遠藤周作の「文章力があがるゲーム」が、記事の質の本質に迫っていて面白い。

このコンテンツは有料note「webライターとメディア運営者の、実践的教科書(安達裕哉著)」より転載しています。


著名な作家であり、数々の賞に輝いた遠藤周作。
かつて私が人生ままならず、落ち込んでいたとき、一人の方から彼の著作を紹介され、随分と慰められた。
その後、私の感覚と彼の文体があっていたのか、彼の著作を数多く読むようになったため、彼の著作はBooks&Appsの記事でもたまに取り上げている。

 

特に、彼は日本人でありながらキリスト教徒なので、キリスト教に関する作品は卓越している。

 

その中でも「イエスの生涯 (新潮文庫)」は、批判もあるが、日本人にあまり馴染みのない、キリスト教の教義を理解する一助となる、最高傑作の一つだと私は思う。
主題は「無力なイエスが、なぜあれ程の思想的なインパクトを弟子たちに与えたのか。」
自分たちの卑劣な裏切りに怒りや恨みを持たず、逆に愛をもってそれに応えることは人間のできることではなかった。
少なくとも弟子たちは自らの今日までの人生のなかで、そのような人を見たことはない。今日まで人生だけではなく、このユダヤの歴史に出現した王や預言者にもそのような人は一度も出現しなかった。その驚きは弟子たちには烈しかった。
そして彼等はイエスが自分たちのそばにまだいるかの如き感じがした。子供にとって失った母がその死後もいつも横にいる気持と同じような心理である。
弟子たちのこう言った心理は聖書にはあらわに書かれていないが、我々にはその行間から感じざるをえない。そこまでは東洋の一小説家にもわかるのである。
彼は「奇蹟を起こせないイエス」がどのようにして、イエスの死後に布教に邁進し、そのためには死すら厭わない弟子たちを生み出したのか、その心境の変化を精緻に描写している。
もちろん個人的には宗教がかった会社が好みではないが、「マネジメント」をする立場の人であれば、実用的な観点からも一度読んでおくべき作品ではないかと思う。

 

遠藤周作の書いた実用書

さて、遠藤周作の話はこれくらいにして、本題に入る。
遠藤周作は、こうした小説だけではなく、実は「実用書」も遺している。

好きと打ち明けたい。デートに誘いたい。病気の人を見舞いたい。身内を亡くした人にお悔やみを伝えたい。

そんな時、どうしたら自分の気持ちを率直に伝えて、相手の心を動かす手紙を書くことができるのか―。

大作家が、多くの例文を挙げて説き明かす「心に届く」手紙の秘訣は、メールを書く時にもきっと役立つ。執筆より半世紀を経て発見され世を瞠目させた幻の原稿、待望の文庫化。

遠藤周作がこんな本をを出していたとは、と驚いたが、中身は平易で、スラスラ読める。そして、役に立つ。

 

この作品の構成は以下の通り。(注:目次に対応していますが、目次そのままではなく、私の主観で勝手にまとめました)
1.ちょっとしたことで人生が変わる。それは手紙を書くこと!
2.筆不精のなおし方
3.手紙を書くときは相手の身になって書こう(実例つき)
4.オリジナルな表現を身につけるためのゲーム
5.真心を伝えるための書き出し
6.返事を書くときに大事なこと
7.病人へ手紙を書くときに大事なこと
8.自分に気がありそうな人へのラブレターの書き方(男性用)
9.自分に気がなさそうな人へのラブレターの書き方(男性用)
10.デートに誘うときのラブレターの書き方(男性用)
11.お誘いの断り方(女性用)
12.お悔やみの手紙を書くときに大事なこと
13.目上の相手に深くインパクトを与える書き方
14.文章を短く書くときと、短く書いてはいけないとき

 

ラブレターが多すぎる気もする(笑)し、女性用の「断り方」まであってなかなか面白いが、電話が一人に一台なかった頃はこのような「文章術」が重要な意味を持っていたのだろう。

 

ただ、webにあふれるほど記事が掲載され、スマートフォンを皆が持つようになり、リモートワークが珍しくなくなった現代には「文章術」が復権している。

 

まるで、どこかのwebページに記事として上がっていてもおかしくないような内容の本だが、「作家」がここまで丁寧に文章の書き方を説明している本は、他にあまりなく、現代でも十分役に立つどころか、かなりタイムリーな内容だ。

 

例えば、現代のメールや、webの記事執筆にこれを応用してみるとどうなるだろうか。
まずは「採用」。
現在の採用サービスは、データベースを見て、候補者に直接メールを送って応募を促すスカウト型のものも多い。
ところがこのスカウトメール「テンプレ的」だと、全く反応がない。
当たり前だが「手紙」は読む人が「私のために書いてくれた」と思って書いてくれているから読むのだ。
あるいは「フォローメール」や「メルマガ」にも使える。
セミナーにきていただいた見込み顧客、あるいは問い合わせから資料請求があったら、すかさず「フォローメール」を送る方も多いだろうが、これも文面次第で大きく成果が変わる。

 

もちろん、コーポレートサイト上の文言や、web上に出す記事にもこれらの話は応用可能だ。
いつの世でも「伝わる表現」というのは、影響力を有するのだ。

 

オリジナルな表現を身につけるためのゲーム

そして、この記事で特に取り上げたいのは
「4.オリジナルな表現を身につけるためのゲーム」
の項目だ。
なぜ遠藤周作は「オリジナルな表現」を重視したのか。
それは彼が「テンプレ的な手紙ほど、読み手を退屈させるものはない」と断じているからだ。実はそれは「スカウトメール」や「メルマガ」、「webの記事」も全く同じである。
これは作家になる前、作家になった今日もぼくが電車や、珈琲店で一人で遊ぶ遊戯です。
便利なことにはこの遊びは相手もいらず、道具もいらず、場所や時間はおかまいなく――しかも次第次第に利益が多くなるというゲームである。
ルールは実にシンプル。

皆さん。窓の外をじっとごらんになりながら、中学校の入学試験の時と同じように、□の中に適当な字を入れて頂きたいのです。

 

ただし、□に入れる言葉には、条件があります。
(一)普通、誰にも使われている慣用句は使用せず
(二)しかもその名詞にピタリとくるような言葉を探してみて下さい
というわけです。如何でしょう。一見、中学校の入学試験に似てなかなかむつかしいことが、おわかりになったと思います。

 

模範解答は本を読んでいただきたいのだが、ここには「コンテンツのオリジナリティ」についての重要な示唆がある。
つまり文章の「面白さ」や「オリジナリティ」というのは、中身だけではなく、比喩表現や、たとえ話に大きく依存する、ということだ。

 

もちろん「記事」は中身があることが前提である。
しかし「中身」だけで良いならば、学術論文のような記事を出しておきながら「いいこと書いてあるだろ」という傲慢も、まかり通ってしまう。
「中身」と「表現」は、セットになって初めて、人にきちんと伝わるのだ。

 

実は、我々がweb上の記事を書くときには、「たとえ話」を非常に重視している。
また、ライターを採用するときにも「たとえ話の面白さ」はウルトラ重要な要件だ。
例えば以下の記事にそれを見ることが出来る。
ちょっとまえ、面白い記事をツイッターで拝見した。
企業の採用担当が、面接時に見ているポイントを端的に表現したものだ。
曰く、「事実と意見を分けて説明できるかは圧倒的に重要で、これができない人はかなり厳しい。」とのこと。
この記事は65万PV以上を獲得した記事だが、読まれた理由は単純に一つ。
「事実と意見を区別できない人の会話」を具体的に記述したからだ。
過去に部下だった人のひとりが、ちょうど「事実」と「意見」の切り分けができない人だった。
例えば、こんな具合だ。
「昨日の営業、途中退席してごめん。お客さん、ウチに依頼するか、決めてくれた?」
「大丈夫だと思います。」
「大丈夫って……決まったのか、決まってないのかが、知りたいんだけど。」
「あ、まだ決まってないです。」
「そうか、決まるかなと思ってたけど……。お客さん、何か懸念事項について言ってた?」
「金額について不満そうでした。」
「もう一度聞くけど、不満だと「言った」の?」
「いえ、たしか……言ってないかと。」
「じゃ、なんで不満だと言えるの。」
「えーと…」
「もう一度聞くけど、なんて「言ってた」?」
「ええー……確か、金額については交渉の余地がありますか、と言ってました。」
「交渉ね……、なんて回答したの?」
「私の一存で決められませんので、持ち帰りますと。」
「そしたらお客さんはなんて言った?」
「納得してくれたみたいでした。」
「だ、か、ら、お客さんはなんて言ってたの?」
「あ、すみません。えーと……確か、わかりました、と言ってました。それと、今思い出したんですけど、見積もりを指定の様式にして欲しいとも言ってました。」
彼から話を聞くと、状況を把握するのに通常の3倍の時間がかかる。
何度かこのようなことが続き、私は彼に訓練を施して、きちんと「意見」と「事実」を区別できるように話せるまで、現場を任せてはいけない、と感じた。
もちろん、原理原則だけを記述しただけでも「記事」は成立する。
例えば、以下のような記事だ。
「事実じじつ」とは、誰だれでも経験けいけんできる(見みたり、聞きいたり、触さわったり、知しったりできる)物事ものごとのことである。
事実じじつは、(科学的かがくてきな・厳密げんみつな)調査ちょうさや実験じっけんによって確認かくにんできる。
そのため、事実じじつを記述きじゅつした文ぶんは、正ただしい(本当ほんとう)か間違まちがい(ウソ)かのどちらかである。
「この大根だいこんは50円えんです。」は事実じじつを記述きじゅつした文ぶんである。大根だいこんが50円えんだというのは、誰だれでも経験けいけんできることだからである。
通常、報告の内容には「事実」と「意見(もしくは推測)」の2つが含まれています。
この「事実」と「意見」がゴチャゴチャになってしまうと、何を報告したいのかがわかり難くなり、また、「事実」か「意見」のどちらかしかなければ、相手は不十分と感じてしまいます。
相手に報告する際には、この2つを明確に分け、まずは過去に起きた「事実」を客観的かつ冷静に伝えます。
そして上司に「事実」を理解してもらった上で、これからの未来の「意見(もしくは推測)」を提示する必要があります。
原理原則を表明する記事であれば、私が書いた記事よりも、後者の記事たちのほうが明らかに優れている。
しかし「読まれる記事を」という観点から言えば、たとえ話が優れている方が、より多く読まれるのは明白だ。

 

実際、3文ライターが、webから引っ張ってきた内容だけをつらつら並べるだけの記事は、圧倒的に「例えば」が少ない。
なぜなら「例えば」を示すためには、本人の実体験や、血肉となっている知識が必要だからだ。
換言すれば、「たとえ話ができる」「他の人が使えない表現が使える」という条件こそ、「良い記事」を書くための、最低限の要件だ。

 

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