このコンテンツは有料note「webライターとメディア運営者の、実践的教科書(安達裕哉著)」より転載しています。
私は事業として記事制作を行っていますが、一方で、コンサルタントをやっていた時代から、一人のライターとして、紙、web問わず、様々なメディアに10年以上にわたって、寄稿をしてきました。
そうしてわかったことの一つは、ライターにとっての「地雷メディア」の存在です。
メディアは本来、ライターにとってはお客さんなのですが、「地雷メディア」は、いうなれば、客であって、客でない。
小売や外食で言うところの、「ほとんど売上に貢献しないのに、なんくせ付けてくる客」のような存在です。
ライターとしては、こういう客はできるだけ避けたいのですが、駆け出しのころはなかなか見分けがつかず、メディアに振り回されてしまうことも少なくありませんでした。
そうした「痛い経験」を経て、私は「付き合ってはいけない客」の見分けかたを学ばせてもらったのです。
地雷メディアはなぜ生まれるか
ではなぜ「地雷メディア」が生まれてしまうのか。
それは大きく、3つの要因があります。
一つ目は、メディアの現場が無能・スキル不足であることから
二つ目は、メディアが低収益であることから
三つめは、外注先を「下請け扱いする」企業文化から
以下では、これらの原因によって起きる「地雷メディアならではのムーブ」を解説し、ライターの方が地雷メディアにいち早く気づくための一助となるように、と思います。
1.現場の無能・スキル不足
メディアの現場が無能で仕事が進まない、あるいは頻繁に手戻りが発生する、というケースはかなり多いようです。
「記事制作」は、本質的にはデザインやシステム開発と同様に、専門的な技能であり、外部からは、その制作のための工数や手間が見えにくい仕事です。
したがって、現場が記事を書いたことのない人ばかりで、これらの技能について無知の場合、スキル不足によって仕事が滞るケースが少なくありません。
特に、メディア運用担当者のスキルが低く、コストの締め付けがあり、社内で軽視されていれば、外部に無理難題を押し付け、トラブルの責任をライターにかぶせてしまう、というムーブが頻繁に発生するのです。
そういえば、つい先日、「みずほ銀行」のシステム障害の一因が、
・スキル・ノウハウ不足
・システムを網羅的に把握している人が少ない
などと報告書で指摘されていましたが、これらの話は、「メディア運営」にもそのまま適用されます。
では、「現場の無能」は、どのようなところに見え隠れするでしょうか。
見極めポイント1 担当者のレスポンスが遅い
現場が無能な場合、ライターが原稿を提出してから、採用の可否が決定されるまで、極端に日数がかかるケースがあります。
普通に考えて、3000文字程度の記事であれば、早ければ1日、通常でも3日もあれば一つの記事はレビューできるでしょう。
「原稿のレビューは、5営業日以内」とすれば、複数人での回覧があったとしても、問題はないはずです。
ところが一つの記事のレビューに、2週間以上もかかるケースがあります。
担当者に返事を催促してもなしのつぶてで、メールへの返信も遅い。
メールへの返信が3日以内にない場合、まずは迷惑メールを疑いますが、このようなことが頻発した場合、そのメディアとの取引は、再考したほうが無難です。
それは多くの場合、「ライターとの交渉を避け、逃げているメディア」であるケースがほとんどだからです。
見極めポイント2 素人が文章の校正をして、文章がおかしくなる
もう一つ困ったこととして、「記事を制作したことのない素人」が、文章の校正にあたり、記事の中の言い回しを勝手に変えてしまうケースがあります。
しかし、言い回しは、ライターの文体に大きく関わるので、誤字の指摘とは根本的に性格が違い、素人が手を出して良い分野ではありません。
言い回しを変えることで、微妙な文章の印象が変わってきたり、ちょっとしたことで主張が変わってしまったりするからです。
例えば、プログラマーがテストまで終えて、提出されたソフトに、勝手にコードを付け加える人はいないでしょう。
「デザインが気に食わないから」ということで、色を勝手に変えてしまう人も同じく、いないと思います。
しかし文章については、それをやってしまう担当者がいるのです。
こういうメディアに対しては、やんわりと「ライターの文章に手を加えると、意味が変わってしまうことがあるので、やめてください」と申し入れます。
が、往々にして、無能な現場は自己の能力を過信しているため、「こちらのほうがいい」と、自己の主張を通そうとします。
多くの場合は、原稿に改変を入れるのであれば、無記名記事にしてもらうほかありません。
ただし、後述しますが、そういったことが頻発するメディアはたいてい、「書き手」を軽視するカルチャーです。多くの場合で、取引を再考せざるを得ないでしょう。
見極めポイント3.要望が定まらず、次々変わったり、増えたりする。
ソフトウェア、デザイン、建築物など、オーダーメイドの制作物はすべて、「要求」を固めてから制作に入ります。したがって、あとから要求を次々変えることは、作り手との信頼関係を大きく損ねます。
例えば、マイホームを建てるときに、柱を立ててしまってから
「あ、トイレの位置をやっぱり変えて」とか
「車庫に入る台数を増やしたいんだけど」とか
「玄関を吹き抜けにしたい」とか
大きな要求を変えることはできません。
最初の設計段階で、決めなければならないからです。
もちろん、現場の事情で、やむなく「要求を変更する」ということは、当然ありえますが、それは双方協議の上で、かつ、コストの面も議論したうえで、正式に「変更」という形で要求が出されねばなりません。
しかし、無能な現場は、「要求を固める」ということができず、記事の良しあしの基準が定まりません。
そのため、依頼がヘタで、制作側と、トラブルを起こしやすいのです。
以下は、前にも記述しましたが、発注側が最低限、要求を固めて、ライターに示さなければならない項目のサンプルです。
・記事の目的
ー認知拡大
ー引き合いを増やす など
・想定する読者
ー若手
ー年配
ー経営者・役職者 など
・禁止事項
ー批判
ー宗教
ー政治的話題 など
・引用・出典元として利用可能な文献の種類
ー政府
ー大手企業
ー書籍
ーマスメディア
・記事イメージ
ー好みのメディア
ーベンチマークすべき記事
すくなくとも、メディア側に、上に挙げた情報を事前に固めてもらわないうちに、記事を書くのはやめたほうがいいでしょう。
仮に「事前に決められない」とメディアが言うのであれば、それこそ「地雷」です。
見極めポイント4 NGの原因や、修正の指示があいまい
記事の受け入れ基準がある程度明確になっても、最終的に「好き嫌い」で判断されがちなのが、デザインや記事原稿です。
それ自体は良いのですが、メディア側には、「好き嫌い」を根拠にしたとしても、出したNGに対して、きちんと言語化をする責任があります。
つまり「なぜNGなのですか?」と聞いても、きちんと回答できないのは「地雷メディア」の特徴の一つです。
私が出会ったケースでは、「客観的な記事にしてください」という依頼がメディアからあり、様々な見解を盛り込んだ記事を制作したところ、極端にレスポンスが悪くなったメディアがありました。
理由をしつこく聞いたところ、「自分の意見と合わない」という理由で原稿の受け取りを拒否してきたのです。
「それは「客観的」ではないのでは」というと、それ以降、返事がプツリと途絶えました。
後日、他のライターからも悪い噂を聞いたので、地雷メディアだったのでしょう。実際、すぐに消えてしまいました。
2.低収益
お金を持っていないメディアの多くは「地雷」です。
というのも、ライターに「低単価」「単発」の仕事しかもたらさないからです。最悪、支払いが滞ることも。
そもそも、ビジネスとして確立されていないメディアには優秀な人もつけられませんし、長続きもしません。ライター自身の知名度にも貢献しないため、無駄な仕事になりがちです。
それゆえ、ライターは「メディアが何で儲けているのか」を注視する必要があります。平たく言えば、単純に「与信管理しましょう」という話なので、見極めポイントは単純です。
見極めポイント1 記事の単価が3000円以下
本マガジンで何度か書いていますが、ライターが仕事をするにあたって、原稿1本あたり、3千円未満の仕事は、実質、赤字になります。
例えば
調査・企画1〜2時間
構成〜執筆2時間
推敲0.5時間
訂正0.5時間
という、超タイトスケジュールでも、記事の単価が3000千円未満だと時給換算で750円以下で、最低賃金を下回ります。
「何かしらの実績を作りたい」
「メディアに特別な思い入れがある」
などの特殊な事情がある場合を除き、そのメディアを付き合わなければならない理由はありません。
最近では、まっとうに運営しているwebメディアであれば、原稿単価は最低でも5000円程度に設定されているはずです。
3000円以下は「地雷メディア」と認識して差し支えないでしょう。
見極めポイント2 無料で「テストライティング」を要求する
「まずお試しで無償で書いてみて。その原稿を見て、採用するかどうか決めるわ」という要求を出してくるメディアがありますが、たいてい「地雷」です。
例えば、映画館に行き「とりあえず見せて。面白かったらカネを払うわ」と言うようなものです。
低収益メディアは、テストライティングにお金を払う余裕がないことが多いですから、地雷メディアを見分ける一つの目安になります。
また、本質的にはメディアは、ライターの腕を見るだけなら、実は「過去記事」を見るだけで十分です。
よって、新規に原稿を作らせる理由はないわけです。
その状況において、「テストで無償で書いてみて」とメディアが要求する理由は簡単で、ライターのスキルを見極めることができない、というメディア側の都合にほかなりません。
スキルの低い現場を抱えているメディアは、上に記述したようにライターに大きな負荷をかけますから、この点においても「テストライティングを無償で」と要求するメディアは地雷率が高いです。
見極めポイント3 「文字単価」で報酬を決める
低収益メディアは、報酬の算定に「文字単価」という形式をよく使い、おもに原稿料が安いメディアでよく採用されています。
しかしまっとうなメディアは「文字単価」という指標をまず採用しませんので、文字単価を採用しているメディアは、ほとんど「地雷」と考えて差し支えないと思います。
なぜ、まっとうなメディアは文字単価を採用しないのでしょう。
それは判定の難しい「記事の質」ではなく、単なる文章ボリュームで原稿料を算定するため、一般的に記事のクオリティが下がりがちだからです。
例えば、文字単価にすると、ライター側は文字数を稼ぐため、文章を冗長に書くインセンティブが生まれてしまいます。
会社でよくある会議の議案は、次のようなものだ。・会社の運営・事業計画・収支いずれの議案も、会社の将来を左右する議案であり、逆にいえば社内会議では会社の未来を左右する議案しか話し合われないはず。もう、読者諸兄にはおわかりだと思うが、社内会議の決定事項が会社の未来を左右する。そのため、会議に参加する社員は、会社が良い方向へ進むためにはどうすればいいかを熟考し会議に臨まなければならない。
見ていただくと分かると思いますが、上の文章は「冗長」です。
これを「文字単価」に縛られずに書くと、以下のようになります。
よくある議案は、以下のものだ。・目標管理・予算管理いずれの議案も、会社の将来を左右する決定につながる。参加者は、以上について熟考し、会議に臨まなければならない。
webの記事は冗長さが読者の離脱を生むので、同じことを伝えるなら、短い文章の方が良いのは自明です。
しかし「文字単価」のライターは、文章を短くできない。短くすれば、報酬が減るからです。
そこへ来て「文章は冗長でいいよ」というメディアは、「文章のクオリティに興味がない」と言えます。つまり、地雷メディアです。
見極めポイント4 支払いが遅い
まっとうなメディアは、原稿が納品された月に報酬計算を締め、翌月末の支払いが一般的です。
ところが中には現行の「納品月」ではなく「掲載月」の末に締めて、翌月に支払うメディアがあります。
これは基本的に「地雷メディア」と考えてよいでしょう。
というのも、ライターには「掲載」の責任がないからです。
メディア側の作業の遅れなどにより、掲載が遅れたために、ライターへの支払いが滞る、というのは、どう考えてもライターにリスクを負わせているだけで、まっとうなメディアとは言えません。
低収益メディアは、現金が不足しており、できるだけ支払いを遅らせたい、という意図が働いている可能性もありますが、いずれにせよ、付き合うべきではない「地雷メディア」と断定してよいでしょう。
3.ライターを「下請け扱いする」企業文化
ライターを、運営に不可欠な、「パートナー」として扱うのではなく、支配者のようにふるまい、「下請け」扱いするメディアとは、付き合わないほうが無難です。
これは、メディアだけではなく、システム開発業でも、建設業でも、製造業でも同じです。
どのような事業でも、長期的な発展には、パートナーとともに繁栄を目指す必要があります。
が、「下請け扱い文化」は、逆に「下請けを使いつぶす」という、焼畑農業的な発想であり、短期的にもうかればよい、と考える傾向にあります。
なお、外部を「下請け」扱いする文化の会社は、社員も「取り換え可能」と認識している企業が多く、離職率も高いため、担当者がころころ入れ替わったり、方針が頻繁に変わるためライターにとって安定した収益源になりにくい、というのも、「下請け文化」を避けたほうが良い理由の一つです。
見極めポイント1 記名記事が一つもない
「下請け文化」の大きな見極めポイントの一つが、「記名記事」の有無です。
ライターは自らの実績となることや、名前が売れることから、基本的に「記名記事」のほうが望ましいのです。
また、記名記事はライターに文章の責任があるため、ライター自身の気持ちの入り方が変わります。
しかし、メディアの中には、記名記事を許さないところも少なくありません。
もちろん「ライター名」ではなく、その会社として発信したい情報も当然存在しているでしょう。したがって、メディアは記名記事ばかりでなければならない、というわけではありません。
しかし、記名記事がないメディアは、「ライターの名前が売れる」ことを実質的には妨害していますから、一種の「下請け文化」と言えるでしょう。
中にはライターを囲い込むために、記名記事を許さなかったり、ライターの書いた記事に、手を入れることを当然と考えているメディアもあり、これも「下請け文化」の表れと言えます。
そういうメディアは往々にして、「地雷」であることが多く、注意が必要です。
打ち合わせをすると、すぐにわかりますが、「担当者が横柄である」という特徴も、下請け文化の現れです。
横柄さというのは、会社の評判を傷つけたり、働く人のモチベーションを阻害したりと、何一つ良い点はありません。
しかし、企業文化として、外部を下請け扱いすることが根付いていると、どうしてもそれが表に出てしまう人がいます。
また、何か変更点があるときに、書き手に対して一切相談をせず、通達だけしてくるメディアがあります。
「今度から最低文字数が4000文字になりました」
「写真を提供してもらうことになりました」
「アップロードをライターさんにやってもらうことになりました」
など、場合によっては、突然こちらの負荷を増やしてくるメディアが、数多く存在しています。
こういったメディアも立場の差を利用して、ライターを「下請け扱いする」メディアですから、「地雷メディア」と呼んで差し支えないでしょう。
以上、ライターとして絶対に関わりたくない「地雷メディア」の見分け方を、網羅的に紹介させていただきました。
ライターの皆様が、「地雷」ではなく、素晴らしいパートナーとしての、メディアに巡り合うことを願ってやみません。
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