なぜ注目?循環型経済とは何かを分かりやすく解説

はじめに―循環型経済への関心が高まる背景

現代社会では大量生産・大量廃棄の消費スタイルが続き、資源枯渇や環境負荷の増大が懸念されています。こうした状況の中で、注目度が急速に高まっているキーワードが「循環型経済」です。従来の線形経済では一方向的に資源を使い捨てにしてきましたが、循環型経済では資源を再利用・再製造する仕組みを社会全体に組み込み、経済と環境の両面で持続可能性を高めることをめざします。

いまや世界各国の政策レベルで議論が進み、企業の重要な経営戦略としても取り上げられるようになりました。読者の皆さんも、普段の生活でゴミ分別への意識が高まっていないでしょうか。実はこうした日常の取り組みが、広い視点で見ると循環型経済の基礎を形づくる重要な要素となっています。

なぜ「循環型経済」がこれほど注目を集めているのでしょうか。その理由の一つは、資源活用を効率的に行い、経済成長と環境保護を両立できる可能性があるためです。

日本国内でも資源制約のリスクが指摘されており、たとえば日本の一般廃棄物のリサイクル率は約19%にとどまるなど、改善の余地が大きい現状があります。また、国内市場の規模は2050年に約120兆円に達するとも見込まれており、循環ビジネスの成長余地が非常に大きい点も魅力です。こうした観点から、日本政府や産業界も循環型経済の推進に注力しています(参照*1)。

この記事では、循環型経済の本質や背景、課題、今後の取り組みの方向性について、わかりやすく解説します。ぜひ、身近な話題として考えてみてください。

循環型経済の基本概念と従来の線形モデルからの転換

循環型経済の定義と特徴

循環型経済は、単なるリサイクルの延長ではなく、資源の使い方を経済システムの一部として根本的に組み替える考え方です。従来の線形モデルが「作る→使う→捨てる」という直線的な流れを前提としているのに対し、循環型経済では「資源を使い回す→再利用する→再生産する」という循環サイクルを組み込むことで、限りある資源の浪費を大幅に削減しようとします。

ここで重要なのは、製品やサービスの価値を長期的かつ多面的に活用する仕組みをどう実現するかという視点です。製造業やサービス業が廃棄物の発生をあらかじめ考慮すれば、廃棄を減らしつつ価値提供を最大化できるモデルが描けます。

国際的な政策目標と循環型経済の意義

国際的にも循環型経済の原則をまとめる動きが進んでいます。エレン・マッカーサー財団が掲げる「循環型経済政策の5つの普遍的目標」は、その代表例です。これらの目標には、廃棄物削減だけでなく、自然環境の再生や新たなビジネスモデルの創出、イノベーションの促進など、幅広い視点が盛り込まれています。

つまり、循環型経済は環境保護だけでなく、経済発展や社会的課題の解決も同時にかなえる戦略的な枠組みとして位置づけられています。実際には業種や国ごとに取り組みの優先度や方法は異なりますが、資源を有効に循環させながら経済と環境の調和を図る方向性が世界的に共有されつつあります(参照*2)。

システムとしての循環型経済―設計と経済活動の連携

設計段階からの循環型経済の実装

循環型経済を具体的に機能させるためには、製品やサービスの設計段階から寿命やリサイクル方法、再製造のしやすさを考慮する必要があります。従来は消費者が使い終わってから「どうリサイクルするか」を考えるのが主流でしたが、循環型経済では廃棄物を出さない前提を設計段階から組み込むことが重要です。

部品や素材が再利用しやすい構造にする、使用後に簡単に分解できるデザインを採用するなど、設計の工夫が求められます。

三つの原則と経済活動への波及効果

設計を軸とする三つの原則が循環型経済の推進で重視されています。具体的には「廃棄物と汚染を排除する」「製品や材料をできるだけ長く高い価値で循環させる」「自然を再生する」という考え方です。

これにより、経済活動そのものが環境と調和しながら発展する道筋が示されます。企業の視点では、サプライチェーン全体でこうした設計思想を共有し、資源循環への投資を進めることで、ライフサイクルコストの抑制やブランド価値の向上にもつながります。

設計から経済活動までを包括的に見直すことで、循環型経済は単なる分別回収やリサイクル技術の枠を超えた社会全体の改革として位置づけられています(参照*3)。

日本の循環型経済推進と課題

日本の政策と現状

日本では比較的早い段階から循環型社会形成推進基本法などの関連法規が整備され、リサイクルや廃棄物削減に積極的に取り組んできました。

しかし、循環型経済の観点で見直すと、製品ライフサイクル全体での資源効率化や、シェアリング・再製造など新しいビジネスモデルの導入が求められる段階に入っています。特にハイテク部品や金属資源に依存する分野では、国際的な供給不安が高まっており、日本国内での資源循環力の向上が急務です。消費者意識や企業の投資判断でも、環境・社会・ガバナンス(ESG)の視点が重視される傾向が強まっています。

政策対話と今後の課題

日本と欧州連合(EU)との政策対話でも、単なるリサイクルにとどまらず「設計段階から再利用を前提とする経済システム」という循環型経済の本質が共有されています。

日本では1999年に循環経済ビジョンが策定され、2023年3月には成長志向型の資源自律経済戦略が示されるなど、官民の取り組みが進んでいます。

しかし、既存の製造プロセスや流通システムの変革に伴う費用負担や、消費者の意識変革の遅れなど、課題も多く残されています。政策と企業、消費者が連携し、循環型経済の理念を現実に落とし込む仕組みをどう構築するかが今後の重要な争点です(参照*4)。

欧州の動向と国際競争力の鍵

欧州の政策と実践事例

欧州は循環型経済の先進地域として政策整備と実行力を高めています。欧州委員会が2019年に発足させた新グリーンディールでは、2050年に温室効果ガス排出を実質ゼロにする目標を掲げ、サーキュラーエコノミー(循環経済)をその実現の柱としています。

2020年3月には「新サーキュラーエコノミー行動計画」が公表され、エコデザイン規則案などが具体化しています。製品の生産段階から再利用・リサイクルを前提とし、企業や行政、消費者が一体となって廃棄物の大幅削減を目指す動きが強まっています。こうした仕組みは欧州各国の規制としても導入され、循環型製品の比率を増やす流れが加速しています。

国際競争力と日本企業への示唆

グローバル市場の顧客層が持続可能性を重視する方向にシフトしているため、循環型経済への対応は国際競争力にも直結します。例えば、再生材のみを使用した製品や、ライフサイクル全体で二酸化炭素排出を最小限に抑えた輸送システムなど、環境面の付加価値がブランド評価に大きく影響する時代です。

日本企業にとっても大きなビジネスチャンスであり、対応が遅れれば海外市場での競争に出遅れるリスクがあります。欧州の最新動向をいち早く捉え、自社のものづくりやサービス革新に活かすことが、今後の世界的な評価や投資獲得につながります(参照*5)。

まとめと今後の展望

循環型経済は資源の効率的な活用だけでなく、経済活動や社会システムそのものを再設計するアプローチです。日本国内ではリサイクルの取り組みが進んでいるものの、海外で進む新しいビジネスモデルや設計手法をさらに取り入れ、長期的に資源リスクの少ない強靭な社会を築く必要があります。

企業の技術革新だけでなく、行政や市民が一体となった推進体制づくりが、実効性のある循環型経済への道筋を切り開くポイントです。

読者の皆さんも、購入する製品を選ぶ際や日常生活で使い捨てを減らすことが、循環型経済への参加につながります。身近な行動が地球規模の課題解決に直結していると考えると、自分事として取り組む意識が高まるでしょう。今後も多くの企業や自治体が新技術やサービスを展開し、私たちの暮らしがよりサステナブルで豊かなものへと変わることが期待されます。

監修者

倉増 京平(くらまし きょうへい)

ティネクト株式会社 取締役 / 株式会社ライフ&ワーク 代表取締役 / 一般社団法人インディペンデント・プロデューサーズ・ギルド 代表理事

顧客企業のデジタル領域におけるマーケティングサポートを長く手掛ける。新たなビジネスモデルの創出と事業展開に注力し、コンテンツマーケティングの分野で深い知見と経験を積む。

コロナ以降、地方企業のマーケティング支援を数多く手掛け、デジタル・トランスフォーメーションを促進する役割を果たす。2023年以降、生成AIをマーケティングの現場で実践的に活用する機会を増やし、AIとマーケティングの融合による新たな価値創造に挑戦している。

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