このコンテンツは有料note「webライターとメディア運営者の、実践的教科書(安達裕哉著)」より転載しています。
当社では「公式アカウント」「オウンドメディア」「社員の実名SNS」など、すべての発信において、情報発信マニュアルに基づいた発信を行うようにしています。
今回はそのマニュアルの中身を解説します。
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経済活動だけではなく、政治、軍事、学問領域などもふくめ、あらゆる活動において、情報発信の重要性については、かなり昔から語られています。
とはいえ、webの登場前には、情報を流通させる手段は非常に限られており、情報流通の経路を独占しているマスメディアに頼るほかありませんでした。
しかし、webの登場とともに、発信コストは劇的に下がりました。SNSやYoutubeに見られるように、個人で、しかも無一文であっても「情報発信が巧みであれば、世の中に情報を流通させることができる」ようになったのです。
独占を崩されたマスメディアの地位の凋落とともに、優秀な人材が集まりにくくなった現在では、報道の質の低下とともに「マスメディア」を信用しない人が増えています。
結論を先んじれば、調査内容は世界・日本の放送界にとって、楽観を許さぬものだった。ニュースへの信頼度・関心、ニュースを知るためのマス・メディア接触は、いずれもこの10年で低下しつづけており、さらには、あえて報道を避ける傾向が若者を中心に徐々に強まっている。ただし、全体的に日本は他国と比べ軽度にとどまっている。(民放オンライン)
もちろん、この状況を正確に把握できている人は、それを十分に理解しており、これまでの「広告発信」「マスメディア発信」を控え、「自社発信」の比重を上げていくように動いています。
トヨタ自動車などはそのよい事例でしょう。
トヨタイムズが本格始動して以来、豊田氏は大手メディアのインタビューをほとんど受けなくなった。決算後の会見も、現行の年4回から、年2回(中間、本決算)に減らすという。代わりに、トヨタイムズの記事や動画には頻繁に登場し、経営の理念や考えを事細かに語っている。消費者に対し、自前でメッセージを発することのできる環境が整ったのだから、もはや大手マスコミを介する必要はないということだろう。(週刊現代)
したがって現在では、情報発信の成否は、コストを負担できるかどうかで決まるわけではありません。
では何が情報発信の成否を決めるのかと言えば、「情報発信のスキル」にほかなりません。
現在では「情報発信のスキル」の価値は、大きく上がっており、インフルエンサーやYoutuberの中には、そのスキルだけで莫大な富を生み出す人も出てきました。
しかし、メディア運営の実務を通して感じるのは、依然として多くの人は「情報発信」が下手だという事実です。
無理もありません、一般人が「情報発信」が可能になったのは、せいぜいここ20年ほどの話であり、それまでは一部の人々に独占されていたスキルなのです。
したがって、両親から教わることはまずないですし、学校はおろか会社ですら、このスキルを教えられる人はほとんどいません。
(であるがゆえに、希少スキルを源泉として、YoutubeやSNSで莫大な富を得る人が出るのです)
しかし、そもそも「情報発信が上手い」とは、本質的にどのようなことを示しているのでしょうか。
情報発信のスキルを身に着けよう、という人は何を目指せばよいのでしょうか。
情報発信のスキルとは
例えば、「情報発信 スキル」などと検索すると、上位に表示されるのは、
「分かりやすい発信を心掛ける」
「キャッチである」
「役に立つ」
など、「情報の中身」や「書き方(話し方)」にフォーカスした話であることがほとんどです。
しかし、情報の中身は「上手な発信」の一部に過ぎません。
実際、熟練の発信者は、「中身」や「書き方(話し方)」の話は、あくまで要素の一つに過ぎないと考えており、「頻度」など、それ以外の周辺要素も網羅的に満たしてこそ、「上手」だと言えると認識しているはずです。
では、いったい熟練者の情報発信者は何をしているのでしょうか。
様々な発信の技法がありますが、一過性ではなく、長期にわたって優れた発信を行う人物/組織は、以下の要素をすべて満たした発信をしています。
1.正確性の担保2.高い話題性3.導線設計4.次回の発信への期待を喚起する
では、具体的に解説します。
1.正確性の担保
上手な発信の第一条件は、「正確性」です。
正確性は、発信者の「信用力」と「情報源としての価値」の両方に重大な影響があるからです。
人を煽るような誇大な表現や、受け手の誤った認識を誘発するような表現は、「1回限りの発信」であれば効果があるかもしれません。
しかし、情報発信で重要なのは、なにより「この情報源は利用価値が高いので定期的に購読/フォローしておく価値がある」と見なしてもらう事です。
そのためにはまず「情報が正確であること」が問われます。
しかし、「情報が正確」とは何を示すのでしょうか。
意外かもしれませんが、「正確かどうか」は、実は「情報の真偽」ではありません。
なぜならば、情報の真偽は、正直なところマスメディアが報道していようと、市井の一般人がSNSに書き込もうと、検証が不可能なものがほとんどだからです。
これは、「地球が太陽の周りをまわっている」と言うような、科学的な事実であっても同様のことが言えます。
なぜならば、ほとんどの科学的事実も、「自分自身で確かめたわけではない」からです。
実際、地球が太陽の周りを回っていることを、自分自身で確かめた人はほとんどいないでしょう。
ほとんどの人は「教科書がそう言っている」「図鑑に書いてある」「辞書に載っている」「権威がそう言っている」と言う程度で、事の真偽を検証しています。
情報の正確性は「発信者の信用/権威」によって担保されるのです。
つまり、その発信が間違っていた時に、「誰が責任を取るのか」と言う話で、正確性が決まります。
「発信者の信用力」が高ければ正確な情報だとみなす。低ければ、検証が必要な情報だとみなす。
それが、世の中情報発信における、暗黙のルールです。
従って、実名での発信は義務ではありませんが、「匿名での発信の価値」は同じ内容であれば、実名での発信の価値にに劣ります。
したがって、正確性に関する「情報発信のルール」は、二つあります。
①当事者の発信である場合は実名にすること
②当事者ではない場合、出典が示されていること
「発信する事項」の当事者であれば、実名で、その旨を表明してから発信をすることです。ハンドルネームやニックネームでの発信も可能ですが、基本的には「実名」と紐づいた発信を心掛けてください。
また、発信する情報の中で、参照した文献やwebサイトなどがあれば、それらも併せて「出典」として、発信に含めてください。
これは、その発信を受けた人が、事の真偽を検証しやすくするためです。
なお、ChatGPTなどのAIを用いた発信をする際には、必ずAIにて生成された文章であることを明示したうえで、人間によるファクトチェックを行ってください。
「海外SEO情報ブログ」の鈴木謙一は、「AIコンテンツはスパム」「ファクトチェック必須」である旨をGoogleの検索チームの一員よりヒアリングしています。
実際、Gizmodoが取り上げたニュースでは、CNETがAIに記事を書かせ、炎上したケースが取り上げられています。
Futurismなどによれば、CNETは去年11月頃からChatGPTに記事を書かせていたんですが、その内容があまりにウソだらけで、何回も大きな訂正をする結果になっています。ChatGPTが書いた「複利」に関する解説記事では、大きな間違いが少なくとも以下の5カ所ありました(現在は修正済み)。(中略)CNETはもう2カ月以上、累計78件もChatGPTに記事を書かせ続けています。多いときでは、1日に12件書かせていました。記事の署名は、元々は「CNET Money Staff」、その後「CNET Money」となりましたが、どちらもAIだとはわからない署名です。AIが書いた記事であることは、著者の説明部分をプルダウンすると「自動化技術を使って作られた」とあるだけでした
われわれも、記事生成に自然言語処理のAIを用いることは必ず発生すると考えていますが、その場合はすべてのコンテンツについて「AI生成である旨を示す」「ファクトチェック」を行うことを義務付けます。
2.高い話題性
正確であることを前提としたときに、次に重要となってくるのが「話題性」です。
個人で好き勝手に発信をするのであればともかく、公人、あるいは組織として発信をするのであれば、投入するリソースに見合った、「高い話題性」を持った発信を心掛けるべきです。
では「話題性」とはいったい何を指すのでしょう。
もう少し解像度を上げると、「話題性」というのは、「どれだけ多くの人が、その話に興味を持つのか」の言い換えに過ぎません。
つまり「話題性」はTwitterで言えばトレンド、ブログで言えば人気記事ランキング、検索エンジンでは検索ボリューム、Youtubeでいえば再生回数などで示される、「その話題の潜在的な読者/視聴者の数」で、判断されます。
そしてもちろんこれは、大きなほうが良いと判断します。
起業するときに潜在的な顧客数が「日本のみ、200人」の商売より、「世界全体、10億人」のほうが、価値が高いのと同じです。
しかし、ここで注意点もあります。
それは、「話題を広くとりすぎること」による、デメリットです。
その代表的なものが、「一般論」に終始してしまう事。
話題は、受け手が広ければ広いほど、マスメディアの報道のように「誰もが好む味付け」になりがちです。
また、同じような発信も、競合が増えるにつれて多くなると考えてよいでしょう。
その中で、自分たちの発信を目立たせることは難しくなります。
では、どうすれば良いのでしょう。
それは、Googleの検索品質評価ガイドラインにヒントがあります。
そのコンテンツの品質が高いかどうかは、Googleによれば「E-E-A-T」(信頼性、経験、専門性、権威性)によります。
そして、この中で「話題性」に大きくかかわるのが「経験」の部分です。
一般的にマスメディアでは「経験」は重視されません。
組織や記者の経験は、客観的、中立的ではないという理由で排除されてしまうからです。
しかし我々のような立場では、それこそがマスメディアに勝てる部分だと考えてよいでしょう。
したがって「記事を届けるターゲットは広くとり、記事の内容は個人的な(あるいは組織としての)特異な経験を」というのが、当社の情報発信の基本的な考え方です。
なお、「特異性」というのは、Googleがいう「専門性」にあたりますから、仕事で得た経験や、専門的な知見を発することが最も簡単にコンテンツを生み出すやり方です。
ただし、いくら特異な経験を発信する、と言っても、公開することによるデメリットが大きい機密情報のガイドラインに抵触するような情報発信は慎んでください。
なお、どのような発信に需要があるのかは、例えばTwitterであれば「インプレッション」「エンゲージメント」などの指標が存在しています。
ブログであれば「ビュー数」「滞在時間」、Youtubeであれば「再生回数」「再生時間」などです。
これらの指標については、都度社内の経験のある人に、確認を取り、毎週、できれば毎日レビューを行ってください。
数値はその話題が適切かどうかを判断する、唯一の手掛かりです。
「読まれなくても良い発信を心掛ければいい」と言うのはアマチュアの発想であり、プロは情報発信に関する数値を細かく見ることが問われます。
3.導線設計
正確性が高く、話題性もあるコンテンツであれば、「情報発信としては十分」と考える人も多いかもしれませんが、それは冒頭に書いたように、コンテンツの中身と言う側面からしか情報発信をとらえていない考え方です。
そうではなく「情報発信」というものは、情報発信をした後どうしたいのか?、つまり人を動かす導線も含めて設計しなければなりません。
したがって、「情報発信」は最終的に、何かしらのアクションを、読者にとってもらうような出口が必要です。
Twitterであれば、フォロー
ブログであれば、メルマガ登録/資料ダウンロード
Youtubeであれば、コメント投稿/チャンネル登録
メルマガであれば、無料セミナーの案内
と、発信する媒体や、情報発信の内容により、「どのようなアクションを取らせるか」は千差万別です。
例えば、TwitterやYoutubeは他のサイトに遷移させることがサイトの設計上、難しくなっていますので、そのサイトの中で完結させることが良いでしょう。
ブログやメルマガであれば、営業リストを作るために、個人情報を取得する、あるいはリアルなイベント・セミナーなどへ招待する、という設計も可能です。
いずれにせよ、多くの場合、情報発信のゴールは、「読者リストの固定化」です。
出口がなければ、いつまでたっても情報発信は「不特定多数に向けて」行わねばなりません。
それでは、非効率です。
究極的には、会員向けのビジネス、支持基盤の確立、あるいは営業のターゲットにすることを情報発信の目的にするならば、「我々のファンのリストを作る」ことを、情報発信の目的にしてください。
また、情報発信はプラットフォームを絞る必要は全くありません。
「Twitterだけ」
「Youtubeだけ」
「LINEだけ」
などと、絞るのは非効率です。
デジタルデータであれば、一つのコンテンツをつくったら、複製は非常に簡単にできます。したがって、あらゆるプラットフォームに同時にそれを流せばよいのです。
ユーザーのかぶりもほとんどありませんので、「重複」を恐れる必要もありません。
逆に、やってはいけないこともあります。
それは「広告のような発信」です。
この行為は、読者や視聴者の信頼を失いかねません。
例えばYoutubeの動画の中で「これを買ってください」と言ってみたり、Twitterのコンテンツの中に「スポンサーのツイート」を紛れ込ませたりする行為は、読者や視聴者の信頼感を著しく損ないます。
商売をやってよいのは、許諾を得た、クローズドなリストに対してだけです。
つまり、
メルマガ登録
Youtubeメンバーシップ
セミナー
といった、リストを取得する際に「営業しますよ」という許可を得て、参加者が限定されており、かつ「ファン向け」という状況においてのみ、商売が許されます。
逆に言えば、許諾を得たリストに対しては、商売は歓迎されます。
「お得な情報」
「ここでしか買えない商材」
「セール」
といった商売の発信は、許諾を得てさえいれば、非常に歓迎される情報なのです。
堂々と商売をしましょう。
4.次回の発信への期待を喚起する
さて、正確性、話題性、導線設計を、コンテンツに反映することができたなら、最後に考慮しなければならないのが、「発信の頻度」です。
実は「発信の頻度」は、コンテンツの質そのものよりも、「次回の発信への期待」を喚起します。
そして、次回への期待が高まれば、設計した導線の通りに動いてくれる可能性が高いのです。
実際、「とても良いコンテンツを1回きり出した人」よりも、「コンスタントにそこそこの情報を出す人」のほうが、フォロワーはつきやすいのです。
われわれにとって、これは極めて重要な発見でした。
「質を高めようとする」あまり、発信の頻度が落ちてしまう人がいますが、それは間違っている、ということになります。
さらに読者の足跡を見ると、それは「シンプルなコンテンツ」を「短い頻度」で「定期的に発信」であるほど良いのです。
ではいったいなぜ、そのようなことが言えるのでしょうか?
単純に言えば上は、
「長文は避けられる」
「短い頻度で発信すれば忘れられない」
「わざわざ情報を取りに来る人は少ないので、定期的に発信して覚えてもらう」
という理由のためです。
これは一種の「サブスクリプション」と言えるかもしれません。
サブスクリプションは、たいていの場合は、大きな買い物ではなく、月ごとに少額の支払いをしてもらう形で、「わざわざ買いに行く」という心理的な障壁をクリアしています。
情報も同じです。
わざわざ情報を取りに来るのは面倒くさい、だからちょっとずつ頻繁に発信してくれる人のほうが、読者としてはありがたい、というわけです。
もちろんこの原則に従えば、必ず次回へ期待してもらえる、と言うわけではありません。
くだらない情報を垂れ流すメルマガのわずらわしさは、皆様も体験したことがあるでしょう。
しかし、ある程度の質が担保されていれば、毎回毎回、「超濃い情報」が流れてくる必要はありません。(無料の場合は、品質に対する要求水準がそこまで高くありません)
むしろ、頻度が高いこと=品質 と言う側面もあります。
肝心なのは、「分かりやすく定期的に発信されている」という事であり、読者は不定期にしか発信しない発信者をいつまでも待ったりしないのです。
ですから「不定期更新」と言う言葉をつかってはいけません。それが許されるのは、よほどの人気作家か、芸能人だけです。
したがって、可能であれば毎日、最悪でも週一回は、指定した日にコンテンツを発表しなければなりません。
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以上が、当社の「情報発信マニュアル」の内容になります。
個人として行うことを想定して書かれているというよりは、組織が情報発信をどのように設計するかに焦点があるため、個人にとってはハードルが高いと感じられることがあるかもしれませんが、個人であっても、マニュアルに従って発信をするだけで成果が得られます。
「強い顧客基盤を作りたい」という組織の方は、ぜひお試しください。
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【お知らせ】
Books&Apps及び20社以上のオウンドメディア運用支援で得られた知見をもとに、実際我々ティネクト(Books&Apps運営企業)が実行している全48タスクを公開します。
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これからオウンドメディアをはじめる企業さま、現在運用中の企業さま全てにお役に立つ資料です。ぜひご活用ください。
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【著者プロフィール】
安達裕哉
元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。
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