言語化能力を高めるために推奨する、3つの日常の習慣

このコンテンツは有料note「webライターとメディア運営者の、実践的教科書(安達裕哉著)」より転載しています。


言語化能力の重要性が高まっています。
メッセンジャーやチャットで仕事のやり取りをする機会がここ数年で劇的に増えたからです。
 
また、webという媒体も「言語化」の能力の価値を高めています。
というのも、webページは基本的にテキストで構成されていますし、動画メディアも「言語化の上手な人(=トークがうまい)」が人気を集めるからです。
人間同士の情報のやり取りが、主に言語を介して行われている現在、「言語化能力」の重要性は、当分の間は揺らがないと考えてよいでしょう。
また、ChatGPTなどの生成AIをうまく使うにも、結局は「言葉」を介して命令を下すわけですから、この能力を鍛えることのメリットは非常に大きいと言えます。
 

言語化能力についての文献

しかし「言語化能力」とは何なのでしょう。
よく使われる言葉ではありますが、実はその言葉を使う人によって、意味にはかなり差があります。
事実、本稿を作るにあたって、相当数の文献を比較調査をしましたが、「言語化能力をうまく言語化している本」を14冊取り上げると、いくつかの類型に分けることができます。
 

1.コピーライターが教える、キャッチコピーを作る能力として

コピーライター出身のかたは、「伝わる表現」を作る能力として、言語化能力を定義していることが多いようです。

2.ビジネスパーソンの思考術の一部として

一番多かったのが、ビジネスパーソンの思考術としての扱いでした。「企画」や「プレゼンテーション」をはじめとする、社内やクライアントを動かすための「言語化」という位置づけです。
この場合「言語化」の領域は特化した能力として定義されることが多く、ビジネススキルの一つとして取り扱われます。
 

3.自己啓発やカウンセリングとして

モヤモヤしている心の中を、言葉を使って整理、悩みの解消につなげるという主張もあります。
これは前項と異なり、クライアントなど他者のためではなく自分のために言語化能力を利用しています。

4.書く技術の一部として

言語化の初手は「メモなどに書き出すこと」と説く書籍が多いですが、書く行為に通じるところが多く、「書く技術」の一部として言語化が取り上げられていることも多いのです。

5.「国語力」の一部として。

若干「言語化」のフォーカスとずれる点もありますが、国語力を取り扱う時に、言語化について触れるケースが多々あります。
こちらはどちらかというと、読解や要約力の中で取り扱われることが多いようです。

言語化能力とは何か

という事で、「言語化能力」と一口に言っても、そこには大変多様な定義が存在していますが、結局のところ「言語化能力」とは何か、という質問に対しては、目的によって異なる、としか言いようがありません。
 
しかし、実務的には「いろいろある」では困ります。
もっと簡便な定義はないのでしょうか。
 
実は、あります。
上のような文献で扱われている「言語化能力」を包括する概念として、個人的に推奨しているのは「言い換えの能力」です。
つまり、あるテーマが与えられたとき、そこに対して「2つのタイプの言い換え」ができる能力のことを「言語化の能力」と、私は定義しています。
それが、以下のものです。
 

1.具体的なたとえ話ができること

・~のエピソードと似ていますよね。
・~の話と共通点がありますよね。
・~というプロジェクトと同じですね。
・それに関しては~という事例が参考になりそうです。
 

2.抽象的に総括ができること

・まとめると~という事ですね?
・結論から言うと~ですね?
・つまり~と言えます。

・端的に言うと、~です。

例えば、自分の在籍している部署の人間関係について、モヤモヤを抱えているとしましょう。
これを「言語化する」とき、2つのパターンがあるのです。
一つは、具体的に「学校のクラスで言うと〇〇」など、似たような事例や話題に例えて話ができること。
そしてもう一つは、「要するに私の悩みは◯◯なのだ」と総括、一般化して言葉にできること。
この2つの能力を鍛えることで、より高いレベルで「言語化能力」を獲得することができます。
 

言語化能力を高める、日常の3つの習慣

では、言語化能力を高めるために、何をすればよいでしょうか?
一言で言ってしまえば、言語化能力を高めるのは日常の訓練であり、習慣です。
というのも、言語化能力はピアノを弾く能力やサッカーをやる能力、対戦ゲームやパズルを解く能力などと同じく、修練によって高める能力だからです。
 
訓練を日常の生活に組み込んだり、仕事の中で実際に活用することで、言語化能力を高めることができます。
ではどのような訓練をすべきなのでしょうか。
 

1.書き出す

上に挙げた書籍のほとんどで推奨されているのが、「書き出す」ことです。ほぼすべての文献で「書き出すこと」が推奨されています。
例えば「解像度を上げる」では、次のように解説されています。
まず取り組んでほしいのは、「今、何が最も重要な課題だと思っているのか、それはなぜなのか」を仮説で良いから最初に書くことです。 考え抜いた「結果」を書くのではありません。書くことは思考の「過程」です。書くことで私たちは考えることができます。 研究手法を説いた『リサーチの技法』という本の第1章は「紙に書いて考える」です。研究を進めるうえで、何よりも書くことが最初に位置付けられているのです。同書では書くことの目的と効用を「覚えるため」「理解するため」「考えを検証するため」としており、書くことは単に考えた結果を外に出すための行為ではなく、思考の道具として捉えられています。コンピュータサイエンスの研究者サイモン・ペイトン・ジョーンズも、まず論文執筆をしてから研究や実験を始めるべきだと指摘しています。
解像度を上げる 馬田隆明  英治出版
ここでは課題を深化させるために「言語化」が用いられていますが、そのための手法は書き出すこととされています。
あるいは「言葉にできる」は武器になる、においても、次のように書かれています。
では、どのようにしたら、考えを前に進めることができるようになるのか。 答えは簡単である。記憶域にあるものを一旦外に出して、考えることに集中できる環境を整えることである。 そのために、真っ先に行うべきことは、頭の中に浮かんでくる内なる言葉をとにかく書き出すことである。そして、目の前に書き出された内なる言葉を軸として、考えの幅を広げたり、奥行きを深めればいいのだ。 こうした段階を踏まずにいると、考えているようで、思い出しているだけの状態が続いてしまい、いつまでも同じところをぐるぐると行き来することになる。
「言葉にできる」は武器になる 梅田悟司 日本経済新聞出版
書き出すことは、私たちの思考をブーストさせる行為であり、その他の動物には無い特性です。それを使いこなすことは、人間として特有の能力を使いこなすことですから、やらない手はありません。
では日常的に「書き出す」をどのように習慣に組み込めばよいのでしょうか。
 
様々なやり方があり、自分に合った方法が良いかと思いますが、私がお勧めしているのは、通勤通学途上、あるいはオフィスでのネットサーフィン中に見た「気になるニュース」に対して、自分で 1.たとえ話 2.総括 の二つを、メモ書きすることです。
スマートフォンであれば、ほとんどのニュースに対して、それをクリッピングしてメモできるevernoteのようなアプリが使えるはずですから、ニュースクリップ → メモ書き の習慣を作ってしまえば、それだけで言語化の能力をかなり高めることできます。
手帳やそのほか紙やホワイトボードなどに手書きで書いてもいいですが、若干手数が増えるので、メールを書くようにメモ書きできる、スマートフォンで完結するやり方が良いと思います。
 

2.書籍で調べる

ただし「メモを書いてばかり」では、言語化能力の上昇は、早晩行き詰ります。なぜかと言えば、語彙が増えていかないからです。
web上のニュースや動画などで使われている語彙は、かなり限定的であり、限られた語彙の中にとどまっていると、言語化の能力がいつまでも上がりません。
たとえ話をするときに、「こないだwebの記事で見た〇〇」というのと、「シェイクスピアの〇〇のエピソードと似ている」では、受ける印象がだいぶ違います。
そういう意味で、現代で手に入る最も多様な語彙が使われている文献は、書籍です。
 
端的に言ってしまうと「本を読まない限り、語彙は増えず、言語化の能力も上がらない」のです。
「祖国とは国語」では、次のように書かれています。
ニュートンが解けなかった数学問題を私がいとも簡単に解いてしまうのは、数学的言語の量で私がニュートンを圧倒しているからである。知的活動とは語彙の獲得に他ならない(中略)
 
 
読書は過去も現在もこれからも、深い知識、なかんずく教養を獲得するためのほとんど唯一の手段である。
 
世はIT時代で、インターネットを過大評価する向きも多いが、インターネットで深い知識が得られることはありえない。インターネットは切れ切れの情報、本でいえば題名や目次や索引を見せる程度のものである。
祖国とは国語 藤原正彦 新潮文庫
ですから、可能であれば前項で書いた「メモ書き」の内容が、小並感、つまり小学生の感想文並みのものであれば、そのテーマに関する本を、何でもよいので一冊読んでみるべきです。
実際、今回、この原稿を書くにあたっても、「言語化能力」についての私の意見はすでにありましたが、その意見を拡張したり、あるいは別の角度から検討するという意味で、20冊程度の本を読んでいます。
これは一種の取材と言っても良いでしょう。
 
「読みたいことを、書けばいい」では、次のように述べられています。
映画にも必ず下敷きがある。過去の名作へのオマージュもある。特定の映画作家へのリスペクトもある。他の芸術作品や時事問題、歴史的事実を織り込んだ作品もある。それら下敷きになったものとどう関連しているか、どう発展させているかというのを、ちゃんと調べて指し示すと、読む人は「ああ、なるほど」となる。
 
書くという行為において最も重要なのはファクトである。ライターの仕事はまず「調べる」ことから始める。そして調べた9割を棄て、残った1割を書いた中の1割にやっと「筆者はこう思う」と書く。つまり、ライターの考えなど全体の1%以下でよいし、その1%以下を伝えるためにあとの99%以上が要る。「物書きは調べることが9割9分5厘6毛」なのである。
読みたいことを、書けばいい 田中泰延 ダイヤモンド社
「お金がかかるのでイヤ」という方もいるでしょうが、そういう方は図書館に行けば、たいてい置いてありますし、なければ欲しい本を取り寄せてもらえます。
図書館に行くのも面倒だし、あるかどうかわからないので……という方もいるかもしれませんが、今はwebがあります。
 
例えば「カーリル」というサイトがありますが、ここでは自宅近くの図書館に蔵書があるかどうか、貸し出しが可能かどうかを検索できます。
 
「取材・執筆・推敲ー書く人の教科書」で、著者は次のように述べています。
ぼくは本書を、「読むこと」の話からはじめたい。それが取材の第一歩であり、「書くこと」の大前提だからだ。よき書き手であるためにはまず、よき読者であらねばならない。この順番が入れ替わることはぜったいにないと、断言しておこう。
取材・執筆・推敲ー書く人の教科書 古賀史健 ダイヤモンド社
「解像度を上げる」においては、次のようにされています。
事例のサーベイがある程度終わったら、次は大きめの書店に行き、自分の課題に関連する業界の本を端から端まで買うことをお勧めします。たとえば飲食業のSaaS(SoftwareasaService:サービスとしてのソフトウェア)ビジネスをしたいのなら、飲食ビジネスに関連する本を端から端まで買います。FinTechをするなら、銀行や決済に関連するテーマの本をすべて買いましょう。複数の本を買うと情報が重複している可能性もあり、無駄に思えるかもしれませんが、著者によって異なる視点から同じ物事を見ることができますし、重複しているのなら、その情報は誰の目から見ても重要だということが分かります。そうして業界の構造やトレンドを深掘りしていくのです。 専門書などは高額のものもありますが、事前に1冊3000円以下のものは全部買う、予算は10万円以内などと決めておいて、その範囲で「悩まずにすべて買う」ことを徹底してください。そうすれば、どの本を買おうかと悩む時間を読む時間に充てられますし、たった数万円と数十時間で、基礎となる情報が手に入ります。 業界紙のバックナンバーを2年分ぐらい読んでみるのも一つの方法です。どのように業界内のトレンドが変化してきたかを一気に学ぶことができます。その業界の数字の感覚を掴むことも意識して読みましょう。
解像度を上げる 馬田隆明  英治出版
この「業界」についての本をすべて読むという手法は、私がコンサルティング会社で教わった方法と全く同じであり、これが効果的に語彙と言語化の能力を高める方法であることは、身をもって体験しています。
なお、私が在籍していた部署では、月に10冊以上の読書をすることが義務付けられ、読書会も設置されていました。
 

3.発表し、人の意見を聴く

書いて、読んで、また書いて、を繰り返していくと、徐々に言語化の能力は向上しますが、もう一つやるべきことがあります。
それは「発表し、人の意見を聴く」ことです。
 
つまり、自分が言語化したテーマに関して、フィードバックをもらい、次の改善につなげることです。
そういう意味で、ブログをやったり、Twitter上で意見を表明することはとても良い習慣となります。
逆に日記は、「書く」という点においては良いのですが、その内容が果たして普遍性があり、かつ人にどのようなインパクトを与えるものなのかを検証するには足りません。
ですから、Twitterで「1日3~4ツイート」程度の、発表を行い、それに対して何らかの反応をもらうことをお勧めします。
馴れてきたら、できれば2000字から3000字程度の文章をブログで「1か月に1回」程度加えていくのも良いでしょう。
 
もちろん、最初は「読者もフォロワーもいない」という方が殆どだと思いますが、別に最初から不特定多数の人に見てもらう必要はありません。
私がBooks&Appsを始めたときには、まず職場の人にそれを伝えて、読んでもらいました。
 
ですので、最初は知人のみとつながっているFacebookなどで告知みるのも手ですし、口頭で職場の人に「こんなのやってますので、フィードバックください」でも構わないと思います。
 
「書くのがしんどい」の著者は、まずTwitter程度から、ということで次のように書いています。
文章も同じように、短文を書けない人がいきなり長文を書くのは危険です。どんなに長い文章も、結局は短い文章の集まりです。
 
「私はツイッターなんかじゃなくて、きちんとした文章が書きたいんだ」という人も、まずはツイッターという「散歩」から始めてみてはどうでしょうか? ツイッターで「ああ、こんな感じが求められてるんだな」「私はこういうテーマなら楽しく発信できそうだな」とわかってきたら、今度はそのテーマでnoteやブログを書いてみるのです。
 
 noteやブログが人気になってくると、今度はウェブメディアや出版社から声がかかるようになるかもしれません。するとさらに長文を書く機会も訪れます。 いきなり長文に挑戦しようとせず「短文→やや長文→長文」というように、書くレベルを少しずつ上げながら身につけていくといいでしょう。
 
以上が、言語化能力を高めるために推奨する、3つの日常の習慣でした。
冒頭にあげた文献は、もう少し特化して、言語化能力を身に着けたい、という方に対して、目的別に挙げていますので、もうすこし深く掘り下げたレベルを求めている方には、とても良いと思います。
健闘を祈ります。
 

 

【お知らせ】
Books&Apps及び20社以上のオウンドメディア運用支援で得られた知見をもとに、実際我々ティネクト(Books&Apps運営企業)が実行している全48タスクを公開します。

「成果を出す」オウンドメディア運営  5つのスキルと全48タスク
プレゼント。


これからオウンドメディアをはじめる企業さま、現在運用中の企業さま全てにお役に立つ資料です。ぜひご活用ください。

資料ダウンロードページはこちら↓
https://tinect.jp/library/5skills48tasks/
メールアドレス宛てに資料が自動送信されます。

 

【著者プロフィール】

安達裕哉

元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。

◯X:安達裕哉

◯有料noteでメディア運営・ライティングノウハウ発信中(webライターとメディア運営者の実践的教科書