促」か「PR」など、特定の機能に特化した仕事をまず手掛けることから始めましょう。
ある程度仕事ができるようになったら、転属を願うか、転職を狙います。
あまり一つの仕事を長く続けると、転職がしにくくなりますから、一つの仕事に付き、2年程度やれば十分だと考えてください。
いくつかの経験をしたら、大企業で「マーケティング専門部隊」存在しているか、マーケティング専門会社への転職を狙います。
 
結局のところ、全体を見渡せる仕事をしなければ、いつまでたってもマーケティングではなく「販促」しか学べませんので、一度くらいはスタートアップなどに転職し、「すべて」を見渡す経験を積んでおくのも手です。
 
繰り返しますが、マーケティングは実学なので、机上の論理を学ぶのは、「実務」をやったあとの方が、絶対に効果が高いです。
ですから、実務をやりながら都度勉強する、という態度を忘れないでください。
 
そういう意味では、将来マーケティングを仕事にしたい、あるいはマーケティング会社などに就職を狙っている学生などは、インターンで「マーケティング」の仕事を狙うか、アルバイトでマーケティングのアシスタントなどを募集している会社に潜り込んでしまうのが、最も効率の良い学び方です。

まとめ

「現場の生きた知識」としてマーケティングを学ぶ、最もシンプルで、効果的な方法は、とにかく「実務」です。
マーケティングは、実務で高い目標を背負い、試行錯誤を繰り返すことでしか身につかないタイプの技能ですから、「学校」や「セミナー」、いわゆる「勉強」から入るのはお勧めしません。
 
そんなことをするくらいなら、自分でECサイトを立ち上げてブログを書く、あるいはアフィリエイトや営業のアルバイトをしたほうが、よほど技能が身につきます。
くれぐれも「勉強」に逃げないように。
泥臭いマーケティングの現場に身をおいてください。
 

 

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(2024/2/22更新)

 

【著者プロフィール】

安達裕哉

元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。

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