環境配慮型建築物が注目される背景
近年、環境配慮型建築物が大きな注目を集めています。背景には、世界的な気候変動問題の深刻化と、建物や住宅が占めるエネルギー消費量・CO2排出量の割合が再認識されていることがあります。
特に住宅やオフィスなど、私たちが日常的に利用する建築物は長期間使われるため、建設時だけでなく、継続利用や将来的な解体までを見据えた環境配慮が求められるようになりました。
例えば、国内の新設戸建住宅市場では、2030年の新設戸建住宅着工戸数が32万1,000戸と予測され、2023年度比で約10%減少する見込みです。
人口減少や建設コストの上昇が背景にある一方、ZEH(ゼロエネルギーハウス)など環境性能を高めた住宅への需要は高まっています(参照*1)。企業や個人が環境への責任を果たす取り組みとして、建物の断熱性能向上や省エネルギー設備の導入が政策面からも後押しされています。
環境配慮型不動産という考え方は、単に建築物を省エネ化するだけでなく、周辺の自然環境や地域コミュニティへの影響も含めた多面的な価値創出に重きが置かれます。
再生可能エネルギーを活用した電力供給システムや緑地の設置、廃棄物削減などの取り組みによって、経済的評価と社会的貢献の両立を目指すのが特徴です(参照*2)。
従来の建設業界ではコストや工期の合理性が重視されてきましたが、近年は長期的な視点で地球環境を守りながら暮らしの質を保つ、あるいは向上させるという考え方が重要視されています。こうした取り組みを通じて、人々の意識は“建てれば終わり”から“いかに長く環境と共生して利用するか”へと変化しています。
CO2削減効果を検証:具体的な影響
エネルギー効率とCO2排出削減の仕組み
環境配慮型建築物の特徴は、エネルギー消費の大幅な削減とCO2排出量の抑制にあります。高性能な断熱材や効率的な空調システム、自然換気、太陽光発電などの再生可能エネルギーの導入によって、建物全体のエネルギー効率が大きく向上します。
オフィス空間では、外壁や窓の断熱性能を高めるだけでなく、人の動きや日射角度に応じて照明や空調を自動制御するシステムを導入することで、よりきめ細かな省エネルギー策が実現できます。CO2排出の主な要因である化石燃料の使用を減らし、再生可能エネルギーの普及を進めるためにも、建築物の設計段階からエネルギー要件を満たすことが重要です。こうした取り組みにより、建築物のライフサイクル全体で従来基準と比べて顕著なCO2削減効果が期待できます。
海外事例に見るCO2削減の実績
海外の事例として、英国ロンドンで開発された環境配慮型オフィス「Paradiseプロジェクト」では、木材の活用によってエンボディドカーボン(建設時に発生するCO2)を大幅に抑制し、床面積1平方メートルあたりのCO2排出量を413kgにまで低減しています。
これは従来基準比で約6割の削減に相当します(参照*3)。
CO2削減のメリットは、気候危機の回避だけでなく、エネルギーコストの削減や企業ブランド価値の向上など多岐にわたります。省エネ設計の建築物を選ぶ入居者や企業が増えれば、環境保全の動きが加速し、次の投資を呼び込む好循環が生まれます。この流れは今後、国内外を問わずさらに強まると考えられ、既存建物の改修や新築物件の開発方針にも大きな影響を与えるでしょう。
設備・技術の発展と実践例
高効率設備と省エネルギー技術の進化
環境配慮型建築物を実現するには、従来の設備設計を見直し、高効率な空調や給排水システムなどを一体的に組み込むことが重要です。建物の中核となる空気調和設備や自動制御設備は、運用時のエネルギー負荷を抑え、室内の快適性を維持する役割を果たします。
近年の技術開発事例として、大型オフィスや商業施設での自然換気・省エネルギー技術、季節蓄熱空調などが挙げられます。これらの装置や技術を効果的に組み合わせることで、年間を通じた電力使用量の平準化が図られ、トータルのエネルギーコスト削減が可能になります(参照*4)。
さらに、運用開始後も定期的にエネルギー消費をモニタリングし、設備の調整や改修を行うことで、長期間にわたる省エネルギーの実践が可能です。
建築材料・外皮性能と自然エネルギー活用
空調や照明システムだけでなく、建築材料の選定や建物の構造にも注目が集まっています。質の高い断熱材やサッシの採用による外皮性能の向上が進み、設計段階からシミュレーションを行い、地域の気候特性や地形を考慮した自然エネルギーの導入を試みるプロジェクトも増えています。
例えば、地中熱を利用した放射空調や、屋根・壁面の緑化による自然冷却効果の取り込みなど、建物を取り巻く自然環境を活用する姿勢が強まっています(参照*5)。これらの設備・技術は大規模施設だけでなく、小規模住宅や集合住宅でも導入しやすくなっています。設計・施工段階から運用後のメンテナンスまでを統合的に捉えることで、建物全体が高い性能を発揮しやすくなります。
国内における環境配慮型建築物の普及動向
政策と金融支援による普及促進
日本国内では、ゼロエネルギーハウス(ZEH)など環境性能の高い住宅の普及率向上が官民双方の政策によって後押しされています。金融機関による融資の優遇や、公的補助金・減税制度の充実が進み、建築主や購入者が環境配慮型建築物を選びやすい仕組みが整いつつあります。
特にサステナブルファイナンスの分野では、再生可能エネルギーを活用した建物や低炭素型設備への積極的な投融資が行われ、大規模な開発プロジェクトだけでなく戸建住宅や集合住宅にも波及しています。こうした仕組みは、建材の選定や設備導入など初期コストを抑えつつ、長期的なランニングコスト削減と環境負荷軽減の両立を可能にします(参照*6)。
既存住宅の改修と市場の変化
一方で、日本国内では今後も新設住宅の需要が減少する予測があり、既存住宅の改修や更新工事による環境性能向上が課題となっています。人口構造の変化による需要減や、建設費・金利の上昇など、不動産開発にはさまざまな課題が存在します。その中で、環境配慮型建築物を魅力ある資産として位置づけることが重要です。
社会全体でCO2排出量を抑制しようという意識が高まれば、環境性能に優れた物件ほど将来的な売却価値や賃貸収益が見込まれやすいとされています。
国内の不動産市場では、建設から運用、解体・再資源化までを通じて持続可能な利用を実践できるかどうかが、今後の評価基準として組み込まれる可能性が高まっています。この意識改革が進めば、建築業界や住宅メーカーも技術開発や商品戦略をより環境重視へとシフトしていくことが期待されます。
国外の事例に見る先進的アプローチ
金融スキームと地域特性を活かした普及策
環境配慮型建築物の普及は国内に限りません。国外では、バングラデシュ・チッタゴン地区のイスラム銀行が、シャリア原則に適合した金融商品を提供し、エコ住宅需要の拡大に重要な役割を果たしています。
2011年から2018年にかけての調査では、借り手の満足度向上とグリーン住宅市場の成長促進が確認されており、金融スキームを通じて環境配慮型建材や高効率設備の導入ハードルを下げる効果が示されています(参照*7)。地域の宗教や文化的背景に合わせた独自の金融商品開発は、社会的合意を得やすく、普及スピードにも寄与しています。
再生可能エネルギーインフラと街づくり
さらに海外では、環境配慮型街づくりの一環として、住宅だけでなく地域全体の再生可能エネルギーインフラを構築する動きも見られます。例えば、太陽光や風力などの発電施設と建物を直接つなぎ、二酸化炭素排出を徹底的に抑えるコミュニティが増えています(参照*8)。
これにより、地域全体がクリーンエネルギーを利用しながら家庭やオフィスの光熱費を抑え、住民のライフスタイルにも変化が生まれています。海外の事例からは、各国・地域の事情に合った技術や資金調達が行われ、多様な形態の環境配慮型建築物が誕生していることが分かります。こうした取り組みを学び、自国の制度や文化、気候に合わせて取り入れることが、CO2削減と経済活動の活性化の両立に向けた鍵となります。
今後求められる発想と展望
これまで環境配慮型建築物が注目されてきた理由には、地球温暖化の抑制やエネルギーコスト削減など、社会的・経済的インパクトの大きさがあります。しかし、その効果を最大限に高めるには、建物単体の省エネ化だけでなく、都市計画や社会全体のインフラづくりとの連携が重要です。
スマートシティやエコタウンといった概念は、環境配慮型建築物を集積させることでエネルギー供給を効率化し、街全体のCO2排出を抑える取り組みにつながります。こうした動きが進めば、交通や物流、生活様式の見直しにも波及し、新たな産業や雇用の創出も期待できます。
今後は地球規模で進む人口動態の変化や経済情勢を踏まえ、いかに環境と共生できる建築や街づくりを行うかが問われる時代です。技術進歩や金融支援の拡充によって、従来はコスト面で導入が難しかった設計や設備も手に届きやすくなり、多方面からの協調が進めば革新的な発想が加速します。
機能性・意匠・環境性能を兼ね備えた建物が増えれば、日常生活や働く場そのものが持続可能性と快適性を同時に実現する場へと進化します。環境配慮型建築物が当たり前の選択肢となる社会では、建設業界や投資家だけでなく、一般消費者の意識やライフスタイルも変化し、CO2削減に貢献するだけでなく、質の高い生活を享受できる未来が広がります。
監修者
倉増 京平(くらまし きょうへい)
ティネクト株式会社 取締役 / 株式会社ライフ&ワーク 代表取締役 / 一般社団法人インディペンデント・プロデューサーズ・ギルド 代表理事
顧客企業のデジタル領域におけるマーケティングサポートを長く手掛ける。新たなビジネスモデルの創出と事業展開に注力し、コンテンツマーケティングの分野で深い知見と経験を積む。
コロナ以降、地方企業のマーケティング支援を数多く手掛け、デジタル・トランスフォーメーションを促進する役割を果たす。2023年以降、生成AIをマーケティングの現場で実践的に活用する機会を増やし、AIとマーケティングの融合による新たな価値創造に挑戦している。
参照
- (*1) 東京都宅建協会 全宅保証協会東京本部 – 30年度の戸建住宅着工数は32万戸台に/矢野経済研
- (*2) 世の中の勉強をする | – 未来への投資:環境配慮型不動産がもたらす長期的な価値
- (*3) 東京都宅建協会 全宅保証協会東京本部 – 住林、ロンドン最大級の木造オフィスを竣工
- (*4) 学会賞 技術賞
- (*5) 振興賞技術振興賞
- (*6) 一般社団法人 全国銀行協会 – 資金調達・融資を通じた環境課題への取り組み
- (*7) Journal of Sustainability Research – Sustainable Housing Finance: Role of Islamic Banks in Bangladesh
- (*8) 環境省 – 「脱炭素につながる新しい豊かな暮らしを創る国民運動」の進展状況について