地方創生の鍵は?人口減少対策の成功事例を解説

人口減少の現状と地方創生の意義

近年、日本では多くの地域で人口減少が続いています。総務省や内閣府の公表資料によると、出生数の低下と高齢者の増加が社会構造に大きな変化をもたらしており、労働力不足や経済活動の縮小、社会保障制度への影響が深刻化しています。

日本の総人口は2025年1月時点で約1億2433万人となり、前年より約55万人減少しました。特に地方では人口流出や過疎化が進み、都市部への人口集中が顕著です(参考*1)。

こうした状況を受け、地方創生の重要性が高まっています。国立国会図書館の調査報告書では、地域産業と雇用、医療・教育などの地域基盤を総合的に見直す必要性が指摘されています(参考*2)。

行政だけでなく、企業や住民も一体となって地域の価値を高める取り組みが求められています。若年層の流出を防ぐためには、多様な働き方や人材育成、シビックプライドの醸成、地域行事の活性化など新しい発想が必要です。

 

成功事例が示す人口減少対策の具体像

人口減少対策の成功事例として、青森県では知事を本部長とする人口減少対策推進本部を設置し、庁舎全体で課題を洗い出しながら住み続けられる仕組みを検討しています。

2025年度の会議では、子どもの生活実態調査や所得向上・労働力確保に関する連携協定などが議論され、全庁的な取り組みが進められています(参考*3)。

三重県桑名市では、総人口が14万人を下回ったことを受けて「人口減少対策パッケージ」を実施。若い世代の移住促進や子育て・新婚家庭への経済支援、子ども向けサービスの充実など、子育てしやすい環境整備に注力しています(参考*4)。

山口県下松市では、2060年に人口5万人維持を目標とした「下松市人口ビジョン」を掲げ、短期・中期・長期の戦略を統合した計画を推進。地域創生本部や戦略会議を設置し、産業界や教育機関と連携した人材確保・定住支援を進めています(参考*5)。

岐阜県飛騨市では、地域住民と交流できる「ヒダスケ」プログラムを導入。参加者は電子地域通貨を受け取り、農家と外部参加者が経験を共有し、地域への愛着を育む仕組みが整備されています(参考*6)。

 

AI活用とローカルマーケティングの新展開

情報通信技術の進化により、地方のマーケティング手法も大きく変化しています。従来のイベントや紙媒体に加え、生成AIを活用したコンテンツ制作やSNSによる情報発信が普及し、限られた人材でも効率的に魅力的な情報発信が可能となっています。

AIによる作業自動化により、担当者は戦略立案や住民との意見交換に時間を割けるようになりました。動画制作やライブ配信など視覚的なツールの活用も進み、農村や漁村など特色ある地域の魅力を全国・海外に発信しやすくなっています。

また、キーワード分析やアクセス解析ツールの進化により、ユーザーの興味や行動をデータで可視化し、ニーズに合ったプロモーションが実現。小規模ビジネスでもオンライン広告を活用し、成果を数値で把握できるようになりました。これにより、地域ビジネスの新たな可能性が広がっています。

 

生産年齢人口の確保と子育て環境の整備

若い世代が安心して暮らし、家庭を築ける環境づくりは、人口減少対策の要です。出生率低下は結婚や出産の時期の遅れと関係し、アメリカでも出生率が2を下回る状態が続いています。経済的不安や保育施設の費用が要因とされ、移民受け入れも検討されています(参考*7)。

日本でも同様に、出生数の減少と高齢化が進行。子育て世帯や若年層の流出が深刻な地域では、乳幼児期の環境整備や医療費助成、親が働き続けられる制度設計が進められています。待機児童の解消や子どもが育ちやすい保健体制の整備も重要です。

医療提供体制や公的サービスの再考では、ヘルスケア専門職だけに頼らない横断的なアプローチが必要です。日本学術会議では、医療専門職を統合的に位置づけ、新たな教育や資格制度の検討が提案されています(参考*8)。医療・保健・福祉が一体となった体制づくりが、移住や定住の促進、人材不足の解消に役立ちます。

 

協力関係を築く地域創生本部・専門家会議の役割

人口減少対策には、行政・有識者・住民代表など多様なセクターの連携が不可欠です。福島県の地域創生・人口減少対策有識者会議では、専門家が意見交換を行い、人口ビジョンや総合戦略の策定・検証を進めています(参考*9)。

また、福島県では産業界や金融機関などが参加する官民連携・共創チームが設立され、移住促進や若年層の雇用支援など多面的な事業が企画されています(参考*10)。行政だけでなく、企業や団体が主体的に関与することで、より実効性の高い施策が実現しています。

 

多様な人材を呼び込む方策とデータ活用の実際

地域に人を呼び込むには、移住希望者だけでなく観光やビジネスで訪れる人との交流も重要です。地域の催しや文化活動をオンラインで発信し、興味を持った人向けの相談窓口を設置する自治体も増えています。自然環境や伝統行事、産業の特徴など地域資源を活かし、都市部や海外からの訪問者との縁を育てる構想が進められています。

北海道では、人口減少や少子化に関する意識調査を実施し、回答者の44%から具体的な意見を収集。調査結果を施策作りや地域の強み・課題の分析に活用し、計画の優先度調整に役立てています(参考*11)。

移住直後から住居や仕事を得やすい環境づくりや、民間企業と自治体の協力による求人・社会インフラのマッチング、兼業・副業モデルの導入など、柔軟な対応が多様な人材の受け入れを後押ししています。

 

人口減少社会への希望と持続的な地域活性化

日本の人口減少は今後も続くと予測されていますが、地域社会の活力維持に向けた取り組みが全国で進行中です。若い世代の移住促進には、雇用条件だけでなく女性の賃金改善や子育て世帯の負担軽減が重要とされ、石破総理大臣も女性の経済状況改善の必要性を強調しています(参考*12)。

人口減少を逆手に取り、地域ならではの体験や生産物を国内外に発信する動きも活発化。AIを活用した海外向けプロモーションやオンラインレッスンなど、デジタル技術とローカルの特性を融合した新たなビジネス機会が生まれています。

自治体だけでなく企業や大学など多様な組織が協力し、移住促進と地域ビジネス活性化を両輪で推進。情報発信や人材育成にも力を入れ、持続的な地域活性化を目指す動きが広がっています。

 

監修者

倉増 京平(くらまし きょうへい)

ティネクト株式会社 取締役 / 株式会社ライフ&ワーク 代表取締役 / 一般社団法人インディペンデント・プロデューサーズ・ギルド 代表理事

顧客企業のデジタル領域におけるマーケティングサポートを長く手掛ける。新たなビジネスモデルの創出と事業展開に注力し、コンテンツマーケティングの分野で深い知見と経験を積む。

コロナ以降、地方企業のマーケティング支援を数多く手掛け、デジタル・トランスフォーメーションを促進する役割を果たす。2023年以降、生成AIをマーケティングの現場で実践的に活用する機会を増やし、AIとマーケティングの融合による新たな価値創造に挑戦している。

 

出典