「趣味で読む」のと、「仕事で読む」のでは、全く読み方が違う

このコンテンツは有料note「webライターとメディア運営者の、実践的教科書(安達裕哉著)」より転載しています。


仕事がら、大量の資料を早く読まねばならないことが結構あります。
 
コンサルタント時代は、「現状調査」のために、お客さんの会社に関する資料、例えばマニュアルや事業計画、提案書、契約書、そのほか規約や各種のグローバル規格など、必要とあれば、何でも読む必要がありました。
今でもそれは続いており、「webマーケティング」「記事制作」の仕事においては、書籍に始まり顧客のマーケティングに関する内部資料、調査報告、商品概要など、多種多様な文章を読む必要があります。
 
こうした、仕事のための文章読解は、自らの楽しみのために読む行為と異なり、明確に「目的」と「締め切り」が決まっているので、のんびり読んでいるわけにはいきません。
 
また、小説や漫画と違って精緻に文章を読んでいく必要があります。
したがって、仕事で必要な、多種多様な資料を「早く読む」方法の習得は必須でした。
 

「趣味で読む」のと、「仕事で読む」のでは、全く読み方が違う

特に注意しなければならないのは、「本を読むのが早い」からと言って、資料を読むのが早いとは限らない点です。
 
さらに「趣味で読む」のはあくまでも、自分のためであり、多少の誤読があっても、それは自己責任というか、誰にも迷惑はかけません。
それに対して「仕事で読む」行為は、基本的に誤解は許されません。
 
ちょっとした誤読一つで、「あなたちゃんと読んでないね」と信用を失ってしまうことも珍しくないのです。
では具体的に、どのように読み方が違うのでしょう。
 
私が実践してきた「仕事における文章の読み方」は、以下の点において、「自分のために読む」読み方とは異なります。
このため、「早く読む方法」も必然的に、趣味や自己研鑽の読み方とは異なりました。
 

1.必要な部分だけ取捨選択して読む

最初のポイントは、資料の読み方はよく言われる、「速読」ではないという点です。
 
余談ですが、実際には「速読は不可能」という研究もあるくらいなので、速読の信憑性に関しては、いささか疑問が残りますが。
速読は実は不可能だと科学が実証「現存する科学的根拠によれば、速度と正確さには反比例の関係があり、読み手が読むべき文書にかける時間が短いと、その分だけどうしても理解が劣ってしまいます」とカリフォルニア大学の心理学者であり、その研究論文の著者でもあるElizabeth Schotter氏は述べています。
 
ただいずれにせよ、速読の目的は、「早くすべてのページに目を通す」ことです。
それに対して「資料の読み方」は全く異なります。
資料は基本的に「熟読」が必要です。なぜなら、誤読が怖いからです。
 
ではどのように「早く読む」のかと言えば、「取捨選択によって早く読む」のです。
 
よく実用書の読み方などで知られているのが、「まず目次から読んで、興味がある部分だけを読みなさい。そうすれば早く読めます」というアドバイスです。
これは正しいことを言っており、基本的には膨大な資料の中から、「目的の場所を探し、必要な箇所だけ読む」のが、資料の正しい読み方です。
 
そのためには「自分がどのような情報を探しているのか」をあらかじめ定義しておかねばなりません。
しかもその解像度が高ければ高いほど、早く読めます。
 
例えば「品質管理」の資料を読まなければならないとします。
しかしその際に設定する目的としては、「品質管理について知りたい」だけでは不十分です。解像度が低すぎます。
 
調査の目的にもよりますが、例えば「品質管理における検査の役割と、その精度の向上について」であれば、もっと読まなければならない文量が絞り込めます。
 
この取捨選択ができるかどうかが、駆け出しのコンサルタントにとっての最初の関門でした。
ただし、各種調査のための「読み込み」に使われる資料に、きちんとした目次があることは、そう多くはありません。
また、目次が適切に設定されているとは限らず、かつアップデートされていないことも多いのです。
 
したがって「目次に目を通しなさい」というアドバイスは全く役に立たないわけではありませんが、使えるシーンは限られています。
 
そのため、「キーワードについて全文検索をかける」ことで、目的の情報が書かれている部分を探すシーンも珍しくありません。
なお、受け取れる資料が電子データだけとは限りませんので、紙の資料は電子化、つまりPDF化して、検索可能にします。
特に昔の資料や現場のメモなどは、紙でしか存在しない場合もあり、ひとまずは全てファイルにします。
 
これは、文献のボリュームがかなり大きいときや、書籍を横断的に読まなければならないときに使うやり方です。
書籍の場合はPDF化ではなく、できる限り電子書籍の形で購入します。
いずれにせよ、ポイントは「検索」ができるようにすることで、私はコンサルティング会社に在籍しているときには、ポケットマネーでスキャナを買い、客先でのメモも全て含めて、片端から電子化してセンターファイル化していました。
なお、元アクセンチュアのコンサルタントだった大石哲之さんも、全く同じような訓練を受けていたようです。
下の目次の画像にもありますが、「選択と集中」で一点突破、という項目がちょうどこの話に近いことを述べていますので、興味のある方は、参考としても良いでしょう。
 
 

2.質問を前提として読む

さて、二つ目のポイントです。
「早く読む」ためには、わからないところが出てきた時に、立ち止まってしまうのを避けなければなりません。
ですから、資料に目を通しながら「自分の理解があやふやな部分」や「補足が必要な部分」について、「資料の提供者、顧客または依頼者に、質問をすること」を前提として読む必要があります。
 
したがって、「なんかよくわからないな」という部分が出てきたら、その時点でやるべきことは、「質問を考えて、付箋をはさみ、それを記録しておくこと」です。
ここで間違いがちなのが、「わからないところを専門書や記録などで、自力で調べてしまう」ことです。
 
他の資料に手を出してしまうと、際限なく時間を食ってしまいます。
趣味や独学のためであれば別に良いのですが、タイムリミットがある仕事においては、これをやってしまうと納期に間に合わない可能性が高いです。
また、渡された資料の質が低く「補足をしてもらわないとわからない書類」もたくさんあります。
 
例えば、仕様書、企画書、あるいは人事の評価記録などは、そのまま読み込んで理解するのは非常に難しいケースが多く、読みながら疑問がわいたら質問リストを作ってしまえばよい、と考えたほうが、精神衛生上も良いと思います。
 
なお、少し質問から外れますが、調査の前に「社内」あるいは「顧客内」で、以前に同様の調査を行った方がいないかどうかは、必ずチェックします。
過去に同じようなことをやった人は、たいていの場合存在していますし、話を聞いてから調査をするほうが、誇張ではなく10倍速く仕事を進めることができます。
 

3.図や表だけ読む

論文や書籍、そして多くの資料においては、重要なポイントの多くが、図表化されています。
特に資料で抑えなければならないのは「データ」ですから、そのデータを効果的に表現できる図表は、その資料のなかでも重要度の高いコンテンツであることが多いのです。
 
例えば以下の論文です。
これは、採用選考において、どのような選考の方法が、候補者のパフォーマンス予測に最も効果的だったか、を調査した論文です。
余談ですがこの論文は、Googleの人事トップだったラズロ・ボックが著した「Work Rules!(ワーク・ルールズ!)」の中で、彼らが面接で難問奇問をやめ、構造化面接と言う、標準化された面接手法を採用するようになったきっかけとなる論文だとされています。
 
このような論文は、専門的な内容であるがゆえに、非常に読みにくいものとなっていますが、肝心なのは「どのような手法が最も効果的だったか」の部分だけです。
それを知るためには、論文の最初にあるアブストラクトと、最初に出てくる、最も重要な以下の表だけを読めばよく、資料の調査にかかる時間は30分程度で済むのです。
 
したがって、難解そうに見える資料であっても、「どんな図表があるか」「重要な図表はどれか」さえわかってしまえば、大幅に調査時間を短縮することが可能です。

4.似たようなことが書かれた資料を集めて横断的に読む

これは書籍を読まなければならないときのコツです。
 
コンサルティング会社では、「書籍調査を行う際は、同じ分野の本を集めて横断的に読みなさい」という指示があります。
これは、ある本でわかりにくい事項が、べつの本ではとても分かりやすく書かれていることが多々あるからです。
 
例えば最近、「人への説明手法」について調べる必要がありましたが、その時に調査したのが以下の10冊です。
 
これは単純にAmazonで「話し方」「説明」などのキーワードで引っかかったものを片端から購入したただけです。
多少お金はかかりますが、これをやると「説明」について世の中で形式知化されていることをほぼ俯瞰できます。
 
また、目次を照らし合わせるだけで「ノウハウの一覧」を作ることができますので、大変に時間の節約になります。
コンサルティング会社では大量にセミナーテキストを作るため、こうした事前調査は不可欠でした。
 
しかもこのような調査のあとでは、「我々ののオリジナルの知見は何か?」を問うことがカンタンになります。
なおこれは、コンサルティング会社の独自のやり方ではありません。
 
どちらかと言うと、「先行研究をすべて調査したうえで、新しい知見を得るための研究テーマを作る」という、学問の研究手法から取ったものですので、大学で同じようなやり方を、研究室で教えてもらった方も多いのではないでしょうか。
 

5.憶えようとせずに読む

そして最後に重要なのが、「憶えようとしない」ということでした。
 
よく、自己研鑽などで実用書を読んでいる方が「憶えようとして読む」という行為をしています。
しかし、仕事で読む資料は、憶える必要は全くありません。
 
では何をするために読んでいるのかと言えば、当然何かしらのアウトプットをするために読んでいるのですが、その大前提として「どこに何が書いてあるのかを知る」のが最も重要だからです。
 
例えばお客さんから「そこって何か根拠があるの?」と聞かれたときに、内容を覚えている必要はないですが、「確か、御社からいただいた◯◯マニュアルの中に記載がありました」と言えるだけでも全く相手の受ける印象は異なります。
 
これは読書について書かれた古典である、ショウペンハウエルが著した「読書について」という作品に書かれています。
 
ショウペンハウエルがこの中でことさら主張しているのは、「本の内容を憶えようとするな」です。
読み終えたことをいっさい忘れまいと思うのは、食べたものをいっさい、体内にとどめたいと願うようなものである。
思うに、読書というのは、「読んだあとに何が残るか」に価値があるのではない。「読んでいる途中に、何を考えるか」に価値があるのだ。
 
資料の場合も同じで「何を考えるか」の方に価値があります。
どうせ、重要な情報は、様々な資料のあちこちに出現します。
 
繰り返し同じような情報に触れれば、その事柄をより良く理解されるし、すでに結論を知っているので、重要な発端の部分も正しく理解される。
本当のところを言うと、資料の読みこなしのスピードを何が決めるのかといえば、実は「知識の有無」です。
 
「内容についての前知識があるかどうか」が、資料を早く読むために最も重要なのです。
例えば、ピーター・ドラッカーの書籍は「難解だ」と言われます。
例えば、「マネジメント」には「企業は営利組織ではない」との突飛な主張がありますが、ドラッカーがなぜこのような主張をしているのか、真に理解するのは非常に難解です。
 
例えば、次の文章を読んでみてください。
企業とは何かと聞けば、ほとんどの人が営利組織と答える。経済学者もそう答える。
だがこの答えは、まちがっているだけでなく的はずれである。経済学は利益を云々するが、目的としての利益とは、「安く買って高く売る」との昔からの言葉を難しく言いなおしたにすぎない。それは企業のいかなる活動も説明しない。活動のあり方についても説明しない。
 
利潤動機には意味がない。利潤動機なるものには、利益そのものの意義さえまちがって神話化する危険がある。
利益は、個々の企業にとっても、社会にとっても必要である。しかしそれは企業や企業活動にとって、目的ではなく条件である。企業活動や企業の意思決定にとって、原因や理由や根拠ではなく、その妥当性の判定基準となるものである。
 
そのような意味において、たとえ経済人の代わりに、天使を取締役に持ってきたとしても、つまり金銭に対する興味がまったく存在しなかったとしても、利益に対しては重大な関心を払わざるをえない。
 
この文章が「難解だ」という人は多いかもしれません。
 
なぜなら、これを読むにあたり「利潤動機」「経済人」などの一般的ではない言葉が出てくる上に、
「まちがっているだけでなく的外れ」
「目的ではなく条件」
「妥当性の判断基準」
などの独特の言い回しも、スラスラと読むには訓練を必要とするからです。
 
したがって、これを無理に「覚えよう」としたり、その場で「理解しようとしたり」することは、時間的なロスにつながります。
繰り返しになりますが、「資料調査」は、いわば「自分の中にインデックス(目次)を作る作業」ですから、憶える必要はありません。
早く処理をするには、ひとまず一通り目を通して、何についての記述があるかについての知識を得ることが重要です。
 
以上、仕事に必要な資料を早く読む方法でした。
お役立ていただければ幸いです。
 

 

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【著者プロフィール】

安達裕哉

元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。

◯X:安達裕哉

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