わかりやすい文のつくりかた

このコンテンツは有料note「webライターとメディア運営者の、実践的教科書(安達裕哉著)」より転載しています。


改めて言うまでもないが、「わかりやすい文のつくりかた」は、大半の作文技術の中核となっている。

例えば、このマガジンではおなじみの「日本語の作文技術 」では、作文技術は「わかりやすい文を書くため」と断定している。

 

理系の学生のバイブルであり、100万部以上のベストセラーでもある「理科系の作文技術」においても、「わかりやすく簡潔な表現」に、まるまる1章が割かれている。

 

同様に、野内良三氏の「日本語作文術 伝わる文章を書くために 」では「達意」の文章は、読みやすく、わかりやすく、説得力がある文章とされる。

 

ナタリーを運営している唐木元さんは著書「新しい文章力の教室」の中で、全5章のうち、2章分を「明快に」「スムーズに」と言う形で紹介しており、ニュースサイト的なわかりやすさを追求している。

 

先日ご紹介した、有名ブックライター(ゴーストライター)上阪さんの著書「10倍速く書ける 超スピード文章術」でも、もちろん丸々一章が「スラスラ読めてわかりやすい文章のつくりかた」に割かれている。

つまり「わかりやすい文章を書くためのテクニック」は、読まれる文章の必要条件とされることがほとんどだ。

 

また、組織内での意思伝達の主流はすでに「テキストコミュニケーション」なので、わかりやすい文章を書く技術は、社会人の嗜みでもある。

実際、1ヶ月ほど前、「わかりやすい文章を書く方法」に関するツイートが、大きく広まっていた。

 
 
そうだなあ、と頷けることも多く、実践すれば有意義だろう。

 

ただ、率直に言えば、上に書かれている20項目は、もう少し整理する必要がある 。

例えば 1:と20:にポエムを書かない とあるが、これは「書く方法」ではないし、そもそも「ポエムとはなにか」を定義していないので、具体性に乏しい。

また、4:とにかく量を書く 5:リアクションから振り返りをする 9:広告のコピーをチェックする 11:良い文章を写経する 15:言葉ダイエットを読む なども「書く方法」ではなく「練習方法」である。

さらに、 2:受けて目線で伝え方を設計する や 3:「伝えた」ではなく「伝わったか」が大事 は重複していいる上、14:「書く」より「削る」に時間を使う と同様にこれは技術ではなく「心構え」である。

こうしてみていくと、最終的にこの20個のなかで「書く方法」として技術的に使えそうなのは

 

6:一文は短く(≒17:「一文一意」を徹底する)
7:シンプルで強い表現を使う
8:事実と解釈はわける
12:同じ言葉を繰り返さない(=18:同じ文末を繰り返さない)
16:専門用語を避ける

 

の5つだ。

だが問題もある。

結局、こうして多数の事例をみていくと、あまりにも多くの人がノウハウを公開しているので、どれが重要なのかがわかりにくい。

細かなテクニックはたくさんあるが、原理原則が見えないのだ。

 

わかりやすさの三原理

そこで私は、文章術について書かれた書籍や文献をあたり、それらに共通する因子を調べた。
一種のメタアナリシス(のようなもの)である。

すると、ほとんどの文献に出てくる「わかりやすさにとって重要なこと」はごく一部に限られることがわかった。

それらを「わかりやすさの原理」と呼ぶことにする。具体的には以下の三つだ。

 

第一原理 情報が少ないほどわかりやすい

わかりやすさとは、読者の知的負荷の少なさである。
したがって、わかりやすくする一つの方法は、意図的に読者が触れる情報を少なくすることだ。

したがって、

・文が短い
・修飾語が少ない
・接続詞が少ない
・一文一意
・専門用語を避ける
・結論から書く
・改行を多く入れる

といったテクニックは、すべて「知的な負荷を減らす」ことに繋がる。

例えば
「赤い花」
という文字列を読んだときと、
「太郎が家の裏の畑から抜いてきた、昨年5月に植えた鳳仙花」
という文字列を読んだときとでは、後者のほうが知的な負荷が高い。

だからわかりやすくするには、余計な情報を入れないほうが良い。
短く、修飾語を減らし、接続詞を多用せず、一文を一意にし、専門用語を避けて、結論から述べればよいのだ。

このように言うと、「動画は情報量が多いのにわかりやすい」という方もいる。

だが、それは情報量が多いからわかりやすいのではない。情報流入が「遅い」から、知的負荷が少なく、わかりやすいのだ。

例えば上で挙げた
「太郎が家の裏の畑から抜いてきた、昨年5月に植えた鳳仙花」
という情報をテキストで読むのは1秒もかからない。

しかし、テキストを使わずに動画だけで表す場合、動画では数十秒、漫画でも1ページ以上を要する。

動画は同じ情報量を処理するのに、テキストに比べて膨大な時間を取っているのだ。だから「時間がかかるので動画は苦手」という方も多い。

動画を見るのがどちらかというと苦手な話。

ただ、私は動画を見るのがちょっと苦手なんです。
理由はいたってシンプルで、「見るのに時間がかかるから」。
せっかちなので、時間がかかるものはダメなんです。

テキストや写真だったら、速読みたいな感じでさささーーーっと素早く画面をスクロールして読み飛ばすことができるけど、動画はどこで大事なことを言っているかわからないから、飛ばしづらい。

動画は「知的負荷が少ない」のでその分「時間を食う」。
そして、可処分時間をゴリゴリ減らす。

「テレビばかり見ているとバカになる」のは嘘だが、単位時間に取得できる情報量は少なくなる、というのは本当だ。

反面、テキストは情報流入が極めて早いため、情報を詰め込みすぎるとすぐに読み手がついてこれなくなる。

文は短く、余計な情報を入れず、簡潔に書くことこそ、わかりやすさの王道だ。

 

第二原理 論理ではなくイメージを伝える

「論理的であること」が、「わかりやすいこと」だと考えている人は多いが、実は逆だ。

例えば数学。下は三平方の定理の証明だが、スラスラと読み下せる人は少ないだろう。(出典:Wikipedia 三平方の定理)

 

なぜ論理はわかりにくいのか。

これも第一原理と同様に、知的な負荷が高いからだ

行動経済学の始祖である、ダニエル・カーネマンは著書「ファスト&スロー」のなかで、人間には「速い」と「遅い」の2種類の思考パターンがあることを紹介している。

負荷が低い「速い思考」は、論理や評価をすっ飛ばして、ダイレクトに「わかる」ので、わかりやすいと人は感じる。

たとえば、下の写真をみて「怒っている」と判断するのは非常に容易い。

だが先程の三平方の定理と同様に、順序立てて考えなければならないものは、「遅い思考」を使わなければならず、わかりにくい。例えば下の掛け算の答えは、「わかりにくい」だろう。

 
したがって「わかりやすさ」を追求しようと思えば「論理的な」説明に執着してはならない。

むしろ、感覚的に理解できるものに変換する必要がある。

例えば三平方の定理の説明は、最初は上の証明ではなく、下のツイートを見せたほうが速い。

 

「論理」を示すのではなく、読者に「イメージ」をもたせることは、非常に強力な手段だ。

あるいは、「一般論」だけではなく「個別の事例」を沿えて説明することもイメージを補強するのでわかりやすさに有効だ。

例えば
「メディアに掲載する広告の、最も効果的な告知場所はどこか?」
について説明をするときに、一般的には、

1.必ず目にする場所
2.露出時間が最も長い場所
3.コンテンツの邪魔をしない場所

という説明になる。
「どんなメディアでも当てはまること」でなくてはならないからだ。
ところがこれは「わかりにくい」。読者がイメージしにくいからだ。

したがって「イメージ」をしやすくするため、こんな説明を挟むと良い。

必ず目にする場所で、露出時間が長く、コンテンツの邪魔をしない場所、
例えば、「野球中継の、バックネット広告」と同じです。

さらに、「統計」ではなく「直感」に訴えることもわかりやすさに有効だ。

残念ながら人間は、統計をうまく理解できないため、数字よりも個別の「イメージ」で理解してしまうためである。

例えば、上述したダニエル・カーネマンの著作には、次のような事例がある。

致死性の伝染病から子供を守るワクチンがあったとする。ところがこのワクチンには副作用がある。

ある人は、説明の以下のように書いた。
「永久麻痺のリスクが〇・〇〇一%ある」

ところが、別の人は、このように書いた。
「接種した子供の一〇万人に一人は永久麻痺になる恐れがある」

この2つの文章を比較した場合、より下の文章のほうが、ワクチンに対してより否定的になる読者を増やす。

なぜなら、ワクチン接種によって生涯麻痺の残った子供のイメージが浮かび上がり、「わかりやすい」からだ。
(そして、無事だった9万9999人は無視される。)

あるいは、カーネマンはこんな実験にも触れている。

被験者は二つの壺からおはじきを取り出す。赤が出れば勝ちである。

壺Aにはおはじきが一〇個入っており、うち一個が赤である。
壺Bにはおはじきが一〇〇個入っており、うち八個が赤である。

あなたならどちらの壺を選ぶだろうか。

この実験の結果、おもしろいことに被験者となった学生の三〇~四〇%が、確率の高い壺Aよりも、赤のおはじきがたくさん入っている壺Bを選んだ。

これは、全体(確率の分母)を無視するために起きるバイアスだ。

このように人間の「速い思考」は、全体より個を扱うほうが得意なため「統計」は読者にとって、わかりにくいのだ。

「数字を使いましょう」などと、文章テクニックの記事に書いてあったりするが、実際には数字を紹介するだけではわかりにくい記事になる。

話をわかりやすくしたいなら、「一人ひとり」「個別」「成功事例」など、イメージしやすい事象(確率の分子)にスポットを当てるべきだ。

数字は「イメージを想起させてこそ、有効」である。
(が、もちろん、これらのテクニックは悪用できるので、モラルは問われる)

第三原理 誤解させない

第一原理で「情報を詰め込まない」と述べたが、情報を削ぎ落としすぎると、今度は誤読の危険が高まる。

誤読させてはせっかくの短文も台無しだ。
そこで、誤読を防ぐ技術が必要になる。

ここでは、「理科系の作文技術」を著した木下是雄が、著書「レポートの組み立て方」で、「明快ではない文章」を紹介しているので、その冒頭部分を引用しよう。

留学生の学習目的が専門的で高度の専門用語を使用するような場合には、その分野に必要な日本語が留学生に課せられることになる。

もちろん,専門用語の学習は専門別におこなうべきで,一般日本語の教育にこれを組みこむことは無理である。

この文章は、一文はそれほど長くない。
だが、わかりにくい。

なぜだろうか。結論から言えば、問題は以下の3点だ。

・「主語」を省略している
・「こと」「もの」を多用している
・「指示語(こそあど言葉)」を多用している

誤読を誘うのはつねに「あいまいさ」だ。
そして、文章におけるあいまいさは、多くの場合上の3点によって生み出される。

そこで【主語】を明確に、【指示語】を除いて書き直すと、

日本への留学生が、高度な専門分野で学習をする場合、一般の日本語教育だけでは不十分なので、専門別の日本語学習が必要だ。

となり、文章がわかりやすくなる。

もちろん、他にも文章をわかりやすくする手法は数多くある。

しかし、ほとんどの文章術において、最も手軽に、楽に「わかりやすく」を実現する方法は、この三つだ。

・一文は極限まで短く。
・論理ではなく「イメージ」重視。
・主語を省略せず、指示語、「もの」「こと」を使わない。

お試しあれ。

 

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【著者プロフィール】

安達裕哉

生成AI活用支援のワークワンダースCEO(https://workwonders.jp)|元Deloitteのコンサルタント|オウンドメディア支援のティネクト代表(http://tinect.jp)|著書「頭のいい人が話す前に考えていること」76万部(https://amzn.to/49Tivyi)|

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