これからwebでのコンテンツマーケティングを始めたいと思っている人のための入門書

このコンテンツは有料note「webライターとメディア運営者の、実践的教科書(安達裕哉著)」より転載しています。


ここのところ、立て続けに「webでコンテンツマーケティングを始めたい」という相談がありました

DXの一環として、という大手企業もあり、時流なのだな、と感じます。
 
とはいえ、「コンテンツマーケティング」は、その定義があいまいである上に、扱う範囲が大きすぎて、「何から始めたらよいか」がわかりにくい部分があります。
 
そこで本稿では「これからwebでコンテンツマーケティングを始めたい」と考えている企業の担当者、あるいは個人の方に対して、我々が実際に現場で推奨していることをまとめてここに記述しておきたいと思います。
なお、読者の対象としては、以下の条件を想定しています。
1.webマーケティングの施策では、web広告(Googleリスティング広告、Facebook広告など)は知っている/やったことがある
2.社内にwebマーケティングの専門家がいない
3.低予算(月に10万円以下の広告宣伝費)
以下に、やるべきことの順番と、そのタスクを示します。
 

1.コンテンツマーケティングの目的設定

ごく当たり前のことですが、我々が支援を提供する場合、最初に行うのはコンテンツマーケティングの目的をはっきりさせることです。
ただ、目的の設定はかんたんなように見えて、やってみると難しいことがすぐに分かります。
 
たとえば、言葉上、「コンテンツマーケティング」がカバーする範囲は極めて大きく、認知拡大、ブランディング、リード創出、採用、社員向けなど、様々な目的が考えられます。
また「コンテンツ」という言葉も、記事、コーポレートサイト、動画はもちろん、ホワイトペーパー、メルマガ、プレスリリース、時には調査発表やイベントなどもその範囲に入ります。
したがって、企業が行う、情報発信活動のほぼすべてが、「コンテンツマーケティング」となり得てしまいます。
 
しかし、「これからwebでコンテンツマーケティングを始めたい」という場合に、まず考えるのは「広告の代わりになるのか?」ではないでしょうか。
例えば「web記事」で「顧客獲得」といった、もう少し狭義でのコンテンツマーケティングを想像しているのではないでしょうか。
 
それなりの少額投資で、顧客が獲得できるならやってみたい、
ある程度短期で成果が出るようにしたい、そういう要望が多いのだと思います。
 
 
なので、弊社においての狭義の「コンテンツマーケティング」は、以下の目的を想定しています。
サイトに「記事で人を集めて」、来訪者に「自社に興味を持たせ」、最終的に「顧客にする」こと。
これが、弊社が推奨する、「初めてのコンテンツマーケティング」の目的です。
 
ただし、ここには注意点もあります。
それは「記事」の持つ役割と、限界です。
以下の図を見てください。
 
「コンテンツマーケティング」は上の一連の流れを作ることを目的としていますが、コンテンツ(=記事)が果たす役割は、ごく一部です。
 
つまり以下のように、コンテンツ発信と、ほかの活動を同時に行わねばなりません。
記事……「人を集める」
コーポレートサイト・セミナーなど……「自社に興味を持たせる」
販売商談……「顧客にする」
 
記事を求めてきた人は、サービスを買おうと思っているわけではなく、記事を読むことそのものが目的です。
したがって、記事を作れば顧客を獲得できる、という、単純な話ではないのです。
 
記事を読んでもらった後に遷移してもらうべきコーポレートサイトの整備をすること。
あるいは自社に興味を持ってもらうためのセミナーやメルマガ運営、あるいは最後に契約をもらうためのセールスのやり方を改善すること。
それらを含めた、記事を読んでもらった後の、顧客獲得の活動を含めた施策を行って初めて、「コンテンツマーケティング」と言えるのです。
 
したがって、マーケティング部隊は「集客」「コンテンツ」「個人情報の取得」を目的とすること。
営業部隊では個人場を取得できた見込み客に対して、「営業活動」「ヒアリング」「提案」「受注」を目的とし、役割分担をしていくのが良いでしょう。
 
これらすべてを統合するのが、「コンテンツマーケティング」です。
 

2.記事制作の準備

さて、「「記事で人を集めて」、来訪者に「自社に興味を持たせ」、最終的に「顧客にする」」という目的が設定でき、セールス部門との合意ができたら、さっそく記事を作っていきます。
 
その準備として、「記事のテーマ設定」をしますが、その際には「人が集まるテーマ」を優先せねばなりません。
もっと突っ込んで言うと、記事のテーマは「人が集まること」が優先であって、「自社の商材の売り込み」はオマケです。
 
例えば、自社の扱う商材が「家のリフォーム」だったとします。
その際、記事のテーマを「リフォーム」と定め
「リフォーム やり方」
「リフォーム 予算」
「リフォーム 事例」
などのキーワードを含む、リフォーム関連の記事ばかりを発行すること。
この行為はコンテンツマーケティングをやろうとしている方が陥りやすい罠であり、はっきり申し上げて、うまくいきません。
 

いったい、なぜでしょうか?

答えは簡単で、販売を目的とする記事は競合が多数いて、まず、Google検索で上位表示されません。
また、販売を目的とした記事は、商材のスペックや業界の話、専門的な知見などが主たるテーマになりますが、記事は専門的になりすぎると、興味のある人の絶対数がどんどん小さくなります。
つまり、その記事にたどり着く人の絶対数が少なすぎて、サイトに集客できないのです。集客ができないということは、営業のチャンスもありません。
 
したがって、繰り返しになりますが、記事の役割はまず「集客」であって、「販売」ではありません。
「販売」がしたいなら、ピンポイントで「今、リフォーム業者を探している人」に向けて、広告と営業にリソースを配分すべきであり、コンテンツマーケティングは不要です。
 
では記事の中身を、どうすればよいでしょう。
例えば前述した「リフォーム」では、リフォーム関連の話題に興味を持ちそうな年代、50代女性の興味を持ちそうなテーマに幅を広げるのです。
例えば美容、家計、夫との関係、体調管理、近所付き合いなども候補になります。
「リフォームと関係ないじゃないか」と思う方もいると思いますが、それでいいのです。
50代女性のためのメディアができれば、そこには潜在的に「リフォームに興味を持つ人」が存在しているはずです。
そこでさらにメディア上で、リフォームの記事への導線を貼って誘導したり、メルマガに登録してもらい、そこにリフォームの情報をながして見込客を発掘するのです。
「まずはたくさん人を集めて、集まった人に対して、販売活動する」
これが、記事を用いたコンテンツマーケティングの基本中の基本です。
 
実は少し前に「秘密計算」という技術について記事を書きました。
しかし、秘密計算技術そのものについて記事を書いたとしても、その記事に対するニーズは極めて小さく、読者は日本中でも十名~百名といったところでしょう。
そこで「秘密計算」というニッチではなく、興味を持つ人が多い「村上春樹」というテーマに記事の幅を広げました。
近年、生データを共有せずとも「暗号化したデータ」を共有し、暗号化したまま計算処理をする「秘密計算」という技術が登場し、データ連携が進むのではないかという期待を集めています。
 
データを提供する主体も、計算処理をする主体も、計算結果を受け取った主体も、いずれの側も「元データ」がどのようなものであったのかを判別することができないこの技術は、計算士が使うシャフリング技術のように、計算過程をブラックボックス化し、「知る必要がないことは、極力知らせない。結果だけ知らせればいい」という考え方に基づいていると感じました。
 
「計算士」は、村上春樹の考案した架空の職業ではありますが、「機密」や「暗号」に対する面白い思考実験になっています。
 
興味のある方は、ぜひ手に取ってみてください。
あ、暗号やデータ処理に興味がなくても、十分に面白い小説ですよ。
この記事は「秘密計算」で予想される訪問回数の100倍以上、閲覧され、SNSでも拡散されました。
このように「秘密計算」について興味がある人だけではなく、村上春樹や、機密保持に興味がある人までも広く記事に誘導することで、「人」を多く集めることができるのです。
 

3.ライターの確保

さて、書くべき記事が決まれば、あとは記事を制作する工程に入ります。
ここで問題になるのは、ライターの確保です。
低予算でのコンテンツマーケティングであれば、自社制作、もしくはクラウドソーシングからのライター採用のどちらかになるでしょう。
コンテンツ制作を行う企業へのアウトソースも可能ではありますが、現在の相場は最低、記事一本あたり五万円からという状況であり、現実的ではありません。
その前提でまず、自社制作とクラウドソーシングのどちらがおすすめかといえば、「両方使う」のがセオリーです。
 
自社制作をする
まず、自社制作の場合ですが、社外の人間が書く記事にはどうしてもできないことが一つあります。それは「事例の提供」です。
社外ライターは汎用的な話題には強いですが、特に事例については、ネタがその人の経験に依存してしまいます。
 
記事に特徴を出したい場合に、社員を使えば事例は必然的に自社の事例になりますから、より「自社に興味を持たせる」という目的を達成しやすくなります。
そのためにはまず、プロジェクトの責任者が率先して記事を書くことが重要です。
なお、記事を書く技術の各論については、これだけでかなりのボリュームがありますので、バックナンバーをご参照ください。
例えば、以下のような記事が参考となるかもしれません。
 
社外ライターを使うには
クラウドソーシングを含めた、社外ライターを使う際には、「レギュレーション」の作成が必須要件となります。
これはシステム開発でいうところの、要件定義書です。つまり、記事への要求とその水準を、明文化したものと捉えて良いでしょう。
レギュレーションには、以下のメリットがあります。
1.文書作成ルールの統一
人によって違う常識を、ルールとして可視化し、誤解を生まないようにする
2.「後だしルール」の禁止
メディアがライターに記事の修正や書き直しを依頼する際に、「こういうつもりだった」といった、後出しルールではお互いが不幸になる。
事前に示したルールによる差し戻しならフェアである。
3.追加料金やペナルティの発生の判定が可能に
レギュレーションに記載されていない要求をされた場合、ライターは追加料金を請求できるようになる。
逆に、レギュレーション通りに仕事を遂行しない場合は、ライターはペナルティを受ける。
4.読者ニーズの明確化
「べからず集」「禁止事項」だけではなく、読者ニーズをレギュレーションに記載すれば、メディアとライターの双方にメリットがある
クラウドソーシング上であるかどうかに関わらず、良いライターは引く手あまたですから、レギュレーションの内容を見て、寄稿するかどうかを決めています。
しっかりとしたレギュレーションを作ることは、ライターを調達する際の必須の要件だと考えて良いでしょう。
上の記事にはレギュレーションのサンプルが付いているので、必要であれば参照していただければと思います。
 

4.記事の制作・公開・拡散

記事制作・公開の手順としては、大まかに
①レギュレーションの作成と、ライターへのオリエンテーション
②記事企画の作成、ライターへの通知
(タイトル・概要・キーワード)
③ライターによる記事制作
④レギュレーションに基づく、記事のレビュー
⑤記事の手直し、修正
⑥記事検収
⑦記事タイトルの見直し・アイキャッチ設定・公開時間の設定
⑧記事公開・各プラットフォームへの拡散
 
という流れになります。
ここで重要なのは、レギュレーションをきちんとライターにオリエンテーションすることと、「記事のレビュー」は、レギュレーションに基づいて行う、という点です。
というのも、記事の採用の可否が「担当者の主観」によってしまうのを避けるためです。
 
ライターにとってみれば、担当者の主観的な評価で「不採用」となった場合、「ここではもう書きたくない」と考えます。
何が悪いのかがわからないまま、書き直せ、と言われたら、誰だって仕事をする気が失せます。
 
特に低予算下で、記事の報酬が安い場合、「書き直し」となった場合には、ライターは簡単にメディアから離れていってしまいます。
あくまでライターへの要求は、「レギュレーション通りの記事を作る」ことであり、「担当者の好みに合うような記事をつくる」ことにしてはいけません。
 
これは自社ライターの場合も同じです。
「レギュレーションに即していない」という指摘なら堂々と指摘すべきですが、「面白くない」という理由で原稿を没にすれば、ライターとしては「二度と書きたくない」と思うのは自然です。
低予算のコンテンツマーケティングにおいて、最も難しいのは、実は「ライターの継続的な確保」です
 
ライターを育てるつもりで、最初の数本は黙って検収し、使えそうであれば採用、継続できなさそうと判断すれば、契約を打ち切っても良いでしょう。
ただし、成果品である記事を見て、ライターに対する追加要望があれば「レギュレーションをアップグレードする」のが必須です。
そうして、ライターへの要望のうまい出し方を蓄積するのです。
社内ライターやクラウドソーシングライターの仕事の質が向上し、結果的にコンテンツマーケティングはうまくいくケースが多いのです。
 
なお、記事の公開にあたっては、できうる限り多くのプラットフォームに配信することがお勧めです。
コーポレートサイトだけではなく、Twitter、Facebook、メールマガジン、ニュースサイトへの投稿、podcastなどのボイスメディアが利用できれば利用しても構いません。
 
というのも、現代はプラットフォーム別に利用者が囲い込まれているうえ、コンテンツの配信自体には、ほとんどコストがかからないからです。
コンテンツマーケティングにおけ情報配信は、広告と違って、広がれば広がるほど費用対効果が上がりますから、「利用できるものは何でも利用する」のが正しい態度です。
 
ちなみに、記事の公開にあたっては、「時間帯」の概念も重要です。
記事の公開に適したゴールデンタイムは1日に3回存在し、
8:00~8:30
11:30~12:00
19:00~21:00
のいずれかのタイミングが良いようです。
これは、皆が「モバイル端末」を開くタイミングです。
 
また、記事公開が終われば、「記事がどのくらい読まれたのか」をチェックする必要があります。
SNSへの投稿は、公開から約2週間程度でほぼ流入は止まりますが、
Googleでの評価が固まるのには1か月程度はかかるため、チェックのタイミングは、1か月おきくらいでよいでしょう。
 

5.個人情報の取得とセールスへの誘導

ここまでは「記事で集客」の話でしたが、最後に
コーポレートサイト・セミナーなど……「自社に興味を持たせる」
販売商談……「顧客にする」
の部分の話をします。
「記事」から「自社に興味を持たせる」には、いくつか手段がありますが、最も効果が高いのは、記事の下に「お知らせ欄」を作ることです。
例えば弊社のオウンドメディア、Books&Appsでは、記事の下に「お知らせ欄」が配置され、自社サービスへの誘導を行っています。
 
お知らせ欄についての詳しい話は、以下の記事に他社事例も含めて、掲載していますのでご参考としてください。
 
ただ、結論から言うと、現在のところメディアが稼ぐ道は3つしかない。
それは
1.広告
2.記事への直接課金
3.EC
の3つである。順に説明する。
 
ー-----
 
つまり、将来的に「メディア」と言うのは、収益性の観点から見て
1.GoogleやFacebookのような、インターネット広告枠を独占するプラットフォーマー
2.直接記事に課金できる、小規模なBtoB経済メディア、投資メディア
3.「メディア」を専門誌のごとく運用し、自社商品の販売をもくろむ、企業群
の3つに収れんする可能性が非常に高いと、我々は考えている。
 
そして、メディア専業なのは2.のみ。
収益化をもくろむほとんどのメディアは、何かしらの商材をもって、メディア運営にあたることになるだろう。
ただし、記事を読み終えた人に、「興味を持ってもらう」ためには、このお知らせ欄の中にある情報が、有用でなくてはなりません。
 
弊社で実際に運用した結果、
・メルマガの登録
・セミナーの案内
・書籍のプレゼント
・トライアルサービス
などは、コンバージョン率がたかく、
・ホワイトペーパーのダウンロード
・無料相談
・資料請求
などは、コンバージョン率が低めに出る傾向にあります。
 
また、記事の内容が「商材に関連したもの」と「まったく関連のないもの」とで比較した結果でも、あまりコンバージョン率に差はありませんでした。
コンバージョン率は、上の記事でも紹介していますが、おおむね以下のようにばらつきがありますので、いくつかを試してみるのが良いでしょう。
どの程度問い合わせがあるのかと言うと、資料ダウンロードであれば、上の記事のページビュー数に対して、0.1%程度。
つまり記事が1000回読まれると、1回のコンバージョンにつながる。
これが「無料セミナー」だと、0.05%~0.1%程度。
さらに「書籍のプレゼント」や「トライアルサービス」などの強いフックがあると、2%~3%まで跳ね上がる。
なお、弊社がお勧めしているのは、「メルマガ登録」を積極的に狙うことです。
自社に興味を持っている人は「メルマガ登録」を歓迎する傾向にあり、
弊社での登録者のメール開封率は、3割以上になります。
また、「お得な情報」や「セミナー案内」などでは、5割以上の開封率になることもあり、SNS全盛の現在でも、オールドメディアであるメールは、マーケティングに有効であることが示されています。
一旦、「メール登録者」に見込み顧客をプールし、その後の販促活動によって顧客化を図る流れができてしまえば、「自動的のお客さんを呼び込むシステム」の完成です。
 
以上が「コンテンツマーケティングを始めよう」と思っている方に向けての、全作業の概要です。
お役立ていただければ幸いです。
 

 

【お知らせ】
Books&Apps及び20社以上のオウンドメディア運用支援で得られた知見をもとに、実際我々ティネクト(Books&Apps運営企業)が実行している全48タスクを公開します。

「成果を出す」オウンドメディア運営  5つのスキルと全48タスク
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これからオウンドメディアをはじめる企業さま、現在運用中の企業さま全てにお役に立つ資料です。ぜひご活用ください。

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【著者プロフィール】

安達裕哉

元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。

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