強固なブランド・ビジョンは、どんな企業にとっても成功のカギとなり得るもので、強い評判を確立し、ブランド・ロイヤルティを構築し、最終的には売上や収益を上げるために不可欠なものです。
この記事では、ブランド論の第一人者である、デイビッド・アーカーが述べる、強力なブランド・ビジョンを構成する要素を探り、自社のブランド・ビジョンを向上させたいと考えている企業に対して、実践的なアドバイスを提供します。
I.ブランド・ビジョンとは何か?
強力なブランド・ビジョンの主要な要素を掘り下げる前に、ブランド・ビジョンとは実際に何であるかを知ることが重要です。
「ブランド論(ダイヤモンド社)」のデイビッド・アーカーは、ブランド・ビジョンに以下の定義を与えています。
ブランドには「ブランド・ビジョン」が必要である。そのブランドにこうなってほしいと強く願うイメージを、はっきりと言葉で説明したものだ。つまり、顧客や関係者(社員や事業パートナーなど)の目から見たとき、そのブランドが表してほしいと願うものである。
簡単に言えば、ブランド・ビジョンとは、企業、その製品やサービス、そしてその価値観を表す視覚的・言語的特徴の集合体のことです。
これには、企業名、ロゴ、カラーパレット、音声、メッセージ、全体的な視覚的美学などの要素が含まれます。
強力なブランド・ビジョンを確立することの重要性は、いくら強調してもしすぎることはありません。
今日の混雑した市場では、ブランドは顧客を引き付け、維持するために、競争相手から際立つ方法を見つける必要があります。
強力なブランド・ビジョンは、消費者の心に明確で印象的なイメージを植え付けることで、企業がこれを達成するのに役立ちます。また、顧客やステークホルダーと長期的な関係を築くために不可欠な、信頼と信用を確立するのにも役立ちます。
Ⅱ.アーカーのブランド・ビジョン・モデル
ブランド・ビジョンとは何か、なぜそれが重要なのかが分かったところで、強いブランド・ビジョンを構成する重要な要素について詳しく見ていきましょう。
上述したデイビッド・アーカーは、「独特のブランド・ビジョンを生み出すための構造的なフレームワーク」を提唱しました。
それが、次の6項目です。
A.コア・ビジョン・エレメント
一つのブランドの基盤となるビジョンの構成要素(ビジョン・エレメント)は六〜一二個はある、とアーカーは主張します。
この六〜一二個のビジョン・エレメントのうち、最も訴求力を持ち、違いを際立たせる二〜五個を選び出し、「コア・ビジョン・エレメント」と呼びます。
B.拡張ビジョン・エレメント
ビジョン・エレメントのうち、コア・ビジョン・エレメントではないものを、「拡張ビジョン・エレメント」と呼びます。
ブランドの大切な一面ではあるけれども、差別化の基盤ではない要素、たとえば「高品質」と言った要素は、拡張ビジョン・エレメントです。
C.ブランド・ビジョン・モデルは状況に合わせて柔軟に
ブランド・ビジョン・モデルは、何か固定された項目があり、それに現状を当てはめていけば機械的にできる、という性質のものではありません。
ブランド・ビジョンを決めるためには、そのブランドの市場、戦略、競合他社、顧客、組織、およびブランド自身を掛け合わせ、目前の状況にふさわしいものを選択すべきです。
D.ブランド・ビジョンは高い理想を追わなくてはならない
ブランド・ビジョンは現状を追認するのではなく、高い理想を追いかけるべきです。
ブランドは競争のために、改善が必要であり、新しい側面を付け加えて、新しい成長の土台とする必要もあるからです。
E.ブランド・エッセンス
ブランド・ビジョンの中心的テーマを著すのが、ブランド・エッセンスです。
アーカーは、「必須ではないが、もしよいものが見つかれば、社内への伝達、従業員・事業パートナーの感化、ブランド構築計画の指針」で大いに役立つと述べています。
例えばディズニーランドでは「ファミリー・マジック」がブランド・エッセンスであり、ブランド・エッセンスは、そのブランドが掲げる理想をまとめる役割を果たしています。
F.ブランド・ポジション
ブランド・ポジションは、何を、どのような聞き手に向けて、どのような論理で伝達するのか、の指針となるものです。
一般的には、強い訴求力をもち、現時点で確実に実現可能なビジョン・エレメントを、現在のブランド・ポジションとして強調するケースが多いようです。
多くの場合、ブランド・ポジションの中核は、対外的なキャッチフレーズであり、社内向けのブランド・エッセンスと一致している必要はありません。
Ⅲ.ブランド・ビジョンを作るプロセス
デイビッド・アーカーによれば、ブランド・ビジョン作成は、作成に携わる人々に、そのブランドの状況と戦略、つまり
・顧客セグメント
・競合他社
・市場トレンド
・環境を左右する要因
・ブランドの現在の強みと弱み
・今後の事業戦略
を、予備知識として要求します。
そのうえで、ブランド・ビジョンは、「高い理想を掲げた、ブランド連想」を、場合によっては50から100個程度、書き出し、これをグルーピングし、グループに命名することから始まります。
これは「KJ法」として知られている手法です。
KJ法は主に以下の手順で行われます。
1.問題またはトピックに関連するアイデアや情報を生成します。これは、ブレインストーミングやインタビュー、ミーティングのメモなど、さまざまなソースから得られるかもしれません。
2.生成された各アイデアを別々のポストイットや紙片に書き出します。これは視覚的に扱うことを可能にするためです。
3.各アイデアを物理的に配置し、関連性や共通性を見つけます。関連するアイデアは一緒にグループ化されます。
4.各グループに対して、そのグループの中心的なテーマやアイデアを捉える見出しをつけます。
5.全体像を見て、全体のパターンや関係性を理解します。これにより、問題を解決するための洞察や、次のアクションのための方向性を見つけることができます。
このブランド連想は、「属性」「機能的便益」「利用法」「ユーザーイメージ」「ブランド・パーソナリティ」、および組織の制度や価値観など、様々な形態を取り得ます。
この時に重要なのが、「差別化ポイント」もしくは「差別化しないポイント(平準化ポイント)」を示すべきだと、アーカーは述べています。
つぎに、こうして作り上げた「ビジョン・エレメント」に優先度をつけていきます。
もっとも大きなインパクトを生み出す優先事項を、「コア・ビジョン・エレメント」とし、その他は「拡張・ビジョン・エレメント」となります。
なお、この概念について、デイビッド・アーカーは「ブランド論」の中で、サービス企業である「エイジャックス」の事例を取り上げています。
つぎに「ブランド・エッセンス」を生み出します。ブランド・エッセンスは、ブランド・ビジョンの核心を、端的に表すものでなければなりません。
最後に、それらを皆に伝えるための「ブランド・ポジション」を作ります。
時には、「コア・ブランド・ビジョン」をすべて伝えるのではなく、現在必要なことだけを従業員に伝達するため、ブランド・ビジョンの極一部だけについて「ブランド・ポジション」を作るという選択もあります。
まとめ
企業が成功し、売上や収益を上げるためには、強力なブランド・ビジョンを確立することが不可欠です。
ブランド論の第一人者である、デイビッド・アーカーは、その作成の指針となるブランド・ビジョン・モデルを提案しました。
それを踏まえ、ブランドビジョンの作成には、
1.ブランドの状況と戦略の理解
2.高い理想を持つブランドの連想リストの作成
3.コアビジョン要素の優先順位付け
4.ブランドエッセンスの作成
5.そして要素を皆に伝えるためのブランドポジションの作成
が必要です。
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【著者プロフィール】
安達裕哉
元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。
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