【弁護士監修】web上で誹謗中傷を受けた場合の対処法と、相談先の詳細。

このコンテンツは有料note「webライターとメディア運営者の、実践的教科書(安達裕哉著)」より転載しています。


SNSやブログなど、web上での発信が増えると、人の悪意に触れることも少なくありません。
その中には根も葉もないことを主張し、発信者を誹謗・中傷することを目的としたものも存在します。
 
実際、SNS・口コミサイト・ネット掲示板などでの誹謗中傷は、毎日膨大な件数が投稿されており、大きな社会問題となるケースも。
誹謗・中傷は、危険かつ悪質な行為であり、法律上も、被害者の人権を侵害するような誹謗中傷に対しては、刑事罰や損害賠償などの形で制裁が加えられます。
 
しかし、自分が「誹謗・中傷を受けた」と感じても、それに対してどのような手を打つべきか、一般的にはあまり知られていません。
 
そこで今回は、インターネット上に投稿される誹謗中傷について、法的な観点から、以下のようなコンテンツに幅広くまとめました。
・そもそも、誹謗中傷とは何か(名誉棄損・侮辱、不法行為)
・加害者の法的責任を追及するには
・無料でも相談できる相談先はどこか
誹謗中傷の被害に対処する際のご参考としてください。
もし誹謗中傷の被害を受けた場合は、速やかに適切な機関へ相談して、刑事告訴や損害賠償請求などを通じて加害者の責任追及を行いましょう。
 
 

1. 誹謗中傷の違法性と法的責任の内容

違法な誹謗中傷を行った加害者には、刑事責任と民事責任という2種類の法的責任が発生します。
 
1-1. 刑事責任と民事責任の違いについて
刑事責任は、犯罪に手を染めた者に発生する法的責任で、犯人には刑事罰が科されます。
民事責任は、他人に損害を与えた者に発生する法的責任で、加害者は被害者に対して損害賠償等の義務を負います。
刑事責任と民事責任は、根拠となる法令や考え方が異なるため、区別して検討することが必要です。
 
1-2. 誹謗中傷の刑事責任|名誉毀損罪・侮辱罪
刑事責任の観点からは、誹謗中傷には「名誉毀損罪」(刑法230条1項)と「侮辱罪」(刑法231条)という2種類の犯罪が成立する可能性があります。
 
1-2-1. 名誉毀損罪の成立要件・法定刑
名誉毀損罪は、以下の要件をすべて満たす場合に成立します。
 
①公然と
=不特定または多数の人に伝わる可能性がある状況で、問題の言動が発せられたこと
 
②事実を摘示して
=問題の言動を発する際に、何かしらの事実を提示したこと
(例)Aは不倫をしている人間のクズだ
→「不倫をしている」の部分が「事実の摘示」
 
③他人の名誉を毀損したこと
=問題の言動が、被害者の社会的評価を下げる性質のものであること※
※実際に社会的評価が下がらなくてもよい
 
④公共の利害に関する場合の特例(刑法230条の2)に該当しないこと
=以下の要件のうち一つでも満たさないこと
(i)問題の言動が、公共の利害に関する事実に関係すること
(ii)問題の言動の目的が、専ら公益を図ることにあったと認められること
(iii)摘示した事実が真実であることの証明があったこと※
※問題の言動が意見・論評の場合は、前提としている事実が重要な部分について真実であることの証明があったこと。ただし、人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものである場合、名誉毀損罪の違法性は阻却されない
 
⑤名誉毀損の故意があること
※摘示した事実が真実であると誤信したことにつき、確実な資料・根拠に照らして相当の理由がある場合には、故意が否定される(最高裁昭和44年6月25日判決)
名誉毀損罪の法定刑は、「3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金」です。
 
1-2-2. 侮辱罪の成立要件・法定刑
侮辱罪は、以下の要件をすべて満たす場合に成立します。
 
①公然と
=不特定または多数の人に伝わる可能性がある状況で、問題の言動が発せられたこと
 
②他人を侮辱したこと
=問題の言動が、被害者の社会的評価を下げる性質のものであること※

※実際に社会的評価が下がらなくてもよい

 
③事実の摘示がないこと
①と②については、名誉毀損罪と実質的に同じ要件ですが、③の「事実の摘示」があるかないかという点に、名誉毀損罪と侮辱罪の違いがあります。
事実の摘示がなされた方が、言動の信ぴょう性が高まり、被害者に与える損害は大きくなると考えられるため、侮辱罪は名誉毀損罪よりも軽い犯罪です。
この点は法定刑の差にも反映されており、侮辱罪の法定刑は「拘留または科料」と軽くなっています。
 
1-3. 誹謗中傷の民事責任|不法行為
民事責任の観点からは、誹謗中傷には「不法行為」(民法709条)が成立する可能性があります。
不法行為は、以下のすべての要件を満たす場合に成立します。
 
①故意または過失があること
※摘示した事実(意見・論評の場合は前提としている事実)が真実であると誤信したことにつき、確実な資料・根拠に照らして相当の理由がある場合には、故意・過失が否定される
 
②問題の言動が違法であること
※前述の公共の利害に関する場合の特例(刑法230条の2)の要件を満たす場合には、違法性が阻却される
民法上の不法行為については、刑法上の名誉毀損罪・侮辱罪と異なり、「公然と」の要件が外れています。
したがって、対面やプライベートなメッセージで直接誹謗中傷された場合にも、不法行為は成立する余地があります。
 

2. 誹謗中傷を受けた場合に、加害者の責任を追及する方法

誹謗中傷の被害者が、加害者の法的責任を追及する方法には、「刑事告訴」「損害賠償請求」「名誉回復措置の請求」の3つがあります。
 
2-1. 刑事告訴する
加害者に刑事罰を与えることを希望する場合には、被害者は警察または検察に対して刑事告訴ができます(刑事訴訟法230条)。
刑事告訴を受けた場合、警察・検察は犯罪の捜査を行い、事情によっては加害者を逮捕・起訴して刑事裁判にかけます。
刑事告訴は、警察署等に足を運んで、告訴状を提出する方法で行います。
 
2-2. 損害賠償を請求する
誹謗中傷によって被った精神的損害や営業上の損害の回復を図るには、加害者に対して損害賠償請求を行います。
損害賠償は、示談交渉や民事訴訟を通じて請求します。
弁護士を代理人とすれば、交渉や訴訟手続きを代行してもらうことが可能です。
 
2-3. 名誉回復措置を請求する
誹謗中傷が名誉毀損に当たる場合、被害者は裁判所に対して、加害者に名誉回復措置を命ずることを請求できます(民法723条)。
名誉回復措置の代表例は、謝罪・訂正広告の掲載です。
名誉回復措置の請求は、民事訴訟を通じて行う必要があります。
 

3. 誹謗中傷の匿名投稿者は「発信者情報開示請求」によって特定可能

インターネット上での誹謗中傷は、匿名で投稿されることもよくあります。加害者の法的責任を追及するには、投稿者が誰であるかを特定しなければなりません。
そのためには、「発信者情報開示請求」を行うことが考えられます。
 
3-1. 発信者情報開示請求の要件
発信者情報開示請求は、プロバイダ責任制限法※14条1項に基づき、以下の要件をいずれも満たす場合に認められます。
 
①誹謗中傷投稿の流通によって、請求者の権利が侵害されたことが明らかである
②開示を求める発信者情報が、損害賠償請求権の行使のために必要であるなど、開示を受けるべき正当な理由がある
 
問題の投稿が誹謗中傷に当たることが明らかであり、かつ加害者に対する損害賠償請求を予定している場合、被害者は発信者情報開示請求により、加害者の個人情報等の開示を求めることができます。
発信者情報開示請求は、裁判所に対する仮処分申立てを通じて行うのが一般的です。
 
3-2. 発信者情報開示請求により、匿名投稿者を特定するまでの流れ
発信者情報開示請求は、大まかに以下の流れで行います。
 
①サイト管理者に対する発信者情報開示請求
誹謗中傷の投稿に用いられた端末のIPアドレスの開示を請求します。
IPアドレスの履歴は、3~6か月程度で削除されることが多いので、早期の対応が必要です。
 
②IPアドレスからインターネット接続業者を特定
IPアドレスを用いて、誹謗中傷の投稿に用いられた端末が、どの業者を通じてインターネットに接続していたかを割り出します。
 
③インターネット接続業者に対する発信者情報開示請求
投稿者本人が契約している回線からの接続であれば、インターネット接続業者が投稿者の個人情報を保有しているので、その情報の開示を請求します。
なお、投稿者本人が契約している回線からの接続ではない場合、インターネット接続業者から投稿者の個人情報の開示を受けることができません。
この場合、投稿者を特定するためには、接続場所(フリースポット、ネットカフェなど)と投稿日時や施設の利用履歴を照合するなどの対応が必要になります。
 
3-3. 2022年10月までに施行予定|簡素化された「発信者情報開示命令」が利用可能に
現行の発信者情報開示請求は、前述のとおり多段階の仮処分申立てが必要であり、手続きが煩雑で時間がかかるという問題点が指摘されています。
この問題点を解消するため、2022年10月までに施行予定の改正プロバイダ責任制限法では、新たに「発信者情報開示命令」の制度が設けられることになっています。
発信者情報開示命令を裁判所に申し立てると、サイト管理者とインターネット接続業者に対する開示請求が、実質的に1つの手続きで審理されます。
また、仮処分申立ての手続きよりも簡素な「非訟事件」として処理されるため、審理の迅速化が期待されています。
改正プロバイダ責任制限法が施行されれば、従来の発信者情報開示請求は、新設される発信者情報開示命令の申立てに置き換わっていく可能性が高いでしょう。
 

4. 誹謗中傷が問題となった裁判例

インターネット上での誹謗中傷被害を訴え、損害賠償請求の可否が問題となった裁判例を2つご紹介します。
 
4-1. 論文の捏造・改ざんを告発する記事をネット上に掲載した事例
出典:仙台地裁平成25年8月29日判決
 
原告は、ある国立大学法人の総長を務めていました。
被告は、自らを代表者とする団体のホームページ上で、原告の過去に発表した論文の捏造・改ざんを告発する記事を掲載したところ、原告が被告に対して名誉毀損に基づく損害賠償請求を提起しました。
 
本件では、論文の捏造・改ざんがあったことは真実であり、名誉毀損としての違法性が阻却されるのかどうかが主要な争点となりました。
裁判所は、論文の捏造・改ざんがあったとは認定できないと判示し、真実性の証明による違法性阻却を否定しました。
被告は、論文の捏造・改ざんを信じたことについて相当な理由があったため、不法行為の故意または過失が認められないと反論しました。
しかし、被告の告発は科学的合理的理由を欠くとして、学会において不受理とされたことなどを理由に、裁判所は被告の反論を退けました。
最終的に、裁判所は被告に対して、計110万円(慰謝料100万円、弁護士費用10万円)の損害賠償を命じました。
 
本事案は、被告は自身の言動を根拠のある批判だと考えていたものの、実際には科学的根拠を欠いた思い込みによる誹謗中傷であったと、裁判所によって断罪されたケースと言えます。
 
4-2. 市長の汚職を告発する記事が週刊誌等に掲載された事例
出典:東京地裁平成31年3月5日判決
 
原告は、茨城県守谷市の市長を務めていました。
被告は週刊誌の発行会社で、同週刊誌の名称を冠したウェブサイトも併せて運営していました。
被告は、週刊誌とウェブサイトにおいて、「茨城 守屋市長の『黒すぎる市政』に地方自治法違反疑惑」と題する記事を掲載したところ、原告が被告に対して名誉毀損に基づく損害賠償請求を提起しました。
 
裁判所は、意見・論評による名誉毀損に関する最高裁判例の判断枠組みに従い、以下の2段階によって、名誉毀損としての違法性が阻却されるのかどうかを判断しました。
 
①意見・論評の基礎としている事実が、重要な部分について真実であったと証明されたか、または真実であると信じるべき相当な理由があったか
 
②人身攻撃に及ぶなど、意見・論評としての域を逸脱したものでないか
その結果、被告が記事中で摘示した3つの事実のうち、1つは上記の違法性阻却要件を満たすとされたものの、残りの2つは①の要件を満たさず、名誉毀損が成立すると判示しました。
 
最終的に、裁判所は被告に対して、計165万円(慰謝料150万円、弁護士費用15万円)の損害賠償を命じました。
 
本事案は、週刊誌が取材によって公人の不祥事の影を掴んでいたものの、内容を誇張しすぎた形で記事を掲載したことにより、損害賠償請求という形で返り討ちに遭ってしまったケースと言えます。
 

5. 誹謗中傷の相談先

誹謗中傷の被害に遭った場合、公的機関・民間団体・弁護士などに相談することができます。
精神的な辛さを感じた場合は、一人で抱え込むことなく、すぐにでもお近くの窓口へご相談ください。
 
5-1. 法務省の人権相談窓口
法務省の人権相談窓口では、人権侵害一般についての相談を受け付けています。
インターネット上での誹謗中傷被害についても相談可能です。
悪質な誹謗中傷については、法務局がプロバイダに対する削除要請を行ってくれることもあります。
参考:人権擁護局フロントページ|法務省
 
5-2. 総務省の違法・有害情報相談センター
総務省の違法・有害情報相談センターは、インターネット関連のトラブル全般について相談を受け付けています。
インターネットに関する専門的知識を備えた相談員が常駐していることが大きな特徴で、誹謗中傷投稿の削除依頼等の方法についてもアドバイスを受けられます。
参考:違法・有害情報相談センターHP
 
5-3. セーファーインターネット協会の誹謗中傷ホットライン
インターネットの悪用防止などを目的に設立された民間団体の「一般社団法人セーファーインターネット協会」は、「誹謗中傷ホットライン」を設け、被害者からの相談を受け付けています。
相談は一律無料で、削除依頼を代行してもらうこともできます。
参考:誹謗中傷ホットライン|セーファーインターネット協会
 
5-4. 弁護士会
各都道府県の弁護士会では、法律相談センターを設置して、法律に関する相談を全般的に受け付けています。
相談は有料のケースが多いですが、無料相談を実施している場合もあります。
また、都道府県弁護士会を通じて、誹謗中傷被害への対応に長けた弁護士の紹介を受けることも可能です。
参考:全国の弁護士会の法律相談センター|日本弁護士連合会
 
5-5. 法テラス
法律家に対する市民のアクセスを確保する目的で設置された「法テラス」は、経済的に困難な状況にある方に向けて、無料の法律相談を実施しています。
法テラスでは、弁護士の紹介も受けられるほか、収入・資産の要件を満たせば、弁護士費用の立替払いをしてもらうことも可能です。
立て替えてもらった費用は、原則として分割で返済する必要がありますが、生活保護受給者などは返済を免除される場合もあります。
参考:STEP2. 無料の法律相談を受けたい|法テラス
 
5-6. 個々の弁護士事務所
弁護士事務所に直接連絡をとり、誹謗中傷投稿の削除や損害賠償請求等の対応を依頼することも有力な選択肢です。
代理人としての立場で、依頼者の権利を守るための直接的・具体的な行動をとってくれる点が、弁護士に相談することの大きなメリットと言えます。
複数の弁護士から話を聞いて、正式依頼時の費用につき相見積もりを取得することも効果的です。
法律相談自体は無料で実施している弁護士も多いので、世間のイメージよりは気軽に相談できます。
 
 
もちろん、ケースにより、考慮すべき事項や対応すべき事柄は千差万別ですので、困ったときは、専門家に相談するようにしましょう。
 
※1
正式名称は「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」
 

 

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(2024/2/22更新)

 

【著者プロフィール】

安達裕哉

元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。

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