ライターが獲得すべき「よみたくなる文章力」とは、一体何なのか

このコンテンツは有料note「webライターとメディア運営者の、実践的教科書(安達裕哉著)」より転載しています。


Books&Appsに寄稿をいただいていた、patoさんが本を出されるというので、帯に推薦文を書かせていただいた。

文章で伝えるときいちばん大切なものは、感情である。 読みたくなる文章の書き方29の掟 | pato

こういうことはあまり軽々しく引き受けるものではないが、今回お引き受けした理由は、patoさんは「文章力」というテーマを語るにふさわしい人だと思ったからだ。

 

だが、patoさんは決して「分かりやすい文章」を書くわけではない。また、「役にたつ文章」を書くわけでもない。

逆に言えば、そうした目的が明確に決まっている文章であれば、他に良い本がいくらでもある。例えばコピーライターの梅田さんの本だ。
言葉で商売をしている人は必ず読むべきだと思うし、すぐに仕事に役立つ。

Amazon.co.jp: 「言葉にできる」は武器になる。 : 梅田 悟司:

あるいは、ここでも何度か紹介している文章術のベストセラー、「理科系の作文技術」や「日本語の作文技術」は、文章の基本的な技術が詰まっており、日々の仕事の中で文章を書くビジネスパーソンすべてに役立つだろう。

理科系の作文技術 (中公新書 624) | 木下 是雄

<新版>日本語の作文技術 (朝日文庫) eBook : 本多 勝一

しかし、patoさんの書く文章は、これらの本が勧める「文章術」とは全く異なる。
彼の文章は純粋に「読みたくなる」ことを目指す文章なのだ。

 

「読みたくなる」文章とは

とはいえ「読みたくなる」というのは、実はハードルが高い。

「分かりやすい」「つたわりやすい」であれば、テクニックを覚えさえすれば、ある程度何とかなる。

しかし「読みたくなる」については、純粋にコンテンツが人を惹きつける力を高めるしかない。

そもそも「コンテンツ力」というのは、ほぼテーマに依存する。
テーマが良ければ、多少文章がわかりにくくても、拙い表現であっても読まれる。逆に、テーマ設定に失敗すれば、どのような技巧を用いたとしても、読まれない。

 

例えば仕事であれば、給与の話は読まれやすいし、職場でのバカな振る舞いも人気があるテーマだ。逆に、3次方程式の解の公式や、アル・ヤンコビックの話題はほとんど読まれないだろう。
これは「テーマによって読まれる数の上限が決まっている」ということだ。
換言すれば、「書くテーマを決めた時点で、PVの天井が決まっている」

だからわたしが運営しているBooks&Appsというメディアでは、「何をテーマとして書くか」について、基本的には制限を設けていない。
ゲームでも、ADHDでも、仕事でも、それこそナンセンス文であってもいい。とにかく「面白ければいい」と考えているからこそ、逆に、テーマの指定ができない。

 

だから、基本的にクライアントから依頼を受けて書く立場のライター、テーマに制限のある商業ライターは(私を含めて)「コンテンツ力を高める」ということに対して消極的にならざるを得ない。
コンテンツ力が最初から制限されてしまうからだ。

例えば「お金の貯め方について書いてくれ」と言われた瞬間に、バズるテーマはある程度限られてくる。
どのようなテーマにすれば読まれるのか、ライターは知恵を絞るが「一般の人にはどうでもいい話」をいくら工夫したところで、できることは限られている。

実際、「バズる必要がない」と述べるマーケターや商業ライターもいるが、それはある意味では負け惜しみでありつつも、彼らの抱えるジレンマを体現した言葉である。

 

しかし、商業ライターでもあるはずのpatoさんは、あえて著作の中で「バズは必要だ」と言い切る。

「バズ」とは、インターネットで発表した何かの成果物が多くの人にまで拡散され、もはや個人の力を超えたレベルで広がっていく現象だ
(中略)
普通はただの一個人のボヤキで終わってしまい、その女性の知人くらいに共有されて終わりだ。絶対に国会では取り上げられないだろう。けれども大きく広がってしまった。それがバズの面白さでもあるし、怖さでもある。
我々は文章を書くことによって「バズる」必要がある。
(中略)
だから我々は文章を書くとき、受け取った人の心を掴む必要がある。それがバズだ。だからバズる必要があるし、バズのための手法を学ぶ必要があるのだ。

この本が貴重なのは、「テーマに制限がある状態」で、いかにバズを起こすかという、かなりの難題に取り組んでいる点なのだ。(パット見、そうは見えないのだけど)

 

「読みたくなること」の本質はどこにあるか

では「読みたくなる」の本質はどこにあるのだろうか。
これは数多くの文献で、かなりの一致が見られる。

 

ー「意見の面白さ」を分解する

まず文章で最も重要なのは、意見の面白さである。
これはエッセイや小説だけではなく、ビジネスの報告書であっても、論文であっても、感想文であっても同じだ。

patoさんの言葉を借りれば、「伝えたいこと」の希少性、つまり主義主張の中身が重要だということになる。

伝えたいことがない希少性のない文章は、そこに存在する意味がない。
(中略)
では、どんなものを読みたいと思うか。それは、その人の主義主張が入った文章だ。この文章を通じてこの人はなにを伝えたかったのか、それが込められた文章はただの日記とは一線を画す。この伝えたいことの有無こそが、人に読まれるために書かれた文章と、そうでない単なる日記との明白な違いになる。

論文の場合はこれが「新規性があり、インパクトが大きい」という言葉で表される。報告書であれば「分析の切り口が鋭い」という話になり、感想文であれば「感動する」と言えるだろうか。

つい先日、金融業界で働く知人の一人が「アナリストとしてヨーロッパに赴任していたことがある」と話してくれた方がいる。
その方は本国の役員たちに向けて、週一度の市況レポートをあげる義務があったのだが、彼は毎週「どうやったら興味深く読んでもらえるかを死ぬほど考えた」というのだ。
本国では「彼のレポートは面白い」という評判がたち、彼は出世街道を歩むことになった。
では、なぜ彼のレポートは評判になったのか?
実は、彼は客観的な分析だけではなく「自分の主義主張」つまり「こういうリスクを取るべきである」ということを必ずレポートに書いていたという。
つまりこれは「彼の意見に希少性があった」ことになる。

あるいは上で取り上げた梅田さんの30万部のベストセラー「言葉にできるは武器になる」ではこのように書かれている。

そもそも言葉とは何なのだろうか?」という本質的な課題に向き合うようになった。そして、1つのシンプルな結論に達したのだ。
「言葉が意見を伝える道具であるならば、まず、意見を育てる必要がある」人によっては、「何をあたり前のことを」と思うかもしれないが、私にとっては大きな発見であり、救いになった。

「言葉にできる」は武器になる

 

「言葉が意見を伝える道具であるならば、まず、意見を育てる必要がある」
という一言は、私の思う中で最も優れた知見の一つだ。

というのも、文章術は「テクニック論ではない」ということを一言で体現しているからだ。
身も蓋もない言い方をすれば、面白い意見の言えない人は、いくら文章術を磨いても無駄である。

をやっていたこともあり、本「事実の記述」や「構成」を作るのは上手だったが、本やエッセイはさっぱり売れなかった。

そんな、報告書のような文章ばかりを作っていた父に対して、

「父ならばどのようなコメントをするだろうか」
「ツッコミどころはどこだろうか」
「オモシロイと言ってもらえるだろうか」

そういった事を考えながら書くことこそ「自分ごと」を体現する最短経路である。
むしろ「マス」を相手にすることばかりをやっていると、一人ひとりを想定した文章がかけなくなってくる。
マスメディア出身の人間が、必ずしも文章がうまくないのは、そのためだ。

 

まとめ

テクニカルな文章術の話は前述した「日本語の作文技術」や「理科系の作文技術」を読めばいい。
役に立つことがたくさん書いてある。

しかし、「どんなテーマが読まれるか」や「何を書けばいいのか」については、「自分が意見を持っている領域」にするしかない。
それはある意味「生き様」が反映される世界でもある。

 

実際、patoさんが書いた記事の多くは、実は「体験」に基づくもので、彼の文章の本質は、「奇怪な体験」を「面白く記述する」ことにある。

「廃線の駅を回る」
「サービスエリアのラーメンを全部食べる」

といった文章は、それを体験したからこそ、かけるものであり、本質的にはYoutubeの「やってみた」という動画と根は共通だ。

 

もちろんわたしの文章も同様で、コンサルタントとして20年以上、様々な企業に出入りしたからこそ書けるものしか書いていない。

つまりライターは「文章を技術で面白くする」より先に、「面白い経験を作りに行く」ことが先決だという事実に、どこで気づくか、である。

 

 

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【著者プロフィール】

安達裕哉

元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。

◯X:安達裕哉

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