「何を書けば読まれるのか」を解き明かす。

このコンテンツは有料note「webライターとメディア運営者の、実践的教科書(安達裕哉著)」より転載しています。


以前から、ライター志望の方から
「なにを書いたら読まれるのか」
との相談をもらうことがあった。
 
最初はあまり真剣に取り合わなかった。
むしろ「ライター志望の方だったら、書きたいことがありすぎて困るくらいでは」と思っていた。
しかし、よく話を聞くと、もう少し深刻なようだ。
つまり、ライター志望の方で「なにを書いたらよいかわからない」方の悩みはこうだ。
 
「読みやすい文章」は書ける。
だが「読まれる文章」を書けない。
つまり「メディアの要望に応じて書く」技術面はクリアしている。綺麗にまとまった文章は書ける。
だが「自分で企画して書いて、拡散される」という注文に応えられない、というのだ。
 
そんなことまでライターなのか、大変だ、とは思う。
 
確かに、雑誌やマスメディア全盛の時代までは、「こういうコラムを書いてくれ」という注文に答えられればよかった。
だが現在は、webメディアの要求はすっかり変わってしまった。
求められているのは下のツイートのような反応を生み出せる
「話題を提供し、ファンを生み出せる書き手」だ。
 
「うまい文章」や「わかりやすい文章」の書き手ではない。
「秀逸な問題提起」と「ユニークな思考」をもって、ファンを生み出せる書き手だ。
 
したがって、書き手のスキルで何が一番重要なのか、と問われたら、間違いなく「何を書けば読まれるのかを、見抜くスキル」と私は回答する。
「わかりやすく書ける文章術」など、二の次、三の次でよいのだ。
 
実際、修辞学者の野内良三は、「内容が良ければ、書き方はあまり問題にならない」と述べている。
文章は「面白くて、ためになる」ことをもって最上とする。
「面白い」は芸術文の目標、「ためになる」は実用文の目標と言えないことはない。
いずれにしても、内容がものをいう。
つまり、内容がよければ書き方(文章の出来ばえ)はあまり問題にならない。
 
逆に、それを体得していないと、「無駄な努力」を繰り返す羽目になる。
 
たとえば、人気ブロガーなどが、「思ったことを書けばいいんです」などと言っていることを真に受けて、本当に思ったことを書くだけに終始した結果、誰にも読まれない。
 
なぜだろうか。
実は「ぼくの思ったこと」は考えうる限り、最悪のコンテンツだからだ。
元電通のクリエイターだった田中泰延は、「自分の内面を語る人はつまらない」という。
ランチなんか一緒に行くと、急に不機嫌そうに「あたしブロッコリーすっごく嫌い」と告白を始める者もいる。食べなきゃいいではないか。だれも口をこじ開けてブロッコリーを入れたりはしない。
 
これらの人間に共通する特徴を、できるだけ遠回しにソフトに表現すると、「つまらない人間」ということになる。
 
つまらない人間とはなにか。それは自分の内面を語る人である。少しでもおもしろく感じる人というのは、その人の外部にあることを語っているのである。
 
これは、私のメディアを運営した感覚とも一致する。
独りよがりの記事は読まれないのだ。
 
ただ、学校教育では独りよがりの文章でも許される。
例えば「感想文を書け」という宿題が出るが、これは「私の言うことを聞いて!」の典型的な例だ。
したがって、多くの人は「読まれる文章を書く訓練」を受けたことがない。
だから「なにを書いたら読まれるのかわからない」との悩みは、本質なのだ。
 

多くのwebマーケターも「なにを書いたら読まれるか」を知らない

一方で、ライターだけではなくwebマーケティングを専門とする方も
「コンテンツ作成」に疎い人は多い。
 
最近では「コンテンツマーケティング」という言葉が生み出されたが、うまく実践できている会社が非常に少ないのは、webマーケターの殆どが
「良いコンテンツとはなにか」を知らず、
「ウケるコンテンツ」を自分で作れないからだ。
だから「コンテンツ大事だよね」と言ったところで、実践できない。
「マーケティングファネル」
「動線設計」
「ペルソナ」
といった概念的なことや
「検索回数」
「文章の長さ」
「てにをは」
「接続詞」
といった「文章術」のような部分には強いが
「どんな話題がよく読まれるか」がわからないのだから、当然だろう。
 
せいぜい
「キーワードプランナーで検索ニーズを調査しましょう」
「ヒアリングでユーザーニーズを把握しましょう」
という程度だ。
「◯◯が読まれますから、私が書いてバズらせますよ」

と言えない。

だから、webマーケターは一般的に「コンテンツ作成」よりも「検索ニーズ」や「文章術」を強調する。
 
しかし、誰もが知るように「書き方」が重要ではないわけではないが
「どんなコンテンツを作るか」のほうが遥かに重要なことは明らかだ。
 
実際、多くのブログ、オウンドメディアが埋もれているのは
「マーケティング技術が未熟」のではない。
「コンテンツを作れない」からだ。
記事を読んでも、「ふーん」で終わる。
記憶の片隅にも残らず、ファンにもならない。
検索エンジンから来て、去るだけ。
メディア名を憶えてもらえず「Googleの一部」だと思われる。
それでは「コンテンツマーケティング」など、夢のまた夢だ。
 
したがって、ライターだろうと、Youtuberだろうと、ブロガーだろうと、作家だろうと、映画監督だろうと、すべてのコンテンツメーカーは
「結局、見せ方や手法より内容だろ」
という、身も蓋もない事実を認識しなければならない。
すなわちコンテンツマーケティングは、「何が検索されるか」ではなく、「どうすれば読まれるか」でもなく、「何を書けば読まれるのか」という話から出発する。
 

コンテンツ作成の「理屈」。

ところが「コンテンツ作成」というと、尻込みをする人が多い。
なぜか、と問うと「再現性がない」という。「才能だ」という人もいる。
本当だろうか。
 
 
私はそうは思わない。コンテンツ作成は「理詰め」である程度可能だ。
事実、「スタジオジブリ」の代表である鈴木敏夫は、「アニメ制作は理屈がないとダメ」という。

鈴木さんは、日本のアニメが海外で認められにくい理由のひとつは、作品を感覚でつくっていて理屈でつくっていないからだとよく言います。海外では理屈でつくらないと通用しないのだそうです。

記事も同様に、「理屈がないとダメ」だ。
 
ジョフ・コルヴァンが「究極の鍛錬」で述べたように、物事の上達には「改善が必要な要素を限定して認識」し、「練習を繰り返す」ことが必要だからだ。

究極の鍛錬では、業績を上げるのに改善が必要な要素を、鋭く限定し、認識することが求められ、意識しながらそうした要素を鍛え上げていく。

 
つまり、「優れたコンテンツ」を再現性を持って生み出すには
1.「優れたコンテンツを生み出す理屈」を設定する
2.「理屈に沿って」コンテンツを作り、反応を見て作品の出来を検証する。
の2つをしつこく回すしかない。
 
ではその「理屈」の具体例はあるのだろうか。
優れたコンテンツマーケターは、これをすでに理解している。
例えば、以下の記事が参考になるだろう。
 
アンディ・クレストディナ氏が語る、成功する1%のコンテンツマーケーターが実践する5つのTipsを解説。伊東氏によるMozcon2019レポートの最終回
この記事で一番役に立つのは、アンディ・クレストディナが語る
「優れたコンテンツとは何か」

の部分だ。

 
彼の主張は長いが、要約すれば3つしかない。
1.時間をかけてでも、比較調査記事を作れ。
2.業界の中で頻繁に話題にあがるが、根拠となるデータがないテーマを調査して記事を作れ。
3.インフルエンサーの専門性と拡散力を利用して記事を作れ。
断っておくが、これは「彼が手掛けるサイトにおいて、再現性のある理屈」であり、これをそのまま真似をしてもうまく行かないだろう。
 
実際には書き手が試行錯誤しながら「自分自身の理屈を見つけること」が、コンテンツメイキングの核心だ。
「絶対に勝てる法則」はないが、「ある程度成功するパターンはある」。
それは、株取り引きと同じようなものと言っても良いかもしれない。
 

Books&Appsにおける「コンテンツメイキングの理屈」

では、参考として、我々が採用している「理屈」についてもご紹介する。
Books&Appsにおけるルールは以下の通り。
このラインより上のエリアが無料で表示されます。
 
1.「実際に著者が体験したビジネス上のエピソード」を題材にする
例えば私はコンサルタント・管理職・起業・社長の経験者なので、そういったことが題材に出来る。
「部下とのやりとり」「退職者の揉め事の処理」など、経験は、すなわち全てコンテンツだ。
逆に「コロナウイルス後どうなるか」などは、体験不可能なので、机上の空論になりやすく、書かないと決めている。
そう言うのはジャーナリストや占い師に任せればよい。
 
「書くのは体験したエピソードに限る」というのは、Books&Appsに寄稿してくれているすべての書き手の方に、等しく求めている事項だ。
 
2.身近な人に語るように書く
ただ、上で設定した「エピソード」だけでは記事にならない。
「こんな事があったよ」という話は、自分語りと同様に、「ふーん」で終わる。
 
コンテンツにするためには「そこから導ける、お役立ちネタ」、あるいは「人の興味を引くネタ」を出さなくてはならない。
そのため、私は「知人の誰か」をターゲットにし、その人に「こんなことがあったんだけどさあ……こう思うわけよ。どう?」と、語るように主張を設定する。
 
そもそも、記事は身近な人をターゲットとしたほうがリアリティを持って書ける。
例えばオウンドメディアであれば、「まずは社内の人に読んでもらえるかどうか」を気にすると良い。
もちろん、本記事も同様に、弊社の「営業担当」「セミナー担当」と「コンテンツ担当」に読んでもらうことを前提として書いている。
 
3.意外性のある主張をする
話の上手い人は、かならず「意外なオチ」を用意する。
「えー!マジかよ~」という反応を期待して。
同様に「書くのが上手い人」も主張には「意外性」を必ず用意する。そうすることで読者の興味は「その根拠」に向けて、注がれるからだ。
 
4.仮説を証明する理論・データがあるかどうかを調査する
そして、ここからが本番だ。
3.までで終わってしまえば、それは単なる「仮説」の粋を出ないし、「意外性のある主張」も、「単なる与太話」で終わってしまう。
仮説はあくまで仮説であり、証明が必要だ。
そのため必ず「文献」を複数当たり、調査を行う。
例えば、本記事を書くのに使った文献は以下の8つである。
「独りよがりの思い込み」ほど、見苦しいものはない。
何かを主張するのであれば、事実を提示し、出来る限り客観的に仮説を強化しなければならない。
 
5.文献から得られた「意外性のあるデータ」を軸に、記事を再構成する
文献をあたることで「仮説」がハズレていることが判明することもある。その場合は「嬉しい誤算」として、それを記事化すれば良い。
 
なお、前職、コンサルタントだった頃は、記事やセミナーを作るときには「同一テーマの書籍はすべて読む」という義務があった。
これは非常に合理的だった。仮説検証のみならず、新しい論点の抽出ができ、「どんな主張が新しいか」を知ることもできる。
 
そして実は、これは論文を書こうとする研究者と全く同様の行為だ。
研究活動は、先行研究の調査を行い、論点を抽出し、仮説を立てる行為である。
つまり「記事を書く」は、「論文を書く」とほぼ同じであると、我々はみなしている。
 
したがって文献を当たれば当たるほど、新しい「仮説」をどこに持ってくれば意外性があるかを見抜くことができる。
 

「文献をあたること」がコンテンツメイキングの本質

ここまでお読みいただいた方は気づいたかもしれない。
要するに「再現性のあるコンテンツメイキング手法」とは一言で言えば、
「文献を数多くあたって、意外性のある論点を発見すること」である。
要するに
本を読まない人は記事を作れない。
映画を見ない人は映画を作れない。
音楽を聞かない人は音楽を作れない。
絵を見ない人は画家になれない。
つまり「読まれる記事を書きたい」と言われたら
「その分野の本を山ほど読んで、新しい論点を発見してはどうですか?」という回答が、最も正解に近いのだ。
 
これは奇しくも、上で紹介したアンディ・クレストディナの
「調査記事を書け」
と、全く同一の結論である。
また、元電通の田中泰延が著作の中で述べている結論とも同一である。
書くという行為において最も重要なのはファクトである。
 
ライターの仕事はまず「調べる」ことから始める。そして調べた9割を棄て、残った1割を書いた中の1割にやっと「筆者はこう思う」と書く。
 
つまり、ライターの考えなど全体の1%以下でよいし、その1%以下を伝えるためにあとの99%以上が要る。
「物書きは調べることが9割9分5厘6毛」なのである。
 
たとえば、テレビ番組で参考になるのは『NHKスペシャル』だ。あの番組では、徹底して調べた事実、そしていままで明らかになっていなかった新事実が提示され、作り手の主義主張を言葉にすることはない。ファクトを並べることで、番組を観た人が考える主体になれる。
だから私は「書くことがない」「なにが受けるかわからない」という方には、こう回答している。
「どの程度、その分野について文献をあたりましたか?」と。
 

 

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【著者プロフィール】

安達裕哉

元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。

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