このコンテンツは有料note「webライターとメディア運営者の、実践的教科書(安達裕哉著)」より転載しています。
コンサルタント時代は、提案書や、セミナー資料、本や雑誌の寄稿と、様々な文章を書き、それを先輩たちに添削してもらう場がありました。
今思えば、なかなか良い訓練でした。
というのも、最近「社員が書いた記事の添削をしてほしい」という依頼があり、あらためて「書き方」について、私自身も振り返ったところ、昔学んだ技術が結構、今でも役に立っていたからです。
実際、いわゆる「文章のプロ」ではない人たちが、初めて多くの人の目に触れる文章を書いた時に「文章をダメにしてしまう行為」は結構あります。
それらは、文章をわかりにくくしたり、反感を持たれたりする可能性が高く、避けるべき行為として憶えておく必要があります。
具体的には、以下の8つです。
1.「感じる」「思う」「考える」の多用はダメ
私が昔指導されたことで最も役に立っていることの一つは
「感じる」「思う」「考える」を使わずに文章を書け、という原則です。
というのも、ビジネス文書やブログは
「同じことを伝えるならば、文章が短ければ短いほど優れている」
からです。
例えば以下は冗長です。
社内会議をビデオチャットで行うことが増えてきていると感じる。
「感じた」「思った」「考えた」は殆どの場合、自明でありわざわざ書く必要はありませんので、次のように換えます。
社内会議をビデオチャットで行うことが増えてきている。
2.「こと」「もの」の多用もダメ。
「こと」「もの」は便利で多用しがちですが、できる限り使わないほうが明瞭な文が書けます。
というのも「こと」や「もの」が指すことを曖昧にしたままでも、少なくとも文章の体裁を整えてしまえるからです。
下を見てください。
なんとなく意味が通っていますが、曖昧、かつ非常に冗長です。
職場で最も重視すべきことは、社員同士でコミュニケーションと取り合うことであり、会話を増やすことです。ほんの小さなことであっても、口に出して会話することで社員のやる気が向上することがあります。しかし、こうしたことをリモートワークがきちんとカバーできるのか、疑問です。
文の主張が正しいかどうかはさておき、下のように、ほとんどの「こと」を省いても、文意が損なわれない場合は省きます。
また、「こと」が具体的に何かを示していれば、できる限り置き換えます。
社員は、悩みを口に出すことでやる気が上がるので、職場で最も重視すべきは、社員同士のコミュニケーションと、会話の増加です。しかし、リモートワークがコミュニケーションや会話を増やせるのか、疑問です。
3.一文が長いのはダメ。
コンサルタント時代は「一文は50文字以内で」と教わりました。(30文字)
もちろん、正確に50文字以内に限るわけではありません。(27文字)それでも「文を短くする」ためにかなりの推敲が求められました。(30文字)
例えば、下の例文を見てください。(16文字)
本コラムではそんな第三者割当増資について、そのような方法が存在しているということをほとんど知らないという経営者から、既に第三者割当増資を実施したことがあるがより深く知見を得たいという経営者までを対象に、理解を深めてもらうことを目的に筆を進めていく。(124文字)
この長さでもかなり冗長です。(14文字)
一般に、2行から3行に渡る文章では、2つ以上にわけて表現できないかを考える余地があります。(48文字)この観点で例文を分解すると次のようになります。(23文字)
本コラムでは、そんな第三者割当増資について記述する。(26文字)対象は「第三者割当増資について殆ど知らない」経営者。(26文字)そして「第三者割当増資を実施したことがあるが、より深く知見を得たい」経営者だ。(39文字)
このように「常に分割して表現する」を意識すれば、文章は劇的に読みやすくなります。(40文字)
4.一般論ばかりでたとえ話がないのはダメ。
初心者は「コンセプトを記述すること」を重視します。
が、文章のプロは「事例を記述すること」を重視します。
具体的に言えば、文章の初心者と、プロの最も大きな違いの一つは「たとえ話」の有無、すなわちリアリティです。
例えばこの記事。
いわずとしれた世界の大企業グーグルには、「疑うことはコストである」という価値観があることをご存知だろうか。
グーグルで働いた経験がある人や経営者などが好んで話す価値観だが、誰かが言っていることをいちいち疑い裏を取っていては、スピードが命の現代の経営環境では、それは命取りになるという考え方だ。
マッキンゼーやNTTドコモ、リクルートや楽天などを経てグーグルでも働いたことがある尾原和啓氏は、その著書「どこでも誰とでも働ける 12の会社で学んだ“これから”の仕事と転職のルール」の中で、グーグルのこの価値観を「ハイパー性善説」と呼んでいる。
読んでみて、「ふーん」とは思います。
しかし、「ふーん」以上のことは思いません。
なぜなら、話が抽象的で、「なんとなくわかるけど、イメージが沸かない」とほとんどの人は思うからです。
ところが、この文章には続きがあります。
翻ってみて、かつて私に仕事を丸投げにしていたボスのことだ。
確かに、取締役として仕事を丸投げにされていた当時の私に、リスクが0であったわけではない。
しかしながら、そんなリスクなど経営トップから見えればちゃんちゃらおかしい。
こうなると、俄然話に興味が湧き、話の続きを読みたくなります。
上のように「一般論」と「エピソード」を文章の中でセットで提供されて、初めて人間は「理解」した上で「納得する」のです。
5.意見の根拠を提示しないのはダメ。
昔、こんな記事を書きました。
ちょっとまえ、面白い記事をツイッターで拝見した。企業の採用担当が、面接時に見ているポイントを端的に表現したものだ。曰く、「事実と意見を分けて説明できるかは圧倒的に重要で、これができない人はかなり厳しい。」とのこと。
この記事の主張のように、書く時にも「意見と事実の区別」は非常に重要です。
なぜかといえば、意見には必ず、根拠(≒事実)が必要だからです。
例えば、下を見てください。
よくある「働き方」に関するブログの冒頭です。
テレワークは、出社して働くよりも生産性が高いと言われているので、検討をしている会社も多いのではないでしょうか。
この文章は「根拠が提示されていない文章」の一つです。
なぜなら「テレワークは生産性が高い」に対して、その根拠が不明です。
同様に「検討をしている会社も多いのでは」も、それ相応の根拠が示されていません。
根拠が示されないと、読者は「ホンマかいな?」と疑いを持ってしまい、文章を信用しなくなります。
では上の文をどう訂正したら良いでしょう。
根拠を追加した文章は、次のようになります。
私が観察したところ、テレワークは、出社して働くよりも生産性が高いようです。(意見)
総務省のデータでも「労働生産性向上を目的としてテレワークを導入した企業のうち、82.1%の企業がテレワーク導入により目的とする効果を得たと回答したことから、テレワーク導入は労働生産性向上に効果があると考えられる」とあります。(事実)また、私の周りでテレワークを開始した会社が増えていますが(意見)統計でもテレワークの導入企業数は着実に増えています。(事実)
「意見」と「事実」をはっきりと区別する。
そして「意見」には、根拠を付加する。
この書き方はくどいように感じるかもしれませんが、文章に対する信頼感を得るためには不可欠です。
6.「など」はダメ。
まずは以下の文章を読んでください。
昨今、業務でAIなどの活用が進むにつれ、音声認識や文字認識などの技術が脚光を浴びています。これを積極的に導入しているのが、生命保険など、大量の帳票類をあつかう業界です。ところがこうした傾向に反対を唱える人々もいます。「AIの精度はまだ低い」などのAIの性能に関する苦情はわかりますが、中には「職が奪われる」など、切実な反対もあります。
「など」は著者にとっては、すべての場合を列挙する必要がない、便利な言葉です。
しかし、その負担は読者が背負います。
さらに、曖昧な文章はツッコミどころと、解釈の幅を生み出します。
明瞭さ、簡潔さが重要な文章においては、「など」は軽々しく使って良い言葉ではありません。
7.「なくても困らない言葉」があるのはダメ。
下は、ある寄稿記事の下書きとして提出された文です。
先日、テレビ東京の人気深夜番組、カンブリア宮殿で非常に興味深い企業と経営者が出演していたので、冒頭でまずご紹介したい。
ご存知のようにカンブリア宮殿は、世間で話題となっている会社やサービスの仕掛け人、経営者などを特集し、その知見を視聴者にシェアする番組だ。放送作家が作ったようなストーリー色が余り感じられず、経営者の肉声が感じられる構成になっているので、マネジメント層にも人気があるテレ東の看板番組の一つである。
そしてこの日、登場したのは茨城県に本社のある小さなコーヒーショップ「サザコーヒー」。
創業者で会長の鈴木誉志男氏と、息子で副社長の太郎氏を中心に話が進む展開だが、実はこの会社。誉志男氏の創業以来の想いで、地元密着で茨城から出ないことを頑なに守り通してきた。にも関わらず、太郎氏が副社長になると、会長の反対を押し切って突如東京に進出する。そしてあろうことか、東京駅丸の内北口正面にあるJPタワー1階というとんでもない場所にお店を構えるという大きな賭けに出てしまった。丸の内のお店では、1杯3000円の超高級コーヒーもおいているという。
ちなみに社長職にあるのは、会長の妻であり副社長の母親である女性。会長が息子と対立し、東京進出に反対していた様子を見かねて、「あんただって好き勝手やったくせに、これからは息子に任せなさい!」と、世代交代を促し太郎氏に全権を委ねたそうだ。(587文字)
ここから「なくても困らない言葉」を削除していくと、次のようになります。
先日、テレビ東京の人気番組「カンブリア宮殿」に興味深い企業が特集されていた。
それは茨城県に本社のある小さなコーヒーショップ「サザコーヒー」。会長の鈴木誉志男氏の創業以来の想いで、「茨城から出ない」との信念を頑なに守り通してきた。
ところが息子の鈴木太郎氏が副社長になると、突如、会長の反対を押し切って東京に進出する。そして、丸の内北口正面にある巨大オフィスビルにお店を構える大きな賭けに出た。丸の内のお店では、1杯3000円の超高級コーヒーもおいている。
実は、東京進出を支えたのは現在社長職にある「母親」だ。
会長が息子と対立し、東京進出に反対していた様子を見かねて、「あんただって好き勝手やったくせに、これからは息子に任せなさい!」と、世代交代を促し、太郎氏に全権を委ねた。(336文字)
文字数を約6割以下に削っても、文意はほぼ変わりませんし、読みやすいでしょう。
この場合、下のほうが「書くべき文章」です。
ベテランになれば「文の装飾」もある程度可能ですが、書きなれていない初心者がやってしまうと、単に読みづらいだけになります。
編集者の澤山モッツァレラさんは「形容詞を削れ」といいますが、基本的には「装飾的な文章、余計な情報、形容詞、削れるものは全て削る」のが初心者にはおすすめです。
最初は「文章が恐ろしく短くなってしまった」と思うかもしれません。
しかしそれは、「中身がない」ことの裏返しですので、文の装飾ではなく、中身を増やさなければなりません。
8.鼻につく書き方はダメ。
いわゆる「鼻につく書き方」があります。
丁寧に書いても、やっぱり、鼻につきます。
多くが語彙の不足に起因するものですので、この表現を使っていたときは、別の表現を用いたほうがベターです。
やりがちなので、気をつけてください。 → お前に言われたくない
言われてみれば、当たり前ですね。 → 決めつけるな。偉そうに。
では具体例を教えます。 → 誰が教えるって?
まとめましたが、いかがでしょう。 → どうでも良い
この事実をご存知でしょうか。 → 知らねえよ
実行しましょう → 嫌だ。
以上、私が「文書添削の具体的な方法」として、実践している内容でした。
ご参考としていただければ幸いです。
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