少子化対策と自治体の成功事例を捉えるポイント
少子化対策は、地域の将来に大きく影響する課題です。子どもが生まれにくい状況が続くと、地域社会の人口や経済、活力が縮小しやすくなり、自治体による取り組みが急務となります。人口構造の変化を正面から見据え、子育て支援策を発展させるとともに、地域の魅力を若い世代へ示すことが重要です。出生率向上を目指し、多角的な施策を練り上げる試みが注目されています。
自治体の成功事例として、秋田県大館市が挙げられます。大館市は人口約6万6千人、高齢化率が40%を超える状況に直面しながら、若い人材の定住促進や子どもを育てやすい環境づくりに注力しています。市長は5つの柱を掲げ、少子化対策を重視し、子どもを産み育てやすい環境づくりを進めています。具体的には、地元企業の支援や企業誘致、人手不足対策、ふるさと納税の活用など、地域資源を活かした施策を展開しています(参考*1)。
こうした成功事例からは、自治体ごとの強みを理解し、若い世代が住みやすい地域に変えていく工夫が求められます。地域資源の活用、仕事の確保、環境づくりが複合的に組み合わされることで、実際の成果が生まれています。
少子化を食い止めるには、単発の施策だけでなく、教育や産業振興、雇用対策など幅広い分野で連動させていく視点が大切です。自治体の首長が率先して具体策を示し、市民や地元企業と議論を深めながら実行に移していく体制づくりが期待されています。
子育て支援を強化する鍵は出生率向上と地域の魅力づくり
出生率向上を目指すためには、子育て支援策を充実させるだけでなく、暮らし全体を豊かにする見通しが求められます。子育て環境の向上だけでなく、居住者の交流、働きやすい雇用環境、教育環境の整備など包括的な視点が欠かせません。
埼玉県の定例会でも、少子化対策が大きなテーマの一つとして取り上げられ、教育、災害対策、福祉施策、防災インフラ整備などとあわせた総合的な議論が行われています(参考*2)。地元で安心して子どもを育てられる支援制度の拡充や、若年層の負担感を和らげる仕組みがポイントとなります。
子育て世代が目指す「安心して子どもを産める地域」には、経済面だけでなく、精神的なサポートも求められます。保育園や幼稚園の整備、病児保育の拡充、小児医療への不安解消策が進めば、子育て家庭の不安が減りやすくなります。自治体や地域社会が企業と連動し育児サービスを充実させた場合、住民が積極的に定着し、地域を応援する雰囲気が整っていくと考えられます。
子どもの健やかな成長を支える活動は、多様な年齢層の交流機会も生み出しやすくなります。親同士の情報共有や、高齢者の知見を活かしたサポートなど、地域が一体となって取り組む形が模索されます。出生率向上と地域の魅力づくりを結びつけるには、行政だけでなく、地元企業や住民組織などが手を結び、多角的に活路を探る視点が鍵です。
働き方改革とデジタル活用が生む新たな連携
働き方改革は子育て世代のライフスタイルに大きく関わります。テレワークや在宅勤務の導入によって就労環境が柔軟になり、出産や育児で拠点を移動しづらい時期でもキャリアを維持できる体制づくりが期待されています。ITツールを活用すれば、職場と家庭の両立がしやすくなり、移住や地域での長期滞在にも可能性が見いだせます。
山口県萩市では、人口減少と少子化対策の一環として、通信環境が整えば都市部と同じ就業が可能になることに着目し、テレワークやワーケーションの導入を進めています。萩市は県内自治体で初めて「一般社団法人日本ワーケーション協会」に参加し、情報交換や企業との調整を強化しています(参考*3)。
働き方改革を推進することで、都会と地方の相互メリットが生まれやすくなります。都市部の企業はリモート人材を活用して地方の人材と協業し、新規事業を展開できます。地方で暮らす人々は、育児と仕事を両立しながら豊かな自然環境やコミュニティのつながりを享受できます。
自治体はワーケーション向けの施設整備や情報発信を行い、積極的な誘致に乗り出す動きも見られます。子育てをしながら地元の資源を活かして働きたい人々にとって、ICT環境等を充実させることが非常に有用です。成功事例が増えると、子育て世代の移住や滞在が広がり、新しい交流や地域経済への好循環が期待できます。
地方自治体の医療と子育て支援をつなぐテクノロジー
子育てを安心して進めるには、医療体制の確立が大切です。医師不足やアクセスの難しさを感じる地域では、オンライン診療や遠隔医療サービスを活用することで安心感を得やすくなります。少子高齢化が進む地域では、高齢者だけでなく若い世代が医療環境に不安を抱えがちであり、IT技術を導入する意義が高いといえます。
岡山県吉備中央町では、オンライン診療や遠隔分娩支援などデジタル技術を活用し、周産期医療の効率化や医療アクセス向上に成功しています。日本ではオンライン診療の制度面や運用面の課題も指摘されていますが、こうした取り組みは全国どこでも必要な医療が受けられる体制づくりに寄与しています(参考*4)。
自治体が遠隔医療やAIサポートを取り入れ、子育て世代にも利用しやすい医療環境を整えると、出産期の不安が軽減される可能性が高まります。家庭内で子どもの急な病状変化に対応しやすくなり、保護者の負担をおさえる効果が期待できます。
オンライン診療や遠隔医療が普及するには、通信インフラや制度面の手続きも見直しが必要です。自治体は医療関係者と緊密に連携し、子育て家庭の生活実態を考慮に入れながら、具体的な施策を形にすることが求められます。
自治体と企業が連携する実践例
子育て支援の実効性を上げるには、行政と民間企業、地域の団体などが連携し、広範な視点から施策を展開することが効果的です。自治体側が保育所や教育費負担の軽減など制度整備を進める一方で、企業は柔軟な働き方や育児休業制度を拡充し、家庭と職場を両立しやすい環境を後押しする動きがあります。
NIRAフォーラムでは、政府と市民が連携する政策共創の場を充実させ、子育てや雇用など暮らしの基盤となる分野で理解と信頼を深める重要性が説かれました(参考*5)。個人や団体が政策決定に関わるルートを確立できれば、地域課題を多角的にとらえ、新しい解決策が見つかりやすくなります。
企業と自治体が連携する事例として、地域の仕事見本市や雇用マッチング会を積極的に開催し、子育て中の親でも安心して働ける環境の提案が進められています。地元の商工団体や大学などと協力し、若い世代の就業機会を創出すると同時に、保育施設との連携によって子どもの預け先が確保されると、働く環境が安定しやすくなります。
こうした取り組みは、雇用の流動性を高めるだけでなく、地域経済全体に活気をもたらす効果も期待できます。企業も地域の支援策を上手に活用すれば、新たな事業アプローチの機会をつかむことが可能です。自治体ともども、メリットを共有する連携体制を築くことが今後も望まれます。
多様な子育て環境の構築で住民満足度を上げる
子育て環境には、教育、保健、福祉などが密接につながります。広島県では、子育て支援や不登校対策、中山間地域振興など幅広い分野を基本計画に組み込み、所管委員会が重点的に審議を行っています。ひとり親家庭支援や不登校児童のサポート、自治体と地域公共交通の連動、災害時の避難支援体制など、多岐にわたる施策も検討されています(参考*6)。
子育て世代にとって、生活のしやすさは教育制度だけで判断しにくい面があります。保護者が地域に溶け込み、趣味や学びを継続できるなど、多様な暮らし方が実現しやすいかも指標のひとつです。公共交通や自然環境、商業施設などがほどよく整い、子どもの学びを支える環境が整うほど住民満足度が向上する傾向があります。
さらに、自治体が子育て情報をわかりやすく発信することも求められます。保育所や学校の空き状況、子育て支援窓口の利用方法などをオンラインでまとめ、アクセスしやすい形で公開すれば、引っ越しや転居を考える保護者にとって安心感が高まります。
多様な子育て環境を構築すると、移住者だけでなく既存の住民も地域に誇りを持ち、協力しあう素地が生まれます。行政が主導して支援策を並べるだけでなく、地域住民の声を積極的に吸い上げ、改善すべき点を柔軟に見直す動きが継続すると期待されます。
地域ブランドと広がるビジネスチャンス
少子化対策や自治体の子育て支援を推進する動きは、新たなビジネスヒントにつながる可能性を秘めています。福岡県と県内54市町村で構成される「ふくおか電子自治体共同運営協議会」では、自治体職員向けに最新の情報システムや住民サービスのオンライン化を紹介し、業務改善や地域社会のDX化を後押しするイベントが開催されています(参考*7)。生成AIやデジタル人材の活用も議題に入り、自治体の限られた人材や予算を効果的に生かすアプローチが検討されています。
こうした変化は、地域ブランドの価値向上にも波及します。子育て支援が十分に整備されている地域や、DXの先端事例を取り入れている自治体は、外部からの評価を上げるチャンスを得ています。子育て世代や企業に「暮らしやすい」「協業しやすい」と認識されれば、地域の事業者にとっても新規顧客を呼び込むきっかけになります。
自治体の広報ツールに加え、地元企業のPRやオンラインを活用した産品販売などが相互に作用すると、自治体の子育て優先施策を含めた取り組みが広く知られるようになります。地域メディアやSNSもうまく連携させれば、地域内外へ情報を発信するチャンネルが増えます。
地方創生を考える経営者や自治体担当者にとって、少子化対策と地域ブランド戦略は密接に関わる課題です。出生率を高め、子育て環境を全面的に支える施策を打ち出すとともに、新しい雇用機会とデジタル技術を取り入れた未来志向の取り組みを示すことで、地域のイメージを一段と前向きに変えていく余地があります。
監修者
倉増 京平(くらまし きょうへい)
ティネクト株式会社 取締役 / 株式会社ライフ&ワーク 代表取締役 / 一般社団法人インディペンデント・プロデューサーズ・ギルド 代表理事
顧客企業のデジタル領域におけるマーケティングサポートを長く手掛ける。新たなビジネスモデルの創出と事業展開に注力し、コンテンツマーケティングの分野で深い知見と経験を積む。
コロナ以降、地方企業のマーケティング支援を数多く手掛け、デジタル・トランスフォーメーションを促進する役割を果たす。2023年以降、生成AIをマーケティングの現場で実践的に活用する機会を増やし、AIとマーケティングの融合による新たな価値創造に挑戦している。
出典
- (*1) 大館市公式サイト|観光・市政・暮らし情報|大館というところ。 – 大館市公式サイト|観光・市政・暮らし情報|大館というところ。
- (*2) 埼玉県 – 令和6年9月定例会 一般質問 質疑質問・答弁全文
- (*3) 萩市ホームページ – ~県内自治体初~「一般社団法人日本ワーケーション協会」へ入会しました!
- (*4) 東京財団 – 人口減少社会における持続可能な地域医療体制の構築:デジタル技術活用による医療アクセス確保と効率化戦略
- (*5) NIRAフォーラム|NIRA総合研究開発機構
- (*6) 広島県議会公式 – 県が策定する基本計画に関する意見・提言
- (*7) 「ふく電協フェア2025」を開催します!