世界で最も有名なビジネスプレゼンと言えば、2007年のスティーブ・ジョブズによる初代iPhoneのプレゼンと答える人は多いのではないでしょうか。
ChatGPT大先生によるとジョブズ伝説のプレゼンの良さは、
ストーリーテリング: ジョブズはプレゼンの冒頭で「今日3つの革命的な製品を発表する」という期待感を煽ります。そして、その3つが実は1つの製品、iPhoneであるという驚きの展開を見せる。これによって、観客は最初から最後まで引き込まれます。
シンプルなスライド: ジョブズのスライドは常にシンプルで、余計な情報を排除しています。彼はスライドに頼るのではなく、自分の言葉でストーリーを紡ぐスタイルを取っていました。
デモ: iPhoneの画期的な機能を実際にデモンストレーションし、その操作感や画面の美しさを観客に直接見せました。このような実際の製品を使ったデモは、観客に製品の魅力を直接的に伝えるのに非常に効果的です。
感情の投影: ジョブズは自分の興奮や情熱を観客に伝えるのが非常に得意でした。彼の言葉や表情、トーンから、iPhoneがどれほどの革命的な製品であるかが伝わってきます。
明確なメッセージ: 「今日、Appleは電話を再発明する」という強力なメッセージを通じて、iPhoneの位置付けとその革命的な価値を強調しました。
とのことで、異論はありません。
でもふと思ったのですが、現在のあらゆるプレゼンテーション形式のスタンダードを形作ったと言っても過言ではない「パワーポイント」って一体誰が考えたのさ???
我々の世代は子供の頃日本メーカー製のワープロが流行っていたのですが、それがマイクロソフトのWindowsに標準装備されていた「ワード」に置き換わったことに全く違和感はありませんでした。
それがどのような場面でどのような使えば良いのかすぐに理解できたからです。
「エクセル」は大学に入ったばかりの頃、課題提出時に表計算ができるだけで感動でした。
そのすぐ直前の大学受験では鉛筆で手動計算してたわけですから笑
でも「パワーポイント」というアプリケーションを知ったのはいつだろう?と思い出そうとしたのですが全く覚えてないのです。
その理由はこのアプリケーションがどのような場面で使えるのか全くわかっていなかったからではないかと思います。
とはいえ私が初めてパワーポイントを「本気」で使った時のことはよく覚えてます。
それは友人の結婚式の余興で「スライドショー」を披露した時です。
「スライドショー」とはその名の通り大画面に写真を投影しそれを1枚ずつスライドさせていくショーのことです。
2000年頃からみうらじゅんさんといとうせいこうさんが「スライド映写機」を用いて、日本中を旅して撮影したおもしろ写真を見せるという「ザ・スライドショー」というイベントをやっていたのです。
かの有名な「ゆるキャラ」もそのスライドショーでのネタがはじまりです。
私はそれが大好きでいつか自分でもやってみたいと思い、ここぞとばかりに友人の結婚式の余興で披露したのでした。
その時にスライドショーを実現させるために使ったツールがパワーポイントとPowerBook(現MacBook)でした。
私が初めてパワーポイントを使ったのは学生時代でもないですし、ビジネスの場のプレゼンテーションではないのです。
しかし、この事実が「パワーポイント」が予見していた未来そのものなのです。
–
パワーポイントの発明者とされるロバート・ガスキン氏のホームページによると、パワーポイントが現在のようにPCで資料を作成しそれをそのまま直接外部モニターへ出力可能なアプリケーションとなったのは1992年にWindows3.1向けにリリースされたパワーポイント3.0からです。
パワーポイント3.0以前はOHPやスライド映写機に使えるフォーマットを出力するアプリケーションにすぎませんでした。(※1)
これは当時の状況からすると自然なことです。
企業のプレゼンでは現在のようにPCではなくOHPやスライド映写機が使われており、そのスライド資料作成には専門技術が必要でした。大企業であればプレゼン資料の演出も含め外部の専門チームに委託し、数十万ドルから場合によっては100万ドルもの予算をかけて行うほど重要かつ高度な業務だったのです。(※2)
※1,2 参考:「パワポの発明」が世界を変えた、知られざる企業プレゼンの歴史,(MIT Technology Review)
とはいえガスキン氏は構想段階から、スライド講演者自らで資料を作成しそれをそのまましスライド資料として発表可能にするというアイデアがあることは窺えます。
ガスキン氏自身のホームページに当時のパワーポイントの提案書が残されています。
↓
SAMPLE PRODUCT PROPOSAL:PRESENTATION GRAPHICS FOR OVERHEAD PROJECTION
ChatGPTで翻訳したものを掲載します。
ターゲット市場: 他者にプレゼンテーションを行う人々:マネージャー、プロフェッショナル、知識労働者、セールスマンなど。
複数の目的でPCの購入を正当化する可能性のある人々
- この目的はワードプロセッサーやスプレッドシートでは満たされない A. 小規模企業では、顧客へのセールスプレゼンテーション B. 大規模企業では、同僚や上司へのプロジェクトプレゼンテーション
- どちらのケースも効果的なコミュニケーションに価値がある
- 個人のビジネス成功はプレゼンテーションにかかっている
市場規模: 1982年には、ビジネスプレゼンテーションは35億ドルの産業でした。
- オリジナルの35mmスライドが5億2000万枚
- オーバーヘッドトランスペアレンシーが3億8000万枚 コンピュータはこれの60%を生成可能であった。 時が経つにつれて、グラフィックデバイスが向上すると、オーバーヘッドのパーセンテージは100%に近づくでしょう。 市場は、例えばIntelがセールスプレゼンテーション、Northern Telecomが社内プレゼンテーション用として、Fortune 500の企業の中に集中しているかもしれません。
III. 製品コンセプト:個人プレゼンテーション管理
- スライドプレゼンテーションの作成
- トーキングペーパーの作成
- 配布資料の作成 これらはすべて1つのマスターデータファイルから作成されます。
- プレゼンテーションの構造化/執筆/レビューのためのアウトラインツール
- ボーダー、ロゴ、識別、シーケンスを持つスライド
- 高品質なタイプセットのテキスト、複数のスタイルとサイズを持つスライド
- ダイアグラム、ドローイング、スケッチ、マップ、組織図を持つスライド
- スプレッドシートとして入力されたテーブルを持つスライド
- テーブルエントリーからのビジネスチャートグラフィックスを持つスライド
- PC画面に表示し、異なる品質のデバイスで印刷
- 印刷業界の品質を1つのオプションとして提供
- 高品質なスライドを電子メールでコミュニケートし、任意の出力デバイス(ビデオからタイプセットまで)で使用できる
- 高使用量のユーザーのために:
- プレゼンテーション/トーキングペーパー/配布資料のファイルの回収
- 以前のプレゼンテーションの部分を再利用
- 古いスライドの新しいシーケンスを作成(新しい日付、ラベル、シーケンス)
- 企業のグラフィック基準のための標準テンプレート
- プレゼンテーション構造基準のための標準テンプレート
- IBM SNA文書形式(DIA/DCA)からの変換
- 2台のプロジェクターの調整などの特別な設備
ユーザーの利点:
- プレゼンテーション内容の効果を向上
- 複雑な素材の明瞭性を向上
- プレゼンテーションの準備時間を大幅に短縮
- 直前の正確な変更と修正を容易にする
- 会社のプレゼンテーション基準を守ることを可能にする
- 高品質なプレゼンテーションのコミュニケーションを提供
- プレゼンテーションのコストを大幅に削減
- コンテンツ作成者がプレゼンテーションをコントロールできる
技術トレンド:
- 合理的なレイアウトにはWYSIWYGが必要(PCグラフィックスよりも良い)
- 低コストのプリンター(サーマルトランスファー$500、レーザー$3000以上のオリジナル)
- サーマルトランスファーやインクジェットでスライドを作成(コピー機も同様)
- カラーグラフィックスとカラーインクジェットを使用して色をつける
Forethought Foundation技術とのマッチ:
- コンテンツ作成者はプレゼンテーションをコントロールすることで結果を向上させることができる (アーティスト、サービス、事務的介入は不要、時間が非常に重要)
- タイプセットされたテキスト、段落、リストが必要
- ダイアグラムやドローイングのグラフィックスが必要
- テーブルからのビジネスチャートが必要(複数のサイズへのスケーリングが必要)
- シンプルなスプレッドシートが必要(テーブル内の計算)
- プレゼンテーションと要素のファイルキャビネットが必要
- 企業データのためのメインフレームデータベースへのリンクが望ましい
- 1-2-3へのシンプルなリンクが望ましい
- (プロジェクトプランナーやワードプロセッサなども同様)
VII. 大手メーカーとの共同事業:
- 3Mは非常に大きなプレーヤーであり、ハードウェア(特に携帯用のセールスプレゼンテーションのためのコンパクトモデル)やメディアで活動している
- その他のメーカーには、Bell & Howell、Charles Besseler、Elmo、Telexなどが含まれる。
特にガスキンス氏がこの提案書(原文)の中で斜体文字で唯一強調していた一文
-Allows the content-originator to control the presentation
(訳:コンテンツの作成者がプレゼンテーションをコントロールできる)
この一文は、彼が完成形と呼んだパワーポイント3.0(※3)で結実し、現在のプレゼンテーションの標準形である「ノートブックと外部モニタによるプレゼンテーション」になっているのです。
※3 PowerPoint 3.0 marked the completion of the full original product vision of PowerPoint 1.0,
(PowerPoint 3.0は、PowerPoint 1.0の完全なオリジナルの製品ビジョンの完了を示しています。)
Robert Gaskins Home Page, 2017: 25TH ANNIVERSARY OF POWERPOINT 3.0より引用
それ以降、当たり前のように使われていたOHPやスライド映写機がノートブックに完全に置き換わったことは疑いようがありません。私自身も学生だった20年以上前、研究発表にOHPが使われていたの記憶はありますが、それ以降それを一度も見たことがありません。
そしてそれは彼が予測したビジネスシーンだけでなく個人の日常のあらゆるプレゼンシーン、まさに私が行ったような結婚式の余興にまで使われるほどカジュアルな場でも使われるようになったのです。
まさにパワーポイントは世界のプレゼンを変えたのです。
最後に余談ですが、スティーブ・ジョブズの伝説のプレゼンもみうらじゅんさんといとうせいこうさんのスライドショーも実はパワーポイントではありません。
前者はMacのキーノートアプリ、後者は最新イベントのあった2018年でも未だスライド映写機使っていました。どちらも後世に残るほどの傑作プレゼンですが、スライド作成はフォーマットではなく、中身の面白さであることは間違いないです。
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楢原一雅(ティネクト取締役)
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