実践者が語る地域資源活用マーケティングの成果とは?

地域資源活用とマーケティング概論

地域資源活用とは、地域に眠る自然・文化・伝統工芸・地場産業・農産物といった地域資源を、観光や商品開発、体験企画、ネット販売に結び付け、地域活性化と産業振興を同時に実現する取り組みのことです。 本記事の中心はマーケティング(市場活動)です。

地域資源活用の成果を最大化するには、誰に何をどのように届けるかを定め、実行と検証を重ねる設計が欠かせません。 ブランド化や広報・販促、業務のデジタル化、SEO(検索エンジン最適化)を含むネット集客も重要です。 住民やコミュニティの協働、持続可能性やSDGs(持続可能な開発目標)の観点も土台になります。

読者の皆さんは、限られた人材・予算で成果を求めているはずです。 本稿では、現場で使える設計手順と事例、数値の置き方まで具体的に解説します。

観光を例にすると、観光資源の価値を国内外に伝え、体験や宿泊、飲食・買い物につなげる一連の活動が観光マーケティングです。 市場分析で対象層を定め、紙とウェブ、SNS(交流型の投稿サービス)、催しを使い分け、予約や決済の利便性を高めます。 地域住民との協働も成功の鍵になります(参考*1)。

また、全国の実践例を見渡すと、組織づくりの強化、地域資源の活用、魅力発信、特定テーマの観光振興など、着眼点と体制づくりが共に重要であると分かります。 成功要因と失敗談、運営体制、取組成果まで公開されている事例集は、施策立案の土台になります(参考*2)。

本稿では、基礎から応用へと段階的に進みます。 まずは地域資源起点の設計を分解し、次に実践事例で成果を読み解きます。 さらに、生成AIによる効率化、ローカルSEOによる集客、ブランドの全国・海外展開、最後に見込み客の育成とKPI(重要業績評価指標)設計まで踏み込み、施策の全体像をつなげます。

 

地域資源起点のマーケティング設計

設計の起点は資源と顧客を正しく結び付けることです。 地域資源を棚卸しし、価値を言語化します。 例えば、伝統工芸なら職人の技と物語、農産物なら旬と安全性、自然資源なら景観と生態系の希少性です。

次に、誰に届けるかを決めます。 地元の家族、都市圏の若年層、訪日旅行者など、人物像(ペルソナ)ごとに来訪動機や消費の違いを把握します。 そして、商品開発と体験設計、価格、販路、広報・販促、購入後のフォローまでを一気通貫で組み立てます。

日本国内では、農林水産資源や文化資源、地域企業・人材・技術まで範囲を広げ、データに基づく磨き上げとタイミングの良い誘客、販路開拓、情報発信を一貫支援する枠組みが整備されています。

こうした枠組みを活用すると、設計から実行・検証までの流れが加速します(参考*3)。

顧客理解の方法として、来訪者アンケートは最重要です。 性別・年代・居住地・来訪月・訪問先などで満足度や消費額を分解すると、観光資源の特性と動機が結び付けやすくなります。 例えば自然と文化のどちらが決め手になったか、体験と宿泊のどちらに価値を感じたかが見えてきます。 分析結果は商品開発、価格、体験企画、広報・販促の改善に直結します(参考*4)。

設計を支える視点は持続可能性です。 エコツーリズムの考え方を取り入れ、自然・文化資源を守りながら体験価値を高めます。 混雑を避ける時間帯・季節の提案、予約制での受け入れ調整、公共交通や二次交通の充実、地域コミュニティとの協働など、需要の平準化と満足度の両立を図ります。 これらはブランド化にも直結し、長期の信頼を育てます。

 

実践事例で学ぶマーケティング成果

日本国内では、香川県の広域連携が注目されています。 県全域で滞在型観光を推進し、資源活用のサービス開発や移動の利便性向上、情報提供の充実まで一体で進めています。

KPI(重要業績評価指標)として延べ宿泊者数、旅行消費額、満足度、再訪率、ウェブ閲覧数などを設定し、地域資源活用の成果を数字で追える設計が示されています(参考*5)。

鹿児島市では、入込観光客数946万4千人、宿泊客402万人、外国人宿泊38万4千人、観光消費1,234億8千万円、経済波及効果1,741億2千万円と、最新統計で力強い回復が確認されています。 背景には、唯一無二の観光資源を軸に国内外へ積極的な広報・販促を行い、「稼ぐ観光」を掲げた方針があります。 過去の動態調査や新幹線開業影響などの分析を積み上げ、打ち手に落としている点が要点です(参考*6)。

海外ではハワイが示唆に富みます。 島ごとに持続可能性を共通目標としながら、訪問者管理や交通緩和、自然資源保護と教育など、島別の課題に合わせて戦略を練り、観光局の計画と島別DMAP(観光地管理行動計画)を連動させています。

2014年820万人から2019年1,024万人まで増えた後、2020年268万人へ急減という事実を踏まえ、回復過程でも市場ごとの違いを見極めています。 日本市場は2019年比約37.4%と回復が遅いという状況認識も、国別の打ち手設計に役立ちます(参考*7)。

他方で、国内の成功事例を横断的に学べる公的資料は、組織づくり、特定テーマの振興、魅力発信、災害からの復興に至るまで幅広いヒントを提供します。 事業の課題、運営体制、成功要因、失敗談まで整理されており、次の施策の試行錯誤を短縮できます。 事例の構造を自分の地域に重ね、KPIの置き方とデータ取得の段取りを真似ることから着手すると進めやすいでしょう。

生成AIで効率化するマーケティング

限られた人材と予算で成果を出すために、生成AIは心強い相棒になります。 まずは作業を分解し、AIで代替しやすい領域から導入します。 例えば、調査要約、人物像(ペルソナ)の草案、体験企画の案出し、観光資源の説明文やSNS投稿文のたたき台作成、画像生成による提案などです。 担当者はAIの出力を編集し、地域の文脈に合わせて整えます。

次に、データ活用の場面です。 アンケートの自由回答の分類、口コミの感情分析、需要予測の仮説づくり、季節や天候に応じた価格・広報文の自動生成など、日常業務の手間を下げる用途が有効です。

CRM(顧客関係管理)と連携し、メール文面や対象層別の提案文を作ると、見込み客育成の歩留まりが上がります。

業務の流れを整えると効果が安定します。 入力ひな形、チェックリスト、承認の流れ、法令や表記の指針を事前に共有し、AI出力の質をそろえます。 データの取り扱いは、個人情報や機微情報を含まない形に加工することが前提です。 指示文(プロンプト)と出力の保存を行い、改善の痕跡を残しましょう。

最後に、学習の循環を回します。 小さく試し、KPIで成果を確認し、うまくいった型を横展開します。 例えば、体験予約ページの説明文をAIで複数案作り、ABテスト(比較検証)で予約率の高い案を採用する。 SNSの見出しを複数生成して保存率やクリック率で改善する。 現場で続けやすい具体策です。

 

ローカルSEOの集客マーケティング戦略

ローカルSEO(地域向けの検索対策)は、地名や観光資源名、特産品名など地域キーワードで検索した人に確実に見つけてもらうための施策です。 まず、検索語の設計を行います。

例として、地場産業の体験なら地域名+体験、農産物の直売なら地域名+直売所、伝統工芸なら地域名+工房見学などの組み合わせを洗い出します。 次に、各ページでタイトル、見出し、本文に自然に盛り込み、重複せずに内部リンクで結びます。

MEO(地図検索の最適化)と呼ばれる地図対策も有効です。 営業時間、住所、電話、予約導線の正確性を保ち、写真は季節ごとに更新します。

口コミは返信方針を決め、肯定的な声は体験の強みとして抜き出し、課題は改善の材料にします。 観光や体験企画のページは、動画や短い紹介を用意し、SNSから流入した人が離脱しないように整えます。

地域ポータルやDMO(観光地域づくり法人)サイト、自治体サイトと連携し、相互に内部リンクを張ると、信頼性が高まり、検索流入の安定に寄与します。 特産品のネット販売は、商品ページで産地の物語、生産者の顔、配送や保管の注意点まで書き込み、写真とともに安心を伝えます。

最後に、測定と改善です。 検索順位だけでなく、表示回数、クリック率、滞在時間、来訪数、予約率、レビュー件数などを追い、月次で改善点をまとめます。 季節や催しに合わせた特集を用意し、地域資源の旬を見せることで、検索とSNSの相乗効果が生まれます。

 

全国海外へ広げるブランドマーケティング

全国展開では、まず受け皿の品質を一定に保ちます。 ブランドの約束となる体験や商品価値を定義し、表現の統一、価格帯、販売先の基準を決めます。 媒体掲載やSNSでの拡散を狙う場合でも、予約や問い合わせへの対応、在庫や人員の準備など、運用の足腰が成否を分けます。

海外展開では、国別に市場規模・嗜好・規制・販売経路を見極め、現地パートナーと協働します。

米国では、州の観光助成が計画の実施や投資対効果の報告、共同の販促、広報機会の最大化を重視しており、宿泊税などの財源で観光事業者を後押ししています。 助成金は期限と提出様式が明確で、夜間滞在の促進が目的に据えられています。 こうした要件は、海外向けの広報や商談の計画づくりの参考になります(参考*8)。

日本国内では、需要の平準化や適正利用をブランド方針に組み込み、受け入れ品質を維持したまま裾野を広げます。 訪問者管理や自然資源の保全、教育プログラムの導入、分散化する動線設計などは、長期の価値を守る取り組みです。

翻訳と現地向け調整(ローカライズ)も要点です。 単なる直訳ではなく、体験の核となる価値提案を相手国の文脈に合わせます。 海外向けの媒体選定、写真・動画の規格、決済や配送の整備、現地の口コミ基盤への対応まで、成約(予約や購入)につながる障壁を順に取り除きます。

展示会や商談会、越境EC(海外向け電子商取引)と組み合わせ、季節や収穫のカレンダーに合わせた販促を重ねると、認知が着実に積み上がります。

 

リード育成とKPI設計のマーケティング

KPI(重要業績評価指標)は、認知、興味、検討、来訪・購入、再訪・推奨の各段階に置きます。 例として、PV、滞在時間、資料請求、予約率、来訪数、平均客単価、LTV(顧客生涯価値)、再訪率、レビュー評価、地域での経済波及などを選び、月次と四半期で追います。 検索対策やSNS、メール、現地体験のそれぞれに中間指標を設定すると、投資対効果の見える化が進みます。

人材面では、観光の市場活動とDX(業務のデジタル化)の核は内製し、データ収集や専門的な実装は外部の力を組み合わせる体制が現実的です。

宿泊税などの新たな財源を活用しつつ、出向・専門人材と外部事業者の協働でPDCA(計画・実行・評価・改善の循環)を回す組織が競争力を高めます。 300以上のDMO(観光地域づくり法人)が直面する財源と人材の課題に対して、内製と外注の適切な分担が鍵と整理されています(参考*9)。

プロジェクト運営では、目的、成果、指標、活動、投入資源を一本の筋でつなぐ設計図を持ちます。

SMART(具体・測定可能・達成可能・関連性・期限)の原則で作業計画を立て、ロジックモデル(事業の因果関係図)で成果の因果を整理し、予算、収入、普及方法、データ管理、関係者の支援レターなどを整合させます。 申請書や報告書の構成は定型があり、校正のチェックリストまで含めて準備することで、外部資金の獲得と説明責任が進めやすくなります(参考*10)。

最後に、現場の打ち手とKPIを接続します。 例えば、観光資源の体験企画を週次で改善し、予約率と満足度、レビューの星、写真投稿数、再訪意向を追う。 特産品のネット販売では、商品ページの改善が成約数(CV)と客単価にどう効いたかを計測する。 広域連携では、延べ宿泊者数やウェブ閲覧数、再訪率を共通KPIに置き、関係者で共有します。 広域のKPI例は各地で公開されているため、自地域の状況に合わせて転用しやすい指標体系から着手すると動かしやすいでしょう。

 

監修者

倉増 京平(くらまし きょうへい)

ティネクト株式会社 取締役 / 株式会社ライフ&ワーク 代表取締役 / 一般社団法人インディペンデント・プロデューサーズ・ギルド 代表理事

顧客企業のデジタル領域におけるマーケティングサポートを長く手掛ける。 新たなビジネスモデルの創出と事業展開に注力し、コンテンツマーケティングの分野で深い知見と経験を積む。

コロナ以降、地方企業のマーケティング支援を数多く手掛け、デジタル・トランスフォーメーションを促進する役割を果たす。 2023年以降、生成AIをマーケティングの現場で実践的に活用する機会を増やし、AIとマーケティングの融合による新たな価値創造に挑戦している。

 

出典