経歴やブログ、過去記事から、ライターとしての力量を判定する方法

このコンテンツは有料note「webライターとメディア運営者の、実践的教科書(安達裕哉著)」より転載しています。


メディア運営を行う上で、大きな課題の一つは「ライターの確保」です。
大手メディアであれば、実績のあるライターからの応募がワンサカありますが、弱小メディアではそうもいきません。
もちろん弊社も、同様の悩みに直面してきました。
 
したがって、「未経験者」や「専門性はあるが、文章をあまり書いたことがない」方々を、一人前のライターに育て上げていくのも、メディアの重要な仕事の一つだと言えるでしょう。
 
しかし、そもそも、応募してきた方が、適切な記事をかけるのかどうかを、どうやって見極めればよいのでしょう?
実際、応募書類をみて「よさそうだ」と採用した方でも、実際に書いていただくと、ろくに文章を書けない、ということは頻繁にあります。
したがって、実際には、ライターの力量を判断するために「1本書いてもらう」ことが可能であれば、一番これが良いです。
 
が、予算などが厳しい場合、「期待外れ」かどうかを、書いてもらう前に判定したいときもあるでしょう。
(なお、無料でテスト記事を書いてもらうなど、タダで働かせようとすると、メディアの評判を毀損する可能性があるので、お勧めしません)
そこで今回は、メディアがライターを起用するとき、「ライターの力量」を採用する前に判断するための方法について解説します。
 

「力量が高いライター」とは

まず、「力量が高いライター」という言葉の定義をします。
これは「価値のある記事が書けるライター」ということを意味します。
 
なお、これは「ビューを稼げるライター」とは重なる部分もありますが、異なることも多いです。
ビューを決める要因は、ライターの力量よりも、「どこに記事が掲載されるか」「SNSのフォロワーが何人いるか」という話のほうが、はるかに大きいからです。
 
特にフォロワー数は、ビューを稼ぐ意味では重要ですが、「記事の価値」との相関はそれほどありません。
長期的にはメディアの価値は、価値ある記事がどれくらいあるかによって決まるので、「短期的にビュー数が必要」という場合を除き、フォロワー数だけでライターを決定するのは危険です。
 
ただ、価値がある記事、という言葉もまだ曖昧です。
「記事の価値」とは一体何でしょうか。
結論から言うと、それは「視点」です。
視点とは、情報であり、物の見方であり、考え方です。
記事の中で紹介される視点こそ、記事の良しあしを決める、究極の判断材料です。
 
例えば、「しょうゆ 比較」でGoogle検索をすると、1ページ目には次のような記事が出てきます。
このページの提供する「視点」とは何かといえば、以下の7点です。
・おいしいとはバランスのこと
・原材料の違いでは、それだけでおいしさを判断できない
・製法だけでは、おいしさを判断できない
・人の味覚は千差万別
・6種類のしょうゆの種類
・しょうゆの分析、色、うまみ、塩

・素材別の使い方

これはしょうゆを商売とする「専門家」の目線から見た視点であり、我々がしょうゆを見る目を変えてくれる記事です。
 
あるいはライターのpatoさんが書いた以下の記事も1ページ目に出てきます。SNSでも大きく拡散され、話題にもなりました。
「全種類買って試す記事」は、単にタコにあうしょうゆを知りたい、という人ではなく、その試す過程を楽しみたい人でしょう。
この記事で提供されている視点は、
・しょうゆでかなり刺身の味が変わる
・鹿児島にすごいスーパーがある
・原材料、色の濃さ、香り、容器、塩味、甘さ、うま味、タコ刺身との相性で評価
・100種類もの比較、調査
・同僚のSさんのネタ披露
といった具合です。
 
逆に、Google検索で5ページ目、10ページ目に来ている、下位の記事を見ると、ほとんどの記事は、上位記事の下位互換、つまり「上位記事でいっていることの一部」をパクっているだけだと気づきます。
つまり、独自の視点、オリジナリティがないのです。
そういう記事は月並みで、一種の「こたつ記事」と言えます。
 
Googleも言っていますが、たとえSEOが目的であっても、価値ある記事とは、ほかの記事にはない視点を提供する記事であることは間違いありません。
(出典:Google Search Central https://www.youtube.com/watch?v=6AmRg3p79pM)
 

「視点」を生み出すもの

では「視点」を生み出すものは何か。それは次の3つに集約されます。
 
・専門性
・調査能力
・問題提起
 
あれ?と思った方もいるかもしれません。
例えば、
「わかりやすい文章が書ける」
「うまい文章が書ける」
はライターの価値として重要なのでは?と思う人もいるでしょう。
 
しかし、長いことメディアをやっている経験から言えば、「わかりやすい文章」「うまい文章」は、webのライターに必須の要件ではない、と言い切れます。
なぜかというと「読みやすさ」や「わかりやすさ」は、編集でどうにでもなるからです。それはいくらでも修正できる。だから、ライターの獲得に際しての優先度は低いと言ってよいのです。
 
逆に、編集では補えないのが、専門性や調査、問題意識といった、「その人独自の見解」です。
 

【専門性】

したがって、ライターの力量を判断するための第一の要件は、言うまでもなく、職業です。
有資格者や、士業の方がライターとして人気があるのはこのためです。
技術者や、コンサルティングなど、特定の領域に関して長く働いた経験も、ライティングの武器となります。
ちなみに専門外の人物が書いた文章は一発で分かります。
一般論ばかりで体験、経験、具体論がないからです。
 
と言っても、難しく考える必要はありません。
どんな職業でも「専門性」はある程度存在しており、それを引っ張り出すだけでも記事にはなるからです。
例えば「営業」をやっている人は多いと思いますが、営業の中でも以下のように、様々な分野に専門性というものがあります。
・テレアポ
・自己紹介
・商材の紹介
・商談
・クロージング
・フォロー
・提案
・見積

・アフターフォロー

こうした「具体的な仕事」について、「具体的な所作」が書ける人こそ、ライターとしての知識を持つ人だと言えます。
 
なお、職業以外に専門性を生み出す特性としては、「趣味」も挙げられます。
ゲームやスポーツ、旅、模型、DIY、鉄道、読書、登山、釣りなど、レジャー系の記事はそれを趣味としている人にしか書けないものがたくさんあります。
ただしこの領域は「少しかじった程度」では、ほかの記事に大して差別化できないため、セミプロの領域まで深く入っているかどうかが問われることが多く、造詣が問われます。
 
例えば私が好きなブログの一つはこれです。
正直なところ、この文章を読んでも何を言っているのかよくわからないところが多いのです。
今回見せてるのは拡張パックのM60 PATTON。
とにかく、A5くらいのランナーにパーツがビシッと整列していて、そのひとつひとつがシャキッとしているのがよろしい。
1/100だから解像度的に諦めるところ、組み立てるときにダルいから一体にしてあるところ、というのもあるし、
反面車体のテクスチャを部分的に変えたり、ルーバーやヒンジを律儀に彫刻したりと「取捨選択のセンス」が良いところが見ていて楽しいんだよね。
は?
という感じですが、これこそ「視点」の最たるもので、1/100はディテールがつぶれてしまうスケールなのか、とか、テクスチャを見なければいけないのか、など、素人に欠けている視点を補ってくれるというわけです。
 
なお、著者のからぱた氏は、様々なメディアへの寄稿も行っているようで、各所で記事を見ることもできます。
特に以下に抜粋した一文は、氏独自のプラモデルづくりの「視点」をあらわしたものとして、秀逸というほかありません。
 
ワタクシはこの状態を「プラモの価格硬直性」と勝手に名付けています。そして「あくまで遊びであるプラモに支払う金額というのは、これくらいであるべし」というメーカーとユーザーの暗黙の了解みたいなものが、これを後押ししているのではないかと睨んでいるのです。
 
中には「大きい」「精巧」といった部分に注目した1万円超えの高額商品を販売し、世に価値を問うプラモメーカーもあります。しかし、それはあくまでも「その価値が分かる人」へのプレゼンテーションです。世の中のプラモ全体の価格を大きく押し上げるというよりは、一生に一度のビッグプレゼントとして消費されるものだと考えられます。
 
(中略)
ランナーをしげしげと眺めながらビールを呑むだけで永久にニヤニヤしていられるほどの彫刻というのは唯一無二。皆さんもだまされたと思って、Games Workshopのプラモを一つでいいから手に取ってみてください。そこには「こんなもの、どうやったら設計できるの!?」と驚き呆れる(そして組み立てたくて、塗りたくて、いてもたってもいられなくなる)造形がびっしりと並んでいます。一度見たら、絶対に忘れられません。
 
 

【調査能力】

次にライターの適正で重視すべきは、調査能力です。
冒頭のPatoさんも、しょうゆを100個調べる、という卓越した調査能力を発揮していますが、もう少し広範囲にみていくと、「論文」や「海外記事」など、普通の人がアクセスしにくい資料を読んで調査できることもライターに必要な適正として挙げられます。
 
例えば大学において研究活動などを行っている方は、「文献へのアクセスの仕方」を知っており、調査能力が高いことが多いです。
例えば以下の記事。
 
図1の「ポイントⅠ」のように、「圧力と温度は比例する」という法則があります。
つまり、圧力をかけて圧縮すれば温度が上昇し、圧力を下げて減圧すれば温度が低下します。
また、「ポイントⅡ」のように、異なる温度の物体を接触させると、高温から低温へと熱が移動します。
 
エアコンや冷蔵庫などの中では、熱を温度の低い所から高い所へ移動させるために「冷媒」と呼ばれるガス(CO2やフロンなど)が使われています。
その冷媒を、電気エネルギーによって圧縮、あるいは減圧すれば、温度変化が生じ、熱を低いところから高いところに移動させることができます。
これが、ヒートポンプの仕組みです(図2)。
この記事は大学の教員によって調査・執筆された「ヒートポンプ」という技術についての記事ですが、ちょうどレポートを書くように執筆されています。
 
あるいはライターを採用するときに、東京近辺の方なら「国会図書館での調査をやったことがあるか?」と聞くのも悪くないです。
基本的に文献調査は、webではなく、書籍を中心に、横断的に行うものなので国会図書館出の調査が必要となることも多く、使い方を知っている方を優遇することが多々あります。
なお、ライターは「図書館」を利用することがかなり多いので、近くの大きな図書館の利用者登録は必須です。
 
なお「調査力」のもう一つの重要な側面として、取材があげられます。
現場に赴いて、情報をとる行為ですが、文献をあたるだけとは違った難しさがあります。
時にはアポイントを取って、インタビューをする必要もあり、それは対人スキルが要求されます。
 
いずれにせよ「現場で見聞きし、触ってみる、使ってみる」ということは記事に説得力を持たせるうえで重要なのですが、気を付けなければならないのは「取材」をしただけでは、大して面白い記事をかけない、という点です。
 
取材というのは、「切り取り方」で大きく成果が変わります。つまり、取材に際しても「視点」が必要なのです。
言い換えれば視点を持たないライターが、いくら取材をしても時間の無駄です。
何を見るか、何を取り上げるか、誰に話を聞くか、どんな質問をするかなど、記事の「ウリ」をあらかじめ想定しておかないと、取材をしても平凡な日記しかできなかった、ということが多々あります。
 
したがってライターの力量を見るとき、「取材記事は書ける?」と聞くのではダメです。
「このテーマに対して取材記事を書くのであれば、どんな切り口で書くのか?」を聞かなければ、力量を見極めることはできません。
注意が必要です。
 

【問題提起】

最後は「問題提起」です。
前二つは、どちらかと言えば「兼業ライター」が有利で、「専業ライター」が不利な分野でした。
なぜかというと「ライター」という職業自体は、専門性をもたらさないからです。
 
マスコミが力を失った背景の一つが、まさにこの「専門性の欠如」でした。
webの出現以来、専門家たちは、自分で文章を書き、発信することができるようになったので、マスコミを通して発信する必要がなくなったのです。
しかも、それは「現場の生の声」であり、素人である記者というフィルタを通していない、貴重な声でした。
賛否ありますが、米国の前大統領であるトランプがTwitterを利用したのは、まさに「フィルタを通さない」ことに価値を見出したからでしょう。
 
ところが別の側面もあります。
専門家たちは、自己批判が苦手なのです。
したがって、メディアが批判を行う必要があります。
 
よって、報道機関に勤める、ジャーナリストと呼ばれる方々は一般的に、他者を批判する、この「問題提起」に仕事の価値を見出していることが多いようです。
今盛んに提起されている、ジェンダーや人権、弱者救済、貧困、雇用、差別など、世の中にはあらゆることに「問題」を見出す人々がいます。
この問題設定がうまい人は、一般的に「コラムニスト」と呼ばれる仕事についており、雑誌や新聞を、議論でにぎわせる役割を担っています。
 
ただし多くの企業メディアは「批判」を趣旨としていません。
的を射た批判は非常に難しく、本職のジャーナリストであっても、的外れなことを言う方が数多くいます。
したがって、ここが、「ジャーナリスト出身」のライターが採用されにくい理由でもあります。
 
こうした背景から、仮にメディアが「問題提起」を許すのであれば、この分野においては、専業ライターを雇うのも悪い選択ではありません。
ただし、専門家や調査能力に優れた方々の「専門家としての批判」に比べると、どちらかと言えば感情的な、一般の方々をたきつけるような批判を意図して仕掛ける形になりますので、「単なる煽り」に堕してしまわぬよう、注意を払う必要があります。
 

まとめ

現実的に、ライターの経歴やブログ、過去記事から、ライターとしての力量を判定するのは、「専門性」と「調査能力」、あるいは「問題提起」という基板から、その方の視点の鋭さと多様性を判断する仕事になります。
その際に、様々なメディアでの過去実績を見るのも重要ですが、ブログやTwitterなどでの発言も見ておくと、判断を補強できますので、お勧めです。
 
ただし、前述したように、「まず一本書いてもらう」ことほど、そのライターの力量を判断するうえで役に立つことはありません。
原稿料一本分で、ライターの力量を推し量れるのであれば安いものだ、と判断し、投資していただくのが最良の選択であることは言うまでもありません。

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