「メディア」と「ライター」が健全に付き合うための7つの原則〜 良いライターほど、発注者(メディア)の言うことを聞かない。

このコンテンツは有料note「webライターとメディア運営者の、実践的教科書(安達裕哉著)」より転載しています。


少し前、ライター同士の会合があった。

そのとき、会合の主宰者の一人である有名プロライターが、次のように言っていた。

「原稿に、お客さんからあれを直せ、これを直せって言われるのが一番イヤ。素人があれこれ注文をつけるから、つまらない文章ができるんだよな。」

 

実績を持っているライターたちは皆、同意するかも知れないが、メディアの運営側としては、これは難しい問題をはらんでいる。

お金を払っているメディア側の言うことを、客であるはずのライターが聞かないのである。

 

もちろん「取り替えのきくライター」であれば、取引を中止するという選択肢もあろう。

だが「良いライター」はほとんど代替がきかない。希少性の高いリソースである。

実際、Books&Appsも例外ではない。一部例外もあるが、代替のきかない良いライターほど「クライアントの言うことを聞かない」という傾向を実感している。

 

「素人がプロのやることに口を出すな」問題

もちろん、これは決してメディアとライターだけの問題ではない。
例えば医者と患者、弁護士とクライアント、デザイナーと発注者、エンジニアと利用者など「スキルが非対称」の場合には必ずこの問題が発生する。

 

私事で恐縮だが、例えば少し前、私の親戚が脳腫瘍という診断を受けた。
難易度の高い手術であることから、「良い執刀医」を探したところ、一人の名医と言われる先生にたどり着き、手術を受けることになった。
結果的に手術は成功した。さすが名医である。親戚も安堵したようであった。

 

だが、その後問題が発生した。手術そのものは成功したのだが、手術の副作用である「めまい」や「吐き気」が手術後に多発したのである。
手術後の診察では、医師は「手術は成功した。ある程度の副作用は我慢せよ。そのうち症状は緩和してくる」と言うのだが、半年以上を経ても「めまい」や「吐き気」は収まる気配がない。
不安になった親戚は「セカンドオピニオンが欲しい」と思うようになり、執刀医の「名医」に、その旨を告げた。

 

するとどうだろう。「名医」は激昂した。
「私はこんな侮辱を受けたのは初めてだ」
と、親戚に向かって言ったのである。つまり「素人がプロのやることに口を出すな」という意思表示だ。
その病院の治療方針に「セカンドオピニオンは患者さんの権利です」とあったにも関わらず、そのような対応をされ、親戚はすっかり「医者不信」になってしまった。

 

「素人の意見を聞くプロ」は逆に信用できないという意見

しかし、逆の見方もある。
この話を知人にしたところ、「うーん」と微妙な反応をしたのだ。
私は聞いた。
「なんかおかしなこと言った?」
彼は言う。
「いや、気持ちはわかるんだけど、医者が患者の意見を熱心に聞くほうが、逆に不安だけどな。もちろん、話を聞いてほしいときもあるけど、それは医者というより、カウンセラーの役割だという気がする。」

 

うーむ。患者の側からすると、感情的には受け入れがたいが、確かになるほど、と思う部分もある。
例えば、メディア運営側がライターに「文章をこうしてほしい」とあれこれ指示をして、それが全部「OKですよ」と受け入れられたら、私は「この人大丈夫かな……」と思うかも知れない。

 

本質的には、ライターがやるべきことは「運営者に媚びる」ことではなく「読者を喜ばせること」だ。
そして、読者が何を欲しているのかについては、ライターが良いライターであればあるほど、ライターのほうがよく知っている。

 

広告クリエイターはクライアントの言うことを聞かない。

電通出身の知人は、「広告クリエイターは、クライアントの言うことなんて聞かないよ」という。
「だから、電通の存在意義があるんだよ。」
彼が言うには、クリエイターのやる気を削がないよう、クリエイターには「クライアントはなんにもわかってないですよ。」と囁き、一方でクライアントの機嫌を取るために「クリエイターっていうのは、勝手な奴らです」とけなす。
要は徹底して「八方美人」を貫いて、利害調整を担っているのだ。

 

だが、オウンドメディアには、「電通」の役割を担う人がいない。だから、メディア側とライターは険悪な関係になりやすい。
特にメディア側がライターを単なる「下請け」と認識しすると、ときに「ライターいじめ」ともとれる事象が発生する。
例えば、あるメディアの編集長は「ライターに4回、5回と書き直させているので。1記事出すのに2ヶ月〜3ヶ月もかかった」と話していた。

 

だがそんなことをすれば「良いライター」は全員逃げてしまうだろう。
実際、メディア責任者がコントロールフリークだと、たいていメディアの記事はガチガチのSEO対策で固められた、つまらない記事ばかりになる。

 

Books&Appsにおけるライターとの付き合い方

では「メディア」と「ライター」が健全に付き合うには、どうすればよいか。
Books&Appsでは、試行錯誤の末、7つの原則を設定した。
このラインより上のエリアが無料で表示されます。

 

原則1 ライターから出てくる文章は原則、手直ししない。
フォロワーを多く抱えているライターに執筆を依頼する場合は、執筆規則に違反しない限り、原則、手直ししないことにした。
したがって、Books&Appsでは納品された原稿をほぼそのまま掲載している。メリットは、以下の通りだ。
・ライターのやる気を削がない
・ライターのフォロワーに違和感を抱かせない
・文章に個性が出る
・編集の手間が省ける
だが、「読まれなかったらどうするんだ」という意見もあろう。そのために、原則の2つめがある。

 

原則2 ライターにPVの数値や読者からのコメントを見せる
ライターにはすべて、ページビューや読者からの感想を見えるようにしておく。Books&Appsは個別記事のPVをすべて公表しているが、これはライターのためである。
また、TwitterやFacebookに記事を放流すれば、ライターは記事に寄せられたコメントをそのまま見ることができる。
要するにライターに、情報共有を図ることで「自浄作用」に期待するのだ。

 

結局の所、記事は「読まれること」と「読者にファンになってもらうこと」が全てであり、そのために必要なのは編集部の介入ではなく、「公表したあとの読者の反応」である。
結果的に「成果」をライターに見せると、自然に良いライターだけが残るようになる。

 

原則3 記名記事とする
記名記事であれば、ライターは自分の名誉に関わるので、全力を尽くすと、Books&Appsは考えている。
また、良い記事を書いた時は、ライター側にファンが付くように配慮することも、ライターとの健全な付き合いに必須だ。
そのために、Books&Appsではライターのプロフィール欄での営業的な文言(フォローしてください、仕事くださいなど)をOKとしている。

 

原則4 ライターに会いに行く
Books&Appsでは、執筆依頼をするときは、原則として、その人に会いに行くことにしている。
たまに会いに行くことを断られたりするが、残念ながらその場合、ライターから原稿が徐々に届かなくなる事が多い。人間が顔を合わせる、ということはお互いの「責任感」の証だからだ。
「記事作成」という厳しい作業を「どこぞの顔も知らない人のため」にやろうとする人は少ない。

 

原則5 締め切りを設けない
「締切がないと、書くことができない」というライターもいるが、Books&Appsでは、あえて「書きたいときに書いてください」というお願いをしている。
それは「無理やりひねり出した記事」の質が低いからだ。

 

紙媒体であれば「印刷」という制約があるので、紙面を埋めなければならないという制約に基づき、締切が設定されるのは仕方がない。
だがwebメディアにはそのような制約がない。Books&Appsは、質の低い記事を出すくらいなら、出さないほうがマシ、という判断をしている。

 

原則6 「文字単価」を使わない
「文字単価」は、ダメ記事を生み出す温床となる、最悪の商慣習の一つだと感じる。
詳しくは以下の記事を参照されたい。
文字単価を用いると、文章が冗長になる。ライターと読者の利害が相反するような制度は、使うべきではない。

 

原則7 ライター発掘は「一本釣り」
SEO記事を制作するならば、クラウドソーシングを使ってもよいのだが、「書き手とメディアにファンが付く」ような記事を作るためには、現在のところ「一本釣り」以外の方法はない。

 

そのために、Books&Appsでは「ライター候補」として、面白い記事を書いているブロガー、ライターを記録し、専門性別にデータベース化して蓄積している。
メディアにあった専門家がいれば、Twitterなどで声をかけて一本釣りしていく、という地道な運用だが、結果的にこの方法に勝るやり方はない。

 

以上の7つの原則によって、Books&Appsはライターとの健全な付き合いが長く続くよう、配慮をしている。

 

ライターはメディアと対等なパートナー。
そのように考えればメディアの発展にもつながるし、ライターが名声を得れば、メディアの宣伝にもつながる。Win-Winとは、そのことを指すのではないだろうか。

 

(了)


 

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