「書くスピード」を上げるトレーニングの方法

このコンテンツは有料note「webライターとメディア運営者の、実践的教科書(安達裕哉著)」より転載しています。


「書く」という行為は、思考を形にするクリエイティブな行為であると同時に、実際に手を動かして入力を行う(音声入力なら「話す」)フィジカルな行為でもあります。

 

それはちょうど、楽器の演奏とよく似ています。
楽曲と、手足の運びの両者が整って初めて、作品が生み出されるからです。

 

したがって、書くことは「トレーニング」が重要です。ある程度毎日書き続けないと、ウデが錆びついてしまう。

 

ピアノの奏者が毎日鍵盤を叩くように。

ヴァイオリンの奏者が毎日弓を手にとるように。

上手になりたいのならば、書き手は毎日書かねばなりません。

 

それゆえ「書く」を生業とする人は、トレーニングプログラムを持っておく必要があるというのが、私の考え方であり、「文章術を学ぶ」よりも効果的なトレーニング方法を作るほうが、よほど重要です。

 

トレーニングをすると「書き出しのスピード」が上がる

トレーニングの効果が出やすいのは、書くスピードです。

特に初心者が「書けない」経験をするのは、冒頭であれこれ悩んでいるうちに、「何もせずに1時間」が経ってしまい、「あー書けない」と袋小路に入ってしまうこと。

これで書くことに苦手意識を持ってしまう方も少なくありません。

にもかかわらず、一般的に文章術の本には「書き出しのスピードを上げるトレーニング方法」についてはあまり記載がありません。例えば、

・話すように書けばいいい
・書くべき材料を並べる
・構成から書く

といった「工夫」は紹介されていますが、「どのようにそれを練習するか」については、「書いてみなさい」という指示以外にはないことが一般的です。

 

しかし、「書けない人」の現実を見ると

「話せても書けない」

「材料があっても書けない」

「構成が書けない」

と言った状況が圧倒的に多く、「指示通りにできない」というのが本当のところではないでしょうか。

 

そこで今回は1日30分程度、週2回ほどやれば、2〜3ヶ月程度で効果が出る「書き出しのスピードを上げる」トレーニングを紹介します。

 

トレーニングの具体的な方法

では、トレーニングの具体的な方法の紹介に入ります。
といっても、やり方は簡単です。

1.30分以内に
2.新聞記事を読んで
3.自分の「感想」を400文字程度書く
4.1週間に2回ほど。通算20回ほどトレーニングする

だけ。

 

これだけでおしまいです。
なーんだ、と思うかもしれませんが、本当にこのトレーニングを行うだけで、文章を書くスピードが劇的に上がります。

 

1.「30分以内に」

これは単純に時間制限を加えたほうが生産性が高まるという理由からです。

書けても書けなくても、30分で一度区切る。

 

そのため、スマートフォンのアラーム機能などを使って、30分きっちり測ってください。

基本的に書く時には「思考のモード」を切り替えなくてはならないので、そういった意味でも、時間を測ることは重要です。

こうすることで「締め切り間際のパワー」を引き出し、かつ「悩まずに書く」感覚が体得できます。

 

2.「新聞記事を読む」

30分のアラームをセットしたら、新聞記事を読みます。

この時、題材として優れているのは「社説」や「天声人語」などのコラムです(例えば読売新聞の社説はネットで読めます。https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20200813-OYT1T50268/

 

なお余談ですが、傍らに常に記事を表示させておいたほうが良いので、可能であればモニタを2台、用意すると非常に執筆がやりやすいです。

デュアルモニタ環境のない方はノートPCやタブレット、スマートフォンなどでも結構です。とにかく「書く画面」と「読む画面」は独立させたほうが作業がはかどります。

 

話をもとに戻します。

ここのポイントは「書く題材を自分で考えない」ことにあります。

つまり、新聞などをよんで、テーマや題材が提供されている状態で書くこと。

なぜなら、書くという行為は、大別して以下の3つの活動からなりますが、「書き出せない」理由の多くは、1.のテーマ・主題の設定でつまづいていることが多いからです。

1.テーマ・主題の選定
2.執筆
3.推敲

したがってトレーニングにおいては「テーマ設定」と「書く」とは切り離して訓練する必要があります。

そこで、新聞を使うのです。

すでに新聞などのコラムから「材料」が十分に提供されている状態であれば、テーマ設定で悩む必要が全くありません。

 

しかもコラムは明瞭・簡潔に書かれており、主張もわかりやすい。

したがって、それについての「意見」が持ちやすいのです。

 

例えば以下の8/11の社説。

闇バイト 安易に受ければ代償は大きい

インターネット上で、「闇バイト」と呼ばれる犯罪行為の勧誘が横行している。若者が安易に手を出すケースが目立っており、注意が必要だ。

読んでみていただくとわかりますが主張はまさに「タイトル通り」です。文字数は1000文字程度。奇妙なレトリックも、わかりにくい単語もありません。

つまり「テーマ」として最適なのです。

「小論文」を書くつもりで取り組むと良いでしょう。

ただし後述しますがこれは「論文」ではありません。

固く考えず、「書き出しのスピードを上げる」ことだけを考えれば良いので、気軽に読んでしまって結構です。

 

3.「自分の「感想」を書く」

そして記事を読み終えたら「感想」を書きます。

ここでのポイントは「PREPなどのテクニックは一切、無視してよい」という点です。

とにかく早く書くことが目的ですので、根拠や結論などはすべて無視してよく、思ったことを書くことに徹します。

 

例えば前述した闇バイトの記事ですが、私の第一の感想は

全く普通の大学生が、犯罪に加担させられているというのは驚きだった。

です。なんの変哲もない感想を書き出します。

 

ところが実は、これがとても重要です。

なぜなら、最初の1行を書いてしまえば、この1行を読んでまた別の感想が出てくるからです。

「書く」⇛「自分が書いたものを読む」⇛「書く」⇛「またそれを読む」

という連鎖反応が起きるのです。

 

そして「普通の大学生が犯罪に手を染める」を読んで、次に思ったことは、なぜ大学生が犯罪に手を染めてしまうのか、です。

有名大学の学生もいるようです。

しかし、なぜ普通の大学生が犯罪に手を染めてしまうのだろうか。
記事を見ると、明治大学や日本大学の学生が逮捕されているとある。

そして次に思ったのは「違法性を知らずにやった」という可能性もあるのだろうか、です。

 

ただ、少し考えれば、加担した大学生が「犯罪だ」と認識していた可能性は高いでしょう。

彼ら大学生も「違法行為」と認識していたのだろうか。
また、犯罪者グループの「手足」として使われ、逮捕されることもあり得ると認識していたのだろうか。

これはYESだろう。
彼らも馬鹿ではない。自分のやっていることは認識していたはずだ。

したがって、社説の主張は、”大学や家庭が、安易に応募しないよう指導する必要がある” とありますが、少し浅いと思いました。

 

だから、対策として、”大学や家庭が、安易に応募しないよう指導する必要がある” と社説で主張されていたが、有効とは思えない。

彼らが犯罪に手を染めるまで困窮し、やむにやまれず応募したという可能性もある。
このあたりが掘り下げて原因究明されない限り、同様の犯罪行為は後をたたないと考える。

これで400文字と少し。

 

30分で書くことはそう難しくないでしょう。慣れた人であれば、5分もあればサッと書けるはずです。

なお「短く書く」練習ではないので、400文字ではなく、1000文字、2000文字書いても結構です。

 

4.1週間に2回ほど。通算20回ほどトレーニングする

あとはこのトレーニングを繰り返すだけ。

最初「書けない……」とうなっていた人も、5回もやれば、コツを掴んでぐんぐん書けるようになります。

 

なお、通算で20回もトレーニングすれば、400文字どころではなく、前述の通り、1000文字でも楽に書けるようになります。

そうすればあとは「社説」などの短い題材ではなく、もう少し長い題材、たとえば書籍や長めの論説などに挑戦することも可能です。

 

なお、最低でも1週間に1回、できれば1週間に2回ほどこのトレーニングを行うことをお勧めします。

これは、勘を失わないうちに、トレーニングを繰り返したほうが、定着が早いためです。

 

「その次」はどうすべきか

ただし、このトレーニングは限界もあります。

それは、「書き出しのスピード」は訓練されるのですが、

テーマ探しのスキルを上げたり、文章を整えるスキルを上げる訓練にはならない点です。

あくまでこのトレーニングが提供するものは「書き出し」の技術です。

「バズるテーマを発見する技術」や「整った文章を書く技術」ではありません。

 

ただ、テーマ発見の技術については過去記事にすでに書きましたので

【39】「何を書けば読まれるのか」を解き明かす。

を参照していただくのが良いでしょう。

 

個人的には「次のステップ」として、ブログやnoteへの投稿を始めることを強くおすすめします。

なぜなら「人に見てもらう」ことが重要だからです。

「何を書けば読まれるのか」を体得するには、「読まれる記事」と「読まれない記事」をビュー数という数字で経験する必要があります。

また「整った文章を書く技術」については「文章術」系の記事や、このマガジンで取り上げている書籍が役に立つでしょう。

 

なお、「文章術」を会得するトレーニング方法として、大野晋の「日本語練習帳 (岩波新書」という書籍が実践的なのでお勧めします。

 

一般的には、文章力の向上のためには「添削」をしてもらうことが必要ですが、身近に編集をやっている人がいるケースは少ないでしょう。

 

そこでこの本です。

この書籍は文字通り「練習帳」になっています。

短い文章を「書く」お題が出題され、それをやることで、ある程度の「整った文章」を書く訓練になります。

 

例えば練習1は以下のようなものです。

「思う」と「考える」という似た意味の言葉があります。「行くべきだと思う」「行くべきだと考える」のように使います。
しかし場合によっては、どちらを使ってもいいというわけにはいきません。例えば、

今夜のごはんの献立をーーー
という場合には、「献立を考える」が普通で、「献立を思う」とはいいません。

これにならって
a ーーーを思う(または、に思う)
b ーーーを考える

と区別して使うのが普通なaとbとを、それぞれ三つずつ書いて下さい。
(問1)

次に、「思う」と「考える」はどう違うのか、書いて下さい。
(問2)

模範解答も用意されており、点数をつけていくと自分の大まかな文章のレベルを掴むこともできるので、挑戦してみるとよいでしょう。

 

なお、大野晋は「社説を要約する」というトレーニングなども紹介しており、様々な文章術トレーニングの方法なども学べます。

繰り返しになりますが、文章は「本を読む」だけでは決してうまくなりません。

 

素晴らしいアーティストの演奏を聞いても、決して同じように楽器がひけるようにはならないのと同様に、自分で書き、人に見せてフィードバックをもらう中でようやく少しずつうまくなる性質のものです。

 

健闘を祈ります。

 

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【著者プロフィール】

安達裕哉

元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。

◯X:安達裕哉

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