webメディア立ち上げの推進手順|安達裕哉

このコンテンツは有料note「webライターとメディア運営者の、実践的教科書(安達裕哉著)」より転載しています。


多くのwebメディアの立ち上げに携わってきたが、メディアが順調に軌道にのるケースはだいたい、基本に忠実に運営されていた。
そこで今回は、基本的な「webメディア立ち上げの手順」について述べる。
 

1.「成功」の基準

まず、webメディアにはかならず「成功」の基準、言い換えれば目的を持たせることが必要だ。
 
しかし、具体的な成功のイメージを持っているメディア運営者は希少だ。
例えば漠然と
・ビューを増やしたい
・認知を増やしたい
・アフィリエイト/広告収入を得たい
といった程度の成功イメージしか持っていない場合も多い。
これはいわば、具体性という点において、ビジネスパーソンが「起業し、急成長、上場して金持ちになりたい」と言っているのと同じ程度だ。
この程度の漠然とした成功イメージのままにwebメディアに手を出すと、成長の途上で「何のためにやっているのかわからない」と、愕然とし、「やめた」となるのである。
 
ではどのように「成功」を定義すべきなのか。
米国のジャーナリストであり、メディア研究者でもあるジェフ・ジャービスは著書「デジタル・ジャーナリズムは稼げるか」において、つぎのようにwebメディアの将来を模索している。
今後の社会でメディアが果たすべき役割をいくつか提案する。
たとえば、考えられるのは、サービス提供者、プラットフォーム構築者、社会のまとめ役、意見の提唱者、教師、プロジェクト立ち上げの支援者といった役割だ。
また私は、ジャーナリズムが今後、「人間関係ビジネス」になっていくべきであるということを主張する。そうなることが、新時代のビジネス戦略の基礎となると考えている。
これには私も大いに賛同するもので、単純に言えばwebメディアは「読者・視聴者とのコミュニケーションハブ」なのだ。
 
したがって、webメディアの成功のためにまず必要なのは
・どのような人に来てほしいか
・来た人々に対して何を提供するか
・提供した結果、何が生み出されるか
といった、メディアの役割を決定することである。
なお、弊社が運営しているBooks&Appsの役割とは、
・20代~40代後半の働く人々に
・ビジネス上の新しい価値観・発見を提供し
・楽しんでもらう
と定めている。
これを実現できればひとまず、Books&Appsは「成功」といって良い。
なお、この話はあらゆるwebメディアに対して適用できる。
例えばGoogleであれば
・世界中の人々に
・情報を整理して
・アクセスできて使えるようにする
となるし、Facebookであれば
・人々に
・コミュニティ構築の力を提供し
・世界のつながりを密にする
となる。
なお、「10万PV」とか「100万PV」とか、数値目標を掲げる人もいるが、立ち上げる前に掲げる意味はあまりない。
目標の妥当性を検証できないからだ。
メディアの役割によって、数値目標は大きく変わるため、具体的な数値を掲げるなら、最低半年ほどの運用期間が必要だ。
 

2.メディアの「収益源」

次に、うまくいくwebメディアには、それを存続させるための収益源が設定されている。
どのようなwebメディアであっても、収益源なくして、存続は不可能だ。
 
ただし、あくまでマネタイズは手段であって、目的にはなり得ないことに留意する。
それはちょうど、ピーター・ドラッカーが指摘するように、企業の目的が「利潤追求」ではなく、「顧客の創造」であることと同じである。
収益はあくまでメディアや企業を存続させるための「制約条件」に過ぎず、ないと困るが、あってもメディアの本質は変わらない。
 
さて、メディアが収益源として利用できるオプションはそう多くない。
というか、少なくとも現時点では、大別すれば4種類しかない。それは、
 
・スポンサーからの広告料収入
・ユーザからの利用料収入
・物品・サービスの販売

・寄付

 
のどれかである。上のいずれかの選択肢、もしくはその組み合わせで、メディアは収益を獲得し、存続のための資金を得ることになる。
なお、Wikipediaのように「寄付」で賄われているメディアもあるが、ここでは扱わない。
 
具体的な各論について以下に述べていくが、参考情報としては、前述したジェフ・ジャービスが「デジタル・メディアが収益をあげる七一の方法」というweb上のディスカッションを紹介しているので、興味のある方はご覧いただくとよいだろう。
 
スポンサーからの広告料収入
広告料をメディアの収益源とする場合、広告スポンサーの獲得方法により、次の選択肢がある。
・Googleアドセンスなどの広告プラットフォームの利用
・広告代理店の利用
・自社の営業
ただし、メディアの立ち上げ期には、広告スポンサーを引き付けるに十分なアクセス数が得られないため、少なくとも初期の段階では、広告料収入をあてにしたメディア運営は現実的ではない。
 
例えば、アドセンス広告をサイトに掲載した場合のクリック率は0.1%~0.3%程度。1000回表示されて、1回から3回のクリックだ。
クリックの単価は数十円といったところなので、100万PVのサイトでもアドセンスの収益は数万円程度、多い月でも十数万円程度である。
したがって、広告収入を追求すると、少なくとも月間数百万PVは必要ということになり、「現実的ではない」という結論になる。
 
ユーザからの利用料収入
一般的には「新聞」「雑誌」のように、あるいは有料マガジンのように、ユーザから利用料を徴収する形で運営を行うメディアがある。
web上のサロンも、コミュニケーションのハブとなっており、広義でのメディアと認識すれば、それも同様のビジネスである。
したがって、この収益源は、すでに「ファン層」を抱えているメディア運営者にとって使いやすい。 
noteのマガジン運営も、Twitterやブログなどで人気を博した人物のコンテンツを、横展開して運営されていることがほとんどである。
 
なお、同業者と同程度の値付けをしているという前提の元で考えると、「ファン層」の中で、有料コンテンツの購入に至る割合は、約1%程度と保守的に考えておく。(Youtubeなどでもだいたいこれくらいの水準だ)
 
物品・サービスの販売
最後に、物品やサービスの販売による収益化だ。
具体的には
個人であれば物品の紹介で、アフィリエイト報酬を狙うこと。
企業であれば、自社商材/サービスの紹介で、リード獲得を狙うこと。
これらが手っ取り早い施策になる。
おそらく「まっさらなところから、新しくメディアを立ち上げる」のであれば、この方法が最も現実的だといえる。それは、ある程度の売り上げが見込みやすいからだ。
 
例えば、アマゾンのアフィリエイトによる紹介料は以下のようになっている。ある程度料率の高い商材を購入してもらえるような記事を書けば、Googleのアドセンスに比べ、高い収益が得られる。
 
アフィリエイトリンクのクリック率は、約1%~3%程度、リンク先で購入に至るコンバージョン率は約10%なので、5万円、アフィリエイト料率2%の商材のページが1000PVだったとすると、紹介料は1000円~3000円くらいとなる。
実は、アフィリエイトは「売れる」ページが増えてくればかなりの収益が見込める仕組みなのだ。
 
さらに、メディアの運営主体が「法人」であればさらに話はシンプルだ。
なぜなら、法人は商品をすでに持っているからである。
例えば「ほぼ日刊イトイ新聞」のように、手帳やその他のグッズなど、自社の商材を販売することができれば、収益化はかなり早い段階からできる。
 
あるいはBtoB商材のように単価が高い商品は、メディアでリードを獲得すればかなりの収益化への貢献が見込める。
すでに月間数百万、数千万円をGoogleのリスティング広告などに突っ込んでいる場合は、その広告費用の一部を「メディア」の立ち上げに充てれば、徐々にリスティング広告への依存を減らすことができる。
 

3.コンテンツ制作体制の整備

メディアの成功には、質の高いコンテンツの生産が不可欠である。

ではその「質」を生み出すものは何か。

これは間違いなく「良いライター」の確保である。
だが、メディアにとって良いライターとは一体何だろうか。
 
フォロワーをたくさん抱えているライター?
バズらせることのできるライター?
有名人?
 
いずれも、間違いである。
良いライター、を単純に言えば、1.で定義した「メディアの役割」を果たすために必要なコンテンツを生み出せる人が、良いライターである。
したがって、特に、メディアの収益源が、物品・サービスの販売にある時には、利用者に声をかけて、記事を書いてもらったり、あるいは自社の社員で文章を書くのが得意な人がいたら、手当を払って、記事を書いてもらったりしてもよい。
 
ただし、「商品・サービス」の記事ばかりのメディアはアクセスが伸びにくい。ニッチな話題は、アクセスしてくる人の絶対数が少ないからだ。
例えば自社が洗顔料メーカーだったとする。
「自社の洗顔料の話」だけのメディアよりも、
「洗顔料の選び方」の話題を取り扱うメディアのほうがアクセスは伸びる。
さらに
「洗顔料の選び方」のメディアよりも、
「肌の手入れ」の話題を取り扱うメディアのほうがアクセスは伸びる。
さらに、
「肌の手入れ」のメディアよりも、
「美容」の話題を取り扱うメディアのほうがアクセスは伸びる。
 
言ってしまえば、単純に話題を広げたほうが、アクセスの絶対数は伸びる。
とはいえ、自社の収益源から話題が離れすぎてしまうと、メディアを収益に結び付けるのが難しくなる。
自社の商材から離れすぎず、かといって話題を限定しすぎない「適切な範囲」に話題をコントロールするためには、記事をある程度出してみて、反応を見ながら調整をする必要がある。
 
前述した、ジェフ・ジャービスは、著作の中で、「報道機関」を立ち上げるわけではないのだから、様々な情報を提供することがよい、と述べている。
少し考えるだけで、ニュースには先にあげたような様々な側面があるとわかる。
最新の情報を伝えること、物語を作ること、背景説明をすること、エンターテイメントになること、疑問に答えること、何かを推薦すること、人と人とをつなぐこと、指導すること、議論を促すこと、情報の共有を進めること、社会を動かすこと、すべてニュースの役割だ。
したがって、まず最初に「収益に直結する記事」を生産し、そのあとに収益に直結する記事に人を呼び込むため、
・最新の話題
・利用者の物語
・商品開発の背景説明
・業界動向
・漫画などのエンターテインメント
・質問、疑問への答え(Q&Aなど)
・おすすめの商材、やりかたなどの情報共有
・カスタマーの紹介
・ノウハウの公開
・ディスカッション
・ホワイトペーパーのダウンロードをうながす
など、多種多様なコンテンツを設置していくことをお勧めする。
そうして初めて、「このジャンルは、どういったライターが必要か」が見えてくる。
その時点でライターの調達を内部でできるか、外部に依頼すべきかを検討すればよい。
 

4.コンテンツの配信手段を運用

コンテンツをwebサイトに設置したら、最後には配信を行う。
通常、配信手段として検討すべきは以下の項目だ。
・検索エンジンへのインデックス
・ニュースサイトへの配信
・PRサイトへの掲載
・Twitterへの配信
・Facebookへの配信
・Instagramへの配信
・LINEへの配信
・Youtubeへの配信
・メルマガへの配信
・RSSリーダーへの配信
上で記述した以外にも、配信手段は数多くあり、基本的に、使えるものはすべてつかう。一般的に配信先は多ければ多いほど良い。
複数のプラットフォームを行き来して使っている人は少なく、一つのコンテンツを生み出せば、すべてのプラットフォームに同時配信して全く問題ないからだ。
 
その際には「配信先から、webメディアに誘導できた数」だけで配信の成果を測定しないほうがいい。
例えば、以下のような形でTwitterに記事を配信したとする。

 
では、そこからメディアに飛んでくる人の割合はどの程度なのか。
インプレッションは5600に対して、リンクをクリックした人の数は169だ。
つまり、webメディア上ではたったの169PVしか測定されない。
「ほんのわずかの人しか記事に来ないのだから、ツイートは無駄では?」と思う方もいるのではないだろうか。
だが、メディア運営上は、これで全く問題はない。
実際には「プラットフォーム間の移動はほとんどない」と考えたほうがよい。
 
ではなぜ、わざわざ配信するのか。
第一の理由は、配信コストがほぼゼロである点。たとえわずかであっても、配信によって読者が増えるのであればそれで差し引きはプラスになる。
そしてもう一つは「webメディアの大きさ」は、メディアへのアクセス数だけではなく、そのメディアが運用するSNSアカウントのフォロワー数や、メルマガの配信数などもすべて含めたものだからだ。
 
例えば上のツイートはインプレッション数が5600ある。
インプレッションがあった、ということは、この記事のタイトルを見ている人が少なくとも数千人いた、ということだ。
メディアは「コンテンツを見てもらう(読んでもらう)」ことが大事だが、記事のタイトルを見てもらうだけでも、読者にアプローチしたことには変わりない。
実際、多くの広告は「見られる」ことだけを目的にしているものも少なくない。
したがって、ビュー数は169だが、インプレッションも含めると「メディアへの貢献」は、数千人規模、生み出していると考えてもよい。
広告を出していると思えば、非常に費用対効果が高い、と思ってもよいのではないだろうか。
なにせ、コストはゼロなのだ。
 
以上が、webメディア立ち上げの推進手順である。
ご参考としていただければ幸いだ。

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